乙女ゲー主人公はヤンデレでした   作:でち公

2 / 15
長くなったので分けます。

スマヌ…スマヌ…ハツトツコウデス……。


Ex.2 傭兵団の日常(前編)

「寒っ……」

 

 ぶるりと身体を震わせるような冷気で目が覚めた。寝ていたベッドから身体を起こし、軽く伸びをする。その際にちらりと横を見てみれば、メテオラがベッドに入り込んできていた挙句に毛布を全て掻っ攫っていた。道理で寒いわけだと思わず苦笑してしまう。

 

 気持ちよくぐっすりと寝ているメテオラを起こさないようにそーっとベッドから離れる。その後軽い身支度を済ませると扉を2つほど潜り抜けて外に出た。

 

 その途端、爆発音やら何かが壊れるような音、挙句に鈍い打撃音が至る所から大音量で流れた。

 

「おー、朝からドンパチ楽しくやってんなあ……」

 

 この傭兵団では毎朝のことである。立地している場所が場所なのでよく魔物が迷い込んでくる。殆どの魔物はこの建物を見ると一目散に逃げ出すのだが、一部の勇敢というか蛮勇を拗らせた魔物が突っ込んでくるのだ。そのため、よくこう言った音は鳴り響いているし、他にも傭兵団に所属しているもの同士で戦ってもいるのだろう。

 

 オルドは今日の飯当番は俺だったな、などと思いながら殆どの仲間がいるであろうこの拠点のエントランスへと向かった。

 

 エントランスに入ると大勢の人間が空を飛んでいた。その姿を見てオルドはまたかと眉間を揉んだ。人が吹き飛ばされているその中心点では乱雑に伸ばされた金色の髪を振り回しながら大暴れしている団長の姿が見えたからだ。

 

「おう、おはようさんオルド」

 

「おう、おはようヴィセミル」

 

 こちらに声をかけてきたのは筋骨隆々の肉体に髭をフルフェイスにしているヴィセミルという男であった。

 

「オルド、早速だが団長を止めてきてくれねえか」

 

「やだよ。つかお前ら何したんだ?」

 

 半目で睨むとヴィセミルはハハハと苦笑いをしながら語り出した。

 

「いやな? 最近ここに来た新人がいただろ? 彼奴が団長に喧嘩を売ってなあ……。で、それに便乗して他の奴らも団長に戦いに行ったんだが……まあ、ご覧の有様だよ」

 

「自業自得じゃねえか」

 

 ピクピクと死んだカエルの様に足を痙攣させている真っ先に叩き潰されたであろう新人の姿を見てため息を吐いた。

 

 新人にはよくあることなのだ。団長は女ということと筋骨隆々の身体ではなく、女性らしい起伏に富んだ柔らかそうな身体をしているため弱いのではないかと勘違いした新人が団長に突撃しては一撃で叩き潰される。全身に走った傷を見れば分かるような気もするが、団長のことだ。大方力を隠して本当に弱いと錯覚させていたのだろう。

 

 こういう事はよくあるためこの拠点のエントランスはちょっとやそっとの攻撃では壊れない頑丈な作りになっているのだ。

 

 どうするかなーとエントランスの2階から未だに投げ飛ばしまくっている団長をヴィセミルと一緒に見ていると不意に団長と目が合った。こちらを見た団長は好戦的な笑みを浮かべた。

 

「今日という今日はぶちのめしてやるからな、ヴィセミル!」

 

「おい、ご指名だぞ」

 

「えっ、なん、なんで俺?」

 

 明らかに狼狽した様子を見せるヴィセミルは此方を縋るように見てきた。

 

「オルド! 頼むっ、団長を落ち着かせてくれ! 何なら俺の秘蔵の酒をやるから!」

 

「……ったく、しゃあねえな」

 

 そう言って懐から琥珀色の酒を差し出してきたヴィセミルから受け取ると団長が佇んでいる1階の方へと向かう。その途中で置いてあったグラスに酒を入れることを忘れずに。

 

