◇西暦2202年 地球 メガロポリス
「くそっ!数が多すぎる!!」
空間騎兵隊の隊員である大久保少尉(非転生者)は迫り来るデザリアム兵を撃ち倒しながらそう吐き捨てる。
メガロポリスの戦いは空間騎兵隊が不利な状況で行われていた。
元々、デザリアム兵は文字通り空から降ってきて攻撃してくるのに対して、空間騎兵隊は地上から打ち上げる形で応戦しなければならない。
しかも、出動した地球防衛軍の戦車部隊はデザリアム軍の掃討三脚戦車の前に呆気なく敗北し、また空間騎兵隊の前にもパトロール戦車が現れてデザリアム兵に応戦する空間騎兵隊を横から殴ってきたことから、空間騎兵隊の敗北は決定付けられた。
空間騎兵隊以外にもメガロポリスには地球防衛軍の地上部隊が居たが、それらも同様に殺られていき、この時点になってくると。メガロポリス守備隊の戦線は既に崩壊しているも同然の状態となっている。
しかし、そんな状況下でも大久保は空間騎兵隊が正規採用している銃であるAK01 レーザー自動突撃銃で応戦を続けながら、兎に角、一度メガロポリス市街から脱出しようと懸命に走っていた。
その間にも彼の働きぶりは物凄く、遭遇した敵兵を次々と撃ち倒しながら進んでいる。
そして、数時間後、彼はどうにかメガロポリス市外へと辿り着いた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・くそっ!」
彼は助かったことに安堵しながらも、メガロポリスが燃える光景を目にして悔しげに涙を流していた。
◇ヤマト コンピュータールーム
「まさか、本当に1隻で突破するなんて・・・」
キラ・ヤマトは凖尉の階級を与えられ、宇宙戦艦ヤマトの技術工作班の一員として乗り組んでいた。
技術班の班員であることを示す白地に青い錨の紋章の制服に身を包みながら、キラ・ヤマトは今目の前で起こった事が信じられずにいた。
ヤマトは原作通り、イカロスに隠れていたのだが、その乗員は原作とは違って既にあらかじめ集められていた。
これは原作では主要な乗組員は森雪を除いて到着しているとはいえ、万が一、原作と違って到着しなかったらヤマト敗北の可能性も有り得ると考えた転生者達が半ば強引な根回しの末にそうさせたのだ。
よって、ヤマトの準備は原作よりも早く完了したのだが、発進の直前に地球が襲われていると聞いてゴルバの対処を他の地球艦隊に任せてヤマトは単艦で一足先に地球救援に向かった訳である。
そして、カザンとミヨーズの率いる艦隊に襲われて窮地に陥っていた地球本星艦隊と月面艦隊を救援しつつ、カザンとミヨーズの率いるデザリアム帝国第一、第二特務艦隊を撃滅に走った。
そこでヤマトは猛烈に暴れまわり、遂に敵艦隊を撤退に追い込んだというわけである。
現在は状況の確認を行っている最中だった。
しかし、キラは当初、ヤマト単艦で敵艦隊殲滅に向かうことは危険だと考えていた。
まあ、常識的に考えればその通りなのだが、このヤマトはその常識には入らないのだ。
よって、実際にほぼ無双してしまった結果、戦闘が終結した後も目の前の光景が信じられず、呆然自失といった感じになってしまっていたという訳である。
まあ、それでも数ヶ月の間、軍人として鍛えられただけあって、作業の手を止めることはなかったが。
だが、キラ以上にヤマトの活躍に驚愕している者が居ることを彼は知るよしもなかった。
◇太陽系外 戦艦『ガリアデス』
「恐ろしい敵だったな」
第二特務艦隊司令官のミヨーズ大佐はそう言いながら、一先ず逃げ切れたことに安堵していた。
艦隊は第一、第二特務艦隊を合わせても既に地球侵攻前の4割弱まで減っている。
ミヨーズは艦隊総司令兼第一特務艦隊であるカザンが戦死した事で指揮権が途中から移行されたが、既にゴルバが撃滅された報告を受けて、形勢逆転は不可能と判断すると、すぐさま撤退行動に移った。
ここら辺の切り替えの早さは、彼が切れ者である所以であり、もし戦死した人間がカザンではなく、ミヨーズであったら、今頃艦隊は壊滅していただろう。
それは転生者達からしても同じであり、もしカザンを生き返らせることと引き換えにミヨーズを死なせることが出来るのであれば、迷わずそちらを取ったのは間違いない。
なんせ、その切れ者ぶりはこの世界では既にこの世から去ったグロータスをして、『自分の地位すら脅かす存在』であったのだから。
