西暦2201年 大マゼラン星雲 ガミラス本星付近
緑を基調とした艦色をしているガミラス艦。
現在、そのガミラス艦隊は突如現れた敵──時空管理局の次元航行船を追い回していた。
何故こうなったかというと、時は少し遡る。
状況は概ね地球の冥王星の時と同じであり、時空管理局と名乗る勢力がガミラスの地下に存在するロストロギア(ガミラシウムのこと)を回収させろと言ってきたのだ。
この一方的な通告を当たり前だが、ガミラスは拒否した。
一方的によこせと言われて、不快だということもあったが、それ以上にガミラシウムを採掘されたら星の寿命が縮んでしまうからだ。
時空管理局の方も先日の地球防衛軍の事があったからか、少しは話し合おうという気概を見せてはいたが、所詮は見せ掛けであるのがバレバレなので、ガミラス側は更に不快な想いを時空管理局という組織に寄せた。
それでもなんとか大国のプライドによって我慢して交渉していたが、時空管理局は1つの逆鱗に触れてしまった。
なんと、イスカンダルにも同様の要求をし、更にこの星の住人が4人──古代守、スターシャ、ユリーシャ、サーシャ(赤ん坊)──なのを良いことに、強引に採掘しようとしたのだ。
リメイク版のように信仰こそしていないとは言え、ガミラス人は旧版ほどにはイスカンダルの事を友人や兄弟のように思っていた。
故に、この行為が許せず、時空管理局に武力を持って対応したのだ。
「ふん!こんな貧弱な船と戦意で大ガミラスに喧嘩を売るとは・・・地球の方がよっぽどましだったぞ」
ガミラス人たちはそう言ってはばからなかった。
実際、時空管理局の戦意はかなり低かった。
当たり前だろう。
彼ら“海”は、艦船の性能が低いという事もあるが、そもそも戦争という行為に足を突っ込んだ事が無かったのだから。
いや、それどころか、格上はおろか、同格の相手とも戦ったことがなかったのだ。
負けるのも無理はなかった。
かくして、マゼラン星雲に派遣された時空管理局第38調査部隊は全滅した。
◇時空管理局 大会議場
第38調査部隊、通信途絶。
またもやもたらされた凶報は、ただでさえ混乱していた時空管理局を更に混乱の渦へと巻き込んだ。
「すぐに救援部隊を送れ!!」
「馬鹿な!また先の冥王星の二の舞になるぞ!!」
「しかし、このまま手をこまねいて放っておけと言うのか!!」
「そうだ!管理局に逆らう危険な勢力を野放しにしろと!!」
会議場は紛糾していた。
しかし、既にこれだけの被害が出ているにも関わらず、未だ殆どが強硬派が優勢だった。
慎重派もまた、慎重に行動すべきというだけで、心理的には強硬派と同じで、出来れば救援よりも敵を叩くべきと考えている者が大半だった。
この歪としか言えないような考え方は時空管理局の局員に共通する者であったが、これは彼らは軍隊より警察としての側面が強いことから来る考え方でもある。
まあ、極論をしてしまえば『全ての世界は既に自分達のものであり、自分達が管理する世界の治安を維持しなければならない』。
このような考え方が大なり小なり、局員には無意識、意識問わずあったのだ。
しかし、これを地球の転生者が聞いたらこう言うだろう。
『限りなく中華思想に近い思想』、と。
まあ、現実にはこれより酷く、はっきり言って地球の転生者、特にリリカルなのはファンがこの会議を知れば、『夢を壊された!』と絶叫すること間違いなしだった。
まあ、先の冥王星基地攻撃で既に壊された者も居るだろうが。
そんな中、一人の男が口を開く。
「いい加減、この世界への進出を諦めたらどうですかな?犠牲をこれ以上出さないためにも」
そう呆れたように言うのはロルメス=フロール。
時空管理局地上本部、通称“陸”の本部長でもある。
「なんだと!!犠牲になった局員を無にしろというのか!?」
「その犠牲になった局員の為に更に局員を送って殺されるのでは負の連鎖が続くだけだ!!」
ロルメスは額に青筋を浮かべながらそう主張した。
彼がこう言うのも無理はない話だった。
