紅蓮の災厄   作:獄華

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氷魅夜 姫華(ひみや じゅりあ)は赤瀬東校からの帰り道不思議な少女に出会った……。


姫華と結幻の出会い

「ここの問題は……こうか」

 

カリカリとシャーペンを走らせる。

整ったショートの髪にヘアバンドをして年頃の女子の部屋とは思えない無愛想な部屋で氷魅夜 姫華(ひみや じゅりあ)は勉強に専念していた。

ベッドにもヌイグルミのキャラ等何もない簡素な様子で漫画やアニメのグッズ等も一切おかれていない。

目に付くのは本棚に綺麗に収納された参考書や過去の偉人が残した本や著名作家の本ばかりだ。

 

 

ブー、ブーとスマホがなった。

 

 

見ると父親から今日の帰りが遅くなるとのメッセージだった。

 

刑事である父親の帰りが遅くなることはしょうがないことなので、「またか」ぐらいにしか思えない。

母も最初の頃は辛くて泣いてたらしいが今は慣れっこだという。

 

 

コンコン、と自室のドアがノックされた。

 

 

 

「姫華。入るわよ?」

 

「なに、お母さん?」

 

 

入って来た母に椅子ごと体を向ける。

 

 

 

「今日の夕食。何がいい?」

 

 

「お母さんの好きなものでいいよ。っていうか食べなくても全然困らないし」

 

 

無表情で淡々と告げる姫華に母は心配そうな顔を浮かべる。

 

 

「食べなきゃ駄目よ。あなたは育ち盛り何だから……」

 

 

「分かった。食べる」

 

 

またも無表情で姫華は答えたが、食べると言ってくれたのが嬉しかったのか母は安堵の笑みを浮かべる。

 

 

「良かった…。シチュー作るから出来たらまた呼びに来るからね」

 

「うん」

 

バタリとドアを閉め母親が出ていく。

 

思えばうちの母親はかなりの心配性だ。

勿論心配してくれるのは有りがたいが行き過ぎれば逆に煩わしく思うこともある。

だからといって大切な母親に「ウザい」や「邪魔くさいからほっといて」なんては絶体言わない。

母を除け者にするような台詞を吐くのは自分を堕落させる行為に他ならないからだ。

姫華は18になるこの歳まで親に反抗らしい態度を取ったことがない。

反抗期が来なかったのか……それともこれから来るのか、反抗期が来ても普段通りだったかは定かでは無いが大人しく過ごし小、中、高と全ての科目において優秀な成績を維持してきた。

彼女が通う高校は赤瀬東高校で県内一の進学校の環和田の次に偏差値が高い進学校である。

普通大学への進学を目指すなら環和田に行けば間違いないのだが赤瀬東高校は何と言っても進学校にしてその自由な校風に定評がある。

何と髪の色は自由でピアスok、私服もokでバイトも自由なのだ。

この校則を見て環和田に入る成績を持っていながら赤瀬東に入った生徒も少なくない。

尤も姫華の場合はまた別な理由だが。

ただ単純に環和田よりも赤瀬東の方が通学が楽だから赤瀬東に入ったのだ。

環和田へ通うのにバスで40分掛かるところが赤瀬東だと徒歩で僅か5分。

親からも特に絶体環和田高校へ通えとは言われていなかったので彼女は赤瀬東に進むことを決めた。

勉強の中少しでも家計の負担や社会経験のためにアルバイトもやっている。

バイト先はケーキ屋だがそこでもそつなく仕事をこなし職場の人々には「姫華ちゃんがいると助かる!」と高評価を得ていた。

姫華自身としては単に勉強やバイトにせよ、『どうせやるなら完璧を目指して』と昔自分の父に習った教えを守ってるだけで特にすごいことをやってるという嬉しさや達成感はあまり感じない。

 

 

 

 

そんな彼女だからか今日の学校からの帰り道……。

 

 

 

 

 

 

『燃えるように紅い瞳をした少女』から雪のように真っ白な勾玉を受け取ってもあまり驚かなかった。

 

 

 

 

「おい。そこのお前この勾玉をくれてやる」

 

 

「いきなり何?……」

 

 

タチの悪い人間に絡まれたと思い姫華は至極迷惑な表情を浮かべ帰ろうとするも紅い瞳の少女は待てよと手を掴み無理矢理姫華に勾玉を握らせた。

 

 

「離しなさい」

 

