とある魔術の虚構切断   作: rose

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今回は禁書側日常回です。


連続爆破事件

「……あー、寝坊したかー……」

 

翌朝。士道が起きたとき、時計の短針は既に10を指し示していた。なにしろ今日は平日で、普通に学校があるのだ。この時間では学校に着くのは早くても三限目の授業中だろう。士道のクラスにはとても怖い委員長(委員長じゃない)がいるので、遅刻が確定している日の朝は非常に憂鬱なのである。

 

「行きたくねー……」

 

とはいえ、そうも言ってはいられない。生活スタイルの関係上、士道はどうしても遅刻が多くなりがちなのだ。行けるときに行っておかねば、進級が危うくなる。

のそりと緩慢な動作で布団から抜けだし、洗面所へ。冷水で顔を洗うと、ぼんやりしていた頭も覚醒し始めた。

電気ケトルのスイッチを入れ、作り置きしている味噌汁の元をお椀の中へ。フライパンに火をつけ、ある程度熱してから油を少量ひいて卵を割り入れる。少しの水を加えて蓋をし、蒸し焼きにする。お湯と目玉焼きを待っている間に米をよそって箸の支度。ついでに髪をとかす。

あとはお湯が沸いたらお椀に注ぎ、味噌玉を溶いて味噌汁の完成。目玉焼きを皿に盛り付けて、本日の朝食の準備完了である。もっとも、朝食と言うには時間が遅いが。

 

「いただきますっと」

 

手を合わせてから箸を付ける。「うん、うまい」と士道は呟いた。一人暮らし歴は割と長いので、生活力はそこそこ高い。

どうせ遅刻だしのんびり行くか、と思ってテレビをつけると、ちょうどバラエティの合間のニュースが流れていた。内容は最近起こっている連続爆発事件。死者こそ出ていないものの、風紀委員の数名が負傷する被害が出ているようだ。

まぁどうせ俺には関係ない、と思いつつニュースを見ながらさくさくと食べ進めて完食。男子高校生にはこの程度の量は少ないくらいだった。

ごちそうさま、と手を合わせて食器を洗いに流し台へ向かう。食洗機なんて上等なものは当然ないので、手洗いである。

使った食器を洗った後は、制服に着替える。今日のパーカーは赤にした。ジャコジャコと歯磨きを済ませ、学ランに袖を通して鞄をひっ掴む。靴を履くと、家には他に誰にもいないにも関わらず、「いってきます」と一声かけてから家を出た。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

士道が学校に着いたのは、ちょうど三限目の終業の鐘が鳴った時だった。士道はほっと安堵のため息をつく。授業中に一人教室に入るときのあのきまずさは、遅刻を何度繰り返しても慣れることはない。

休み時間で周りが騒がしいのをいいことにしれっと教室に入ると、髪型が全員やたらと目立つ三人組が真っ先に士道に気付いた。

 

「うす、寝坊したー」

 

「お、社長さんがやっとご登場かいな。随分な重役出勤ですやん?」

 

「まーまー青ピ、たまちゃんの遅刻癖は今更どうにかなるもんでも無いにゃー」

 

「ちなみに吹寄、すげー剣幕でブチ切れてたぜ」

 

「だよなぁ……」

 

発言した順に、士道、なぜか本名は誰も知らない守備範囲広いどころかほぼ全範囲の男こと青髪ピアス、とても学生には見えないシスコンメイド軍曹こと金髪グラサンの土御門元春、好きな女子といるときに遭遇したくない男第一位こと黒髪ウニ頭の上条当麻、最後にもう一度士道というラインナップである。ちなみに士道の髪型はいたって普通。少し茶色の入った長めの黒髪を無造作に流している。

 

「んで、その吹寄は?」

 

「先生に質問しに行ったんだと思うぜい。さっきノート持って出てったからにゃー」

 

「俺の命もあと少しか……みじけー人生だったなー……」

 

「君のことは一週間忘れんで……!」

 

「もしかして:喧嘩売ってる?」

 

「あ、ほら、噂をすればなんとやら」

 

上条が指を指した方を向くと、前髪を耳にかけておでこを出した黒髪ロングの吹寄制理が、ノートを持ってちょうど教室に入ってくるところだった。そのまま自分の席に向かっていた彼女だが、士道と目が合った瞬間、方向転換して大股で士道に詰め寄る。

そしてその勢いのまま、士道の足をゴスッと思い切り踏み抜いた。

 

「いっっってぇッ!?何しやがる吹寄!」

 

ガン無視。追撃。二度三度と士道の足は踏み抜かれた。

 

「弾駆!貴様の遅刻癖は一体いつになったら直るのよ!?」

 

「お前に迷惑かけてねーだろーが!踏むなよ!?」

 

「迷惑よ!貴様一人の遅刻で周りの空気が緩むでしょうが!」

 

この吹寄制理こそ、体罰を厭わない鬼の委員長(委員長じゃない)である。またの名をカミジョー属性完全ガードの女。間違いなく超美人でスタイルも物凄く良いのに、なぜか色っぽさを感じない少女だ。ちなみに本来の委員長は青髪ピアス(これはこれで異色なのだが)。

 

「まったく」

 

「……これだから暴力女は」

 

「なにか?」

 

「ナンデモアリマセン」

 

聞き取れまいと思って呟いた独り言を拾われて、視線を逸らして答える士道。それを見て、吹寄はフンと鼻を鳴らした。

 

「いやぁ、君らはほんと仲いいなぁ。羨ましいくらいやで」

 

「「は?どこが?」」

 

「いやいや、そういうとこですたい」

 

声を揃えて抗議する士道と吹寄を指しながら土御門が言うと、二人はそろってギリッと歯ぎしりをした。

不穏な空気を感じ取った上条が、慌てたように話題を変える。

 

