ソードアート・オンライン クリムゾン・クロス   作:サイパンマン

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第10話【誤算】

2022年12月9日

 

 

昨晩、アスナの部屋にたどり着いた俺はアスナの保有するアイテムを全てオブジェクト化する事により、ネズハのストレージにあったであろう《ウインド・フルーレ》を取り戻す事ができた。

しかしアスナの部屋に突入し、あまつさえ彼女の持つ全てのアイテムをひっ散らかした俺は当然のように彼女の怒りを買った。

だが、事情を説明し彼女の愛剣を取り戻した事によってギリギリ許してもらえたのであった。

もしカムイと俺の推測が外れていたら、と肝を冷やした。

 

その後、正当な武器強化において破壊ペナルティが存在しない事、鍛治師ネズハが詐欺紛いのような事をしているであろう事、そしてそれをカムイと共に推測した事をアスナに伝えた。

アスナは俺が説明し終えるまで静かに聞き、わずかに間を置いてから微笑を浮かべた。

 

「――そっか、カムイ君と会ったんだね」

 

まさか、そっちに反応するとは思いもよらなかったため俺は気まずく頬を掻く。

 

確かに第一層のフロアボス戦後、俺はカムイに対して酷い侮蔑を告げた。

それでもアイツの態度はそんな事無かったような今まで通りの感じであった。

俺は正直、それに安心してしまったのだ。

 

その後、アスナと第二層のフロアボスが扱う阻害(デバフ)スキル《ナミング・デトネーション》の話になった。

第二層のフロアボスは決して強いわけでは無いが行動不能(スタン)阻害(デバフ)を扱うため厄介なのだ。

迷宮区のMobも同系統のスキル《ナミング》を扱うため、その対処のタイミングを彼女にレクチャーすることなった。

その結果、本日もまたアスナとのコンビ続行である。

 

俺とアスナは先日到達した第二層の迷宮区に向かう前に町の道具屋に訪れていた。阻害(デバフ)対策のため治療ポーションを購入するのである。

 

「……ん?」

 

俺は道具屋の販売欄を見て思わず反応する。

 

「どうしたの?」

 

首を傾げて考え込む俺を見てアスナは尋ねてきた。

 

「バフポーションなんて、第二層には無いはずじゃ……」

 

俺は販売欄の一つに置かれていたアイテムに驚いた。

バフポーションとは、飲む事により一定時間の間、特殊な効果を得られるアイテムである。

このバフポーションの説明欄を見ると行動不能(スタン)耐性アップのポーションであるようだ。

魔法の存在しないSAOにおいて阻害(デバフ)への対抗措置は装備の耐性強化か、ポーションによる強化(バフ)の二択しか存在しないのだ。

その両者が困難である現段階でのフロアボス戦はかなり難しいモノとなると予測されていたが、このバフポーションがあれば一気に難易度は下がるだろう。

しかし、この道具屋でも在庫数は7個となっているため連結(レイド)パーティの需要を満たすことは難しいようだ。

 

「キリト君、これ、PMって書いてあるけど、どういう意味?」

 

「なんだって!?」

 

アスナも同様のアイテムの説明欄を見て、俺に尋ねてきた。

俺はそれを聞いてさらに驚いた。

 

「ど、どうしたのよ?」

 

「アスナ、PMっていうのはプレイヤーメイドの略なんだ。つまり、このバフポーションはプレイヤーの誰かが作ったモノって事だ!」

 

「そうなのね」

 

俺が驚いている意味が理解できていないようである。それも当然だ。必要なアイテムと《調合》スキルがある程度の熟練度があればポーションを作るのは容易い。

だが、このバフポーションは異常だ。

 

「よく聞いてくれアスナ。この行動不能(スタン)耐性のバフポーションの素材になる《フラウムの花弁》は第六層より上じゃないと存在しないんだ」

 

「ろ、六層!?」

 

ようやく俺が驚いている意味を理解したアスナである。

そもそもバフポーション自体が店売りされるようになったのも六層か七層の記憶である俺にとって、このタイミングでこのアイテムが出てくるのは衝撃的である。

 

「じゃ、じゃあ誰がこれを作ったの?」

 

「……わからない。《鑑定》スキルを上げてるヤツがいればわかるんだろうけど、少なくとも最前線でそんなスキルを上げてるプレイヤーは一人もいないだろうし……」

 

うーん、といった感じでその場で考え込む二人であったがアスナが「使える物はありがたく頂戴しましょ」と言って2人で2個ずつ購入したのであった。

これは余談だが、治療ポーションの倍近い値段のするバフポーションを俺は奢らされたのであった。

 

