『女子は全員裸エプロンで僕に傅け。あと手ぶらジーンズでジャンプの表紙を飾って』 作:ゆーみん。
第0話
僕が次に目を開けた時には、見慣れた教室の中の光景が広がっていた。最近じゃ夢の中で来ることも少なくなり、来たって誰もいないから退屈してすぐに退出していた。彼女が死んでから⋯⋯ずっとだ。
しかし、今回の夢はどうも違ったらしい。ずっと待っていた少女(笑)にそっくりな子が教卓に腰掛けていた。
「やあ、球磨川くん。突然だけど君は死んでしまいました。まあ色々と聞きたいことはあるだろうけど、とっととチートスキルを貰って異世界に転生してハーレムでも作ってきてくれよ」
『⋯⋯なんだ、やっぱり夢か』
ガバッ。
彼女の制服をやや力任せに、破けない程度の力で捲りあげた。すると露わになったのは、目で見て分かるほど柔らかみを感じる白い肌。そして、彼女の腰の細さは思わず腕を絡めたくなるほど締まっていた。
この一連の行為は普通だったら犯罪だけど、【
合法的にえっちぃ行為ができる方法がないか今度Yah○○!知恵袋で質問してみようかな。
でも、ここは僕の夢だからこんな感じで何してもいいんだけどね!
さらに制服を引っ張り上げると、標準サイズの双丘を収めているいちご柄のブラジャーとご対面。そういえば、最後に彼女の残像と会った時はスカートをめくったんだった。そういえばあの時のパンツもいちご柄だったね。
ふむ、上下セットと仮定するとポイント高いし、柄のチョイスが意外と子どもっぽいのもポイント高い。特に彼女の年齢を考慮すると、相対的にポイントが跳ね上がる。
さすが僕の夢の中だ、好みをよく分かっている。このディテールのこだわりが夢の中でしか活かされないのが悔やまれる。でもこれは明晰夢だから、僕の思い通りにできるはずだ。よし次は⋯⋯ピンクの水玉に──
「なるわけねーだろカス。子どもっぽくて悪かったな」
ゴガッ。
顎にお見舞いされた重撃が鈍い音を立てる。絶妙な角度から放たれた彼女の蹴撃は、僕にパンツさん(たぶんいちご柄)を拝ませてはくれなかった。非常に残念だ。
そして、その衝撃は痛みを脳に伝えるよりも速く僕の顎をかち上げた。そして、僕の華奢な身体では激動のエネルギーを留められず、接合部となる頸部の骨をミシミシと軋ませながら、僕の身体ごと吹っ飛ばした。
その結果、僕は頭から天井に突き刺さった。
男鹿辰巳のめり込みパンチって受けたらどんなものかと思ってたけど、なるほど頭だけ天井に突き抜けるって不思議な気分だね。それに新たな発見もあった。僕の意識下にあるこの教室には二階の部屋はなく、上は果てしなく真っ暗な世界だった。あと、夢の中なのに頭が割れるほど痛い。あ、目に血が入ってきて痛い痛い!鉄錆のしょっぱさが目に染みる!
僕の力じゃ到底脱出なんてできないから、顔見知りにそっくりな女の子に下から引っこ抜いてもらいました。
「この前は地面と熱々なチューをさせてやったのに全く懲りてねーな」
『ま、まさかホンモノの
「おいおい球磨川くんってば、たったの数ヶ月で呼び名すら忘れちまったってのかい?僕のことは親しみをこめて
どうやら3兆4021億9382万2312年と何日かを生きる人外は時間感覚が狂っているらしい。
『⋯⋯久しぶりだね安心院さん。きみにとってはほんの一瞬だっただろうけど、僕には随分と長く感じられたよ』
『それで?なんでここにきみがいるの?チートとかハーレムとか言ってたけど』
「流行りの異世界チート転生だよ。君は不慮の事故で死んだんだ。でも君は【
『⋯⋯【過負荷】のみんなを見てると僕も保険をかけて生き抜くのを止めようと思ってね』
「だからっていきなり大元の【大嘘憑き】を抜こうとするかよ。そのせいで【
そう、僕は【大嘘憑き】を手放す気でいた。キヲテラエの全国ツアー『ジャパンジャック』で、咲ちゃんに螺子の花束を贈ってから⋯⋯僕はもう螺子すら持ってない。
【過負荷】からの卒業や【普通】への努力etc.
