ミミズと竜   作:321

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もし生徒会に入ったら

 私立周知院学園は名門校である。偏差値は75を超えのその記録は全国トップ。この学園で教わる勉学、社交性等の教育については文句のつけようのない程のものであり校舎などは少し古いがそれは清く大事な名残でありその歴史は戦時中まで遡るほどである。この学校については理解出来ただろう。

 

 なら生徒はどうだ。となるのは当然。周知院学園にも数多くの生徒がいる。そのほとんどが資産家の息子、プロスポーツ選手の息子、はたまた政治家の息子などのエリートが在籍している。

 エスカレーター式の周知院は初等部からなり彼らのほとんどがそこからいる古参者が大半。あとは途中入学、編入してくる外部者も数少なく存在する。種からいる生徒を【純院】。余所者を【混院】と呼び、スクールカーストも存在している。

 

 ──────これはそんな天才、秀才達が集う周知院学園に在籍している一生徒の小さな話である。

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「地図研究会の部費が足りないと苦情が来ています。他の部活からの部費を回しましょうか」

「わかった。石上会計。その線で進めよう。サッカー部の部費から支出しよう」

 俺が今ここにいる部屋、生徒会室には自身含め六人がいる。男、三人に女、三人。先程から繰り広げられている石上優会計と白銀御幸会長の話でなんとなく察しはつくだろう。生徒会室に存在する6名の人間、そうそれすなわち俺らは生徒会役員なのだ。生徒会の仕事は多岐に存在し生徒のお悩み相談から各部活動の部費の調整管理等、教員、生徒の要望、苦情も受け付けている。

「藤原書記、書類の提出は捗っているか?」

「ばっちぐーです。けど先の行事の事とかははわかりませんねー」

 間延びした敬語が空間にこだまする。今の発言は藤原千花。生徒会書記担当の発言。2人の話を聞く限り業務になんの支障もないらしい。白銀会長がそれを聞き仕事を進めて行く。

「伊井野監査は石上会計のサポート、2人で話を進めて欲しい。藤原書記もそのまま続けてくれ。……四宮副会長。悪いが俺の仕事を手伝って欲しい」

「はい、会長。そのことですがここの書類に不備がありました」

 各々、動いているようだ。必要最低限の言葉で己の仕事をしている。この風景を見ると心から尊敬出来る。自分も頑張らなくては。

「白銀会長。自分は各部活動の挨拶、委員会の方に行ってきます」

「わかった。川田広報はサッカー部の部費について頼む」

「わかりました。行ってきます」

 肩に勲章を付け生徒会の扉を開く。俺は肩に付けたそれを見て嬉しくなる。自分が生徒会の一員であることその誇りを目で見て確かめられるからだ。

「川田君! 帰りにタピオカミルクティーお願いします!」

「うわー、仕事に行く川田先輩をパシるとか藤原先輩鬼すっね」

「そうだぞ。藤原書記」

 藤原書記の可愛い注文と石上会計と白銀会長の気遣い胸に沁みます。藤原、後で一緒に買いに行こ。

「別にいいぞ。間違って暑いコンポタ買うかもだけど」

「あっ、それ冬に飲みたくなるやつ。先輩じゃ藤原先輩には暑いお汁粉頼みます」

「川田先輩。石上にそれ買ってきてあげて下さい。飲みたそうなので」

 相変わらず伊井野監査は石上会計に厳しい。とう言うかお互いがちょっかいかけてる気がする。同じ一年同士だし生徒会にも属してるから仲良くやって欲しいけど。それは本人達の問題か。