 並々と注いだ酒を手に持って、団長の元へと駆け寄ると瞳に六芒星が刻まれている力強い狼のような目で此方を睨みつけられた。

 

「団長」

 

「なんだオルド? お前が俺と━━━━━」

 

「韋駄天のヴィセミル様からの宣戦布告じゃああああっ!!」

 

 並々と注がれた酒を団長の顔目掛けてぶち撒ける。それをモロに食らった団長は顔からぽたぽたと酒を滴らせる。だが、その程度で終わらせる俺ではない。ヴィセミルから貰った酒のボトルを団長の頭の上で逆さにして残っていた中身を全てぶっかけていく。

 

「ヴィセミル様の酒が飲まれへんのか? ええ、おい?」

 

 ここぞとばかりに煽り倒し、最後に空になった酒瓶を団長の手に持たせる。勿論、ヴィセミルと名前が書かれているのがはっきりと分かるように。

 

「おっ、おまっ、オルドォォオオ!? なんて事を……!」

 

「ハハッ、ヴィセミルゥ……」

 

 わなわなと震えながら誰でも見て分かるほどの魔力を全身に滾らせて、しまいには左の瞳から漏れ出た金色の魔力が炎のように噴出される団長と顔が蒼白を通り越して土気色に変色しているヴィセミルの姿を見てそそくさと厨房へと繋がる扉の方へと行く。

 

 扉を閉める直前にヴィセミルの方を見た。

 

「どうせ新人煽ったのお前だろ。団長にボコボコにされてしまえ」

 

「ち、ちくしょおおおおおお!! この裏切り者があああああっ!!」

 

「ヴィセミルゥゥウ!!!」

 

 パタンと扉を閉める直前に見えたのは持っていた空の酒瓶を粉々に握り潰し、ヴィセミルへと飛びかかっていく団長の姿と諦めたような顔で団長から逃げ出そうとしていたヴィセミルの姿だった。

 

 そして今日の朝一番の轟音が拠点中に鳴り響いた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 寸銅鍋で大量の食材を煮込んだり、巨大な肉塊を特製のオーブンで焼いたり、米を炊いたり、パンを焼き上げたりなどとこの団に所属している全員分の食事を用意をしていると不意にでかい影が差し掛かった。

 

 振り向くとそこには白銀の鱗に包まれた全長20mはあろうドラゴンが涎を垂らしながら此方をキラキラとした目で見つめていた。

 

「おはよう、ソル」

 

『おはよー、オルド! 今日の食事当番はオルドなんだね。僕、オルドのご飯美味しいから好き!』

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。でも口はしっかり閉じておこうな」

 

 少年とも少女とも取れるような中性的な声で喋るのは、俺と契約しているドラゴンのソルだ。ソルは今でも随分とデカいがこれでもまだ幼体らしく、子供のような無邪気さがある。

 

 ソルは頭を俺の頬にグリグリと押し付けて甘えてくる。それに対して俺も答えるようにソルの首元に生えているモコモコとした毛をガシガシと撫で付ける。嬉しそうに目を細めてグルルと喉を鳴らすソルに焼き上がっていた肉を一つ近づける。

 

『いいの?』

 

「いいぞ、ただみんなには内緒だからな?」

 

『わーい!』

 

 そう言って喜んで肉を口に頬張るとモグモグと咀嚼していく。

 

『おいしー!』

 

 そう言って尻尾をビタンビタンと床に叩きつけて全身で喜びを表現するソルの姿に思わず笑みが溢れる。それを見たソルは首を傾げた。

 

『どうしたの?』

 

「いんや、ソルはいい子だなと思ってな」

 

『えへへ、僕いい子かな!』

 

「ああ、いい子だとも」

 

 軽く一撫ですると残っていた他の料理を一気に仕上げる。大量に出来上がった料理を腹を空かせているだろう傭兵団の連中が待っている食堂へと運んでいく。

 

『僕も手伝うね!』

 

「おう、ありがとうなソル」

 

 デカい寸銅鍋に紐を通し、口に咥えて持ち上げるソルを後目に残っている料理を全て魔法も駆使して運んでいく。

 

