ソードアート・オルフェンズ   作:みっつー

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ここら辺から独自解釈が強くなってきます。
実は最初の森のシーンプログレッシブに無いんですよね


ニコニコではソードアート・オルガインが出てきましたね。全くの別世界ですが、キメラ語が凄かったり面白そうなので見て見て。


第三話 コボルトと火星(仮)の王

翌日。第1層の森のフィールドで、第1層攻略のために集まったレイドパーティたちが行進を続けていた。

 

「確認しておくぞ。あぶれ組の俺たちの獲物は、『ルイン・コボルトセンチネル』ってボスの取り巻きだ」

「わかってる」

 

アスナはフードをより深く被りながらキリトの言葉を返す。まるで1人でも大丈夫と言っているように感じた。

しかしこれを無視すれば最悪死ぬどころでは済まないのでキリトはその意思表示を無視して続ける。

 

「……俺が奴らのボールアックスをソードスキルで跳ね上げさせるから、すかさずスイッチして飛び込んでくれ」

「……スイッチって?」

「えっ」

「アンタ正気か?」

「もしかして、パーティ組むのこれが初めてなのか!?」

 

パーティを常日頃から組んでいるオルガ、三日月。βテストの時からパーティを組んだこともあり、テクニックも十分に知っているキリト。

彼らにとって、スイッチと言うSAOでパーティを組む際には当たり前とも呼べるこの技術を知らないのは異常なまでだった。

因みにスイッチとは、片方のプレイヤーがモンスターを相手にする際にソードスキル同士をぶつけ合わせ、相殺させてからもう片方のプレイヤーが隙だらけのモンスターに斬りかかる。等してソードスキルによって生まれる硬直による隙を埋めるものだ。

キリトたちのパーティでは三人とも役割などはないため、誰が斬り込むか等は決まっていないにしろ、スイッチやパリィは誰でも出来なければダメなのだ。

 

「うん」

「なっ……はぁ~……」

 

アスナはそれを悪いこととも思わずに頷き、キリトは肩をすぼめて大きなため息をついた。

そんなキリトたちを他所に迷宮区の攻略は進んでいき、ディアベルの的確な指示で危な気もなく迷宮区攻略組はボス部屋までたどり着いていた。

 

「聞いてくれ皆、実は俺、今回の一人でも欠けたら今回のボス戦を中止するつもりだったんだ。でもなそんな心配はみんなの侮辱だな...ごめん!謝る!俺はすっげぇ嬉しいよ!このメンバーなら一層を攻略できる!俺はそう信じてるよ!」

 

ディアベルはボス部屋の目の前に立つとボス戦前最後の話をしていた。流石に聞きなれた美声を張り上げながら喋る。もう誰も、ディアベルのリーダーシップにケチを付けるものはいない。

各地から歓声が上がる。

 

「俺から言えることはたった1つだ……勝とうぜ!行くぞ!」

 

ディアベルの一声により、プレイヤーたちはよりいっそう士気が上がっていた。

重たい巨大な扉をディアベルが押して開ける。暗い部屋の最も奥の部分には第1層ボス、イルファング・ザ・コボルトロードが鎮座していた。

扉が開けられて侵入者が現れた、と言う事を察知したコボルトロードは立ち上がり、大ジャンプで土煙を上げながらプレイヤーたちの前に立ちはだかった。

その直後、ボス部屋の明かりが灯りプレイヤーたちの視界も安定するようになった。

 

「グオオオオオオオオオオ!」

 

コボルトロードが一つ吠えると、取り巻きのセンチネルたちが3体出現してコボルトロードと共に走り出す。コボルトロードは初手からソードスキルを使ってくるようには見えない。ここは正直に突っ込んだ方がいい。

 

「攻撃ッ、開始ィィィッ!」

 

ディアベルの声と、コボルトロードの雄たけびが戦いの火蓋を切って落とした。

 

「A隊C隊、スイッチ!来るぞ!B隊ブロックッ!C隊ガードしつつスイッチの準備……今だ!後退しつつ側面を突く用意!

