とある魔術の虚構切断 作: rose
今回は佐天さん回です。アニメ版1話にあたり部分ですが、休日で私服だったり佐天さんの考え方が少し違ったりと若干設定が改変されてるのでご注意くださいませ。
佐天さんの私服の描写はまたの機会で!汗
「あっぢー……」
アイスを左手に持ちながら、士道は右手でパーカーの首元をバサバサ揺らして服の中に空気を送り込んだ。学園都市は高層建造物が多いことも相まって、夏はとても暑い。
(ゲーセンでも行きますかね)
士道は割と友達が少ない方なので、ゲーセンには結構な頻度で行っていた。お金こそかかるものの、涼しいし一人で遊べるし楽しいしで、士道にとってのお気に入りのスポットになっているのだ。
家への帰路を外れてゲーセンへの進路を取った矢先、視界を見知った顔がよぎった。
「あ、士道さんじゃないですか、こんにちは」
「ああ、佐天さんか」
佐天涙子。柵川中学に通う中学一年生で、士道の数少ない友人の一人である。そして士道の知り合いの中でブッチ切りで一番女子力が高い人間でもある。
(出会い頭に電撃ぶつけてくるどっかのバカと違ってな!)
前に美琴と士道がファミレスで話をしてから既に二週間近くが経っていた。この間、士道は美琴と何度か街中で遭遇しているのだが、その度に出会い頭の電撃ブッパ→迎撃→怒ってさらにビリビリ→追いかけっこ開始、ということを毎回繰り返していた。もはやテンプレートになってきている。二日前に会った時など、美琴の電撃によって警備ロボがバグり、追い回された挙句警備員が来るというちょっとした事件があったのだ。その時ばかりは普段流してる士道も美琴にブチ切れた。
(どうにかならないもんかな、ほんと)
士道が最近の悩みに頭を抱えていると、それが顔に出ていたのか、佐天が下から顔を覗き込んできた。
「どうかしました?随分と苦い顔してますけど」
「あーうん、大丈夫。ツンデレ幼なじみの過剰なかまってちゃんアピール(物理)を受けてる男の気持ちを味わってただけだから」
「え、なんですかそれ……」
オーバーに引いたリアクションを取る佐天。士道は彼女のこういう感情豊かで面白いところが好きだった。
「士道さんはこれからどこかへ行くんですか?」
「ちょっとゲーセンにな。今日あちーから避暑地代わりに」
「あそこ冷房効いてて涼しいですもんねぇ」
佐天もまたゲーセンの常連であり、士道もちょくちょく一緒に遊んでいた。というか出会いがゲーセンだった。
二ヶ月くらい前の放課後のことである。友人たちと一緒に帰っていた士道は、彼らと別れた後、ふらふら~っとゲーセンに立ち寄った。理由も目的も特に無かったが、気まぐれで寄り道したのだ。特に何をするでもなくぼんやりと店内を回っていると、UFOキャッチャーに100円玉を積んでぬいぐるみにチャレンジしている女の子を発見した。凄い勢いで連コしては失敗してを繰り返している少女が不憫になって、士道は声をかけたのだ。
『待ってるから次替わってもらえる?』
『あ、はい、すみません』
士道は100円だけ入れると、慣れた手付きでぬいぐるみを取った。彼の守備位置はUFOキャッチャーも範囲内だった。
士道は、取ったぬいぐるみを受け取り口から取り出すと、後ろで目を輝かせて尊敬の眼差しを送ってきている少女にぬいぐるみを差し出した。
『ん、これあげる。欲しかったんでしょ?』
『え?い、いやいやそんな、悪いですって!受け取れませんよ!』
『俺はUFOキャッチャーっていう遊びがしたかっただけで景品はいらないんだよなー』
『え?』
『このままだともったいないけど捨てちゃうことになるなー』
『あのー?』
『誰か貰ってくれる人がいたらいいんだけどなー』
『うぅっ……』
『イタライインダケドナー』
『……いただきます、はい』
勢いでゴリ押しした士道はぬいぐるみを少女に押しつけた。
『……ありがとう、ございます』
(かわいいなぁ)
ギュッとぬいぐるみを抱いて上目遣いに感謝を述べる少女は、とても可愛らしかった。
『じゃ、俺帰るから、大事にしてやってくれ』
『あ、あの、お礼!お礼させてください!』
『いいっていいって。俺が遊んだついでにいらないおまけが取れただけだから。そんじゃね』