 食堂の扉を開けるとそこには空の容器を手に持っていた傭兵団の連中が行儀良く椅子に座って待ち構えていた。

 

「待ってたぜえ、オルド!」

 

「早くっ、早くオルドの飯を食わせてくれ!」

 

「副長! デザートはあるんですかっ!?」

 

「あるよ」

 

「やったぁ!」

 

 その光景に若干引きつつも、食堂の前に設置されている長机に沢山の料理を並べていく。置いていく料理の数に比例して食堂にいる全員のボルテージが上がっていく。

 

 それらを並べ切ると壁に設置されている音を鳴らす道具に手を掛けるとその音を聞き逃すまいと全員が耳を澄ませて待ち構えていた。そして金属同士がぶつかった時の特有の子気味のいい音が鳴り響いた。

 

「うおおおお! あの肉は俺のだああああっ!!」

 

「させるかぁっ!」

 

「儂はあのチーズがたっぷり乗ったやつを狙うぞ!」

 

「副長特製のデザートは私のよ!」

 

 音が鳴り響いた途端我先にへと集まってくる連中の姿を見てゾンビみたいだなと思いつつ、先に取ってあった料理を団長が座っている席にへと持っていく。

 

「おはよう、団長」

 

「おう、おはよオルド」

 

 朝から大暴れしたから上機嫌な様子の団長を見て苦笑しつつ、先に取り分けていた料理を団長の前に並べていく。

 

 この団の食堂は基本的にビュッフェ形式で食事を取るのだが団長にだけは先にいくつかの料理を持っていくことにしているのだ。というのも団長があの食事争いに突っ込んだら全員が壁に突き刺さる事になるからだ。というか既に一回やっているので、それからは団長にだけは持っていくことが暗黙の了解となっている。

 

「ほら、ソルの分だ」

 

『やった、オルドのご飯だ!』

 

 山盛りに盛られたこんがりと焼き上げられた肉をソル専用のテーブルに置くと勢いよくがっつき始めた。

 

『おいしー!』

 

「そいつは良かった」

 

 元気よく感想を述べるソルに思わず笑顔になりつつ、団長の隣の席に座る。

 

「お前、ソルには甘いよな」

 

「この団の唯一の癒しだからな。そら、甘くなるわ」

 

 持ってきた料理のうちの土鍋の蓋を開けると巨大なブロック肉が目立つ野菜たっぷりのビーフシチューがほかほかと湯気を立てながら出てきた。

 

「お、これかあ……俺の好物じゃねえか。随分と気が利くな」

 

「ゴリラに食堂で暴れられたらこま━━━━━」

 

 強烈な打撃音が食堂の中に響き渡った。

 

「何か言ったか馬鹿弟子」

 

「いえ、なんでもないです師匠……」

 

 鳴り響いた打撃音に何事かと食堂にいる全員の目線が集中したが、呻き声を上げながら頭を抑えるオルドの姿にいつものことかと納得し食事を再開した。

 

「そういやオプティマ共和国から依頼が来てたぞ」

 

「どんな依頼?」

 

「ニスフィム連峰に住むブラックモアドラゴンの討伐だとよ」

 

 そう言いながら団長はビーフシチューに入っていた巨大なブロック肉をフォークで突き刺してがぶりとかぶりつく。

 

「メテオラを派遣すれば良くねーか?」

 

「んぐっ、それがだな。オプティマ共和国の冒険者組合の連中と合同だそうだ」

 

「はぁん? 冒険者組合とか畑違いもいい所だろ」

 

 冒険者組合と傭兵団、この2つは似ているようでかなり異なる。そもそも冒険者組合とはその名が指すとおり冒険者達を統括する組織なのだが、その組織が主に担当するのは探索や採取などだ。勿論探索中に魔物と遭遇する可能性はあるため戦うことはあるだろうが、逆に言えば冒険者はそのぐらいしか戦うことがない。

 

 反対に傭兵団は戦闘が主な仕事となる。魔物の討伐から盗賊団の掃討、団によっては国同士の戦争に介入する所もある。まあ、この団は少々特殊な事情があるので戦争への介入は禁じられているが……。

