紅蓮の災厄   作:獄華

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時刻は昼休み……轟突 猛は昼食を取るためにいわくのある屋上を訪れていた。


忍び寄る気配

―――全く近頃わけが分からねぇことばかり起きるな。

 

やれやれと少年は頭をかく。

彼の名は轟突 猛、環輪田高校へと通う3年生で2週間前に夢に現れた白いドレスの少女から勾玉を貰った一人だ。

時刻は昼休み、買ったカレーパンと缶コーラを片手に屋上へと向かう。

環高の屋上はとある噂により生徒の立ち入りが少ない。

その噂の内容はここで昔飛び降りた生徒がおり、近づくと呪われるというもの。

学校側はこの噂を真っ向から否定していて、設立以来自殺者等一人も居ない。根も葉もない噂だと言い張っている。

実際、猛も飛び降り生徒の噂など全く信じていない。

そもそもネットで調べれば学校側が嘘をついてるかどうかなどすぐ分かる問題だ。

戸を開けると秋の風が体に触れた。

考えが詰まった時はよくここで休むのだ。

 

2週間前に遊園地で理雄と玲里が襲われたこと。

昨日瑠奈と銀陽が拉致されたこと。

6人から話を聞き荒唐無稽にも思えたが理雄達がとても嘘をついてるようには見えず猛含め他の3人も信じた。

 

けれど悪いことばかりでもない。

かけがえのない親友である理雄と玲里が付き合えたのは(先を越されて少し悔しいが)素直に喜ばしい。

しかしそれでも怪物(モンスター)達が人間社会に紛れて奇襲のチャンスを窺ってる事実は大変恐ろしい。

 

 

何れは、自分の元にも怪物が現れるのだろうか。

 

 

ふと思い、柵に寄る。

カレーパンをほおぼりながら見渡す風景は平和そのものだ。

いつも変わらず人と共存しており、モンスターが暗躍してるとは考えられない。

 

「いい風景だな」

 

 

 

横からふと声がする。

見ると同学年ぐらいの赤髪の少年が煙草の箱片手に煙を雲らせていた。

度胸のある奴だ、真っ昼間から堂々と吸うとは。

 

 

「センコーに見つかったらやべぇぞ」

 

 

「んなこと気にしてちゃあ、旨いもんも味わえん」

 

「度胸ヤベェな。ってかあんた見たこと無いが転校生か?」

 

 

「何をいう。俺は高一ん時からこの還高の生徒だよ。転校生は3組の璽痲って野郎だけさ」

 

 

「そうか。俺も生徒全て把握してたつもりだったが記憶の抜け落ちがあったんだな」

 

 

「はは。生物の記憶なんざそんなもんさ。忌ま忌ましいことはずっと覚えるが、どうでもいいことはすぐ忘れる。俺もそうだ」

 

「言えてるな。せっかくの機会だからあんたの名前を聞きたいんだが」

 

 

フゥー、と名の知らぬ生徒は煙を吐く。

 

 

「蠡玄乕(らぐろとら)……トラでも蠡玄でも好きな方で呼びな」

 

 

「蠡玄って言うのか。俺は轟突 猛。宜しくな」

 

 

「猛か、いい名前じゃねぇか」

 

 

「そっちこそだ。トラなんてイカすぜ」

 

 

「へへ。ありがとうよ。悪いがゆっくり吸いたいんで一人にしてもらえるか?」

 

 

「あぁ」

 

 

また会えたらな、と言って猛は屋上を後にした。

一人残った乕は煙草を手に持ち楽しそうにクククと笑う。

 

 

 

「こりゃあ何かの皮肉かぁ?。ティガレックスの適合者様と名前を紹介しあって楽しく話すとはな」

 

 

 

地面に煙草を落とし片足で踏んづける。

煙草はあちらの世界でも人間達が吸ってたがこんなに旨いとは知らなかった。

オルタロスなんかより何百倍も旨い。

自分が赤甲獣ラングロトラとしてではなく人間に生まれれば良かったと本気で後悔している。

 

 

「随分とまぁ、敵と仲良くおしゃべりしてたわね」

 

 

「本当だよ。てっきり寝返り願望でもあるのかと」

 

 

 

同じ制服を着た二人の男女が姿を現す。

 

「何お前ら?パパラッチ志望か?趣味ワリィ~」

 

 

「パパラッチはアメリカだから日本は関係ないでしょ」

 

 

少女……ウルクスス人間態は呆れた声で言った。

 

「けどさー。選ばれた中型鳥竜達が皆殺されるなんてね。まぁだから僕ら中型牙獣種の出番になったんだろうけど」

 

 

少年……アオアシラ人間態は暢気に語る。

 

 

「ふっ、奴等の生首でも持ってけばあの方も喜ぶんじゃねぇか?」

 

 

「ハァ……趣味悪いのはどちらかしら?」

 

 

「何れにせよ。成果を出せなきゃ俺らも奴等の二の舞だ。嫌でも胆に銘じとけよ」

 

 

「言われるまでも」「分かってるわよ」

 

 

特に表情を交えずアオアシラとウルクススは返事した。

3体は適合者達と戦う以前に既に人を抹殺している。

この高校の生徒達だ。

潜入しながら適合者を倒すと決めた3体は背丈と容姿が似た生徒を殺害し成り変わることに成功した。

人間というのは中々些細な変化には気付かないらしく話を切り出されても適当に合わせるだけで全く気づかれない。

 

 

「ハハハ」

 

 

そのことがどうにもおかしく思え、また乕は笑う。

 

 

「人間も薄情な生き物だよな。学びを共にした奴が死んだって気づかねぇんだから」

 

 

「他人に構ってる余裕なんてないんじゃない?。私達が人間なんて気にしないのと一緒よ」

 

 

「いいじゃん。その薄情さが僕らに有利に働いてるのだから」

 

 

「違いねぇ」

 

 

人間の薄情さに感謝を述べたいぐらいだ。

予鈴のチャイムが鳴り響き3人とも屋上を離れる。

鳥竜達のようなヘマをせず、一人一人をどう葬るか考えながら……。


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