転生者達の地球連邦奮闘記   作:宇宙戦争

5 / 31
第5話

◇地球防衛軍 土方艦隊

 

 

「・・・」

 

 

 土方は目の前の光景を口には出さないが、内心で驚愕していた。

 

 突如転移してきた彗星都市に対して、艦隊は慌てて陣形を組み、波動砲を撃った。

 

 戦力が余った為、正面からではなく、彗星を半包囲する形で発射し、撃った後に現れたのが、この彗星都市だったのだ。

 

 

(拡散波動砲をあれだけ撃っても、ほぼ無傷か。これは・・・)

 

 

 どうするべきか?

 

 まあ、選択肢は2つしかない。

 

 1つは撤退。

 

 文字通りこの場から撤退して再起を図ること。

 

 まだ本隊を始め、主力艦隊は無傷であるし、木星のガニメデ基地には予備部隊も居る。

 

 それを考えれば、悪くない選択肢だろう。

 

 だが──

 

 

(それをすれば、タイタン基地は間違いなく陥落する)

 

 

 ガニメデ基地まで後退するという事は、当然の事ながらタイタン基地は放棄するという事でもあり、そこに駐留している基地要員達は間違いなく犠牲となるだろう。

 

 勿論、地球人類全てと比べれば、天秤にかけるまでもないが、後味が悪いのも確かである。

 

 そして、もう1つの選択肢。

 

 それはこのまま敵に向けて突撃することだ。

 

 自らの最大の攻撃を防がれ、敵の崩し方が全く分からない以上、攻めて情報を集めるというのも手だった。

 

 まあ、どちらにせよ、原作(勿論、土方は知らないが)と違い、エネルギーは殆ど消耗していないので、特攻という選択肢は土方の頭には無かったのだが。

 

 土方が暫しの間思い悩んでいると、通信士から報告が入った。

 

 

「防衛軍司令部より入電が入りました!」

 

 

「読め」

 

 

「はっ。『直ちにガニメデ基地まで撤退せよ』、であります」

 

 

「・・・」

 

 

 土方は眉をしかめる。

 

 本来、戦場に居ない防衛軍司令部がこのような現場の判断に介入するのは宜しくないと感じたからだ。

 

 だが、言っている事は理解できたし、宜しくないからと言って、それを敢えて虚ろにしようとするほど、土方は愚かでも馬鹿でもなかった。

 

 なんせ、自分は防衛艦隊の将兵の命を預かっているのだから。

 

 それに先程、判断に迷っていたのも事実であったので、これで腹は決まった。

 

 ・・・残されるタイタン基地の基地要員の事を思えば、心が痛んだが。

 

 

「・・・全艦反転。木星まで撤退する。タイタン基地には敵が攻め込んだら、『機密文書を処分して降伏しろ』とだけ伝えておいてくれ」

 

 

 こうして、土方艦隊は土星圏から撤退していった。

 

 そして、それを彗星都市は黙って見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ヒペリオン艦隊

 

 

「アンドロメダより通信。直ちに撤退せよとの事です」

 

 

「分かった。すぐに撤退してくれ」

 

 

「はっ。しかし、宜しかったのですか?」

 

 

「何がだ?」

 

 

「いえ、拡散波動砲モードを勝手に収束波動砲モードに変更して」

 

 

 そう、実はヒペリオン艦隊は彗星都市への攻撃の際、完成していた拡大波動砲を搭載していた本艦は、他の艦がやっていたような拡散波動砲ではなく、拡散波動砲モードになっていた拡大波動砲(拡散波動砲と収束波動砲を切り換えられる波動砲のこと)を収束波動砲モードに変更して発射していたのだ。

 

 そして、彼らは知らないことだが、この艦以外にも、主に転生者が指揮する艦、特に拡大波動砲を搭載されている艦では収束波動砲モードで発射されていた。

 

 これは勿論、原作の『愛の戦士たち(旧作)』やPS版のように拡散波動砲を撃っても効果が出ず、彗星都市に呑み込まれるという事態を確実に避ける為である。

 

 実際、愛の戦士たち(旧作)やPS版では、多数の艦が拡散波動砲を撃ったにも関わらず、彗星都市に呑み込まれる艦艇が続出し、対して収束波動砲は撃ったのがヤマトだけにも関わらず、彗星都市の彗星状態を強制的に解除させるという効果を挙げている。

 

 まあ、ヤマト2ではテレザートで受けた損傷が原因だったのか、拡散波動砲でも解除されるのだが、司令や他の転生者の艦長はより確実性の高い方を選択したのだ。

 

 しかし、当然の事ながら、このような事情を転生者以外の者達は知らない。

 

 

「良いんだよ。相手は彗星都市1つだ。ならば、拡散波動砲を撃つより収束波動砲を撃った方がより確実に撃破できる。まあ、結果はご覧の通りだがな。幸い、俺達の行為はバレていない。この場に居る人間が漏らさなければ誰も分からないさ」

 

 

 そう、拡散波動砲と収束波動砲は実を言えば別々な方向に撃ったりせず、同じ方向に撃った場合、撃った艦以外にはどちらがどちらの波動砲を撃ったのか分からないのだ。

 

 なので、この艦の職員が漏らしたりしない限りは、収束波動砲を撃った事など分かりはしない。

 

 

「そもそも拡散波動砲を必ず撃てとも、収束波動砲を撃つなとも言われていない以上、幾らでも言い訳は立つさ」

 

 

「は、はぁ」

 

 

「兎に角、今は帰還に集中しよう。彗星都市の監視を怠るなよ」

 

 

「はっ!」

 

 

「・・・・・・・・・・・後は頼むぞ。第5艦隊」

 

 

 最後にボソリとそんな言葉を残しながら、ヒペリオン艦隊を含めた土方艦隊はこの宙域を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球艦隊、撤退していきます」