そもそも“陸”の任務は、“空”や“海”とは違い、治安維持がその任務の大半だ。
故に、地球の警察とさして変わらない考え方や価値観を持っており、時空管理局では一番の穏健派とも言える組織と言えた。
だが、その任務の内容上、“海”(たまに“空”)が強引に管理世界に引き入れた世界の治安維持も請け負う為、“海”や“空”がやらかした“暴挙”の行為に怒っている住民達の負の感情を真っ先に向けられる。
そして、その過程で住民達と陸の局員の摩擦なども起こり、良くも悪くも心理的なダメージを局員達に与えていたのだ。
そんな彼らからすれば、海や空は面倒事を押し付けた挙げ句、放置する無責任な組織に見えてくる。
そして、今回も仮にその管理世界に入れた場合、海や空が手に余るような世界をこちらに押し付けようとしてくる可能性が高いので、彼としてはなんとしても反対したかったのだ。
まあ、海や空と一歩引いたところから現状を見ているロルメス自身はこの世界が管理世界に入る可能性は無いと考えていた。
何故なら、パット見だけで海や空より相手の方が格上と分かるからだ。
そして、彼や陸の幹部達の大半は今回の事件についても『来るべき時が来たか』という思いを抱いているだけだった。
彼らはこうやって他世界と接触し続けていれば、何時かは格上の存在に出くわすかもしれないと考えていたからだ。
まあ、それが何時になるかは分からなかったので、口には出さなかったし、口に出したところで海や空は相手にしなかっただろうが、それでも常日頃から言っておくべきだったと、今更ながらに陸の幹部達は後悔していた。
「だいたい、もう敵が格上の存在である事は理解しただろう。なら、ここら辺が引き際だ」
そう言って管理局の傷口を広げるのを防ごうとするが、強硬派──特に海の人間が猛烈に反発する。
「馬鹿な!あんな蛮族の方が格上だというのか!?」
「今回は偶々だ!!数に任せたから、偶然あの野蛮人達が勝っただけだ!!」
ガミラス人達が聞いたら怒り狂いそうな事を叫びながら、彼らはそう主張するが、ロルメスは呆れながらこう言った。
「なるほど。では、仮にそうだとして、我々を撃退する程の物量を持った彼らをどうやって管理世界に引き入れるのだ?向こうはこちらが接触しているだけで、それだけの力を持った連中は3つ有るぞ?まさか、他の管理世界の治安維持機能を停止させてまで、その世界を強引に編入しようとでも言うつもりか?」
「決まっているではないか!その通りだ!!」
「・・・は?」
この発言に、思わずロルメスは呆けてしまうが、男は構わず続けた。
「相手は我々を凌ぐかもしれない危険な物量と質量兵器を保有している。なら、尚更、かの世界を組み込むのが我々管理局の義務だ!!」
「その通り!そして、かの世界の質量兵器を接収して、我々が管理しなければならない!!」
男達の言葉に同調するかのように、他の強硬派も次々と自分の主張を行う。
「そうだ!そもそも世界を管理することが時空管理局に課せられた使命だ!!故に、我々に逆らう者は犯罪者にすぎない!!」
「陸はそんな犯罪者達を見逃せと言うのか!」
「はっ。流石は腑抜けの集まり。言うことが違うな」
そう言って彼らは陸の侮蔑まで始めた。
だが、当の陸は、あまりと言えばあまりの山賊発言に絶句していた。
(こいつら・・・ここまで腐っていたのか?)
そう思いながら、ロルメスは内心で頭を抱えた。
そして、そんな会議の光景をリンディ提督は見つめていたが、流石にこれは不味いと思い始めていた。
(不味いわね。このままじゃ、何かの拍子に暴走しかねない)
とは言っても、強硬派が大半である以上、この場ではリンディは何もできない。
下手に首を突っ込めば、自分は次元航行部隊の長から引きずり下ろされ、益々管理局は危険な領域に突っ込んでしまう可能性が高いからだ。
そして、リンディのそんな考えを他所に、この会議によって、第124管理外世界(第2の地球世界)の冥王星、ガミラス本星、イスカンダルへのロストロギア回収部隊の派遣が決まった。