D,E,F隊!センチネルを近づけるな!」

 

ディアベルの的確な指示が隊に響き渡り、主力の隊はコボルトロードと戦闘。

キリトたちF隊やD、E隊はセンチネルと対峙。これで最初とは思えないほど的確な指揮だ。恐らくそれはフィールドボス等を攻略した事からなのだろう。

 

「了解!」

 

キリトたちの元にやって来るセンチネル、センチネルが大振りにキリトへ向けてボールアックスを振り上げる―

はずが、何故かセンチネルはキリトを無視してオルガの方に一直線に駆けていき、ボールアックスを振り上げて叩きつけた。

オルガはセンチネルが急に自分を襲ってきたことを読めず、そして的確な判断も出来ずに武器防御をしようと盾をかざしたがセンチネルにボールアックスを打ち込まれる。

 

「ぐぅっ!」

 

これまでに見たことない程の速さでオルガのHPが減っていく。オルガは気を失ったように、前に倒れ込む。HPが0になることが現実だけでなくゲーム、両方の死を表すこの世界ではHPが0になるということは笑い話では済まされない。

 

「オルガ!?なんで……」

 

通常のヘイト通りなら、センチネルは向かってくるキリトに殴りかかるはずであり、やや離れたオルガをターゲットなどにはしなかった。しかし運が悪いのか何かあるのかセンチネルはオルガを攻撃した。

そしてオルガのHPは0に行く手前で止まった。

安堵したキリトが頭を切り替えるように通常攻撃の横薙ぎで切り払う。

その時だった。キリトの、いやそのフロワ全員のプレイヤーの耳にある音楽が響いた。

キーボーウノハナーツーナイダーキズーナヲー

そしてオルガは指先から血のような液体を出しながらとある言葉を呟いた。それは奇しくも、1()()()()()()()()》で死亡した時に言った言葉だった。

 

「止まるんじゃねぇぞ…」

 

しかしそんなこと言っている間にセンチネルは再びオルガにねらいをさざめて殴りかかってくる。

 

「させるか!」

 

そこにキリトが割り込み、片手剣ソードスキル、スラントでセンチネルのボールアックスを腕ごと落とす。

 

「スイッチ!」

 

キリトの合図を聞いて、アスナは細剣単発スキル『リニアー』を発動させてセンチネルの鎧の隙間を通して撃破する。

センチネルはガラスのように砕け散り、ポリゴンとなって消滅する。

(初心者だとは思っていたが、中々の手練れだな……早すぎて剣先が見えない)

(凄いな、アイツ……)

細剣はその特性から素早い攻撃を出しやすいがだからといってこれは速すぎる。素人離れした彼女の動きを見て三人は絶句した。

 

「……グッジョブ」

 

キリトがそう一言だけ言ってアスナを褒めると、また新たにセンチネルが出現して飛び掛かってくるが、いつの間にか回復していたオルガの身を挺したブロックとキリトの横薙ぎでまたセンチネルはノックバック。

追撃をかけようと走り込むキリトだが、その前にコボルトロードの雄たけびがしたためにそちらの方を振り向く。

 

「あれは……」

 

主力部隊のA隊とC隊の攻撃により、とうとうコボルトロードのHPバーの4段の内最後の1段がレッドゲージへと入っていた。速い。速すぎる。βテストの時もこのボスと戦ったのだが、その時は普通のゲームだったので多数のプレイヤーが死に、しかしコボルトロードのHPの減りはそこまでなかった。まるでこいつの行動パターンを知った奴がいるみたいに。

 

「情報通りみたいやなぁ」

 

キバオウがニヤッ、と笑うとコボルトロードは持っている斧とバックラーを投げ捨て、腰にある突起に手をかけた。

それを見ながらもキリトは残り一匹のセンチネルの攻撃をパリィし、三日月とアスナに追撃を任せる。

 

「下がれ!俺が出る!」

 

(ここはパーティ全員で包囲するのがセオリーのはず……)

ディアベルの発言にキリトが不振がっていると、ディアベルはキリトに何かを伝えるかのように一瞬だけアイコンタクトをかわした。その表情からキリトは最悪の可能性を考えた。まるで口で伝えられたようにキリトの頭を巡る考えはキリトの思考と動きを止めた。

ディアベル。お前は。そう言おとした時にはディアベルはコボルトロードに突っ込んでいた。

そのままディアベルはソードスキルを発動させて待機し、盾を構えて剣を持った。

コボルトロードが腰の武器を引き抜いて、そのまま構えた。キリトはそれを見た直後、コボルトロードの武器が何かを理解した。

曲刀カテゴリのタルワール、情報ではその通りだったがそれはタルワールと言うにはあまりにも真っ直ぐすぎて、曲がっているとは言えるわけもなかった。

(タルワールじゃなくてノダチ!βテストと違う!)