「君達、作業に集中してくれ。それに川田広報は仕事に行くんだぞ」

「大丈夫ですよ。皆んなは何飲みたい?」

 それでは元気に行ってきます。ついでにパシリと。藤原め許さん。可愛いから許すけど。

「……四宮さんは何か要りますか?」

「いえ、お気遣いなさらず。川田君が帰ってきたらコーヒーでも淹れますね」

「ありがとうございます」

 扉を閉め切る寸前こちら見る皆んなが見えた。

「お土産期待してますね川田君」

「帰り荷物とか重いんで手伝います」

「気を付けて行ってきて下さい」

「笑いが頼む川田広報」

「行ってらっしゃい川田君」

 大切な人達で大事な場所に少しの間別れを告げた。

「行ってきます」

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 環境が変われば人の生活は変わりそれは性格まで影響する。例としてこの男をあげよう。男の名前は川田優斗。【黒暗】と書いてブラックアウトと読むとかそんなパンチが効いた名前じゃないし名前からわかるように彼はごくごく普通の高校生だ。そんな彼の日常が変わったのはつい最近のこと。彼の高校生生活は細かなところを除けば学校への往復と部活動に勤しむ程度だった。そこに生徒会と言う項目が一つ増えた。生徒会役員と言う名簿、立場上から彼の環境はその一つで大きく変わった。影の無い一般生徒から彼はこの周知院学園生徒会役員と言った名誉と高いヒエラルキーを獲得したのだ。

 

 【環境が人を変える】と言っただろう。ここは一つ変化した男の日常を見てみよう。────────────────────────────────────

「報告は以上です。何か生徒会への要望はありますか」

「……いやない」

 俺は自分の仕事をまっとうする。の精神よろしく社畜の構えを持った俺は強いのだった。……ブラック企業で勤める会社員ってこんな感じなのかな。と考える。仕事で来た俺を迎えるのはサッカー部、顧問と部員達だった。そんな彼らから向けられる視線はお世辞を付けても良いとは言えないものだった。嫉妬、疑心、怪異、例えるならその類だろう。一言で言えば居心地が悪い。早く帰りたい。

「その、なんだ、お前変わったよな」

 うわずった男の野太い声。出来れば耳心地が良い女の子の声だったらどれだけ嬉しかっただろう。でもここは現実で目の前には食パンを食べた女の子も空から降ってくる子もいなかった。いるのは男男男。ここはそんなむさ苦しいサッカー部部室。おいそこ辞めろお前のパンツなんて見たくない。部室だから仕方ないか。と思考を止め踵を返した。

「あー、そうですかね。毎日忙しくて考えてもいなかったです」

 顧問からの問いっぽい言葉に返しこう付け加えるのだった。

「もし俺が変わったなら貴方達のおかげですよ」

「そう、か」

 腐っても高校生。ここでやじをあげたり努声をあげる者はいなかった。でも視線の圧は上がった。言ってしまった言葉はなくならない。なら後悔するより笑った方が良いだろう。

「ではこれで。今後とも生徒会をよろしくお願いします」

 心で思う。ざまあみろ。──────────────────────────────

「サッカー部ってなんでリア充多いですかね」

「あーなんでだろうな。世界で人気だから……とか?」

「川田先輩、そうかもです。日本だけでも競技人口400万人越え、世界では二番目に人がやってるスポーツですからね」

「なるほど。ありがとう優。詳しいな」

「いえいえ、ググっただけです。で話を戻すと、何故サッカー部は彼女持ちが多いんでしょうか。やっぱりあの身体ですか。引き締まった下半身と持久力があるからってこれだから女性は。僕はね別にサッカー部に彼女持ちが多いことに何も思いません。でもそれなら他の部活、生徒会とかの委員はどうなんですかね!? コンピュータ部だってタイピング力が鍛えられますし卓球だって筋肉は付きます。会計だって計算できますよ! あー…………彼女欲しい」

「結局、石上君は本音を言うための建前が欲しかっただけですね」

 廊下は歩くは俺、優、藤原の三人。手に持つのはペットボトルとか缶のジュースと飲料水。生徒会全員分と考えると相当な量だしそれなりの値段になった。そんな大層な物を俺一人で抱えて来れるはずもなくヘルプに二人が来てくれたのだった。