「そういやみんなニュース見たか?連続爆破事件のやつ」

 

「あれ大変らしいな。風紀委員が何人か負傷してるんだろ?俺も来る前にニュースで見たよ」

 

「昨日もどっかのコンビニであったっちゅー話やん?いやーほんま物騒やで」

 

「あ、ソレ、私現場にいたわよ」

 

「「「「マジで!?」」」」

 

「うわっ、びっくりした」

 

吹寄が軽く手を上げながら言うと、男四人組が一斉に彼女の方を向く。続きはよと言わんばかりに四人の目が輝いているが、そこで予鈴が鳴ってしまった。

 

「ほら、続きはまた後で。弾駆!貴様は遅刻した分集中して授業を受けなさい!」

 

「へーへー」

 

めんどくさ、と思いながらも、口元にうっすらと笑みを浮かべて士道は自分の席に向かった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そして放課後。HRも終わって人がいなくなった教室に、5人はたむろしていた。

 

「んで?昨日の現場にいたって?」

 

「ええ。昨日の夕方……6時くらいかしらね。青汁を切らしてたから買いに行ったら、急に風紀委員が入ってきたのよ」

 

「うーわ出たよ健康オタク吹寄制理」

 

「黙りなさい。……続けるわよ。風紀委員の人たちが『重力子の加速が観測されました。爆弾がしかけられている可能性があるので待避してください』って言うから外に出たの」

 

「そしたらドカンといったっちゅーわけかいな」

 

「そ」と青ピの言葉に答えると、吹寄は壁に寄りかかって腕を組んだ。それによって彼女の大きな胸が押し上げられる形で強調されているのだが、本人は全く気にする様子がない。

 

「外から見てた感じだと、風紀委員の女の人が怪我したみたいだったわね」

 

「また風紀委員かにゃー?随分と多いぜい」

 

「それだけ市民を守ってるっちゅーことやで」

 

「そりゃそうだな」と答えた後、上条はそれにしても、と続けた。

 

「爆発の規模が段々大きくなってきてるんだろ?それはどういうことなんだろうな」

 

「考えられるのは、最初はいたずらのつもりだったけど、段々調子に乗ってきちゃったとかか?」

 

「そんな程度で人を傷つけるまでやるようになるのかしら」

 

うーむ、と5人で首を捻る。しかし何人集まったところで所詮は素人の浅知恵。とくにいい意見も出ず、グダグダになってしまった。

 

「それじゃあたしは帰るから。弾駆、明日遅刻したらマジでブッ殺すわよ」

 

健康番組をリアタイで見たいからという理由で吹寄が帰ったのを皮切りに、他の面々も緩やかに帰路につき始める。

最後に残ったのは、士道と土御門だった。実際は土御門にあらかじめ残るよう言われていたのだが。

 

「んで、何の用だよ」

 

「仕事だ」

 

「げー……」

 

先ほどまでとはうって変わって冷たい土御門の声音とその内容に、士道はうへぇと舌を出した。土御門元春にはもう一つの顔がある。それは学園都市の暗部に属する工作員という顔だ。その仕事には、士道への依頼や仕事の取り次ぎも含まれる。

 

「吹寄に殺されたくないし今日は早めに寝たいんだけど」

 

「心配しなくても今日中に片付けなきゃいけないわけじゃないぜい」

 

早いにこしたことはないけどにゃー、と続ける土御門に、士道は視線で話の続きを促した。

 

「タマちゃんは『幻想御手』って聞いたことあるか?」

 

「どっかで聞いたな……ああそうだ、たしか都市伝説だったか。簡単にレベルが上がるとかいう」

 

『幻想御手』。最近まことしやかに噂されている都市伝説の一つだ。なんでも使うだけで簡単にレベルを上げることができる代物らしい。能力開発には時間がかかるというのは学園都市に住んでる人にとっては常識なので、信じている者などほぼいないが。

 

「どうやらソレ、実在するらしいんだにゃー」

 

「……は?」

 

「最近『書庫』のデータと合わない能力者が暴れることが多いらしくてな、警備員や風紀委員も手を焼いているらしい」

 

土御門は情報のプロだ。その彼が言っているのなら、事実なのだろう。……いったいどうやって風紀委員や警備員の情報を抜き取っているのかはわからないが。

 

(ま、真っ当な方法じゃねーのは間違いないだろーけど)

 

「俺は吹寄が言ってた連続爆破事件もソレ絡みだと思ってるぜい」

 

「ああ、段々爆発の規模が上がってるってのは『その規模の爆発を起こせるだけのレベルまであがった』ってこともありえるのか」

 

「そういうことだにゃー」

 

「じゃ仕事の内容は『幻想御手』の確保か?」

 

「それは最善だな。なにしろどういう物なのかすら一切わからんから、情報だけでも十分成果と言えるだろ」

 

「りょーかい」

 

土御門の答えにそう返すと、士道は鞄を持って出口に手をかけた。

 

「ま、じゃあ今日から始めるよ。なにか進展があったらその都度知らせるから」

 

「よろしく頼むぜい」

 

土御門の返事に頷くと、「じゃな」と一言だけ言いおいて士道は教室を出た。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

帰り道。食後にどう動こうかとシュミレートしていると、唐突に背後で声がした。

それも明日遅刻しないために早くコトを済ませようとしている今、一番聞きたくない人物の声だった。

 

「あーーーーっ!いたいたいたいたいやがったわね!!」

 

「げ……御坂」

 

「なによ。人の顔を見るなりげ、とは失礼な奴ね」

 

そう。その声の持ち主は、常盤台の電撃姫こと御坂美琴だった。

 




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