 

「はあああああっ!」

「ダメだ!全力で、後ろにとべぇっ!」

 

攻撃パターンが違うことをキリトはすぐにディアベルに叫んで伝えたが、ディアベルはそのままソードスキルを発動させてしまい、コボルトロードに突っ込んでいってしまう。

キリトの声が聞こえたのか直接対峙してタルワールでないと気付いたのか、絶望する表情を浮かべるがソードスキルのシステム的補助によりディアベルは従って真っ直ぐ突き進む。

コボルトロードは俊敏な動きで飛び上がり、縦横無尽に部屋を飛び回ってからディアベルの防御も間に合わない一撃を真上から振り下ろした。刀専用ソードスキル。旋車(つむじぐるま)

ディアベルに当てた筈だが何人かの巻き添えになったプレイヤーの動きが止まる。スタンだ。

助けに行こうと脚を動かす。しかし目の前に新たなセンチネルが湧き、道を阻む。まるでやらせないと言っているように。センチネルの一撃をパリィした時にはコボルトロードは次の攻撃に移っていた。

 

「ぐっ!うううわああああああああっ!」

 

そのままコボルトロードは二撃目のソードスキルへと入り、ディアベルを打ち上げるように吹っ飛ばした。ソードスキル、浮舟(うきふね)攻撃力はそこまで無いソードスキルだが、このソードスキルにはクールタイムがほとんどない。コボルトロードもソードスキルを打ったことによる反動はすぐに終えて次のソードスキルを打つために刀を輝かせる。

空中に上げられたディアベルを救う手立てはもうない。

 

「ディアベルはーんっ!」

 

何人かのプレイヤーがディアベルを読んだ瞬間、ディアベルが空中でソードスキルを発動させた。片手剣ソードスキル、スラント。空中に放り出された状態でのソードスキルなんてキリトすら不可能な手をディアベルは行った。ディアベルの剣が黄色に輝き、力が溜まる。落下によるエネルギーも篭ったのかその輝きは普通のソードスキルより輝いた。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

ディアベルの美声とはかき離れた雄叫びが流れる。その顔から余裕は消え去ってこの一撃に全てをかけているように動いた。

しかしボスはそんな簡単にはいかなかった。コボルトロードの刀が赤く輝き、落下するディアベルを打つ。上、下、そして最後に正面から突く。刀ソードスキル、緋扇(ひおうぎ)その全てをディアベルはその身に受けた。大してディアベルのスラントはコボルトロードの耳を切っただけで終わった。

ディアベルのアバターはまるで紙切れのようにレイドメンバーを飛び越えて吹き飛ばされる。

ディアベルの元に向かおうとプレイヤーが駆けだすが、彼らを邪魔するかのようにコボルトロードがその前に立ちはだかり、吠える。

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

「ディアベル!何故1人で……」

 

キリトは滑り込むようにしてコボルトロードの脇を抜け、倒れたディアベルの頭を上げさせてポケットからHP回復用のポーションを取り出そうとする。

が、ディアベルは残った僅かな力でそれを止め、自分のHPバーがどんどん減って行ってしまうことを受け入れていた。

 

「待ってくれ......俺を救うために今は貴重なポーションを使う必要は無い...それに使ったって無駄だってことは...分かる」

「ディアベル...何故!」

 

確かにポーションは第一層も攻略していない今では貴重な回復アイテムだ。それに飲み終えたら全回復という訳ではなく、ジワジワと回復していくのだ。一応自動回復スキルもあるにはあるが今のレベルではではフレンジー・ボア相手でもそこまで意味は無い。とはいえ人命より重いはずがない。ディアベルの手を振り払ってでも飲み込ませようとするがディアベルの予想以上の筋力値に抑えられて手が動かない。これだけの力をディアベルは自分を削って手に入れたのだ。それもみんなを支えながら、もう頭を上げることが出来ない。

 