僕も色々とやってみたいことがあったからね。全国放浪贖罪の旅もその一つだった。でも結局果たせず、代わりに生命の方が果てちゃってここに来たけど。
あ、咲ちゃんまだ螺子と学ラン持ってるかな?彼女の性格を考えると、とっくに捨ててそうだけど。女の子に花束なんてプレゼントしたの初めてだよ。
「⋯⋯」
なんか安心院さんがこっちを見てた。というか睨んでるのかなアレ。そんな目で見つめるなよ♠興奮するじゃないか⋯⋯♥
とまあ、僕の脳内ヒソカはさておき。
『どうしたの安心院さん?』
「いや別に。球磨川くんらしいというかなんというか。どうせまた一人でウジウジしてたんだろ」
安心院さんはやれやれとため息をつき、呆れた顔で僕を見つめていた。
「でも、そうやって踏ん切りがつかないままだといつまで経ってもここから出られないぜ?」
『ハァ、それも悪くはないのかもしれないなぁ⋯⋯』
「おいおい、一体どうしたってのさ?まさか大学にも落ちて就職も出来なかったからって、ここに引きこもるつもりじゃないだろうね?」
『いや、そういう訳じゃないんだけど。ちょっと、ね』
「ふーん、僕の知ってる球磨川くんは四の五の考えるよりも先に闘って負けてるやつなんだけどね。僕がいない間に何か変わったのかな?」
『あ、分かる?実は前髪を少し伸ばしてるんだよね』
「へーそーなんだーすごいねー」
『冗談だよ』
久しぶりの再会なんだから、少しくらいジョークに付き合ってくれてもいいのに。でも、安心院さんの復活は僕の予想より大分早かった。死んではいたけど完全に消えた訳じゃないだろうし、そのうちひょっこり現れるんだろうなとか思っていた。だけど、まさかまたこの教室で会えるとはね。
『あ、そうだ。ちなみに僕の死因って?』
「やっぱり気になるんだ?」
『そりゃあもちろん!はっきりとは覚えてないんだけど、きっと大いなる使命を果たす途中で地に伏したに違いないからね!』
「グッドルーザーの最終話から一週間後に空腹のあまり毒キノコ食べて死んでるね」
『⋯⋯うわあ、毎度のことながら慣れたつもりだったけど、あんな威勢のいいセリフを吐いた後じゃキツいね⋯⋯』
数秒前の僕の期待を返してくれ。
「そんな可哀想な球磨川くんの為に、こうやって僕がわざわざ出張って来てやったんだぜ?少しだけ君の頑張りを見守っていようと思った矢先にこれだよ。だからラノベの神を自称する爺さんの役を買って出たんだ」
僕はライトノベルをあまり読まないんだけど、そのテンプレだけは知ってる。神の手違いで突拍子もなく死んでチート貰った一般人が異世界に転生してハーレム作るやつ。ハーレム王を夢見る僕もいつかチャンス来ないかなーって思いを馳せた覚えがある。
『あーそういえば僕も3兆年も生きたババアにスキル【
「⋯⋯ニコニコ」
『い゙だい゙よ゙安゙心゙院゙ざん゙』
安心院さんは優しさを微塵も感じられない笑顔を僕に向け、頬の肉を引きちぎろうとしていた。それにしても、ニコニコとか言いながら笑う人なんて初めて見た。ましてや人外な訳だし、もうこの先も見ることすらないだろう。
「君の減らず口も相変わらずそうで安心したよ、
僕も安心院さんが相変わらずのようで安心したよ、
「さて、突然だけど君にはいいことを教えてあげよう」
『えーなになに?合法的にえっちぃことができる方法とか?』
「なんと、“めだかボックス”の最終回では、めだかちゃんと人吉くんが結婚します」
安心院さんは僕の質問を完全スルーし、トンデモ発言をかました。
『⋯⋯は?』
「阿久根くんと鰐塚処理の二人はもう結婚しています」
『わーわー!聞きたくない聞きたくない!やっぱりファイナルファンタジー現象が起こってるじゃないか!』
ファイナルファンタジー現象。
それは漫画の最終回とかで目撃される現象のことで、フラグの立っていたカップルから始まり、劇中では特に描写もなかった男女がちゃっかり結婚して子どもまで産まれているという怪奇現象だ。だって子どもがいれば続編もできるしね。
高貴ちゃんと鰐塚ちゃんはフラグ立ちまくってたから当然だけど、僕は結局めだかちゃんには振られたまま終わったのか⋯⋯。プロポーズすれば明日くらいには結婚してくれるでしょとか余裕こいてたせいだ。しかし、ここでもう一人の元生徒会メンバーを思い出した。
『ちょっと待った!も、もがなは⋯⋯!?』
「結婚して子どももいるよ。人吉くんに抱っこしてもらっていたから、
キターーーー!こ、この展開はまさか!?
『相手は誰!?もしかして僕とか!?』
「いや、君じゃないよ」
『あべし!!』
「彼女の旦那さんは原作未登場のようだからね、残念ながら顔までは分からないよ」
『ひでぶっ!!』
おかしいよね!?僕と彼女って結構フラグ立ってた描写あったし、ファンの中でも禊嫁候補の中じゃ最有力だったはずじゃん!僕が初めて女の子を呼び捨てにしたほど仲良かったのに⋯⋯無名の人にさえ勝てなかったのか僕は⋯⋯。
『それでそれで!?僕は!僕はどうなってるの!』
「球磨川くんは僕と同じで原作最終回には未登場だよ。当然誰とも結ばれちゃあいないし、音信不通になってるらしいぜ」
『ちぇっ、なんだいなんだい⋯⋯あれだけ活躍した僕が同窓会にも呼ばれないなんて⋯⋯ファン投票だって第1位だったのにな⋯⋯』
「おいおい、そんな可哀想な君のために僕が来てやったんだぜ?」
『どういうこと?』
「箱庭学園じゃドッタバタして闘いに明け暮れる日々だったろ?」
言われてみれば、僕は物語の途中から転校してきたけど、それから毎日闘っていたような気がする。時には生命を落とすこともあり、まさに血で血を洗う日々だったといえる。
「原作完結のご褒美として僕からセカンドライフをあげようと思うんだ。よくある学園ラブコメでも楽しんでもらおうかなってね」
ありがたい限りだよ!