冷静に言い刑事である父親仕込みの護身術を繰り出すが

相手は人間離れした動きで彼女の技をかわした。

こんな動きをする者は見たことがない。

 

「何なの……コイツ……」

 

 

「ハハハハ!お前面白いなぁ!。人間なのにあまり動揺を見せないとは。昨日の奴とは大違いだ」

 

 

跳躍し紅い瞳の少女は建物の上に立った。

 

 

「勾玉だか何だか知らないけどこんなものいらないわ」

 

放って返そうとする姫華を少女の「まぁ待て」の一声が止める。

 

「その勾玉にはモンスターの力が込められていてな。お前の胸に吸収させればお前はモンスターの力を宿すことが出来る」

 

 

「モンスター?。何言ってるの?。ゲームの話?」

 

 

―――この子はゲームと現実がごっちゃになってるのかしら?。

今の子供はそう言った傾向が多いと言われてるけどこの子もその例に漏れない感じか。

 

 

「誰がゲームと現実がごっちゃになってるだよ」

 

 

「……私の心を読んだ!?」

 

 

これには少しばかり姫華も驚いた。

直後に少女の姿が消え一瞬にして自分の前に現れた。

 

 

「これはまごうことなき現実だ。その中には氷刃佩くベリオロスの力が込められている。説明はしたぞ。後はお前次第……その力好きに使いな」

 

 

「うっ……」

 

 

爆炎の渦と共に少女は姿を消した。

「何だったの……?」

 

 

突然現れ自分に勾玉を渡した紅い瞳の少女。

一先ず勾玉片手に姫華は帰宅した。

 

 

 

 

 

―――まず間違いなくあいつは人間じゃないわね。

 

 

高すぎる身体能力に加え瞬間移動に突然炎を発生させるなど絶体人間とは考えられない所業だ。

馬鹿馬鹿しいが少女が勾玉にモンスターの力が宿ると言ってたように彼女自身もモンスターなんじゃないか。と姫華は考える。

 

 

―――まさか彼も。

 

 

ふと、嫌な予感がした姫華はチャットアプリを起動させ新たなメールが無いか見た。

 

「ハァ……」

 

 

ある人物からのメールに姫華は溜め息をつく。

 

 

「女の勘ってやつかしら。嫌なことは当たるものね」

 

 

結幻という相手から『今日変な女に全般的に黒く赤い模様が入った勾玉を渡された』とメールが来ていた。

女ということから恐らく自分と同じ相手だ。

メールが届いた時刻も13時15分、3年で早く帰宅してた自分があの少女に出会った10分程前だ。

 

「結幻も私と同じであいつに会ったのね」

 

 

黒輝 結幻(くろき ゆうげん)。

友達というよりかは知人に近い間柄で2年前ふとしたことがきっかけで彼と出会った。

 

 

 

……………………

………………

…………

……

 

 

 

 

 

2年前……。

 

「モンブランでお願い」

 

「はい、畏まりました」

 

ケーキ屋でバイト中の姫華は客から指定されたメニューをメモし厨房にモンブランでーす。と伝えていた。

 

「きゃああ泥棒!」

 

 

その時とある女性のお客さんが悲鳴をあげた。

見ると一人の小さな男の子がショートケーキを片手に持って店の戸を開け出ていくところだった。

 

 

「ど、泥棒だって!?」

 

 

「マスター。私が捕まえてきます」

 

 

困惑するマスターに言うと直ぐ様姫華は『泥棒』を追いかけた。

店の外に出ると男の子は店から100mぐらい離れたところを全力疾走していた。

 

 

あの距離なら捕まえられる。

 

確信し追いかけると、男の子は逃げることに無我夢中だったのか。

 

 

「わっ!」

 

 

「いってぇなぁ……」

 

 

ガラの悪い高校生の集団の先頭を歩いていた生徒にぶつかってしまった。

「あらら何やってるのかしらあの子……」

 

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

「……ごめんなさいですむと思ってんのかボケェ!。あーこりゃ骨折れたかも知れねぇなぁ」

 

 

高校生の素振りひとつひとつに子供は震え涙を流していた。

 

 

「慰謝料請求だ……テメェん家案内しろ。親に払って貰うからよぉ!」

 

 

「はっはっは。そりゃあいいや!」

 

 

「やっぱり兄貴は考えることが違うぜ!」

 

 

