やむやむりあむの日常   作:炸裂プリン

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ゆうあいりあむ

【半泣きで山登りするりあむの画像】

【草】

【わああああ!!!!!!!】

【なにそのがぞけしてはくせすて!!?!】

【鼻水垂らして幸子に縋るりあむの画像】

【ほんと草】

【なんでええええええ】

【なんでそんな画像あるのおおおお】

【ヒャッハー輝子スタンプ】

【あ間違えた】

【しょんぼり美優スタンプ】

【冷静に変えてて草】

【割と余裕あるなお前】

【ないよおおおおお!!】

【よりによっておにーちゃんに

それ見られてるなんてほほんと

なんでもうマジで嫌だやだやだ

ああああああ】

【語彙力ゼロの長文笑うわ】

【ぬわああああ】

【パパスが出てきた】

【やむううううう】

【泣きながらカップ麺食べるりあむの画像】

【ドヤ顔で下山するりあむの画像】

【また行こうとPに言われ絶望するりあむの画像】

【イキイキしてる】

【ふわあああああ!?!!!】

【もうやだああああいあ!!】

【アイドル辛い?】

【つらい】

【いや】

【ちがう】

【つらくない】

【楽しい?】

【たのしい】

【帰るとおにーちゃんいるから】

【倍楽しい】

【なら良かった】

【これからも頑張れ】

【応援してるぞ】

【え嬉しい】

【おにーちゃんしゅき・・・】

【おにーちゃんが応援してくれるなら】

【ぼく無限にがんばれる!】

【超高空の機内で青褪めた顔のりあむ&普通な幸子の画像】

【アイドルやめる】

【草】

 

★ ★ ★

 

「もう無理、やーむー」

「それ森久保サンの「むーりー」じゃん」

「違うよ。りあむオリジナルだよ」

「ツクダオリジナルみたいに言うな。それよりやめなよ、人のネタ取って人気取ろうとするのは」

「そういうのじゃないよう! あと乃々ちゃんのを取るとか恐れ多すぎて出来ないよ! っていうかぼくがやったら炎上して終わりだよ!」

「たしかに」

「普通に納得されるとかやむ・・・・・・」

 

 ネタじゃないんですけど・・・・・・。そんな声がプロデューサーの事務机下から聞こえてきそうな、まだまだ日差しの強い初秋の昼下がり。

 今日も今日とてあきらと共に挑んだレッスンを終え、二人は事務所でスマホ片手に駄弁っていた。

 

「あと乃々ちゃんの「むり」は「むーりぃー」だからね。イントネーションは「り」に置くんだよ」

 

 夢見りあむ、迫真の真顔である。

 ずいっと顔を寄せてきたりあむに、あきらは並んで座っていたソファーの端へ身を寄せた。

 

「えっ、うん。なんかごめん」

「そこんとこホントに気を付けてね。アイドルにとってこういう細かいアイデンティティって大事なんだからね!」

「りあむにアイドルマウント取られるの凄いイラってくるね」

「え、ひどい。ひどくない?」

「#今日のやみ」

「友達が辛辣な対応してきてやむ・・・・・・」

 

 アイデンティティじゃなくてリアリティなんですけど。プロデューサーの事務机下からひ弱な抗議が続いていそうな中、りあむとあきらの談笑は続く。

 

「いや、そんなことよりもさ」

「そんなことて」

「見てよこの画像!」

「#お宝アイドル画像 ・・・・・・いや、お宝? まあ、アイドルが鼻水垂らしてる画像はある意味お宝か。よく撮れてるじゃん」

「ぜんっぜん嬉しくないぃー! もっときゃわたんな画像を保存して欲しいのに、こんなのばっかなのホントにやむ!」

「なんかこういうのばっかだよね。りあむの仕事」

「何でだろうね。初めてのバラエティに出て以来、こんなのばっかでやむんだけど・・・・・・。こうなったのは全部バラエティデビューで山登らされたせいだよ・・・・・・」

「しょうがないじゃん。この事務所の登竜門みたいなモノらしいんだから。新人アイドルと幸子サンの体当たりロケ」

 

