ミミズと竜   作:321

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8話

 恋。

 

 

 それはある特定の人物に強く惹かれ相手の事を強く思い心が苦しくなる物だと思う。

 恋なんて俺はするはずが無いと思っていた。

 フィクションとか創作物のおとぎ話だと思い、今までそう生きてきた。

 

 

 

 

 そんな俺はあの人に恋をした。

 一目惚れとかドラマかよと、今でも馬鹿馬鹿しく思う。

 それでも俺はあの気高く強い竜に恋をした。

 いつか届きたいと思うが俺と四宮さんでは、天と地ほどの差だろう。

 

 

 

 

 

 

 それでも届かない俺は貴方に恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 

 俺はいつも通りの場所で藤原と飯を食い、駄弁っていた。

 

 春の日差しが気持ちいい。

 バイト明けの体に染みる。

 それに腹が満ちて、眠気が襲ってくる。

 もう、ニートになりたい。

 

 

 

 もうこのまま寝てしまおう。

 俺は目を閉じた。駄目だもう数秒で睡魔に殺されるだろう。

 そんな俺を隣のピンク髪は許さなかった。

 そして耳元でこう言ってきた。

 

 

 

「午後からの、授業があるので寝たら駄目ですよ」

 

 

「藤原、今の俺はもう止められないぞ。もう寝る」

 

 

 それこそ、隕石でも降ってこない限り俺は起きないだろう。

 

 

 

 

「ペス、もう俺は疲れたよ」

 

 

 今の俺はあの有名アニメの最終回のようだった。

 藤原の家で飼っている、可愛いペスの横で昇天したい。

 

 

 

 もう駄目だ、アーメン。

 

 

 

 

「まだ、逝くのは早いですよー」

 

 

 と、藤原が俺の肩を揺らしてくる。

 普段は天使の藤原が悪魔に見える。

 

 

 

「今度、うまい棒上げるから寝かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 藤原は、安っ!と愚痴を言う。

 馬鹿野郎。うまい棒美味いだろう。

 最近は俺のご飯のお供だぞ。

 

 

 

 余談だが、俺はたこ焼き味が一番好きだ。

 

 

 

 

 

 すると藤原は急に大人しくなった。

 やはりうまい棒の魅力に負けたのだろう。

 これで気持ちよく、安眠出来る。

 俺は安心し再び目を閉じた。

 

 

 駄目だ、もう落ちる。俺は数秒で睡魔に負けた所で右耳から生暖かい風がやって来た。

 俺はその風に驚いた。

 

 

 

 

「お前、何してるんだよ!」

 

 

 

 藤原は自分の息を俺の耳にかけて来たのだ。

 

 

 マジで、焦った。

 俺はあの感覚にぞわぞわしつつ藤原の顔を見た。

 

 

 その顔は、満面の笑みだった。

 

 

 

 

 コイツ、マジで頭大丈夫か?

 

 

 

 

 

 

「でも、目が覚めたでしょう?」

 

 

「おかげさまでな」

 

 

 

 俺は鬱憤ばらしに自販機で買った缶コーヒーを飲み込んだ。

 

 

 駄目だ、クソ不味い。

 だがこれが一番目が覚める。

 舌には、まだ化学兵器みたいな苦味が残っている。

 

 

 

 俺がその苦味に顔を歪めていると、藤原はまた笑い始めた。

 

 

 

 クソ、誰のおかげでこうなったんだか。

 

 

 

 ある程度してから、藤原はまた違う顔をしてきた。

 眉間に皺を寄せて俺の顔をじーっと見てくる。

 そして、何か解ったのか顔をアッ! とした。

 

 

 

 

「前から、誰かに似てると思ってましたけど川田君、会長に似てますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤原は今、何と言った?

 会長と似ている。

 会長と言うのはあの白銀会長の事だろうか。

 もしそうだとしたら、何処が似ているのだろう。

 

 

 

 

 

「何処がだよ」

 

 

 

「目元もそっくりなんですけど。何と言うか、雰囲気も似てるんです」

 

 

 

 

 

 藤原が「目元のクマとかそっくりです!」とか、言っていた。

 何故かそんな言葉に俺は腹が立った。

 

 

 

「俺と白銀会長じゃあ、比べ物にならないだろう」

 

 

「そうですか?川田君は会長が持ってない、良い所がありますよ」

 

 

 

 藤原がそう言ってくる。

 俺の良い所?