その日は後から思い返して実はとても恥ずかしい事をしたのではと悶えたのだが、結局数日後に同じゲーセンで出会って再び悶える羽目になったのだ。しかしそこから仲良くなり、連絡先も交換して、ちょいちょい遊ぶようになったのだった。
……実は最初に出会って以来、佐天がお礼したさに毎日ゲーセンに行っていたのは士道が知る由のないことである。
「佐天さんこそ今日は用事でも?なんかおめかししてるっぽいけど」
「あ、わかります?ふふ、今日はちょっと気合い入れたんですよー」
両手を広げてその場でくるりと一回転して、「どうですか?」と尋ねる佐天。「よく似合ってるよ」と士道が言うと、「ありがとうございます」と言って嬉しそうにはにかんだ。
やっぱ女子力たけーなぁ、と思う士道だった。
「実はですね、今日は友達のつてで人を紹介して貰うんですよー」
「へー、誰?有名な人?」
「そりゃあもう!なんとあの!常盤台中学が誇る超能力者の一人!《超電磁砲》の御坂美琴さんを紹介してもらえるんですよ!すっごくないですか!?」
「へ、へー」
「ありゃ、反応薄いですね。あんま興味ないです?」
「そ、そんなことないけど」
(出くわす度に追いかけ回されて電撃浴びせられてますなんて言える訳ねー)
佐天の口から予想外の名前が出てきてビビる士道だった。
「あのお嬢様学校の頂点に位置する人ですもん、きっと清楚で礼儀正しくて上品な人なんだろうなー」
(言えねー……そいつは年上をアンタよばわりして所構わずビリビリするようなクソガサツな女だなんて言えねーっ!)
佐天が抱いている儚い幻想をぶち殺してやろうかと思った士道だったが、年下の女の子をいじめてなにが楽しいのかと思い直した。
でも、と佐天が続けたのを聞いて、士道は思考の沼から抜け出した。
「実は少し不安っていうか……怖い気持ちもあるんですよねー」
「?不安?なんで?」
「レベルの高い人って、そこに優越を感じていそうっていうか。無能力者の私からすると、見下されたらやだなーって」
愛想笑いを浮かべながら話をする佐天に、士道はなんとも言い難い気持ちを抱いた。
明るい性格でいつもテンション高めなので気づき辛いが、彼女は自分が無能力者であることに少なくない劣等感を抱いている。士道と話していても能力のことになるとトーンが一段落ちるし、高位能力者が能力を使用しているのを羨望と少しの悪感情がこもった目で見ている時もある。
彼女の少し辛そうな笑みを見て、士道は一歩近づいた。
「……大丈夫だよ。紹介されるってことは少なからず慕われているんだろうし。そんな人格の歪んだ人じゃねーと思うよ」
「そう……ですかね」
「多分だけどな」
佐天の返事に笑いながら答えると、士道は佐天の頭にポンと優しく手を置いた。目を見開いて士道を見上げる佐天の頭をゆっくりと撫でながら、「それに」と士道は続けた。
「学園都市にいると錯覚しがちだけど、人の価値はレベルで決まったりしねーよ。たとえ無能力者でも、佐天さんの良いところを俺はよく知ってるし、佐天さんの友達もきっと知ってるから」
「士道さん……」
「だから、そんなに自分を卑下しねーの。わかった?」
佐天は士道の言葉を聞いてしばし目を伏せてから、困ったような、それでいて嬉しさを隠し切れていない笑顔を浮かべた。
「もー、士道さんってば、天然ジゴロってやつですか?」
「え?ジゴロ?なんで??」
訳がわからないという顔をする士道。佐天は、いつの間にか撫でるのを止めてしまっていた士道の手を両手で握ると、自身の胸に引き寄せた。
「この状況でそんなこと言われたら、女の子は恋に落ちちゃうんですよ?」
「ーーー」
瞬間、かぁっと耳まで赤くなる士道。負けず劣らず頬を朱に染めた佐天は、「でも」と続けた。
「すごく、嬉しかったです。おかげで少し気持ちも軽くなりました」
恥ずかしくなったのか、そこまで言って「じゃ、じゃああたしもう行きますねっ」と言い置いて駆けだしてしまった。一人置いていかれた士道は、その場に縫いつけられたままポツリとこぼした。
彼曰く人にはあまり見せたくない顔で。
「佐天さん……恐ろしい子」
後に彼は、佐天さんマジ天使、略してさてんしと語ったそうな。
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