 通称「輿水幸子チャレンジ」である。なお、命名者はプロデューサー。

 自身のスマホに保存された当時の写真をあきらと共に振り返りながら、りあむは会話を続けた。

 

「いや、幸子ちゃんと共演出来たのは素直に嬉しかったよ。限界オタク化してまともに会話できなかったけど」

「二つの意味で限界化したよね、あの企画で」

「いやまあ、初めての山登りでキリマンジャロとか頭おかしいと思ったよね。ぼく、良い顔で「仕事取ってきたぞ」言ってきたPサマが新手のサイコパスに見えたよ」

「一切呼吸を乱さない幸子サンとゲロ吐きそうなりあむの対比が面白かったよ」

「いや吐いたよ。ドクターストップ掛かるの期待して吐いたけど、一発で無理やり吐いたのバレてそのまま登らされたんよ。あたま おかしい」

「でもおかげでバズったじゃん。#キリマンジャロ登頂 #注目の新人バラエティアイドル って」

「そうだけど、そうだけどさ! にしたってコレはなくない!? バラエティの冠被ったアイドル活動は控えめに言って絶対にノゥだよう!」

「でも目立てるじゃん。一番に目立てるアイドルが #りあむの目標 でしょ?」

「そーうーだーけーどー! ぼくはもっとキラキラしたいの! 色んな人の記憶に焼き付く凄いアイドルになりたいっ!」

「記憶に焼き付いてはいるよ。うん」

「目立ってはいるけど、キラキラしてないからやんでるんだよう・・・・・・」

 

 あーだこーだ、わーきゃーやむやむおにーちゃんしゅきしゅきと喧しく鳴くりあむに、自身のスマホを弄りながら「あーはいはい」と相槌を打って応対するあきら。一緒にデビューしてからこっち、ずっと続くこの事務所の日常風景である。

 さて、その後も益体も無い会話のキャッチボールとドッチボールを繰り返していると、不意に事務所の扉が壊れんばかりの勢いで開け放たれた。

 

「ひえっ、なになになに?」

「ふふーん! 可愛いボクが! この日本が誇る「人間カワイイ国宝・輿水幸子」が、帰ってきましたよ!! ふふふーんっ!!」

 

 噂をすればなんとやら。入ってきたのは日本一カワイイを自称するアイドル、輿水幸子だった。

 相も変わらず出処不明な自信を振りまいて、今日も今日とてキラキラと己のカワイさを振り撒いていた。

 

「わあ! 幸子ちゃんだあああ!!」

「おや、りあむさんとあきらさんじゃないですか。ボクを出迎えに来てくれたんですね。ご苦労様です」

「ひえぇ話しかけられたったよどうしよあきらちゃん上手く返事できないよハンパないよ生の幸子ちゃんいつも通りちっこくてカワイイよシンドいよー・・・・・・!」

「ここで限界化しないでよ。・・・・・・ああ、えっと、お疲れ様デス、幸子サン。長旅・・・・・・旅? 大変おつかれさまデシタ。番組放送日楽しみにしてます」

「それはもう最高の出来になっていますから、期待して待っていてくださいねっ」

 

 なんせ、この! ボクが! 出てるんですからっ!

 ババーンと効果音が付きそうな勢いで語る幸子は、最近では体を張った企画で、半ば自身の相棒と化しているりあむが、息荒くあきらの影から自身を見ていることに気付く。

 

「・・・・・・それはそうと、りあむさんは大丈夫なんですか? 収録の時もそうですけが、ボクに会う度にそんな感じですけど」

「りあむは推しのアイドルに会うといつもこうなンで、気にしない方が良いデスよ」

「はあ、そうですか。いや、知ってましたけどね。ボクのカワイさは罪作りですからねぇ・・・・・・」

「おう何突っ立ってんだ邪魔だぞ幸子」

「ふぎゃー!?」

 