「お前も……βテスターだったんなら……わかる……だろ……」

「……ラストアタックボーナスによる、レアアイテム狙い。本当に...あの時の視線は、お前もβ上がりだったのか?」

 

そこまで言ってキリトは自分の唇を噛んだ。自分はβテストの時にラストアタックボーナスを取り続けたプレイヤーだったのだ。ディアベルはそれを知っていた。あの視線は今度は俺が獲るという意思表示だったのだ。ラストアタックボーナスによる自身の強化。そしてその強さで皆を支えたいという意思が伝わってきた。

 

「頼む……ボスを、ボスを倒して……くれ……皆の、ために……」

 

ディアベルはHPバーが尽きる寸前までそう言って、キリトを強い眼差しで見つめてから―

そのまま体はガラスのように砕け散り、ポリゴンとなって消滅した。

 

「あ……あぁ……」

 

キリトはあまりの悔しさで小さく声を漏らし、そのまま地に伏した。

デスゲームが始まった時、キリトは自分がいかに生き残るかのみを考えて、もし助けられなかった場合は三日月やオルガすら見捨てるつもりでいた。

しかしディアベルは、キリトとは違って他のプレイヤーを見捨てずに人を導くことのみを考えていた。キリトが出来なかったことを、彼はやり遂げようとしていた。

 

「なのに……俺は……俺は……」

「なんて声、出してやがる……キリトォ!」

 

キリトが地面を殴りつけていると、オルガの声がした。見るとコボルトロードにパリィをしようとして弾き飛ばれたオルガがキリトの近くに来ていた。当然ヘイトを稼いだのでコボルトロードが追ってくる。

そこに三日月のソードスキルが決まり、コボルトロードは怯む。

 

「アイツは、お前らのために死んでいったんだ……だったら、死んだ奴には死んだ後で会える。だからよ……今は足を止めるな!」

「あぁ……」

 

キリトは言葉を返さず、自身の剣を握りしめた。

アスナもその横に並び立ち、キリト、アスナ、三日月、オルガの四人が揃ってコボルトロードを睨みつける。

絶望するプレイヤーたちではコボルトロードへのダメージなど1すらも与えられない、ならば自分たちがやる他はなかった。

 

「手順はセンチネルと同じだ!」

「わかった!」

「了解!」

 

コボルトロードは腰だめにノダチを構え、白色のライトエフェクトを纏わせてそのまま突撃してくる。

刀単発ソードスキル『辻風(つじかぜ)』。それはキリトではなく案の定オルガに突っ込んでくるが、キリトはそれを先読みして片手剣単発突撃技『レイジスパイク』で絶空を弾いた。重い。センチネルなんかと違う圧倒的な重さ。しかし弾ききり、キリトとコボルトロードは鏡で映したように同時にノックバックが発生する。

 

「スイッチィッ!」

 

キリトの声と共にアスナが走り込むが、コボルトロードはまだ完全に硬直状態に入っておらずノダチを無理矢理振り下ろした。

それはアスナの被っていたフードからケープを思い切り切り裂いたが、アスナはそれでも止まらず再度リニアーを発動させた。

 

「せえええあああああああっ!」

 

勢いよく放たれたリニアーはコボルトロードの腹部に命中し、コボルトロードをそのままノックバックさせた。

キリトは座り込んだまま、ケープが破れて露わになったアスナの素顔を見て思わず見とれていたが、すぐに我に返って立ち上がった。

 

「次来るぞ!」

 

次も、次もとコボルトロードの放つ斬撃をキリトは的確に攻撃パターンを呼んで防ぎ続ける。

そしてまたノダチがライトエフェクトに包まれ、ソードスキルが放たれる。キリトはソードスキル、バーチカルで受けに向かった。

(しまった……)

コボルトロードの発動したソードスキル幻月(ざんげつ)は同じモーションでありながら上下ランダムに発動するのだ。キリトは細かな動きからその幻月は下だと判断してバーチカルを発動したのだ。しかし、キリトの予想は外れてコボルトロードのフェイントが発動し、キリトのバーチカルは空振りし、コボルトロードのソードスキルはキリトに直撃──

 

「団員を守んのは……ッ!俺の仕事だ!」

 

する前に、飛び出したオルガが持っている剣で武器防御では無いソードスキルを発動させ、無理矢理ソードスキルを受け切る。その影響でそのまま吹っ飛んでいき、キリトを巻き込んで派手に転んだ。