正直、僕があと一年早く箱庭学園に来ていたら王道の学園ラブコメをお送りできたと思うんだ!裸エプロン同盟のみんなは僕にぞっこんだろうし、名瀬さんとも何だかんだで関係が発展しただろうし、学園の男共を排除して女の子全員に全開パーカーを強要できただろうし、手ぶらジーンズでジャンプの表紙を飾れたに違いない!
「──むしろこの話をしたら君は『学園ラブコメさせてください』とか泣きついて来る予想だったんだけどね」
なるほど、さすが安心院さんだ!この僕をよく分かってるね。そろそろ僕の涙腺ダムも崩壊しかけてたんだ。
『学゙園゙ラ゙ブ゙ゴメ゙ざぜでぐだ゙ざい゙!』
「おーよしよし。男の子なんだから泣くなよ」
『わぁぁん!みんなひどいや!同窓会くらい呼んでくれたら行くのに!そりゃあケータイ全部壊したから連絡手段ないけど、真黒ちゃんだったらどうにかなってたじゃん!いじわる!けちんぼ!シスコン!変態!シスコン!』
妹が二人いるのと大事なことなので二回言っておいた。どうせ【異常性】が集まって研究でもやってるんだろうし、総力を挙げれば僕一人くらいどうにかなったじゃんか!
「君のこと弟みたいだとは言ったけど、僕は泣き虫の弟なんていらないぜ?ほら、僕のハンカチ貸してあげるから涙拭きな」
『チーン!ヒック⋯⋯エグッ⋯⋯エグッ⋯⋯はいコレ、ありがとう』
「人から借りたハンカチでも平気で鼻かむ辺りがモテない理由だろ、汚ねーな。ちゃんと洗って返せよ。それお気に入りのヤツなんだから」
パンツにブラジャーにハンカチといい、いちご柄が好きらしい。本人が口にしないから新鮮味があるね。たぶん安心院さんはアレの読者に違いない。
「じゃあ、そろそろチートスキルあげるからぼちぼち転生してくれよ」
『うん分かった』
いや〜転生ってどんなところに生まれ落ちるのかな〜楽しみだよ!例えるなら大粒の涙でもあっという間に引っ込むくらいかな!
えっ?さっきまで泣いてただろって?
そんな訳ないじゃん。僕は中学校の卒業パーティーとかにも誘われてないんだよ?最終回に出られなかったり同窓会に誘われなかったりしたくらいじゃ泣かないよ。
それに、ちゃっかり安心院さんに抱きつけたしね。役得役得。裁判長!合法的にえっちぃ行為をする方法はありました!
「⋯⋯おっと、その前に」
なっ!?
唇にどこか懐かしい感触。
とても柔らかく包み込まれるようで、それでいてズキュウウウンと効果音が飛び出てきそうなほど衝撃のある⋯⋯安心院さんからのキスだった。
「⋯⋯球磨川くんが初めてだぜ?この僕からセカンドキスまで貰えるなんてさ♡」
安心院さんはポッと頬を赤く染めて恥じらいでいる──ようなフリをしていた。以前の僕は小っ恥ずかしくてすぐに学ランの袖で拭ったけど、今回はそれすらできなかった。あの時以上に頭が回らなくて身体がついていかなかったから。
「おっ、球磨川くんってばそんなに顔を真っ赤にしちゃって⋯⋯かわいい反応するじゃんか♡ドロ水で口を洗いはじめたらどうしようかと思ったよ」
どこのエリナ・ジョースターだよ。そもそもこの教室にドロ溜まりなんてないしね。
「それにしても小説だと括弧つけなきゃセリフが分かりづらいな。おい球磨川くん、この小説では素を見せるのはなるべく控えてくれよ」
『⋯⋯善処するよ。それより、まさか今のって』
「そう、【
ただそこにいるだけの人外──反転院さんまで関わっていたとは。さては【
しかし、ここで僕は違和感を感じた。
『ん⋯⋯?いや何かさ。スキル名といい、いつもと雰囲気が違わない?』
「そろそろ僕も方向性を変えてみようと思うんだ。これからもスキルが増えるだろうし、新たな試みをってね」
あれだけスキルもあれば名前つけるだけでも一苦労だろうね。ある一定の法則で決めてると、やっぱり語彙の方が先に尽きるだろうし、大胆なイメチェンもありだろう。
『っていうか、全部自分で名前付けてるの?スキルを数えるスキル──【
「ありがたい提案だけど、僕は名前を考えてる時間が楽しいんだよ。実際にスキルを使うよりもね」
なるほど、通りでスキルが多くなるわけだ。
『でも僕は結構好きだよ?選択肢とか謳っておきながら
「禊に褒めてもらえて嬉しいなって、なじみはなじみは屈託ない笑顔で喜んでみたり!」
ぶへらっ!?