 しみじみ語る幸子の襟を摘み上げて、ぞんざいに放り投げたのはこの事務所のプロデューサー。

 猫のようにきゃーきゃー抗議する幸子をスルーして、プロデューサーは後ろに控えた少女を事務所に通すと、「外で仕事あるから、また後でな」そう言い残してまた出ていったのだった。

 さて、プロデューサーの導きで事務所に入ってきた少女は誰かというと、

 

「・・・・・・はい。辻野(つじの)あかり、ただいまジャングル探検より無事帰還いたしましたーっ」

 

 可哀想なほど疲れきった風体のあかりは、夢見りあむ、砂塚あきらと同期のアイドルだ。

 彼女は、同期組三人の中で輿水幸子チャレンジ最後の挑戦者だった。

 というのも、他二人は割と早い段階でこの仕事をつなぐことが出来たのだが、あかりに関してはその正統派に可愛いらしい見た目から、通常のアイドル番組へ出演が早々に決まってしまい、幸子とのロケに使えるスケジュール調整が出来なかったのだ。

 しかし、順調に進んでいたあかりの正道が、無駄に本気を出したプロデューサーにより強引に捻じ曲げられたことで、今回の輿水幸子チャレンジ――「幸子と往く☆それ往け♡ジャングル横断〜珍獣探しの旅〜」へ駆り出されてしまったのだった。普通にかわいそうだと思う。

 なお、これが放送された際の評判は、水曜どうでし〇うでやれ。あかりちゃんを解放しろ。両親を人質に取られてるに違いない。水曜どう〇しょう。藤Dが足りない。うれしーも足りない。ミスターを呼べ。O泉も出せ。シカでした。幸子のサバイバル知識と技術が高過ぎて草だった。企画者はブンブンの刑に処す。涙目で幸子に縋るあかりんごが可愛かった。次はりあむにやらせろ。

 等々、いつも通り大好評(当社比)で幕を下ろす事になる。

 

「お疲れ様、あかり。いや本当にお疲れ様」

「がんばったんごぉ・・・・・・」

「あかりちゃん、大変だったね・・・・・・」

「りあむちゃんとあきらちゃんにまた会えて良かったよおぉぉぉ」

 

 涙目で二人に抱きつくあかりの姿から、その企画の過酷さが伺えた。

 それを眺めながらウンウンと頷く幸子は、さながら成長した教え子を誇らしく思うレンジャー部隊の教官である。

 

「あかりさんは本当に良く頑張りました。どれだけ大変な目にあっても、挫けずに着いてきてくれたのをボクは誇りに思いますよ」

「幸子ちゃんが一緒に歩いてくれたから、私はここに戻ってこれたんです。ありがとうございましたぁ!」

「ふふーん、当然ですよ。ボクが共演する限り、絶対にここへ帰って来れるに決まってますよ。なんせ踏んできた場数が違いますからねぇ!」

 

 ライブの登場演出で高々度からのパラシュートを行ってから始まった体当たりロケを制覇し続けた彼女に、もはや怖いものなどないのだ。

 

「うぅ・・・・・・二人ともこんな過酷なお仕事したんだね。凄いよぉ・・・・・・」

「自分の #輿水幸子チャレンジ は二人と比べると全然だと思うけどね」

「いやあ、アイドル☆サバゲー 幸子&あきらVS現役軍人10人+大和(やまと)亜季(あき)〜壊滅させるまで帰れません〜は地獄だと思うなあ、ぼくは」

「夜闇に紛れて、ゴム製ナイフで軍人さんを倒す幸子ちゃんはカッコよかったんご。映画見てるみたいだった!」

「今思うと、FPSの延長だから楽勝とか思ってた私は愚かの極みだよね」

「・・・・・・でも良いよね。二人は」

「「?」」

「あの後は普通のお仕事も増えて」

「あっ・・・・・・」

「あぁ・・・・・・」

「ぼくのお仕事、なんか幸子ちゃんと顔合わせるのが増えてるんだよね」

「りあむさんの素のリアクションが好評でしたからねぇ」

「嬉しいんだけどね。推しのアイドルと一緒っていうのは嬉しいんだけどね。そろそろクソザコメンタルのぼくには厳しいかなーって。はは、ホントやむ」

 