「コーラにタピオカ。熱、藤原先輩これほんとに飲むんですか」

「乙女に二言はありません。私はそこらにいるインスタ女子と違って出された食料は死ぬ気で食べます」

「……でもコンポタって季節感バグりますね」

「だな」

 優がそう言うから手から汗が出てきた。コンポタは寒い日に限る。パッケージを見て最近飲んでいないなとか思ったのは他所に俺の勝利品はスポドリ。

「で、ぶっちゃけどうですか先輩。サッカー部ってモテますか」

 隣に並ぶ可愛い後輩が膝でつついてくる。軽いノリで答えて良いかわからない質問に少し悩む。

「ぶっちゃけるとモテる……かも? そうゆう話を聞くし彼女さんがいる人も相対的に多いじゃないか」

「あーそうですか。わかりました。これからは彼女税を取りましょう。子供が産まれたら何かとお金がいりますしその練習です」

「流石会計。お金にがめつい。それにその理屈は正当じゃない気がする」

「正当? 何を言ってるんですか川田先輩。持つべく人は持たない人へ。強者が弱者を支えるのは優しさです。だからですね───」

 優が早口で捲し立てる。彼のその情熱と性格で彼女がいないのは不思議だ。もったいない良い男なのに。あっ男の俺にそんな評価されても優は不満か。廊下に三人。横に女子一人。彼女はこの話にどう思っているんだろう。

「優、藤原はどう? 一応女子だし俺よりは力になれそうな気がする」

「そうですね〜。石上君がモテないのはその早口とうざったい前髪もあるかもしれませんね。それから言葉だけで行動に移せていない石上君は口だけ人──────」

「ありがとう藤原。石上が泣いてる」

 あーめん優。撃墜石上号。女子からの評価がキツすぎる。こんなん俺でも泣くわ。何故だ優は……辞めよう今言えば優への慰めみたいになってしまう。そこで気になる事が出来た藤原は可愛いしモテる。彼女の恋愛事情や体験談を気になるのは自然だろう。それに藤原は腐っても女の子だ優の力になるかもしれない。

「藤原はどう? モテるし可愛い。俺よりそうゆう話好きだろ」

「石上君。こうゆうところですよ。相手を指名し褒める。それに最後に好きと言う単語も付け加えるのがポイントです」

「そうですね。無自覚系って現実にもいるんですね。天然とも言える。でもこれって相手にも一定の好意を持ってないと出来ない芸当ですよ」

「石上君、お汁粉あげますね」

 こらこら、藤原が悪ふざしてる。優も「熱っつ!」と見事なリアクション。でもさっき言ったことは本当なんだけどな。藤原は可愛いし優しいまるでマ──────「熱い!?」

「えへへ、隙あり」

 前言撤回。やはり藤原千花は藤原なのである。さっきまでの男心返して。首元に熱々ココアはもはやいじめだ。なんだこのホットのバリエーションは。なんだか

「さっきから熱い! 暑すぎる!」

「……同感」

「石上君、コンポタとお汁粉とココアあげますねー」

 藤原が豊富な飲料を手渡して行く。それを優が優しく……受け取る訳がなくもう押し付け合いが始まっていた。自分で買っただろう。悪ふざけも程々にとここで学んだ。二人が爆弾を押し付け合っている今がチャンス。

「早い者が勝ちってことで! 生徒会室まで先に着いたほうが勝ちで!」

「卑怯者! ……もう走ってますね。川田君急いで後を追いましょう!」

「わかった。藤原、三つとも頂戴。持つよ。まあ負けないけど」

「……そうゆうところですよ。でもそれとこれとは勝負は別。べべは一気飲みで確定です」

 装備に冬の三大神器が揃い俺達は血で血を争う戦争(ホットの押し付け合い)が今、──────幕を開けた!

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「あれだけ廊下を走るなと言ったのになんで守れないですか!」

「まったく、川田の手伝いに頼んだのに二人が疲れてどうする」

 三人で激しい運動をして汗を纏った俺達は生徒会室でミコと白銀会長に仲良く怒られた。廊下は歩く物だと胸に刻んでおこうと思う。

「川田君。コーヒー淹れましたよ」

 にっこり笑う四宮さん。その笑顔は魅力的で怖かった。

「この季節にホットはなしで」

 

 


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