それだけでなく、吹っ飛んだ影響でキリトが突っ込んでくるアスナともぶつかり体制を崩して三人揃って転んでしまった。

 

「オルガ!」

「こんくれぇなんてこたぁねえ……」

 

オルガはそうやって強がって見せるが、オルガのHPバーは既にレッドゲージへと下がっており、次に攻撃を食らえば本当に死んでしまう所だった。先程回復したばかりのオルガからすれば相当痛手だろうがオルガはもう一度ポーションを使おうと腰のポーションを探すがそこにポーションは無かった。先程使ってしまったのか、弾かれた衝撃で砕けてしまったのか分からないがこれではアイテム欄から出すしかなくなり、手間がかかる。

目の前にいるコボルトロードは、そんな時間なんて与えないと言わんばかりにノダチを振り上げる。そして、顔が少し笑ったように見えた瞬間キリトたちに向けて勢いよくノダチを振り下ろす。

アスナが細剣を構えて防ごうとするが、それは最早防ぐことも出来ないただの足搔きでしかなかった。

 

「くっ……」

「でええええええええりゃああああああっ!」

 

赤いライトエフェクトを纏って振り下ろされるノダチ、恐らくディアベルを殺したソードスキル、緋扇だ。一足早く立ち上がったオルガが雄叫びを上げてソードスキルを発動させる。しかしそれはコボルトロードにすら届かない、弱々しいソードスキルだった。コボルトロードは一撃をオルガに当てようと刀を微調整する。

そんな事を思った途端、緑色のライトエフェクトを纏った両手斧がコボルトロードのノダチを弾き飛ばした。大きなインパクトがボス部屋に響き渡った。ソードスキル、ワールウインド。両手斧の基本的なソードスキルだが、両手斧という重い武器を簡単に扱い、パリィをした。

 

「うおおおっ!」

「負けてられっかーっ!」

「回復するまで、俺たちで支えるぜ!」

 

コボルトロードをノックバックさせ、キリトたちの回復のための時間を稼ぐと宣言した男。

スキンヘッドにチョコレート色の肌。そして無骨な装備をしている身長2m大で嫌でも目立つその姿は、エギルだった。

 

「アンタ……」

「すまねえ、恩に着る!」

 

オルガは急いでアイテム欄からポーションを取り出し、蓋を空けて飲み干す。

キリトたちもポーションを取り出して飲み始める……が、エギルたちの隊は思ったよりも頼りなく、総攻撃を仕掛けてもすぐに弾き飛ばされていた。

コボルトロードは勢いよく飛びあがり、ノダチにまたライトエフェクトを纏わせてからエギルに狙いを澄ましてから振り下ろす。

 

「ヒィィィ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬーっ!」

 

エギルの隊のメンバーが1人悲鳴を上げたが、オルガだけはニヤリと笑った。

 

「死なねえ!死ねるかよこんなところで!

……だろ?ミカァッ!」

 

オルガが三日月の名を呼ぶと、キリトやアスナたちと連携もせずにただこっそりと隠れてヘイトを完全にゼロにしていた三日月が地面から現れたように飛び立った。

仕掛けは単純、キリトたちの連携に着目しているプレイヤーたちの後ろにひっそりと隠れているだけ。

ヘイトがゼロになったタイミングで地を滑るように走り出す、その単純な仕掛けで三日月は飛び出してきた。

 

先程コボルトロードが投げ捨てた斧を両手で掴む。当然ボスが使っていた武器なので重く、相当な筋力値を必要とする。勿論第一層では不可能なレベルの重さだ。三日月が持ち上げられるはずがない。

 

「もっとよこせ...お前の全部!」

 

かつて自分と同じ運命を辿った愛機が記憶から引き出される。白い装甲を身にまとったガンダムフレームのモビルスーツ。三日月の、そして鉄華団の象徴。ガンダムバルバトス。それはもっと重くもっと大きな武器まるで自分の手足のように扱っていた。現在はバルバトスを操るときに使ったあの突起──阿頼耶識は驚く程に小さくなっている。しかしそこに神経が集まっているのは間違いではない。そこに意識を集中させる。バルバトスをいつだって感じる。形がなくなってしまった今でもすぐ近くに感じる。視界が段々開けてくる。

