鬼滅の刃~幸せのために~   作:響雪

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初めの一話ということで少々長くなるかもしれませんが前置きを。

タグの通り、カナヲをヒロインとして書いていくつもりです。

あと当然ながらオリジナルの呼吸も出します。

カナヲには炭治郎しか受け付けられないという方、その他いろいろこだわりや好みのある方は自己責任の下、読んでいただきますようお願い申し上げます。

普段二次創作の長文の短編を別サイトにて書いており、原作にハマったことと相まって息抜きとして書いていくつもりです。くだけた文章になったり、文字数が少ないこともあるかもしれませんが、予めご了承ください。鬼滅の熱が続く限り完結目指して頑張ります。

タグを増やしたりタイトルを変更する可能性もあります。

また、誤字・脱字、その他おかしな点を発見いたしましたらご報告いただけるとすぐに修正いたします。おかしいと思う点は設定上そうしている可能性もあるので、ご相談ください。

それでは堅苦しく長い前書きとなりましたが、これからよろしくお願いします。


本編
最終選別


 大正の時代。

 

 人々の暮らしはまさに発展の途中といえるこの時代だが、世の中そんな明るいばかりだけではない。

 

 光あるところには影がある。

 

 それは、鬼だ。

 

 昔から伝承にあるあの鬼だ。

 

 それはただのおとぎ話や空想ではない。鬼は実在する、

 

 闇に潜み、人の血肉を食らい、人外の力を振るう厄災。

 

 だが人間はただやられていくだけではなかった。

 

 政府の非公認組織。その名も『鬼殺隊』

 

 人外の鬼に己が身一つと手にした刀で立ち向かう彼らの奮闘により人の社会は保たれていた。

 

 鬼殺隊の目標はただ一つ。鬼を討ち、平和を手にすること。

 

 その志に惹かれ、あるいは鬼への復讐心を持った者は鬼殺隊へと入隊していく。

 

 そしてここにも、鬼を討たんと鬼殺隊を目指す者がいた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 目の前に見えるのは鬼殺隊に入るための試験を行う『藤襲山』だ。

 

 山の麓は鬼の嫌う藤の花で一年を通して囲われており、最終選別のために用意された鬼は降りてこれない……らしい。

 

 だから今俺がいるこの場所は安全だというのに、体の震えが止まらない。

 

 正直に言えば怖い。

 

 確かに今日まで鍛錬は積んできた。

 

 だけどそれは本当に鬼に通じるのだろうか? 

 

 これまでの努力を信じていないわけじゃない。

 

 でも本能的な恐怖は完全には抑えられない。

 

「っ!」

 

 バチンっ! 

 

 気休めにしかならないけど、両手で頬を思いっきり叩いた。じんじんと痛むけど震えは止まった。

 

 そうだ。俺はこんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

 俺が立ち止まればそれだけ鬼によって悲しむ人が増えてしまう。

 

 俺が鬼殺隊を目指した理由はそんな人を一人でも減らすためだったはずだろ。

 

 会場へと続く道を睨みつけるように見る。

 

 意を決して一歩、また一歩と足を進めていく。

 

 そうして登りきった先には最終選別に挑むであろう剣士達がその時を待っていた。

 

 皆、緊張を隠しきれていない様子だ。

 

「ん?」

 

 参加者を見回していると一人だけ違和感を感じた。それは物静かに佇んでいる女の剣士。蝶のような髪飾りで髪を片方に結んでいる。

 

 たぶん、相当の実力者だ。

 

 俺の勘はかなり鋭い方だ。おそらくこの場にいる中で彼女は一番の実力者だろう。

 

 その他にも何人か何か他の奴とは違うと感じた。

 

 全体を見回していると俺の後に一人また会場へとやってきた。耳に……札だろうか? 

 

 特徴的な奴だなと思っていると刻限となり、最終選別の説明が始まった。

 

「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます」

 

 双子のようで、どこか人間離れした空気を発している。

 

「この藤襲山には鬼殺様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり外に出ることはできません」

 

「山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」

 

 一年中咲く藤の花……一体どういう原理なんだろうな。

 

「しかしここから先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおりますこの中で七日間生き抜く」

 

「それが最終選別の合格条件でございます」

 

 内容は聞いていたものと変わらない。

 

 鬼だらけの山で七日間の野宿。単純なようで過酷な内容だ。

 

 だけどこの場にいる全員が覚悟済みのこと。今さら怖気づいて逃げ帰るような奴はここにはいない。

 

「では行ってらっしゃいませ」

 

 説明もそこそこにあっさりと最終選別は開始された。

 

 一斉に山の中へと進んでいく。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 最終選別は始まったが、この極限の環境で普段のようにすごしていてもまず生き残れないだろう。

 

 人間は寝ないと活動を続けることができない。そして寝るなら夜だが、夜こそ鬼の力が増す時間だ。そんな時に寝るなんて無防備な姿を晒すようなバカはここにはいない。ならどうやって休む時間を確保するか。

 

「当然、陽がより早く昇る東を目指す!」

 

 鬼の弱点は日輪刀で頚を切るか太陽の光だ。

 

 鬼は太陽が出ている間は動くことができない。もし太陽の下に身を晒そうものならたちまち全身が灰と化す。

 

 だから東側で行動するようにすれば少しでも長く体を休めることができる。

 

