「──チームA対チームB、
「行くぞッ!」
開始の合図と共に、風夏は行人たちに向かって走り出す。その周りには、燈也の
まだ公表もされていない新しい武器を、燈也はかなりうまく扱えている。煌式遠隔誘導武装のテスターとして携わったのが大きく影響しているようだ。本人曰く、さらに複雑な動きもできるとのこと。
「受けてたつよ!」
それに対して前衛にいるわかばは剣を前に出し、完璧に受けの姿勢に入っている。
相手の構成は剣と銃を持ったわかばが前衛で、その後ろにいるルーカスが、能力と大鎌による遊撃を担当している。そしてさらに後方には、後衛であろう行人が銃を構え佇んでいる。概ね予想通りといったところか。
行人の持つ銃は利奈と同じものだ。以前と同じものを新しく新調したのだろう。
「おおっと!」
風夏の前方から光弾が、地面からは魔方陣が出現し鎖が飛翔してくる。しかしそれは燈也の煌式遠隔誘導武装と利奈の光弾によって遮られた。
三人はそこまで短い付き合いではない。さすがに互いをほとんど知り合っている訳ではないにせよ、それでも付き合いからくる感覚は、初対面の人物と戦うより立ち回りやすく、それがチーム戦の素人よりはずっと連携がとれる理由だった。
「食らえッ!」
「はあッ!」
わかばへと十分接近した風夏は互いに切り結ぶ。風夏の剣の冴えは並の人物よりも鋭い。あの刀藤綺凛のような流れる剣筋にはないものの、それでも利奈の知るわかばと風夏とでは後者が勝つと思われる。
しかしそれはわかばも承知の上のようだ。風夏と比べて剣の腕が見劣りするのはデータからも一目瞭然である。だからこそ、わかばは深く剣を合わせず、もう一つの手に握る銃を使ったヒットアンドアウェイを主に実行していた。
「っ! チッ!」
さらにここでも経験の違いが出てくる。風夏は敵を崩すため、前衛に突っ込んでいった。しかし前に出すぎなのである。現在、両チームの遊撃と後衛は前衛の支援に回っていて、それは距離が離れれば離れるほど、精度がどんどん落ちていってしまう。これでは相手の遊撃に抜けられてしまうかもしれない。
「風夏! 戻って!」
「……了解っ!」
一度後退の指示を風夏に出す。燈也の
「させると思うか?」
ルーカスがそう言うと、突如風夏の四方八方から鎖が出現し、風夏の行く手を遮ってくる。利奈も必死にそれを撃ち抜いていくが、さすがに数が多すぎる。
「風夏……!」
そこで燈也が残りの煌式遠隔誘導武装を投入し、なんとかギリギリで風夏を救出することができた。だが相手の攻撃は緩む気配がない。
「もらった!」
「利奈!」
いつの間にか右側へ移動したわかばの拳銃からさらに光弾が放たれる。間一髪避けることができたが、わかばはさらに剣を使った接近戦に持ち込んでこようと近づいてきたところを、今度は燈也が煌式遠隔誘導武装を一本戻すことで防ぐ。
「へぇー、煌式遠隔誘導武装は取っ手が無いって聞いたんだけど」
「注文……したから……!」
燈也の本領は、正確には剣による接近戦だ。
燈也とわかばは、先の風夏と同じように切り合う。
「燈也くんお願い! ──風夏ちゃんは……っ!」
「刀藤風夏、
しかしその風夏は、思いもよらぬタイミングで脱落した。
「──お前の相手は俺だ」
「クソッ! 邪魔すんじゃねぇ!」
風夏の目前には大鎌を持つルーカスが立っており、行く手を塞いでいた。鎌を使う相手との戦いは、レヴォルフの《
しかし目の前の男は《吸血暴姫》とは違った戦い方をしていた。その動きは演舞のようなのに、刃は全てこちらを狙ってきているのだ。おそらく鎖による誘導も交えているのだろう。
──元々完成していない上、鎌に対して使ったことはないが仕方がない。ここから先に進まなければ、《
「────」
「……なんだ?」
一歩踏み出し、刀を下段から左上に振る。そこから繋げて今度は左から横凪ぎ、鎌を崩しながら太もも、肩といくつもの斬撃を繰り返していく。
ルーカスの表情は次第に青ざめていく。
「……ッ! まさか……!」
そう、これは連鶴だ。綺凛のような完璧な駆け引きなどは欠けているが、それでも一人を確実に倒すならば、刀藤流の連鶴以上な的解はない。風夏は刀藤流分家の抜刀術を得意とするが、刀藤流はそれだけではないのだ。
集中していく中で思考が極限まで早くなっていき、風夏の感じる世界初徐々にゆっくりとなっていた。
(……校章の守りが薄くなってきた……もうすぐで完璧に崩せる……!)
「……そこだッ!」
風夏はここぞと見たタイミングで、校章に向かい刀を突き出す。
しかし……
「!?」
「──勝敗は戦う前にすでに決する、とはよくいったものだな」
突き出した風夏の剣は校章に届かず、さらに空中で繋がった鎖が複雑に絡み合い、風夏の動きを封じていた。
「刀藤風夏、
──チーム戦においては、たった一人が抜けるだけでも相当な痛手となる。こうなると両チームの均衡は崩れ、後は耐えれたとしてもジリ貧になっていく。ならばそれを防ぐには──
「桜木わかば、
「あちゃー」
風夏がやられた合図がなったその直後、わかばの校章も割れ無機質な機械音が鳴り響く。
(これならまだ戦えr)
「白江利奈、校章破損」
「……ふぇ?」
「お前……俺のことすっかり忘れてただろ」
その後も激戦が繰り広げられるかと思われた第一回模擬戦は、呆気なくその終わりを迎えた。
模擬戦書き切りました(白目)
展開を考えるの面白かったんですが、正直かなりキツかったです。頭痛とか知恵熱発生しそう……。