 

「───ッ!!」

 

小さい声で喘ぎながら三日月は斧を持ち上げる。その時の三日月の目に緑のカラーがかかる。まるでバルバトスに近づいたように。そのままコボルトロードに投げつけるように叩きつけたその一撃。その瞬間

三日月の肩口にもコボルトロードの攻撃が当たり、三日月は左腕を切り裂かれるがコボルトロードを地面に叩きつけることに成功した。

 

「うん―デカすぎるけど、よかった。」

 

三日月が斧を叩きつけた衝撃でコボルトロードは倒れ伏し、とうとうHPバーがあとわずかになる。三日月も力の限界を迎えたのか膝から崩れ落ちる。オルガがスライディングをするようにその小さな身体を担いで逃げる。

 

「……アスナ!最後の攻撃、一緒に頼む!」

 

オルガを視界の端に捉えながら、回復し終えたキリトがアスナと共に走り込み、お互いの剣にライトエフェクトを纏わせて突撃した。

コボルトロードのソードスキルをキリトが弾き、アスナがリニアー、そして最後にキリトがバーチカル。

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」

 

二人の揃った声が連携を生み出し、コボルトロードの腹を切り裂くが、コボルトロードは僅かにニヤリと笑い、AIながらも勝利を確信した。

数ドットのみ、HPバーが残っていた。

 

「おおおおおおおおああああああああああああああああああああああっ!」

 

しかし、そんなことはキリトにとっては想定済みだったのか、はたまた偶然の産物だったのか。

キリトの放ったソードスキルはバーチカルではなく、2連撃技の『バーチカル・アーク』だった。

斜め上へと刃が通る。巨大なコボルトロードの皮膚を切り、肩に抜けた。

コボルトロードは空中に打ち上げられ、青い光と共にガラスのように砕け散ってポリゴンとなって消えた。

 

「……鉄華団。」

「は?」

「俺たちF隊の新しい呼び名だ。こんなダセえ名前じゃイマイチ示しがつかねえからな」

 

オルガはキリトとアスナの連携を見届けながら呟き、かつて前世で三日月と共に駆けた時の組織の名前をまた名乗ることを決意した。

 

そして、ボス部屋は急に音を失った。コボルトロードがタルワールではなく、刀だったことはみんな予想外だったのだ。つまりまだβテストと違う点があるかもしれないのだ。トクントクンと何かがなる。先程は終わったと確信していたオルガも槍を構え直して視線を配るその中で唯一三日月だけが、巣立ちの状態になった。

 

すると何処からか音が鳴った。プレイヤー達はより一層警戒心を高める。するとそこにはcongratulation! と言うポップアップメッセージが来ていた。共にコボルトロードからドロップしたアイテム、コルなどがプレイヤーたちの元に届く。

 

「や……やったああああああああああああああ!」

 

安堵したプレイヤーから歓声が弾ける。

キリトにはラストアタック・ボーナスとしてレアアイテムが添付されていた。

明るかった部屋も少し暗くなり、適度な明るさへと戻っていた。キリトも荒い呼吸を押さえて添付されたアイテムを確認していた。

『コートオブミッドナイト』。イルファング・ザ・コボルトロードからのラストアタック・ボーナスアイテムだった。

 

「お疲れ様」

「見事な剣技だった、コングラチュレーション。この勝利はアンタのものだ。」

「カッコよかったよ、キリト」

「ああ、最高にイカしてたぜお前ら」

「いや、まぁ……」

 

キリトが謙遜していると、周囲のプレイヤーからも称賛の声が上がってがやがやワイワイ、とキリトだけでなくオルガや三日月を称賛する声も上がっている中。

その賑やかな称賛や喜びを断ち切るように、1人のプレイヤーが大声で叫んだ。

 

「―ッ、なんでやっ!」

 

よく通る関西弁で大声を上げた人物、それはキバオウだった。

 

「なんでぇっ、なんでディアベルはんを見殺しにしたんやぁっ……」

「見殺し?」

 

キバオウがキリトに向けて言った言葉はあまりにも意味不明で、キリトは首を傾げるだけだった。しかしキバオウはそんなキリトの対応に腹をたててより一層声が強くなる。

 