 ほんのりと影を落とすりあむの横顔は、しかし何処か満更でもなさそうな色を含んでいた。

 何だかんだで憧れたアイドルの世界に飛び込めて、そして輝けて彼女は嬉しいのだ。更にはこの世界で動くと決めてからは、愛しのおにーちゃんと同じ住まいで暮らせるようにもなった。

 自己肯定感の低い彼女ではあるが、諦めずにアイドルの世界で歩き続けている自分のことは、ちょっぴり好きになれていた。

 

「まあ、それは置いといて」

「置いとかないでよあかりちゃん。ぞんざいに扱われるとか、ぼく、めっちゃやむんだけど」

「うん。置いといて?」

「ぼくを無視して進行しないであきらちゃん?」

「久しぶりに三人揃ったんだし、帰りに何かしたいなーって」

「あー、たしかに。こうして集まるの、かなり久しぶりだもんね」

「うわ、陽キャだ。陽キャの発想だ。こわー・・・・・・」

「って言っても、今からだと何が出来るかなー」

 

 時刻は午後15時を過ぎたところだ。まだ学生の身分でありアイドルの三人には、外で遊べる時間はもう残り少ない。

 時計を見て唸り出す三人を見て、その交流の邪魔にならないよう幸子はこっそりとその場を離れた。具体的にはプロデューサーの事務机の下へ。ひえっ、幸子さん何用ですか、森久保いぢめですかウンヌン。久しぶりに会ったんですからボクたちも友達らしいことしましょうカンヌン。

 

「んー・・・・・・誰かの家に行こうにも私もあかりも寮住まいだから、それなりに距離あるし・・・・・・」

「・・・・・・あれ。りあむちゃんってたしか、この近くに住んでましたよね」

「えっ」

「あ、そうだね。りあむの家が近いね」

「えっえっ」

「じゃあ、えっと、急なお願いでごめんなさいだけど、今日はりあむちゃんのお家にお泊まり会! なんて――」

 

 瞬間、りあむは電光石火の速さをもって口火を切った。

 

「無理無理ダメダメ何言ってんのこの陽キャ共は陰キャにとっての自宅と自室がどんな意味を持っているのか分かってるのいや分からないよね陽キャに陰の者のパーソナルスペースの広さは分からないよねはーめっちゃやむ確かに二人はぼくの友達だけど急に家に来るとか言われても困るっていうかおにーちゃんが困るっていうかほら

着替えの準備とかも出来てないしぼくの服貸そうにもほらぼくってちょっと胸大きいから二人にサイズ合わないかもだし何よりおにーちゃんを困らせたくないし」

「えーと、えとえと?」

「――りあむ」

「はい」

 

 説き伏せること烈火の如く紡ぎ出したりあむの言霊は、目をくるくるさせるあかりと、ジト目で呆れ顔のあきらが放つ一声によって食い止められた。

 そして、

 

「#本当の理由 は?」

「ぼくのお部屋が整備されてない牛舎の如く汚さだからだよう・・・・・・」

「牛舎」

「牛舎」

 

 幾つもの言葉を重ね、隠し通そうとした秘部を暴かれたのだった。

 

「・・・・・・じゃあ、今日のところはファミレスで」

「ん、おけー」

「うわあああ、恥ずかしい。めっっちゃやむぅ・・・・・・」

 

☆ ☆ ☆

 

 半月状にカットされたチーズの平面部分にバーナーを当て、熱せられた鉄皿でホクホクと湯気を立てるお芋と厚切りのベーコンの上へ、温められたチーズを削ぐようにかけていく。

 まだ熱の残る鉄皿へチーズが触れれば、食欲を刺激する香ばしい匂いがリビングに充満した。

 