「……っ!」

 

 だけどそう簡単に事は運ばないようだ。

 

 茂みから嫌な気配がして、咄嗟に刀を抜き放つ。

 

 鉄が擦れる耳障りする音がして、今しがた茂みから飛び出してきた者の攻撃を防いだ。

 

「……肉、人間、肉、人間」

 

「あぁ、くそっ!」

 

 不幸にもさっそく鬼と出会ってしまった。

 

 ボロボロの着物を纏い、剥き出しの牙を覗かせる口からはだらだらと涎を零している。手の爪は鋭く尖っており、その姿からは人間だったとは考えられないほど醜悪だ。

 

 悪態をついても鬼と出会ってしまった事実は変わらない。

 

 気を引き締め直して刀を強く握る。

 

 鬼は飢餓状態なのか肉と人間しか喋らない。それがまた不気味なのだが怯んでいるわけにはいかない。

 

 こちらから仕掛けるか迷っていると先に我慢できなくなったのか鬼の方から飛び込んできた。

 

「食わせろ!」

 

「食わせてたまるかってんだ!」

 

 充分距離を取って躱した。

 

 選別用なのかこの鬼は弱い。動きは直線的だし、知能も低い。

 

 これなら、いける。

 

 大きく息を吸う。自分を落ち着かせるため──ではない。

 

 独特の音が鳴り響く。それは俺の呼吸によるもの。

 

 鬼を切るために身につける呼吸技術。それが『全集中の呼吸』だ。

 

「いくぞっ」

 

 今度は俺の方から仕掛ける。

 

 全集中 岩の呼吸──

 

 呼吸により酸素を全身へ。これにより血が活発に体内を巡る。

 

 弐の型 天面砕き

 

 急激に体温が上昇し、通常時の倍以上の力を得る。その力をありったけ刀に籠めて鬼の頸へと振り下ろした。

 

「ぎゃぁ──」

 

 振り下ろした刀は鬼の頚を捉え両断する。それでも止まらず地面を打ち付けた。

 

 頸を切られた鬼はすぐに灰となっていく。

 

「……やれた。やれた!」

 

 俺の刀は確かに鬼に届いた。そのことに鍛錬が無駄じゃなかったとようやく実感が持てたのだ。これは喜ばずにいられない。

 

 これで俺は胸に決めた決意に大きな第一歩を踏み出すことができたんだ。

 

「っなんだ!?」

 

 喜びを噛みしめていると先ほどの鬼がいた茂みとは違う方の茂みから音がした。

 

 下ろしていた刀を再び構える。

 

 すると現れたのはまた別の鬼だった。

 

「くひひっ。待ちわびたぜ。やっと飯の時間だ」

 

「くっ、まさかこんな短い間隔で鬼が襲ってくるのか?」

 

 いや、一体ずつ出ているならまだましな方だろう。これがもし大量の鬼に同時に囲まれたとあっては無事では済まない。

 

 鬼は不気味に笑っているが、俺の方はそんな余裕ない。

 

 さっき切った鬼が俺の初戦果なんだ。つまり俺は経験値はないに等しい。

 

 最悪の場合を考えながら戦っているのだから落ち着く時間をください。

 

 とか言っても無駄なのはわかっているけど愚痴られずにいられない。

 

 じりじり近づいてくる鬼。俺も目の前の鬼に意識を向けていたのだが、何かを感じて奥の暗闇に目を向けた。

 

 姿も形も見えない。だけど何かが来る! 

 

「よそ見とは不用心だなぁ!」

 

「あぶなっ!?」

 

 そんな俺の様子などお構いなしな鬼はその鋭い爪でとびかかってくる。

 

 よそ見をしたとはいえ鬼から完全に意識を外していたわけじゃない俺はギリギリのところで避けた。

 

 それにしてもさっき感じたものは何だ? 

 

 気にはなるが、とにかく今は目の前の鬼に集中しないと。

 

「避けるか……なぁ、抵抗しない今だけサクッと殺してやるぞ」

 

「じゃあお願いします……ってなるわけあるかっ」

 

 何か聞こえる。

 

「あっそ。なら生きたまま首にかじりついてやるよ」

 

「やれるんならどうぞ。その前にお前の首切るけどな」

 

 何か近づいて……足音? 笑い声? 

 

「はっ、青臭ぇ餓鬼が。望み通り──」

 

「アハハハハ! 鬼! 鬼はどこだ!」

 

 目の前に、猪人間が出てきた。

 

「え……」

 

「な、なんだこい──」

 

「見つけたぜ鬼!」

 

 まだ喋っている途中の鬼に問答無用で猪人間が切りかかる。

 

 鬼は突然のことに抵抗する間もなく頚を切られた。

 

 この猪人間……強い! 

 

「雑魚が! もっと強い鬼はいねぇのか!」

 

 切った鬼に目もくれず猪人間は走り去っていった。

 

 後に残ったのは先ほどの状況を呑み込めていない俺だけ。

 

「……東に行こう」

 

 きっとさっきのは悪い夢だったんだ。そう思うことにした。

 

 猪の顔の人間なんているはずない。いたらむしろ鬼より怖いわ。

 

 気を取り直して俺は再度東に向かって走った。

 

 最終選別はまだ始まったばかりだ。

 

 とにかく俺は生き残らないといけない。生き残って鬼殺隊に入るんだ。


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