「そうやろがぁっ!ジブンはボスの使う技知っとったやないか!最初ッからあの情報伝えときゃ、ディアベルはんは死なずにすんだやないか!」

 

キバオウの視点から見たありのままのこと、それはオルガも言っていた通り物事を一面だけからしか見ていなかった意見。

しかし、筋も通っているこの意見は周囲のプレイヤーたちを納得させるには十分であり、先ほどまで称賛をしていたプレイヤーたちはキリトへ疑惑の目を向けていた。

 

「き、きっとアイツ!元βテスターだ!だからボスの攻撃パターンも知ってたんだ、知ってて隠してたんだ!他にもいるんだろ!βテスターども!出て来いよぉっ!」

 

涙ぐんだ目で訴えかけてくるキバオウと、その隣のプレイヤー。その声のせいで他のプレイヤーたちはお互いに疑い合い、疑心暗鬼となっていた。

 

「……なぁキバオウさんよ。」

「なんや!」

「アンタはやっぱり物事を一面だけからしか見てねぇ。自分の知っていることだけで、物事を全部語っちまう」

 

オルガはキバオウの前にたち、キバオウを見下しながら言った。前回と違い、オルガのガタイのいい姿をキバオウに見せつけたが流石に死人が出ている状態でビビりはしなかった。それほど許せなかったのだろう。これではまたエギルが出てきても止まらない。

 

「ディアベルを殺したのは、アンタつっても過言じゃあないんだぜ」

「な、なに言うとんねんおどれぇ!ディアベルはん死んだんは、あのβテスターが情報隠しとったからやないか!」

「いいや、それは違うな。キリトは確かに刀を使ってくる攻撃についてはよく知ってたけどよ……ボスの武器が急激に変わったことについてなんざ、知ってなかったぜ。

そうでなきゃ、わざわざ土壇場で情報を伝えたりなんてしたりはしねえだろ。それにな……アンタが攻略会議の時、βテスターが出て来たら袋叩きにするって意思みてえなのを周りに根付かせちまった。そのせいで、キリトは抑圧されて名乗ってから情報提供だって出来たかもしれねえのにな……」

 

オルガはかつて自分を支配していた大人達を再び見るような冷酷な目をしてキバオウを見つめていた。SAOというデスゲームに巻き込まれていつの間にか道を踏み外した男を。

 

「な、ななな……いや、だってあのβ上がりの奴が……ワイは……ワイは悪く……」

 

キバオウは自分のしでかしたこと、として周りにも知られていることを思い出して頭を抱え始めた。

 

「もういいよ、喋らなくて。面倒だし……」

 

三日月はブツブツ独り言を言って頭を抱え続けるキバオウを背にし、そのままキリトの元へ歩き出した。

 

「ねえキリト、次はどうすればいい?」

「ああ……次は転移門の有効化(アクティベート)だ……けど、今はこの状況をどうにかしなきゃならない」

 

キリトは下唇を噛んで後悔していた。

「製品版ならβテストの時と違うことがあるだろう」。その一言を言うだけで攻略会議でボスのスキルを予測することが出来た。

ディアベルの視野が狭まることもなくなり、キバオウのβテスターへの偏見もなくなっていたかもしれない。

オルガや三日月たちにこんな風に迷惑をかけることもなかったのかもしれない、と。

 

「……ったく、仕方ねえな。」

 

オルガはダン、と床を踏み鳴らした。

 

「お前ら、よく聞け。ディアベルが死んだ以上、次の頭ってのがいなきゃあこの攻略組は破綻しちまう。だからよ、その頭ってのは俺がやってやる。攻略のための組織として―俺、キリト、ミカ、アスナの4人で組む『鉄華団』を中心としてな。っつーことで、お前らはこれから俺たちの支持下で戦うか、ここを抜けて第1層で引きこもってるか自由に選べ」

 

オルガはドスの利いた声かつ冷酷にプレイヤーたちを見下しながら言い放ち、キリトと三日月を引っ張り、4人で固まる姿勢を組みだした。

 

「……なんで私まで?」

「流石に女1人だけ放置ってわけにもいかねえだろ」

(可愛いと思ったから、じゃないんだ)

 