「⋯⋯おいおい、球磨川くん。せっかくこの僕が可愛さアピールしたってのに鼻血噴き出すって表現古すぎじゃないかい?あと括弧つけろって」
あまりのあざとさが不意打ちすぎて鼻血が止まらない。ボタボタと垂れ流しになっているせいで足元には血溜まりができていた。たぶん現実世界でやられていたら、間違いなく死んでいた⋯⋯。
「まったく汚いったらありゃしねーぜ。⋯⋯さっき貸したハンカチで拭くなよ?血の染み抜きをするスキルは持ってないんだから」
安心院さんにないスキルなんてあったんだ。どれだけどうでもいいスキルであっても持ってるのに。でも、返り血を浴びることすらなさそうだし、そもそも使う機会がないんだろうね。生涯に一度の出番しかないスキルとか多そう。
「【
『ろくでもないスキルをありがとう。聞く限りだといいとこなしで【過負荷】の中でも最低だと思うよ』
「どういたしまして。でも実は新たな【過負荷】がもう1個あるんだ」
この人外はどれだけスキルを持てば気が済むんだろ。
「おかげで僕のスキルは4925兆9165億2611万0644個の【過負荷】と7932兆1354億4152万3225個の【
『人外っぷりが増しすぎてよく分からないよ。
わざわざ【指折り確認】で逐一数えるよりも2個増えたとかでいいんじゃない?』
「だってスキルの数を書くだけで20字くらい稼げるんだぜ?“めだかボックス”の二次創作小説ならみんなやってるよ」
『ふーん、そうなんだ。めんどくさいんだね小説って』
「君の括弧を使い分ける方がよっぽどめんどくさいよ」
──ここだけの話、僕の会話は『』で他のみんなは「」だよ。原作通りに再現すると『』だらけで見づらくなるから一区切りつくまでは会話はそのまんま。でも演出の都合上、『』だらけになることがあるから、先に謝っておくよ。ごめんね。あと“めだかボックス”関連のワードは【】ね。
「⋯⋯ったく、誰に説明してんだか」
閑話休題。
「──さて、早速だけど本題に入ろうか。【
《選べ》
①新たなスキルを得てラブコメ世界へ転生する
②安心院なじみと恋人になる
③黒神めだかに勝利できる
は?
ドクンと心臓が一際強く跳ねた。
僕は括弧つけることすら忘れ、素の自分を晒していた。 突如、安心院さんの声が脳内に響いたと思ったら、虚空から巨大な文字が降ってきたんだ。よく見ると脳内のメッセージと同じ内容だった。あ⋯⋯ありのまま今起こった事を話すぜ!(ry
なんだよコレ⋯⋯!
「おいおい球磨川くん、さっきも言っただろ?小説だと括弧つけなきゃ──」
そんなのはどうでもいいんだよ安心院さんっ!
⋯⋯落ち着け、球磨川禊。
これもきっと彼女なりのジョークみたいなものだろう。そうだ、チートとか転生とかは全くのデタラメで、僕にこの【絶対選択肢】を与えたかったんだ。こんな選択肢で狼狽えている僕を見て暇潰しでもしたかったんだろう。うん、きっとそうに違いない。
『⋯⋯ふ、ふふふ、冗談がキツいよ安心院さん。①と②はさておき、③は【絶対選択肢】とやらじゃ到底無理でしょ?だって──』
「めだかちゃんは主人公だから、かな?」
『!』
「それなら安心していいよ。なんせこの物語の主人公は球磨川禊だからね。宇宙の因果律すら弄ぶスキルだからめだかちゃんにも有効だよ?君が大嫌いな主人公補正みたいなのも無しになる」
善吉ちゃんの【愚行権】と似た性質らしい。しかし、この世の物理法則すらも愚弄するやり口は安心院さんらしいといえばらしい。徹底的に僕で遊ぶつもりのようだ。
「そもそも二次創作でめだかちゃんに勝つのに【絶対選択肢】なんて必要ないんだよ。柔らかい紙にめだかちゃんの似顔絵でも描いてビリビリに破けば誰だってめだかちゃんに勝てるだろ?二次創作なんてのはそれと何ら変わらないんだよ」
悲しい勝利だね。勝手に名前を使われて誰かの空想物語で勝つだけなんて。果たしてそこに何の意味があるのだろう?