周りの生徒達はぶつかった男子生徒のことを持て囃す。

 

「家にお金なんかないよ。た、助けて……」

 

「だったら強制的に払って貰うだけだっつの!おら加害者の癖に被害者ぶんな!早く案内しろや!」

 

 

周りも寄って集って、「泣いてすむと思うなよ」とか「大人をなめんなよクソガキ」と子供に罵声を浴びせる。

 

 

もう見てられない。

あの子が犯した罪を考えれば今の状況は因果応報なのかもしれないがそれにしたってあの学生達はやりすぎだ。

子供が怯えてるのに度を越している。

 

 

「待ちなさい」

 

 

姫華が声をあげると、リーダー格の男子が「あぁ?」と此方を見てきた。

「その子を離しなさい。恐喝で警察に訴えるわよ」

 

「おいおいおいおいおい。先にぶつかって来たのはこのクソガキだぜ?。何で俺がわりぃんだよ!偽善者ぶってんじゃねぇ!このクソアマ!」

 

「へぇ」

 

周りの生徒もそうだそうだと続くが姫華は全く動じない。

「アンタの身体はこんな子供がぶつかっただけで怪我する軟弱な身体なんだぁ」

 

表情を崩さずに然り気無く煽りを入れると舎弟の一人が「テメェ!」と切り出した。

「兄貴の身体がそんな弱いわけねぇだろ!。兄貴の身体はなぁダイヤモンドよりも硬いんだ!鋼鉄の肉体だ!どうだ、参ったか!」

 

 

「……馬鹿ね」

 

 

「このアホが!」

 

「ホゲェ!」

 

芸人のコント並に鋭い突込み(拳)が発言した舎弟に入った。

何にせよこれでリーダー格の生徒の面目が潰されたのには違いない。

 

 

「このアマぁ~!俺に恥かかせやがって!」

 

「元はと言えばアンタ達がこの子を脅したのが悪いんじゃない」

 

 

呆れたように言った。

 

「ウルセェ!。女だろうが容赦しねぇ!野郎共やっちまえ!」

 

 

「おぉ!」と声をあらわげ5人の男が襲いかかるが父親仕込みの護身術で次々と倒していった。

「マジかよ、こいつ女のクセにつぇぇ!」

 

 

あっというまにリーダー格の男子一人だけになってしまった。

 

 

「さぁ、その子を離すのね」

 

「ウルセェ!」

 

「わぁっ!」

 

リーダー格の男子は子供を抱き抱えるとカッターナイフを取り出し子供の顔に近づける。

 

 

「馬鹿な真似はよしなさい。本当に捕まりたいの?」

 

「へっ、人様の面子潰しやがって捕まりたいもクソもあっかよ!。テメェは服を脱げ……形勢逆転だ俺の指示に従って貰うぜ」

 

勝利を確信し姫華に滅茶苦茶な命令を出すが姫華は動じない。

圧倒的不利な状況の筈なのに何故この女は動じないのだろう。

 

すると姫華はボソリと「後ろ」とだけ言った。

 

 

「あ?……へばぁ!」

 

 

「俺の弟を随分と可愛がったようだな。許さん!」

 

 

黒いタンクトップに黒いズボンをはいた長身の男子が現れ瞬く間にリーダー格の男子をボコボコにしたのである。

 

 

これが黒輝 結幻と氷魅夜 姫華の初めての出会いだった。

 

 

 

「覚えてろよぉ!」

 

 

ボロボロにされた高校生の集団は足早に逃げ去って行く。

 

「輝生。大丈夫か」

 

 

「うん!大丈夫だよ兄ちゃん!。そこのお姉ちゃんにも助けてもらったし」

 

輝生と呼ばれた少年は姫華の方を向いて屈託のない笑みを浮かべた。

「他の男が延びてたのはアンタがやったのか……すまない。ありがとう輝生を守ってくれて」

 

 

「結果的には助けることになったけど私はその子が他のお客さんからケーキを盗んだから追いかけて来たの。お代金払って貰えるわよね?」

 

 

「何!?。輝生!お前店の食べ物を他人から盗んだのか?……」

 

 

輝生は俯きながらごめんなさい……と兄に謝る。

 

 

「お腹減ってて我慢出来なかったんだよぉ……!」

 

 

ワーンワーンと輝生は泣き出した。

 

 

「だからといって盗みは駄目だ!。俺はお前に姑息な男にはなって欲しくない」

 