プレイヤーたちはオルガのあっという間の宣言に驚いて、そのままお互いに相談し合って騒めき出していた。

一先ずの状況をなんとかしたオルガは、ギルド作成をしようとした。しかし、そう言えばオルガはギルドというものはキリトから教わってはいたものの、作り方は教わっていなかった。

 

「...わりぃオルガ。ギルドを作れるのは第三層からなんだ。そこまでパーティーって事で...」

「...くぅ...」

 

オルガは先程はあれだけ威勢が良かったというのに急に弱々しい声を出した。

しかし三日月が鋭い視線を送った瞬間にわざとらしい咳払いをして軽く手を振る。

 

「そうか。分かった。さてと……キリト、これで第2層に行けるんだろ?だったら行こうぜ。」

 

オルガは振り返り、キリトに先へ行くぞ、と首で指し示した。

 

「待って」

 

オルガに続いて階段を登ろうとするキリトと三日月を、アスナは呼び止めた。

 

「どしたぁ?」

「さっき戦闘中に私の名前呼んだでしょ」

「……呼び捨てにしてごめん。それとも、読み方違った?」

「どこで知ったのよ、私の名前。」

 

アスナが三人を問い詰めると、三日月は左上の自分のHPゲージが表示してある部分に人差し指をスッ、と指した。

オルガも三日月と同じ部分を、ススッ、と指して何度も見るように促していた。

 

「……この辺に、自分の以外に追加でHPゲージが見えるだろ?その下に何か書いてあるか?」

「え?えーと...」

「顔を動かしちゃだめ。目だけを動かして」

 

見かねた三日月がアスナの頬に触れて支える。距離も近い上にこのポーズだ。ここだけを切り取られればあらぬ疑いをかけられかねない。それをいち早く理解したオルガは「ミカお前...」と呟いたが、いいのか悪いのかそれが誰かの耳に入ることは無かった。

 

 

「キリ……ト、キリト?……オル……ガ、ミカヅキ……これがあなたたちの名前?」

 

アスナは集中して自分のHPゲージが表示してある場所を凝視し、三人の名前を読み上げていた。

そしてキリトたちに名前を尋ね、三日月とオルガは頷きキリトは小さく「ああ」と返すだけだった。

 

「ぷふっ……なぁ~んだ、こんなところにずぅっと書いてあったのね!」

 

アスナは噴き出し、笑いながらキリトたちの名前を見ていた。

オルガもつられて少し笑ってしまい2名は笑いながら、2名はただ黙って第2層へと続く門を開けて先へと進んでいった。

後に、ギルドとなる『鉄華団』は大きく名を轟かせることは皆まだこの時に知る由はなかった。

 




「いい話と悪い話が1つずつあるけどどちらから聞きたい?」
「んじゃいい話から」
「オルガがやっと止まるんじゃねぇぞした」
「(やっとって...)それで悪い話は?」
「ディアベルが死んだ」
「なんでや!(この人でなし!)」

解説
ディアベル
1層ボス戦で呆気なく死ぬプレイヤー。実は結構強かったりする。プログレッシブからの出演だがプログレッシブではキリトの剣を相場より高い値段で買い取り、キリトにラストアタックボーナスを取らせないようにして強くなろうと考えていた。意外と汚い。けど本当は強い。

キバオウ
関西弁ツンツンサボテン頭。キリト達に強くあたるが根はまとも。そう。根はまともなのだ。これは大切。覚えていた方がいい。
悪く言うと理想に生きてる。
実はプログレッシブでは「なんでや!」とは言っていない。言ったのは...アイツと言われているが真意は定かではない。

コボルトロード
第1層のボス。

希望の華(フリージア)
オルガが攻撃を受けて死にかけた時に何故か流れた音楽。
その時は指先から血のような流体を流しながらこう呟いたらしい。「止まるんじゃねぇぞ」と。

ギルド
第3層から作れるパーティの上位互換のようなもの。

コートオブミッドナイト
コボルトロードのラストアタックボーナスでキリトが貰ったもの。結構強くて長い間使っていた。キリトは後に装備を変える時も似たような物にしているのでよく見てないとずっと装備変えてなくね?っとなる。



次は時間が飛びます。(SAO特有の急なスキップ)
オルガは三日月、キリト、アスナと共にギルド『鉄華団』を創立する。それは良くも悪くも前世に引っ張られているオルガと三日月。その先にあるのは希望か絶望かーーー

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