「でも②が満更でもなさそうなのが僕的にはポイントが高かったり!」
とか言ってる安心院さんは全く嬉しくなさそうに喜んでいた。
『⋯⋯もう満足でしょ?この話はなかったことに「あー、そうそう言い忘れてたけど──」
教室から出ようとした僕は不可視の理不尽な暴力を受けた。脳みそが脳漿を泳ぐようにして右へ左へと暴れ回る。僕はその異物感で吐き気を催し、たまらず膝をついた。
『がっ、あぁ⋯⋯!?ぐ、うぅっ⋯⋯!』
「──ある一定の時間を越えると死んだ方がマシってくらいの頭痛がくるぜ。紙一重で死ねない程度の痛みだからね。死ねば逃げられるなんて甘い期待は捨てた方がいいぜ?まさに君にぴったりの拷問⋯⋯じゃなかったペナルティだよ」
『な⋯⋯ん⋯⋯!?』
「君にはこの後もやってもらうことがいっぱいあるからね。こんなプロローグなんかで無駄な時間をとらせたくないんだよ」
別に第−1話が完成してる訳じゃないけどね。
安心院さんはそんな軽口を言いながらげらげらと嗤っていた。
『ぐっ⋯⋯!何のつもりで、こんな、スキルを⋯⋯!!』
「さっきも言っただろ?この小説を盛り上げるためだよ。だからさ、ちゃっちゃと決めてくれよ球磨川くん。普通の小説だったらもうとっくに転生してる時間だぜ?」
世界が歪んで見える。
そりゃそうだ。頭痛が付近の器官を手当り次第に刺激し、平衡感覚を狂わせるにまで至っている。なおも勢いを増す激痛により、ついには倒れ込んでしまった。
「人生は選択肢の連続だって言うだろ?
優柔不断で取捨選択が苦手。僕はそんな君のために人生が大きく変わるほどの選択肢をたった3つに絞ってやってるんだぜ?むしろ感謝してほしいものだよ」
目を閉じても消えない文字たちが嫌でも目に付き、耳を塞いでも彼女の命令が脳裏に響く。まるで僕に余計な思考も行動もとらせまいとして。
「ほら、いっそ血迷って②を選ぶなんてどうだい?僕はほんの3兆年を生きてるけど未だに処女だぜ?泣いて喜べよ童貞くん」
スカートの裾をつまんでピラピラと煽る安心院さんの姿は艶かしく、まさにエロスの化身にほかならない。できればあと数センチだけ上にお願いします!是非とも、その黒タイツとの絶妙なバランスを⋯⋯
『⋯⋯ぐ、がっ!』
しかし、頭蓋骨の中をぐちゃみそにかき混ぜるような痛みが、僕の意識を強制的に現実へと引き寄せる。いつもならロリババア希少種とか軽口を叩くところだけど、今の僕はそんな余裕を持ち合わせてなかった。
「じゃあ③を選ぶのかな?ふふ、球磨川くんの思考を乱しているのはこれだろう?あの卒業式の日、君は初めて勝ち星を手にした。それもあのめだかちゃんからときた」
『⋯⋯見ていたんだね。あのとき、あの場所で』
あの時はみんなして「そのうちひょっこり戻ってくるだろう」とか言ってたけど、安心院さんはとっくに居たんだね。そんな僕らを視てげらげらと嗤いながら。
「そりゃ球磨川くんの人生最大の
「君は人生初の勝利をあのめだかちゃんから奪ったんだ。だからもう並の勝利じゃ君を満足させることはないんじゃないかな?君が初めて口にした勝利の美酒とやらは常人じゃ味わえない年代物。それに比べれば普通の勝利なんて両さんが量産したブレンド米の密造酒みたいなもんさ」
『い、やだ⋯⋯イヤ、だ⋯⋯!絶対に嫌だ!』
「あくまで勝利の過程にこだわる、と?
