鬼滅の刃~幸せのために~   作:響雪

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鬼の潜む村

 カナヲと合流してその日のうちに村へと辿り着いた。

 

 だけど時刻は既に夕方。

 

 できれば明るいうちに鬼の目撃情報や調査をやっておきたかったが、こうなれば最悪前情報なしで鬼と戦う必要があるかもしれない。

 

 ということで現在村の中、それから周辺を散策しているわけだ。

 

 村周辺を俺が、村の中をカナヲがというように二手に分かれている。

 

 合同任務なのに二手に分かれるのは愚策かもしれないが、カナヲは強い。

 

 それは最終選別の時から感じていた。カナヲは恐らくあの場の誰よりも強かった。

 

 選別後なのにもかかわらず服には汚れの一つも見られなかったし、息の一つも乱していなかった。

 

 戦っている姿を直接見たわけではないが俺の直感は正しいと思う。

 

 だから問題なのはむしろ俺の方だ。カナヲは戦闘を始めても合流まで持つだろうが、その逆。俺が戦闘を始めた場合はカナヲの合流まで耐えきれるかわからない。

 

 最終選別で鬼を倒したとはいえ、あれは用意されていた鬼だ。人を食った数はどの鬼も少ないだろうし、空腹状態で思考も単純な奴が多かった。

 

 だけどここはもう実戦の場だ。何から何まで自分でやらなければいけない。

 

 そんな中で俺は動くことができるのか。

 

「いや、動かなくちゃだめなんだ。俺には胸に決めたことがあるだろうが」

 

 とにかく今こんなこと考えていたって何にもならない。まずは鬼を見つけることが先決だ。

 

「それにしてもこの村……」

 

 この村の第一印象はひどいものだった。

 

 村とは本来人の活気があって明るい場所だ。

 

 だがその本来の明るさは失われ、村を支配しているのは誰もが下を向く暗い空気。

 

 明日は我が身。昨日の友は明日には屍。心躍る男女の逢瀬は最後の時。

 

 皆が皆ぽつぽつと消えていく村人に恐怖している。

 

 それでも生きるために生活していくのだからどうすることもできない。

 

 その様はまさに生ける屍のようだった。

 

 それもすべては鬼のせいだ。

 

 鬼の脅威を取り払わない限り、ここの村人は死んでいる状態に等しい。そんなことは許さない。

 

 覚悟を改め注意深く周囲の調査を続ける。

 

 できれば明るいうちにといったが、不幸中の幸いと言ったところか今夜は月明りが綺麗だ。おかげで明かりなしでも周囲の景色がはっきり見える。これなら何かあっても発見が早そうだ。

 

 けどそれは俺以外にも当てはまることだということを忘れていた。

 

 訳がわからなかった。

 

 だけど咄嗟に腰に差していた刀を抜刀し背中を守るべく背後に伸ばす。

 

 そして背後に伸ばすと同時に強い衝撃と共に俺は吹き飛ばされた。

 

「チッ! もう嗅ぎつけられたか」

 

「ぐっ……いってぇ」

 

 吹き飛ばされはしたものの受け身は取った。それでも痛いものは痛いが。

 

 痛みで滲む視界で吹き飛ばしたであろう犯人を確認する。

 

 着物を着崩して、無造作に伸びた髪。左右で手の長さが異なり、左手が長い。

 

 やはりというか、鬼だった。

 

「お前がこの村に潜んでいる鬼か」

 

「そうだけど悪いか!」

 

 言葉の途中で既にこちらへ突っ込んできている。だいぶ思い切りがいい鬼だ。

 

 突っ込んできた鬼を躱すべく右に避けるが、鬼は着地と同時にまたこちらへ突っ込んできた。

 

「逃がさねぇよ! シャアァッ!」

 

 やはり鬼の身体能力は恐ろしい。さっきの突っ込み方だと勢い余ってつんのめるはずなのにすぐにまた突っ込んできた。

 

 やはり人間は鬼に敵わない。

 

 ──普通の人間ならだが。

 

「ギャアッ!?」

 

 鬼の悲鳴。鬼は肘から先がなくなった右腕を抑えて苦しんでいる。

 

「逃げるつもりなんてあるかよ。俺は鬼殺隊だ。むしろお前ら鬼を逃がす気がないんだよ」

 

 再度突っ込んできた鬼を今度は避けると同時に刀で腕を切り落としたのだ。

 

 鬼は頸を切らない限り死なないし、いくらでも再生する。

 

 だからといってその他への攻撃は意味がない訳ではない。鬼にも痛覚はある。

 

「クソ人間が! ふざけたことしてくれやがって!」

 

 まだ腕は再生していないが激情にかられた鬼は俺へと向かってくる。

 

 相手が焦っている時こそ冷静にだ。

 

 鬼は蹴りや残っている左腕で殴ったりしてくるが、その動きはわかりやすかった。

 

「クソッ、クソッ、クソが!」

 

 そうしているうちに切り落とした腕は再生していた。だけどこの調子なら何も問題はない。

 

 動きの癖も掴んできた。そろそろ決める。

 

 鬼が殴りかかってきた。それは何度となく見た単調な動き。

 

 ──ここだ! 

 

 頚めがけて刀を振るう。

 

 岩の呼吸 弐ノ──

 

「ぐうっ!?」

 

 だが刀を振ることはできなかった。

 

 単調な動きと読んで最小限の動きでしか避けていなかったせいだ。いや、慢心していたのかもしれない。

 

 俺は鬼の一撃をもろにくらってしまった。

 

 咄嗟に体へ力を籠めることで無防備というわけではなかったが、それでも初めてまともにくらう鬼の攻撃だ。想像以上に重い。

 

「一体何が……っ!」

 

 吹き飛ばされ倒れた体を起こしながらも鬼からは目を離さない。そしてなぜ俺が攻撃を食らったのかの原因がわかった。

 

「へへへ……いいザマだな」

 

 鬼の腕。あの鬼は左右で長さが違っていたが、確か左が長かったはずだ。

 

 それが今は()()()()()()()

 

 どういうことだ、何で右腕が長くなっているんだ? 