「ごめんなさい……お兄ちゃん……」

 

 

「うむ。もう二度とするな」

 

 

結幻は輝生を優しく抱きよせ頭を撫でると、姫華に声をかけた。

「店員さん。この子が食べた分は俺が払う。何円だ?」

 

 

「三角ショートケーキだから……315円ね」

 

「分かった」

 

結幻は財布を取り出し315円ちょうど姫華に渡した。

 

 

「たしかに、受け取ったわ」

 

 

「強い店員さん。あんたはあとバイト終わりまで何分だ?」

 

「あと15分ぐらいかしら。どうして?」

 

 

「是非この子を守ってくれたお礼がしたい。茶菓子ぐらいは用意出来るから是非来てくれ」

 

「いいわよそんな」

 

 

「頼む!」

 

結幻は綺麗な姿勢で頭を下げた。

「僕からもお願い!」と輝生も続く。

 

 

―――参ったわね。

 

 

真剣な眼差しで頼む二人を前に……断りづらくなってしまった。

 

 

「分かったわ。少しお邪魔させてもらおうかしら」

 

「ありがとう!バイトが終わるまで店の近くで待ってるから声掛けてくれ」

 

 

「えぇ」

 

姫華と結幻達は一度別れた。

 

 

 

「助かったよー!姫華ちゃん。バイト代弾むからね」

 

 

「ありがとうございますマスター。では」

 

 

店の外に出ると店の前の駄菓子屋で結幻はお菓子と麦茶の素を買っていた。

なんだか気を遣わせてるみたいで罪悪感を感じるが、あっちから是非にと誘われたので行くことにする。

 

 

「お待たせ」

 

 

「おっ、バイトが終わったんだな。菓子と飲み物も買ったし帰るぞ輝生!」

 

 

「うん兄ちゃん!」

 

 

結幻の背中におぶられ輝生は楽しそうだ。

その様子が微笑ましく思い姫華の口元が綻ぶ。

 

「あなた達兄弟仲いいのね」

 

「あぁ。父さんも母さんも他界し二人だけの家族だからな」

 

 

「……そうなんだ」

 

 

「自己紹介が遅れたな。俺は黒輝結幻。通信制高校に通う一年生だ。あんたは?」

 

 

「氷魅夜 姫華。赤瀬東に通う一年生よ。宜しく黒輝君」

 

「結幻で構わない。俺も姫華と呼ばせてもらうから。赤瀬東ってことは姫華は頭いいんだな」

 

「まぁ、勉強は出来といて損はないからね。結幻は……その……やっぱり御両親がいないから?」

 

「まぁな。しかし俺は頭もそんなにいい方ではないんだ。養わないといけない大切な命があるから働きながら勉強出来る通信制を選んだ」

 

後ろに目を向けると輝生はスヤスヤと眠っていた。

 

 

「全く悪事を働いたのにすやすや眠れるなんてコイツは大物だ」

 

「フフ、違いないわね」

 

 

どうしてか知らないが彼と話していると心が安らぐ。

いつもの冷たい自分が封じられるみたいに。

 

 

 

 

 

 

「ここが俺の家だ」

 

暫くし結幻の家にたどり着くと狭いボロアパートだった。

「すまないな。女である姫華をこんなとこに呼び出してしまい」

 

 

「気にしないで。私は大丈夫よ」

 

 

「お邪魔します」

 

 

家に入ると4畳程の居間があり質素な家具が置かれていた。

仏壇には彼の両親らしき写真が二枚並んでいる。

「あなたのご両親にごあいさつしても大丈夫?」

 

 

「あぁ。構わないよ」

 

 

仏壇の前で正座すると線香をあげ合掌した。

 

 

「ありがとう。父さんも母さんもきっと喜んでると思う」

 

 

おぶっていた輝生を布団に寝かせると、結幻は茶菓子と麦茶を机の上に出す。

「可愛い子ね。輝生君。お兄ちゃんにもこんなに愛してもらってもう悪戯はしちゃ駄目よ」

 

頭を優しく撫でると、眠りながらふふ……と笑った。

 

 

「輝生を追っかけてくれたのが姫華で本当に良かったよ」

 

 

「そんなことないわよ」

 

 

二人は菓子と麦茶を口に運びながら楽しく会話を始めた…………。

この日彼女は結幻と輝生に起きた悲劇を聞くこととなる……。


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