でも、もういい加減に普通の勝利ってやつを得ても読者からは許されると思うぜ?君は負けなきゃいけないキャラクターから卒業してもいいんだよ。いや、報われるべきなんだ。
だってほら、君の好きな少年ジャンプでも勝てばよかろうなのだァァァァッ!!の精神だって許されるんだから」
ましてやハーメルンなら尚更許されるだろうね、むしろもっとやれって言われるかも。と、安心院さんは何かよく分からないことを言っていた。
『⋯⋯悲しいよ安心院さん。きみなら僕のことを一番理解してくれていると思ってたんだけど』
「理解?バカなこと言うなよ。【過負荷】だろうが【異常性】や【
【
そういえば善吉ちゃんは安心院さんに借りた【
「でも、試すような真似をして悪かったね。それでこそ球磨川くんだよ。ここで③を選ぶようなら僕が直々に終わらせていたよ」
何を、とは決して言わない。
僕の存在か、はたまたこの物語そのものか。いや、僕の想像が及びもしないナニカなのだろう。
「となれば残ったのは①になるね」
彼女の言葉と時を同じくして、巨大な文字や頭痛はスッと消えていった。どうやら僕が選択を終えると、まるでなかったかのようになるみたいだ。
「やれやれ、こんな選択肢は誰がどう見ても即答だろうに。まあ、こっちは僕のド本命だったから選んでもらわなきゃ困るしね」
「③は球磨川くんの性格上、最もありえない選択肢だった。となれば①以外の選択肢は考えられない」
「第一、②の安心院なじみと球磨川君のラブコメ小説なんてどこに需要があると思ってんだ。漫画担当の暁月あきら先生のバレンタインイラストとかで十分なんだから我慢しな」
新スキルとかラブコメ世界とかよく分からないから、すぐには決められなかったんだよ。
「球磨川くんまた括弧忘れてるよ。この小説って基本は君の一人称視点だから、括弧がないと心中のセリフなのか区別しづらいんだぜ?」
『悪かったよ。⋯⋯それで?新たなスキルってこの絶対選択肢のことじゃないよね?チートどころか良いとこ無しの【過負荷】だったし』
僕は箱庭学園で使い方次第じゃ【過負荷】だって何かの役に立つと学んだ。しかし、こればっかりはどうしようもない。せいぜい安心院さんを楽しませることくらいしかできないじゃんか。
「違うよ、さっき言ったもう1個の【過負荷】さ。端的に言うとラブコメ主人公になれるスキルかな。名前は⋯⋯そうだね【
『へー何か凄そうだね。でも何で【過負荷】なの?』
「ラブコメ主人公はみんながみんな幸せになれる訳じゃないからね。僕自身もスキルのデメリットは知らないようにしてるんだ。それに君じゃ【異常性】のスキルは持てないし」
なるほど。たぶん僕が【異常性】だったら別のスキルで何のデメリットもなくラブコメできたんだろう。非常に残念だ。
『ある意味チートスキルなんだろうけど、普通こういう時って無双系のスキルを貰うんじゃないの?』
「異世界っていってもバトル系じゃないんだぜ?基本は【
『うーん、そういうややこしいのは本編で十分やったしなー。今は美少女たちとキャッキャウフフしたいからまた今度で』
キリッとした顔で言ってやった。
「すました顔で不純な動機を述べられるのは君だけだぜ」
安心院さんに褒められた。嬉しい。
『それで?その主人公スキルってどんな効力があるの?』
「そうだね、たとえばラッキースケベを乱発させたり」
え、ToL○VEるじゃん。
「あとは⋯⋯料理とか家事全般得意になったり」
どこのニセ○イかな?
「あ、映画製作の才能が目覚めたりするかもね」
いちご1○○%じゃん!
やっぱり安心院さんも読者だったんだ!
嬉しいなぁ、生前は漫画トーーク(ジャンプ縛り)ができる人が少なかったんだよ。善吉ちゃんはスポ根が好きだから盛り上がるんだけどラブコメは恥ずかしいから読めないとか言うし。
もがなちゃんはお金を使いたがらないからジャンプ買わないし、貸そうとしても「レンタル料が⋯⋯」って言って受け取らない。さすがの僕も友だちからお金とったりしないよ。
⋯⋯あれ?もしかして、もがなちゃんって僕のこと嫌いだったのかな?
い、いやいや。僕のこと「禊ちゃん」って呼んでたし、ちゃん付けするのって僕のこと好きだったからじゃないの?だってもがなちゃん言ってたじゃん「そういうこと言われると女の子は恋に落ちちゃうんだからね」ってさ。
⋯⋯でもちょっと待てよ。あれってもしかして「恋に落ちちゃうんだからね(別に恋に落ちるとは言ってない)」ってこと?
『たわば!!』
北斗神拳トドメの一撃を受けてしまった。
僕はもう死んでる⋯⋯。いや、すでに毒キノコ食べて死んでいるんだった。
⋯⋯グスッ、めだかちゃんなんて「いやこの展開はおかしい!私だったらこう描く!」とか言いだすし⋯⋯。長編なら多少の粗は仕方のないことだし、生じた矛盾も上手いこと無くそうと努力しているんだから。
終いには「球磨川よ私に貴様の人生の30分を寄越せ!」とか言ってベレー帽被って漫画を描き始める始末。きみがやったら日刊連載も可能になっちゃうから止めて。いきなりジャンプの看板に名を連ねることになるよ。
というか、漫画家のイメージは未だにそこなんだね。
⋯⋯え?【
だから僕はもっぱら人吉先生と漫画トーークしてたんだ。ちょくちょく生徒会の仕事をサボっては会いに行ってた。先生は僕にとってジャンプ愛読者の先輩みたいなもので、スポ根やラブコメはもちろん全てのジャンルをおさえている。あと硬派好きなのが意外だった。
こうして学園生活を思い返すと、やっぱり僕って人吉先生が大好きだったんだなーって思うよ。だって人吉先生は僕の初恋の人だもん。
弱冠4歳にしてはマセガキだって?僕はいわゆるシティボーイだからね。どっかの3兆年でようやくファーストキスをするような【悪平等】の人外とは違うんだよ。
「⋯⋯ニコニコ」
まただ。安心院さんはニコニコと発しながら笑顔で僕を見ていた。もうこの先も見ることすらないだろうと言ったよね?あれは嘘だよ。
『あ、そうだ。ねえ安心院さん、一つ聞いていいかな?』
「僕のスリーサイズ以外ならなんでも教えてやるぜ?波乱万丈ハチャメチャ学園ラブコメを迎える君への手向けだからね、僕からの出血大サービスだよ」
『なんでも⋯⋯出血⋯⋯大サービス⋯⋯ゴクリンコ⋯⋯』
「おい球磨川くん。分かってるとは思うけど、この小説はR-15にも指定してないんだからな?ハーメルンの利用規約に違反しない程度で頼むよ?」
『⋯⋯あはは、やだな安心院さんってば怖い顔しちゃって』
「ったく、もうあんまり時間がないんだからくだらねー質問ならまた今度に──」
『ところでさ、
空気が凍りついた。ような気がした、少なくとも僕にはね。もしかして流れ変わったかな?