「これがラクレット・・・・・・めっちゃ映える! ちょ、おにーさんもう一回! もう一回今のトローリをお願い! 動画、動画撮るから!」

「あきらちゃん、敬語忘れるほど興奮してる・・・・・・でも、そうなっちゃうのもわかる。とってもいい匂いと美味しそうな見た目だもん」

「そう言って貰えると、準備したこちら側としても嬉しいよ」

 

 エプロン(ぼくが初めてのお給料でプレゼントしたやつ! おにーちゃんが好きな市松模様のホルターネック。似合いすぎて萌え(準死語)禿げる。というか禿げた)を着けたおにーちゃんが袖をまくって(二の腕!!)チーズを削ぎ落とす姿は最の高。

 おまけに、本当に嬉しそうに微笑むおにーちゃんは死ぬほど可愛いと思う。思うんだけどね。

 

「どうして結局ふたりがウチに来てるんだよう! なにゆえ?? ほわい!?」

「帰り道でおにーさんと偶然会えたから、そのまま招待されたんだよ。何言ってるのりあむ。記憶力大丈夫?」

「一緒に帰れる! ってりあむちゃん鬼のように喜んでたよね。興奮しすぎて、お顔がりんごろうみたいに赤かったよ」

「顔がりんごろうは酷すぎてやむ・・・・・・っていうか普通は遠慮するよ。え、しない?」

「せっかくのお誘いだったし、ね。あきらちゃん」

 

「凄い凄い! ラクレットすごくすごい! #今日イチの一枚 な #映えご飯 で最高すぎる!」

「砂塚さん、語彙力死んでるよ」

 

「あ、聞いてないねアレ」

「えぇー・・・・・・」

 

 陽キャはこれだから怖いのだ。陰の者が知らない間にあれよあれよと話を進めては巻き込んでいく。主に無関係なぼくを。今回は全く無関係じゃないけど。

 ・・・・・・でもまあ。

 

「楽しいから、いっかー」

「ふふふ、そうだね」

 

「おにーさん、一緒に写ろう。ツーショットチェキしようよ」

「いや、俺はまだ料理途中だからそろそろキッチンに戻らないと・・・・・・」

「えー、この間私の寝顔どころか寝起き顔見たのに?」

「アレは消さずに寝たりあむと、何なら一緒に寝落ちした君の落ち度だろ。俺は悪くな――」

「事案」

「――は」

「成人男性が未成年女子の寝起きを覗き見る事案が発生」

「いや覗きて」

「なお、相手は現役アイドルのもよう」

「なんだその不穏な文字列は」

「#あきら速報」

「おーけー、分かった。撮ったらチャラで頼むよ」

「へへっ、おっけーデスよ」

 

「あきらちゃんとおにいさん、何だか仲良しだね」

「 」

「あれ、りあむちゃん?」

 

 なにあれ。

 なんか気付いたらラクレットを背景にあきらちゃんがぼくに無許可でおにーちゃんとチェキろうとしてるんだけどは? なにしてんの?? ぼくでさえ滅多に出来ないのになにやってんの???

 

「ちょっと二人とも近い。近くない? いや近過ぎるでしょ!」

「だって二人で写るには近付かなきゃでしょ」

「やだ! やあだぁー! たとえあきらちゃんでもおにーちゃんに近過ぎるのはダメ!」

「いいなー・・・・・・そうだ! 私も混ざるんご♪」

「ブルータスお前もかあ!」

 

 陽キャの写真に対するこの意識の高さと反応速度ったら本当にない。やだ。むり。やむ。

 背の高いおにーちゃんを椅子に座らせて、それを挟むように二人が立っていた。スマホの撮影画面に収めるためとはいえ、やっぱり距離が近い。おにーちゃんも、その距離感をなんとも思ってなさそう。

 まあ、そりゃあそうか。ぼくがあきらちゃん達と一緒にアイドルデビューしてから何度もPサマと一緒にぼくを拉致迎えにお家(ココ)に来てるし、時間が遅くなった時はおにーちゃんが送迎してくれて、その度に会ってる。ウチに来たのも今回が初めてって訳じゃないし。