 

 

「うむ」

 

 

 通信士官からの報告に、ズウォーダーは頷く。

 

 その顔は一縷の焦りも見せておらず、地球艦隊が撤退することにも何ら興味を示していない。

 

 だが、ズウォーダーはそうでも、他の者はそうではなかった。

 

 

「何故、攻撃なさらないのですか?」

 

 

 サーベラーは少々不機嫌そうな顔でズウォーダーに言う。

 

 

「向こうが勝手に逃げ出していくのだ。追う必要はあるまい。奴等ではこの彗星都市をどうこう出来る筈もない」

 

 

 ズウォーダーはそう言っていたが、内心ではかなり歯噛みしていた。

 

 実は先程受けた波動砲、特に一点突破型(収束波動砲のこと)の攻撃が思ったより深刻な打撃を与えており、こうして足止めを食らう羽目になったのだ。

 

 おまけに前衛艦隊や空母艦隊は壊滅状態に追い込まれるという甚大な被害を受けてしまっている。

 

 こんな事は長い間、他の惑星に愛を与えてきた(殺し尽くしてきた)ガトランティスにとって始めてのことだった。

 

 

(地球人を侮りすぎていたか・・・)

 

 

 彼は改めてそう思った。

 

 しかし、そんな彼の思考も途中で打ち切られる事となった。

 

 

「大帝!新たな艦隊がワープアウトしてきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木星のガニメデ基地には3個艦隊の予備部隊が存在している。

 

 その内の1つ──第5艦隊は現在、地球防衛軍司令部からとある命令を受けて、彗星都市のすぐ近くまでワープアウトしてきていた。

 

 

(旧作の彗星都市だな。これは助かった)

 

 

 第5艦隊旗艦『陸奥』環境で第5艦隊司令(転生者)はそう思いながら安堵していた。

 

 この陸奥は見た目は主力戦艦だが、原作ゲーム版で出てきたアーカンソーなどと同じく波動砲を搭載しておらず、代わりに艦体の装甲を厚くし、波動防壁の最新版を積むなど、防御重視の設計となっている。

 

 また、無人戦艦のコントロール機能も搭載しており、今回はこれを活用する予定だった。

 

 

「よし!無人戦艦、波動防壁展開!!彗星都市の下部に向けて突撃せよ!!」

 

 

 作戦はこうであった。

 

 まず先行量産型の無人戦艦4隻(ゲーム版のあれ)を波動防壁を展開させたまま、彗星都市の下部に突撃させる。

 

 そして、そうなると彗星都市の下部に突っ込んだまま停止するので、その次に波動砲をチャージ発射する。

 

 実にシンプルで乱暴な戦術であるが、有効な手でもあり、なにより成功すれば彗星都市を内部に存在するであろう巨大戦艦共々、木っ端微塵に破壊できる。

 

 かくして、そんな地球防衛軍の思惑の下、無人戦艦4隻は白色彗星の下部に向けて突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、敵大型艦、突っ込んできます!!」

 

 

「なに?」

 

 

 ズウォーダーは地球艦隊の不可解な行動に眉を潜めるが、次の瞬間には当然と言えば当然の指示を出す。

 

 

「迎撃しろ!」

 

 

 だが、ここまでは地球艦隊側も計算していた。

 

 波動防壁を展開させたまま、突撃させたのにはそういった事態を想定しての事でもあった。

 

 そして、地球防衛軍の目論見通り、彗星都市は下部の砲口やミサイルなどで応戦するが、波動防壁に防がれてしまう。

 

 結果、これまた計算通り、無人戦艦4隻は彗星都市の下部に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇第5艦隊

 

 

「無人戦艦が全艦、彗星都市下部に接触しました!!」

 

 

「よし、『波動砲チャージャー』に接続。波動砲発射準備」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突入した敵艦の艦首からエネルギーがどんどん上がっていきます!!」

 

 

「・・・なるほど、そういうことか」

 

 

 ズウォーダーは相手の目論見を大体読み取った。

 

 が、同時に理解してしまう。

 

 悠長にはしていられないと。

 

 

「ミサイル発射!!それと、艦載機にも迎撃させろ!!」

 

 

 これが適切だった。

 

 現在、突入した無人戦艦は波動砲に全エネルギーを込めている為、波動防壁は展開されていない。

 

 そして、波動砲はこれまでの情報からエネルギーの溜めから発射までに1分近くの時間が掛かる事が分かっている。

 

 対して、こちらの発射したミサイルが無人戦艦に着弾するまで約30秒。

 

 艦載機は今発進した為、間に合わないだろうが、ミサイルは確実に間に合う。

 

 

(地球人め、なかなかやりおるわ。だが、残念だったな。その程度のそこの浅い手では我がガトランティスには通用せぬわ!!)

 

 

 そう思うズウォーダーであったが、彼は1つ誤った考えをしていた。

 

 確かに波動砲の溜めから発射まで1分近くの時間が掛かる。

 

 が、それは普通にエネルギーを溜めた場合であり、地球防衛軍が新たに開発した(実際には転生者の入れ知恵によって、本来の歴史より早く完成させた)波動砲チャージャーを通して溜めた場合、その半分──つまり、30秒までに短縮されるのだ。

 

 そして、波動砲のエネルギーを込めるタイミングはズウォーダーがミサイル発射を命じるより数秒速かった。

 

 つまり、それの意味するところは──

 

 

「敵艦の高エネルギー反応!波動砲の発射エネルギー量まで到達!!」

 

 

「な、なんだと!!」

 

 

 それがズウォーダーの最期の言葉となった。

 

 そして、次の瞬間、無人戦艦の艦首から波動砲が発射されて、彗星都市は粉々に砕かれていった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。