「⋯⋯質問の意味がわからないな球磨川くん」
『あれー?耳年増になるほど老朽化しちゃってるの?それなら仕方ないなー。もう一度聞いてみようかな。きみってさ、
「そうだよ?
⋯⋯どうだい?僕は君のよく知る安心院なじみそのものだと思うんだけど?これでもまだ思い出せないなら骨の髄まで【
『あーそうだったね、ごめんごめん。たぶん毒キノコの影響で突発性の記憶障害が起こっちゃったー』
「まあ分かってくれたならいいよ。でも僕からも一つ忠告しておきたいことがあるんだ」
『なに?』
「この小説ではあんまり僕の歳のことイジるのやめてほしいんだよ。いくら僕が永遠のJKだとしてもあんまり──」
⋯⋯あれ?もしかしなくても安心院さん怒ってる?
「あんまり歳のことイジられると⋯⋯」
ゴゴゴゴゴゴッ。
僕の意識下でのみ存在する教室なのに、まるで地震が起こったかのように激しく揺れる。学生時代に唯一得意だった避難訓練の教えは実践では上手く活かせず、足を取られてしまい立っていられなかった。
「イジられると、ね⋯⋯」
それに、今の彼女へ背を向けるのはまずい!
たぶん机の下に潜り込もうとした隙にザックリ殺られ──
「泣いちゃうぞ」
⋯⋯え゙?
安心院さんはうっすら涙目になりながら、ほんのりと赤らめた頬を少しだけ膨らませて甘えていた。なんだこれ誰だこれ。
「めだかちゃんにチクっちゃうぞ」
い、いやいや⋯⋯
とても括弧なんて付けていられる状況じゃなかった。もう一度言わせて。なんだこれ誰だこれ。
「球磨川くんが僕をBBA扱いするってめだかちゃんに──」
ごめん!僕が悪い!君は悪くない!だからそれだけはやめて許して助けてごめんなさい!
「うん、括弧つけるのを忘れるほど狼狽える君に免じてやめてあげよう許してあげよう助けてあげよう。それにしても凄まじいな。この怯えよう⋯⋯めだかちゃんは球磨川くんにどんな躾をしていたんだろう?」
安心院さんはドン引きしていた。
それもそのはず、僕も思い出したくもないめだかちゃんの愛に溢れすぎた拷問⋯⋯じゃなくてお仕置き。そりゃ僕がもがなちゃんや善吉ちゃん達をからかったのが悪いよ?でも、あのお仕置きのあんなことやこんなことは割に合ってな⋯⋯うぅっ、思い出すだけで震えが⋯⋯。
「さて、そろそろ【
僕は突然安心院さんに胸ぐらを掴まれると、ぐっと力任せに引き寄せられた。そして彼女の顔が、唇がゆっくりと近づいてくる。
『わわっ、ちょ──』
はい、本日二度目のズキュウウウンいただきました。ここまでくるとキスの
そりゃ僕だってどうせするなら好きな、人⋯⋯と⋯⋯。
⋯⋯まあ、こんなんじゃきっとベジータも嘆くだろうね!特に
「──ほらほら、いつまで長居してるつもりだよ。あんまりプロローグが長いと話が始まらないって怒られるんだから。さあ出てった出てった」
『⋯⋯え?いや、だってこの場所は僕の──』
こんな雑な感じで教室から異世界へと放り出される僕であった。こんな締まらない始まり方でいいのかな?