実際、原作の暗黒星団帝国の逆襲ではヤマトとゆきかぜ、及び第七艦隊は彼の張った狡猾な罠によって苦戦することとなっので、地球側からすればこの人物が生き残ってしまったことは最大の不幸だったと言えるだろう。
まあ、そんなことはミヨーズからしてみれば知ったことではないのだが。
「おい、あの突如現れた宇宙戦艦はなんだ?」
「は?」
「あの単艦で現れた戦艦だ!」
「は、はい!宇宙戦艦ヤマト、と言われているそうです」
「ヤマト・・・あれがか」
宇宙戦艦ヤマト。
その名はデザリアムでも有名となっていた。
まあ、たった1隻でガミラスを次々と撃ち破り、更には本星まで半壊させてしまったとあれば、有名になるのもある意味当然と言えたし、実際に数ヶ月前はマゼラン方面軍がヤマトによって散々な目に遭わされている。
デザリアムが警戒の過程でこのヤマトを話題にするのも当然だった。
しかし、何処まで本当か分からなかったので、単なる誇張と考える者も少なくなかったし、ミヨーズもその一人であったのだが、今回の戦いでその認識は大いに改められた。
「ふむ・・・あれがヤマト。正に私の獲物に相応しいな」
そう言うミヨーズの目は正に狩人の目をしていた。
もっとも、転生者が見れば原作通りであり、想定の範囲内であったと言えるだろうが、ミヨーズに目を付けられて幸運か不幸かなど考えるまでもないので、これを知ったら転生者達はヤマトに哀れみの視線を向けることとなっただろう。
そんな目をしているミヨーズに少しばかり怯えながらも、部下は恐る恐るといった感じで話し掛けた。
「あの、ミヨーズ司令?」
「なんだ?」
「上にはなんと報告致しましょうか?今回の敗戦、いえ、戦いを」
「ふん、言い直さなくても良いぞ。負けたのは事実だからな。上には私から直接報告する。お前達は気にしなくて良い」
ミヨーズは軍人としてのプライドは高い。
それは原作でもガリアデスの最期の時、部下を脱出させて自らは残って艦と運命を共にしたことからも分かる。
だからこそ、ミヨーズは自らの敗戦を下に押し付けたりはしない。
まあ、地球侵攻軍はデザリアムでもそこそこの大兵力であり、ゴルバ七基に至っては替えが効かない代物でもあった。
それが撃滅され、おまけに将軍は二人戦死、更には地球侵攻軍そのものも4割を切る程に減らされた以上、自分を罰している余裕などないとミヨーズは予測している。
まあ、上が相当な馬鹿で短気な人間で、更にミヨーズを脅威に思っている人間なら話は別だが、そういった人間は今回の戦いで殆ど討ち死にしている以上、そうはならないだろう。
もっとも、だからと言ってそれに胡座座を掻く訳にはいかない。
前述したように、ミヨーズは軍人としてのプライドは高いのだから、負けたままで終わらせるつもりは毛頭なかった。
(だが、このままで帰るのも不味いな)
ミヨーズが憂慮しているのは、地球に取り残された味方の事だった。
自分達が撤退し、ゴルバも全基が撃破され、更にあのヤマトすら居るという状況では、彼らがやられるのも時間の問題だろう。
ただでさえ地球は彼らのホームグラウンドな上に孤立している状況なのだから。
しかし、暗黒星団帝国、その中でも本星の人間であるデザリアム人は貴重な存在だ。
なんせ、
もっとも、この問題さえ解決できれば無理に地球に戦争を仕掛けることもなかったのだが、それは今考えても仕方がないだろう。
ミヨーズはそう思いながら、その切れ者と呼ばれた頭脳でなんとか味方を救出する方法を考える。
そして──
(危険だが、向こうと交渉してみるか)
ミヨーズは少々の危険を犯してでも向こうと交渉することを考える。
艦艇が40パーセントを切っている上に、兵士が地球各地に散らばっており、更には地球防衛軍も態勢を建て直した以上、強引な救出作戦はほぼ不可能だ。
故に、交渉によって取り戻すしかない。
もっとも、ただで撤退させてくれるとは思えない。
そもそも攻め込んでおきながら味方だけ返してくれと告げるなど、虫が良すぎて話すら聞いて貰えないだろう。
故に、何らかの交渉材料と場合によっては対価が必要となる。
だが、地球に居る味方が死ぬよりはマシと、ミヨーズは今あるものを全て頭の中に入れて計算を行っていた。
はい、というわけでグロータスとカザンは退場しました。原作でも二人は死亡しますが、それはミヨーズより後の話です。なので、この世界で二人が先に死んでミヨーズが生き残ったのは皮肉以外の何者でもありませんね。