 ・・・・・・でも、やっぱりぼく以外の女の子が、例えぼくが自信をもって友達と言える二人だったとしても、おにーちゃんが取られてしまったようで、胸の奥がジリジリと苦しくなる。

 そんな風に、嫉妬心で死にそうになっているというのに、だと言うのに、おにーちゃんはちょっぴり嬉しそうにしていた。

 そーだよね、こんな変な妹分より楽しくて明るくてイマドキな感じの普通の二人といる方が楽し――

 

「・・・・・・。りあむ」

 

 独りで不貞腐れていると、不意におにーちゃんが声をかけてくれた。

 シャッター音は、まだ聞こえない。

 

「おいで」

 

 ・・・・・・。

 

「りあむ一緒に撮ろ」

「りあむちゃん、早く早く!」

 

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・笑顔で僕を誘う三人が、なんか眩しい。

 

「やむ」

「ほら、早くおいで。りあむ」

「勝手に落ち込んでた自分のクソザコメンタルにやむぅー!」

「うわあ、走り込んでこないでよ」

「あっ、ちょ、りあむちゃん割り込み禁止っ」

「うるせー! おにーちゃんの隣はぼくの指定席だっ。というか、この際だからあすなろ抱きを所望したりしなかったり!?」

 

 そんな風に、あきらちゃんとあかりちゃんとワチャワチャしていると、

 

「ほら早く撮るぞ。料理途中だって言ってるだろ」

「あっ、スマホ」

 

 呆れ半分の表情で、撮影モードになっているあきらちゃんのスマホを優しく奪って、

 

「りあむはココな」

「えっ、あっ、ひえっ」

 

 ぼくのここここ、腰におおお手手を回して、あろう事か開いた股の間に座らせる(!!)と

 

「はい、ちーず」

 

 ラクレットだけに。そんなお茶目なセリフと共にシャッターを押したのだった。

 はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! おにーちゃんがイケメン過ぎて辛いシンドい死ぬ死んだいや生きる生き返った。

 おにーちゃんと一緒のお墓に入るまで、死んでも死んでやらないっ!!

 

•*¨*•.¸¸☆*・゚

 

 その後、楽しくお食事しているうちに寮の門限に間に合わなくなったので、お泊まり会へ移行した(寮への連絡は二人+おにーちゃんがしてた)のだけど、寝床確保のためおにーちゃん協力の元、死ぬ気で自室を片付けようとするも、三人で寝る空間を確保出来ず、仕方なくリビングにオフトゥンを敷いた。そんな夜のこと。

 ぼくは、

 

「アハハハハッ! この集合写真、りあむすっごい蕩けた顔してる!」

「り、りあむちゃん、ささささすがにこの顔はいかんよ――ぷふぅ」

 

 撮りたてのお写真で弄りにいじられていた。

 

「この瞬間の幸福指数が天元突破したっただけなんだよう! やめろよォ!」

「おにいさんのこと、本当に大好きなんだねりあむちゃん」

「推しアイドルとおにーさんの事以外に詰まってなさそうだよね。そのピンクの頭の中」

「つ、詰まってるし。ちゃんと色々あるしぃ! 定期的にディスるのやめてよ。すっごいやむ!」

「例えば何が詰まってるの、りあむちゃん?」

「えっ。あー、うー・・・・・・?」

「はい、時間切れ」

「回答できなかったりあむちゃんの頭の中に、私たちの事も考えるスペースを作らせるんご!」

「既に出来てると思うけどね」

「えぇ・・・・・・」

 

 拝啓、お部屋に居るおにーちゃんへ。同期の弄りが容赦ないです。・・・・・・めっちゃやむ!





 輿水・エクスペンダブルズ・幸子。
 幸子ちゃんがランボー並みのサバイバル技術の持ち主だなんて正直ひきました。幸子ちゃんのファンやめてシルベスタ・ス〇ローンのファンになります。なってた。

 書いてて思ったんですけど、このプロデューサー頭おかしいんじゃないかな。
 アイドルに、それも新人にやらせる仕事じゃないよそれ。


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