○●○●○
球磨川禊を追い出し、教室に一人ぼっちになった安心院なじみ。これから彼女は球磨川を襲う波乱万丈ハチャメチャ学園ラブコメを見届けなければならない。
「やれやれ、これからもっと忙しくなるぜ」
そうボヤく彼女の声から嘆きなどは一切感じられず、その一言一言からは余裕と期待が満ち溢れていた。これから彼女自身が【
「嫌われ者でも憎まれっ子でもやられ役でも⋯⋯【
なじみは言いかけてそこでやめた。
彼女曰く「いずれ分かることだしわざわざ謎めいたセリフを残す必要もない」とのことらしい。
だからわざわざ「期待はずれだったけど成長した球磨川くんがフラスコ計画の延長線を見せてくれ」などとは言わない。
ましてや「あれから物語が進まないのは自分の世界が“めだかボックス”という漫画の世界でとっくに完結したから」と再び疑い始めているといったこの小説の核心にも触れる訳がないのだ。
「さて、
“めだ箱”と“のうコメ”が交差するとき物語は始まるってね。
○●○●○
4月中旬のころ。
新入生が入学し、新たな学園生活への緊張感をまだ失ってはいない時期のことである。
ここ
1年2組の朝HRの時間に、少年は担任の女教師に連れられて現れた。見た目が小学⋯⋯ゲフンゲフン、大変若く見える教師──
そして、黒板に書かれたのは球磨川禊の4文字。
「あー静かに静かに。本来ならお前らと同じタイミングで入学する予定だったんだが、何か色々と問題があったらしくて遅れちまったらしい」
宴はさらっと問題児扱いしつつも、学ランを着用した謎の少年──球磨川禊の事情を説明する。
──晴光学園には服装や頭髪のルールはないため、やれ白髪だの赤髪だのと、まるで漫画の世界のように色とりどりである。しかし、着崩しこそすれど学園のブレザーを着用する生徒がほとんどなのだが、この転校生は黒髪で他校の学ランを身にしているのだ。
個性が飛び交うこの場では、そういった普通すぎる没個性が逆に浮いているように見えてしまう。もっとも、彼にそんなことを言えば『僕が【
つい最近入学したばかりの彼らであるが、さすがにこの出来事を不思議に思ったのか首を傾げていた。そして、女子生徒から質問が上がる。
「え、宴ちゃ⋯⋯道楽先生それなら転校生じゃなくて私たちと同じ新入生じゃないんですか?」
「その通りなんだが、本人たっての希望でどうしても転校生って扱いにしてほしいんだと。あとお前HR終わったら職員室に来い。宴ちゃんって言おうとしたろ?原稿用紙3枚分の反省文で許してやる。
⋯⋯そんじゃ自称転校生、自己紹介してくれ」
宴に指示され、学ランの少年は一歩前に出た。そして──
『週刊少年ジャンプから転校して来ました球磨川禊です。スニーカー文庫のみなさん、よろしく仲良くしてくださいっ!』
──球磨川節が炸裂した。
そして訪れる当然の静寂。しかし、生徒らは球磨川の個性的な自己紹介を脳内で処理し終えると、そのおかしさから次々に笑いへと変換していった。
「あはははは何それ!うっける〜っ!ジャンプから転校って!」
「おーい、ここスニーカー文庫じゃなくて1-2だぞー?クラス間違ってんじゃないのかー?」
「オレ高校入ってからジャンプ読むのやめたわー。さすがにもう少年って歳じゃないし、青年誌派かなー」
「ごっめーん!俺チャンピオン派なんだ!よかったら球磨川くんも自転車部入らない?弱○ペダル面白いよ!」
《選べ 》
①この小説書いてるやつに物語を考えるセンスがないのが悪い。だから僕は悪くない。
②高校生なんてまだまだ少年だよ。青年誌って名乗っていいのはエロ本だけだから!
③笑うな。人の冗談を笑うなんて人として最低だぞお前達!
突如、球磨川の脳内に水樹奈○そっくりな女性の声が響き、彼にのみ視覚できる無数の文字たちが天から降ってきた。
この不可思議な現象は彼が【
『⋯⋯あはははー』
即断即決。
球磨川は少しの躊躇いもなく選んだ。そして、彼らの笑いにつられるようにして乾いた笑みをこぼしたのだった。
その刹那──
「「「「⋯⋯え?」」」」
次のシーンでは、彼は何かを投擲したポーズを見せていた。そして、幾秒か反応が遅れてクラス中から悲鳴が上がった。彼ら彼女らが指差すのは球磨川へと声をかけていた内の3人の胸元──それぞれを貫いている巨大な螺子である。
それらのサイズは然ることながら、通常のモノより先端が異様に尖っており、刺されでもしたらケガだけでは済まされないのは見て分かる。そして、そんな螺子がまさに今目の前で3人の心臓部を一刺しで──。
一連の目撃者としての生徒らの反応はそれぞれ異なっていたが、ただ一つだけ、その流れには共通の意識があった。それは元凶と思われる球磨川から距離を置くということである。
そして、当の球磨川は彼らの叫喚なんてものともせず、勢いよく口を開いた。
『笑うな。人の冗談を笑うなんて人として最低だぞお前達!』
こうして球磨川禊の波乱万丈ハチャメチャ学園ラブコメは最低最悪の印象から始まるのであった。
二人の会話を止められず区切るタイミングを逃しました。本当に混ぜるな危険状態です。
あと【絶対選択肢】のスキル名には悩みましたがそれっぽい理由をつけて誤魔化しました。ごめんよ
予定では球磨川さんにヒロインを手当り次第落としてもらいます。ちなみに番外編はくじらちゃんメインです。
〜本作のオリジナルスキル〜
①【
②【
③【