 

「オレはなぁ、腕の長さを入れ替えれるんだよ」

 

 そんなこと普通はあり得ない。これも鬼だからなのか。

 

 俺が最小限の動きで避ける際に、左右の長さを入れ替える。俺は当然短い右腕を想定して避けるわけだから、右腕を長くした場合はあの鬼の攻撃範囲に入ってるというわけだ。

 

 これは完全に油断していた。

 

 これがまだ生きているからいいが、最悪死んでいてもおかしくない。

 

 やっぱり実戦は段違いだ。

 

「……」

 

「ハッ、戦意喪失か? 鬼殺隊ってのも大したことねぇなぁ」

 

 まだまだ俺は経験不足、力不足だ。このくらいでやられているようじゃ悲しみを減らすことなんてできやしない。

 

「動いたせいで腹減ったからなぁ。お前を食った後に村のやつも何人かいただくとするか」

 

「っ!」

 

「そんじゃ死ねや!」

 

 鬼が飛び掛かってくる。両手を広げ鋭く爪が伸びている。恐らく片方を防いでももう片方で俺の心臓か頭を穿つつもりだろう。

 

 腕の長さの入れ替えも考慮すると面倒な攻撃だった。

 

 だけどここで俺が死ぬわけにはいかない。俺が死ねばこいつは村の人を更に殺すだろう。そんなの許すわけにはいかない。

 

 何が何でも、この鬼を倒す! 

 

 二方向から攻撃が来るならこの型しかない。

 

 岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極

 

 俺は刀を右に持ち、鞘を腰から外して左手に持った。

 

 飛び掛かってくる鬼は勢いを殺すことなく迫る。

 

 俺はそれを正面から迎え撃った。

 

 右手に持つ刀で鬼の左手を切り飛ばしそのまま刀を直上に投げる。

 

 左手に持つ鞘では鬼の右手に向けて渾身の力で叩きつけ骨を砕いた。

 

 これで手による攻撃は防ぎ切った。鬼もまさか対応されると思っていなかったらしく驚きの表情が隠せていない。

 

 そのまま空いた手で鬼の胸ぐらを掴み、襲い掛かってくる勢いを利用して背負い投げて地面へと叩きつけた。

 

「ぐはっ!?」

 

 衝撃で動けないでいる鬼。その隙を見逃さずに、ちょうど落ちてきた刀を掴み、次の型に繋げる。

 

 岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き

 

 必殺の一撃を倒れる鬼の頸めがけて撃ちこんだ。

 

 鬼は叫び声も恨み言も言う間もなく両断される。ただその目だけは俺を恨めしそうに睨んできていた。

 

「っはあぁぁ~、だめ、きつい」

 

 疲れから俺はその場に倒れるように座った。鬼の亡骸は既に灰になり始めている。

 

「何これ全然違うじゃん。違い過ぎるじゃん」

 

 油断しないようにと注意していたのに結局一撃もらってしまった。

 

 たった一戦で肉体的にはまだ大丈夫だが、精神的な疲労がやばい。これは鍛錬不足だな。帰ったら増やさないといけない。

 

 でも俺はしっかり鬼を倒すことができた。実戦でもやっていける力はある。

 

 この調子で努力していけば悲しみを減らすためにできることが増えてくかもしれない。

 

「……あ」

 

 一人で自己反省していたが、肝心なことを忘れていた。

 

 カナヲの存在だ。

 

 鬼と遭遇したことをすぐにカナヲに知らせないといけない。合同任務と言うくらいだし鬼がさっきの一体だけとは考えにくいから注意しておかないと。

 

 それにまだ鬼がいると俺は直感していた。

 

「とにかくカナヲに合流だな」

 

 刀を鞘へとしまい、腰を上げる。周囲を確認するけど怪しいところは見当たらない。何かを感じるということもないし、この辺りは安全になった。

 

 そして俺はカナヲに合流すべく村の中心へと急いだ。

 

 

──────────────────―

 

 

「……」

 

「……」

 

 急いでカナヲの下に来たが、ここらの家屋が半壊している。

 

 どう見ても戦闘の形跡だった。

 

「……もしかして鬼と戦っていた?」

 

「……」

 

 返事は返ってこない。しかし頷くことだけはしてくれた。

 

 どうやらカナヲの方も俺と同じく鬼と遭遇し戦闘に入ったらしい。

 

 ちらっとカナヲの後ろを覗くとぼろぼろの着物が二着。

 

「……」

 

 まさかとは思うが、カナヲは鬼を二体相手していたのではないだろうか。

 

 状況的に間違いないと思うが、当の本人は服に汚れすら付いておらず、相変わらず涼しい顔をしている。

 

 俺は鬼一体を倒すのに泥まみれで一撃もらってしまったというのに、この差は一体何なんだろうか? 

 

 軽く気落ちするが、カナヲはわからないようで不思議そうににこにこしていた。

 

 とにかく、この村にはもう鬼はいないだろう。

 

 その証拠に鬼がいるっていう感覚が消えている。

 

 これで任務完了といったところだ。

 

 後は明日にでも村の人にもう安全だということを伝えるだけだ。ということで一晩を明かさないといけないが、時間的に家へとお邪魔するわけにもいかない。かといってここは小規模な村だから宿屋とかもない。

 

「野宿決定か」

 

 こうしてこの村の近くで一晩過ごすことになった。


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