学戦都市アスタリスク 愚者の足掻き   作:8674

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決定打

「──今回、初めてにしては連携がとれてたな。……が、まだ足りないのも事実だな」

 

 

 予想はしていたが、初のチーム戦を終えて行人が抱いた感想はやはりこれだ。チーム戦に慣れてないのもあり、こちらの簡易的な戦略にすら対応しきれていない。

 

 

 行人が使った戦略──といっても戦略と言えるかも怪しいが、それは一方に注意を引き付けて、その間に不意を突くという、どちらかというとセオリーに近いだろうか。

 

 

 以前組んでいたクローディアのような人物であれば、周りの状況をほとんど把握し、行人への注意も向け続けていたはずだ。ここまでうまく決まりはしなかっただろう。

 

 

 これは経験の面もあるので、何度も訓練を重ねるしかない。

 

 

「実際はメンバーが五人でチームを組むから、三対三の戦いよりは仲間をカバーしやすくなる。だがそれは相手も同じだ。とってくる手も増えるし、そこまでいくと力押しで勝てる範疇を越える」

 

 

 《獅鷲星武祭(グリプス)》に出てくる輩には、格上に勝てる可能性があると聞いてまぐれを狙う者もいる。そしてそういうやつらは、大抵が初戦で負ける。

 

 

「──チーム戦の要は、メンバーを活かす連携や戦術だ。フォーメーション、立ち回り、連携、それらをあらかじめ打ち合わせしておいて、それを実行できるようになって、初めて相手と同じ土俵に立てる。──たまに例外もいるけどな……」

 

 

 例外というのは、ガラードワースの《銀翼騎士団(ライフローデス)》──前回の優勝チーム、チーム・ランスロットのことだ。彼らには連携や戦術を弄したとしても、それを真っ向から打ち破るだけの力があり、それは実際に戦った行人自身が一番よく知っている。

 

 

「……話が逸れたな。これからはまず二人での連携を覚えれるように、二対二での戦闘を主に行っていく。メンバーはこっちが指示する。その都度タッグは変えるからそのつもりで」

 

 

 とにかくチーム戦において、連携が出来なければまず話にすらならない。なんにせよ、地道に進めていくのが一番の近道だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落星工学研究会は現在、珍しく慌ただしい雰囲気を帯びている。歴史があるとはいえクラブ活動の一種で、普段は所属している学生が籠って研究や煌式武装のカスタマイズをしているのが普通だ。

 

 

 なのにここは、機材を持って右往左往する生徒などで溢れかえっていた。──そしてその風景には、何故かディータまで含まれていた。

 

 

「──ディ、いるかー? まぁいなくても入るけど」

 

 

「ちょっと待ってね。今ちょっ……と、忙しいからっ!」

 

 

 上半身が見えなくなるほどの機材を抱えながらディータは返事をする。さすがに肉体はではないディータにはきつそうなので、行人もそれを手伝うため機材を持つ。

 

 

「……一体なにしてんだ? それにこれは……」

 

 

「学園祭の一大イベントに使うつもりでね。相当に規模がでかくて人手も不足ぎみだから、今こうやって力作業もやっているってわけ」

 

 

「なるほど。──規模を表すと?」

 

 

「三つの学園が合同で」

 

 

 それは驚いた。珍しく行人は目を見開く。学園祭はアスタリスクにおいて《星武祭(フェスタ)》に並ぶ一大イベントだ。しかし三学園合同でイベントを開くのは極めて希だろう(行人の場合はほとんどがカジノ漬けだが)

 

 

「んっしょっと。──それで、今回は何の用件?」

 

 

「……あ、ああ、煌式遠隔誘導武装(レクトルクス)の件だ。もうそろそろいい頃合いだと思ってな」

 

 

 しばらく《数多の偽り(ナイアーラトテップ)》を使っていないことが多かったのだが、その理由はこれだ。《数多の偽り》と組み合わせて使うというアイデアを実現するには、煌式遠隔誘導武装の他にも《数多の偽り》本体も必要となる。ちなみ返却されたのはちょうど三日前だ。

 

 

「──あ……ごめん、すっかり忘れてたよ……」

 

 

「いや忙しいみたいだし別にいいけどさ」

 

 

「──はい、これがカスタム仕様の煌式遠隔誘導武装(レクトルクス)──名付けて、《偽りの触媒(カタリスト・クラスター)》だよ」

 

 

「──あのさ、そのネーミングセンス、今ちょうどつけたのか?」

 

 

 ディータから渡されたのは、《数多の偽り》と同じ程度の大きさの煌式武装だ。名前をかっこいいと思うか厨二臭いと思うは人それぞれだが、作り主はディータだし名称は何でもいいだろう。

 

 

「別に? というか、そんなことはどうでもいいんだ。運用方法を説明するよ?」

 

 

「はいはい。専門用語は少なめで頼む」

 

 

 ディータは声にさらなる熱を帯びせながら説明を始めていく。こうなったディータは止めるのも一苦労なので、大人しく聞いておくことにする。

 

 

「まず、これは《数多の偽り(ナイアーラトテップ)》との併用を前提としているから、単体じゃ絶対に使えない。でもその分、他の煌式遠隔誘導武装(レクトルクス)より性能は高く設定してある」

 

 

 燈也の使っていたそれより数は少ないが、その分単体の性能もチューンアップしてあるようだ。

 

 

「次に、通常のものと違う一番の部分は、《数多の偽り》の能力を使用──つまり、色々な武器を展開できる点だよ。もちろん《純星煌式武装(オーガルクス)》も可能だけど、展開した分の代償は一度に来るから、使う際は気をつけて」

 

 

 ディータは《数多の偽り》の本当の能力も知っている。《偽りの触媒(カタリスト・クラスター)》は《数多の偽り》のように、様々な形態を展開できるということだ。

 

 

 そして能力も模倣した《純星煌式武装》を複数使った場合は、その代償を一度に受けなければならない。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》と《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を使えば星辰力と血液の大量消費に見舞われるし、《黒炉の魔剣》を二つ使えば星辰力の消費は倍増する。

 

 

 《純星煌式武装》は強力な能力と、それに対する代償の二つを兼ね備えている。普通ならばその一つを耐えるので精一杯だ。これは本当に、自滅覚悟の最終手段だ。

 

 

「なるほどな……、わかった。──無茶を通してくれて、ありがとな」

 

 

「僕も興味があったから、これくらい平気だよ」

 

 

 久々に会った友人に短く会釈をして、行人は落星工学研究会を後にした。




 早く学園祭に移りたいと思っていたのが、叶いそうな作者です。

 他のオリキャラもこっちで出したいと思っていますので、登場に期待していてください(提供者様の理想とはかけ離れるかもしれませんが)

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