 そんなの、白銀会長に比べたらクソみたいなもんだ。

 それに俺は頭も良くない。家柄も悪い、そして混院だ。

 何処が似ているのだろう。

 

 

 

 

 俺は考えるのがめんどくなって藤原より先に校舎に戻ろうとした。

 

 

 

 

「何で怒ってるんですか?」

 

 

 

 と、藤原が当然の反応をしてくる。

 何故、俺は苛ついているのだろう。

 理由がわからない。

 

 

 

「怒ってねぇよ」

 

 

 俺は優しい藤原に強く当たった。

 

 

 

「何か気に触る事をしたなら謝ります。ごめんなさい。」

 

 

 

 藤原の優しさが痛い。

 だがこの苛立ちは治らなかった。

 

 

 

 

「悪い。先に戻るわ」

 

 

 

 

 

 

 俺は藤原の呼び止めを無視して校舎に入った。

 

 

 

 

 此処からでは見えなかったが藤原が哀しそうにしてるのが痛い程分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎に戻り、俺は廊下を歩いていた。

 

 

「似てるんです」

 

 

 藤原の言葉が脳に焼き付く。

 

 

 消えろ。消えろ。消えろ。

 

 

 だがその言葉が忘れられない。

 そしてその言葉に無性に腹が立つ。

 

 

 

 

 俺と白銀会長が似てる?

 馬鹿馬鹿しい。

 俺とあの人では天と地程の差がある。

 似てる訳が無い。

 其れこそ、俺は四宮さんと同じくらい会長と差があるだろう。

 

 

 その事実にまた苛立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は奥から歩いてくる生徒2人にやっと気づいた。

 よく見ると、近くの生徒達がヒソヒソ話していた。

 当然、歩いてくる2人を俺も確認出来る。

 その2人の人物を知らない生徒はこの学園には居ないだろう。

 

 

 

 

 

 白銀御行と四宮かぐや。

 

 

 

 

 この学園の生徒会長と副会長。

 圧倒的な空気がこの場を支配する。

 

 

 

 お似合いだとか、

 神々しいとか、

 2人は付き合ってる、とかの言葉が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして2人は歩いて行った。

 何処が、俺と似ているのだろう。

 白銀会長と四宮さんはお似合いだ。

 四宮さんの横に立つのはやはり白銀会長だろう。

 そんな事実を思い知らせれてもこんな感情が湧き上がったてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 辞めろ。

 この感情は俺みたいな奴が抱いたら駄目だ。

 

 

 

 収まれ。

 消えろ。

 こんな感情、消えてしまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下にはさっきの騒がしさが嘘みたいに静まり返っていた。

 廊下には1人の俺がいる。

 この世界で俺以外いないようだった。

 

 

 

「絶対、届かない」ボソッと呟く。

 

 

 

 頼むから……消えてくれ。

 それでも黒い感情は消えない。

 

 

 

 

 

 そして俺はさっきの藤原の事を思い出した。

 

 

 

 

 

「ごめんなぁ、藤原」

 

 

 

 

 

 外はさっきの天気が嘘みたいに雨が降っていた。

 俺の心象のようだった。

 いや、この雨は今の藤原の心だろう。

 

 

 

 

 俺は奥歯を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 口の中はまだ苦い味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室。

 

 

 そこでは2人の天才達が会話をしていた。

 

 

 

 

「何やら、私達噂されてるみたいですね。私達が交際してるとか」

 

 

 

「そう言う年頃なのだろう。聞き流せばいい」

 

 

 

「ふふ、そういう物ですか」

 

 

「それと、四宮さっき廊下で知り合いでもいたか?目線が動いていたぞ」

 

 

「ええ、知り合いがいた気がしたんですけど」

 

 

「その知り合いは見つかったのか?」

 

 

「いえ、見つけたら声でも掛けようと思っていたのですが、見つからなかったです。」

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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