 

 荒事は傭兵団、その他は冒険者組合へ等と言われるくらいにはきっちりと線引きがされている。が、今回の依頼はどういう訳か傭兵団の仕事の領域に冒険者組合の連中が出しゃばって来ることになる。

 

「ま、それもそうだが、お前も一緒にメテオラと行ってこい」

 

「えー? 黒蜥蜴如きでメテオラとバディ組む必要なくね?」

 

 そんな話をしていると丁度メテオラがこんもりと盛られた料理を持ってこちらにやってきた。

 

「何の話をしているのですか?」

 

「いいところに来たな、メテオラ」

 

 メテオラはこんもりと盛られた料理達をテーブルに置くとオルドの横の席に座った。

 

「で、何の話ですか?」

 

「ニスフィム連峰のブラックモアドラゴンをオプティマ共和国の冒険者組合の連中と合同討伐の依頼だとよ」

 

「おう、その依頼をオルドとメテオラの二人でやってもらおうと思ってな」

 

 団長は口の端に付着したビーフシチューを親指で拭い、それをペロリと舐めとる。

 

「まあ、俺の予想だが大方うちの団の連中の引き抜きでもしたいんだろうよ。若しくは繋がりを作るために冒険者連中と合同で討伐に当たらせるのか」

 

「あー、確かにそれはありえそうっすね。うちの団は別に引き抜きは禁止してないからなあ……」

 

「そう言えばメテオラ、オプティマ共和国の冒険者組合が討伐依頼にも手を出し始めたって聞きました」

 

 ビーフシチューを食べきった団長は、今度はローストビーフの塊にフォークを突き刺して丸ごとかぶりついていく。

 

「ま、そう考えると十中八九引き抜き目的だろうな。……これ美味いな、おいオルド。今日の晩飯もこれ作れ」

 

「あいよー。で、どうするよ?」

 

「報酬自体は美味いし、別に受けても構わねえよ。というかあれだ。お前らで黒蜥蜴を本気で潰しに行ってこい」

 

「あ、そういうことですね。メテオラばっちり理解しました。協力する暇もなくぶち転がせばいいのですね」

 

 そう言ったメテオラの言葉で団長が何を言いたいのか理解出来た。

 

「すぐに殺せば協力もクソもねえから冒険者連中を使った繋がりは期待出来ねえのか。でもそれだと引き抜きの方が酷くなるんじゃねーか?」

 

「そこについてはお前らの裁量次第だ。あ、オルドは駄目だからな?」

 

「分かってるっての。団長がいる限りこの団を離れることはねえよ」

 

「ふん、ならいい」

 

 そう言って団長は鼻を鳴らすと他の料理に手を付けていく。それを見て俺も自分で作った料理を食べ始める。

 

「むむむ、やはり団長は強敵ですね。メテオラ、嫉妬の炎がメラメラと燃え盛ります」

 

「何言ってんだ手前は。おい、オルド。お前明日オプティマ共和国に向かうだろ? だったら今日は俺と一戦やるぞ」

 

「了解でーす。今日という今日は団長の顔を地面に叩きつけてやるわ!」

 

 その後、飯を食べきった二人は近くにある開けた土地で戦い、数時間後には上半身が地面に埋まっているオルドの姿が見つかったとのことだった。




団長:フィジカルお化けゴリラ。オルドにあらゆる戦闘技能を叩き込んだゴリラ作成EXの持ち主。お前もゴリラだ(ゴリパン)

副長:犬神家。傭兵団では唯一まともな料理を作れるヤツ。具体的に言うなら他が丸焼きしか作れない中、一人モンハンの猫飯を作ってくるようなやつ。

相棒:人のベッドに潜り込んできた上に毛布を全て掻っ攫っていたやつ。

韋駄天:天井に突き刺さってる。

ドラゴン:オルドに凄く可愛がられてる。

メテオラ回とか言ってたのに全然出てこなくって本当にすまない……。

スマヌ…スマヌ…シッソウシマス…。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。