 

その後、俺は素早くアルゴにメッセージをうった。

 

『道具屋で行動不能(スタン)耐性のバフポーションが売られていた。この作成者を調べられないか?』

 

と送ったところ、すぐさま返信がきた。

 

『今、最前線のプレイヤーの何人かの中じゃその話題で持ちきりサ。調べては見るけどあんまり期待するなヨ』

 

と意外にも自信なさげな返事が返ってきた。

とりあえず俺はメッセージ欄を閉じ、この件は保留としてアスナと共に迷宮区を目指した。

 

 

 

 

「いやーん!不潔よっ!!」

 

ラヴの目の前に対峙するモンスター《レッサートーラス・ストライカー》はミノタウルス系統のMobである。

そしてその格好は牛頭を除けば腰に布を巻いただけのマッチョである。

てっきりそういう系もラヴのストライクゾーンであるのかと思ったが、どうやらお気に召さなかったようで、主武装の戦斧をフルスイングし、ミノタウルスを吹き飛ばした。

因みに、ラヴのビルドは全てのポイントを筋力値に捧げた究極の脳筋であるため、巨漢のミノタウルスが迷宮区の壁まで吹き飛び消滅する様は、無双系のゲームか何かだと勘違いしてしまう。

まあその反面、基本の動きが遅く手数という概念が存在しないため、一撃必殺か周りのプレイヤーのサポートが必須という偏った戦闘スタイルである。

 

「迷宮区デートも楽しいわね、カムイちゃん」

 

「……ちゃん付けはやめろと、何回も――」

 

「あら?プレイヤー達がいるわ!」

 

俺が文句言おうとしたが、それを前方をじーっと見ていたラヴの一言が遮る。

俺もラヴの指差す方を見ると、キバオウ達数人のパーティが安全地帯であろう場所で休憩しているのであった。

俺たちもその安全地帯に向けて歩いた。

 

「あ!アイツ!」

 

キバオウのパーティメンバーの一人、フードをかぶっていて素顔を見えない男だが、そいつが安全地帯に入った俺を指差した。

確か第一層でキリトや俺を糾弾しようとした男だったはず。

俺は思わず身構えるが、キバオウはその男の動きを手で制してこちらに歩いてきた。

 

「今度はまた随分変わった相棒連れてるやないか」

 

キバオウもまた俺に対して不満を抱いているのかと思ったが、その表情からは特にそんな様子が見受けられなかった。

 

「ああ、変なやつだよ。この先はもう誰か行ってるのか?」

 

俺は軽く答えて、聞きたかった質問をキバオウに告げた。

 

「あー、レジェンドブレイブス?やったけか。アイツらが先行っとるってのは聞いたわ」

 

またしても意外に、素直に答えてくれたキバオウ。なんだろう垢抜けたな。

俺の表情を見て、心情を察したのかキバオウは視線をずらし頭を掻いた。

 

「……正直、あんさんらを認めることはできん。それでもあんさんらにはあんさんらの、ワイにはワイのやり方があるやろな。きっとそういう事何やろ、ディアベルはんが望んどったんは……」

 

静かにキバオウはそう語った。

あんさんらに誰が含まれるのかは察することができた。

あの時、第一層のボス部屋で彼もまた何かを感じたのかもしれない。

確かにキバオウがβテスターへの不満を会議で持ち出さなければ、キリトがビーターなどと呼ばれるまでにはならなかったのかもしれない。

 

それでもこの問題に直接触れたキバオウを否定する気には俺にはどうしてもならない。

ニュービーの死の原因の一つは間違いなく俺達βテスターの行動なのだから。

 

「……キバオウ」

 

「……なんや?」

 

フロアボス会議という場で感情をぶつけていた彼とはもう違う。

だからこそ俺は――

 

「フレンド登録、しないか?」

 

「なんでや」

 

この提案は俺自身キバオウというプレイヤーへの尊敬の意味を込めたものである。

と同時に打算的な要素も含まれていた。

 

俺とラヴは件の強化詐欺のトリックを明らかにしたのちに、その一件を公表するつもりだ。

もし公表すれば、例の鍛冶師とその一派は報復を受ける事は避けられないだろう。

しかし、キバオウのような既に最前線で一定の地位を持っているプレイヤーの力を借りれば、ある程度の落とし所を見つけることができるかもしれない。

そう言った事を考慮に入れた上での提案であった。

 

 

 

 

時刻は夕方、オイラは第一層の《はじまりの街》の飲食店にいた。

とあるプレイヤーとの待ち合わせである。

 

「すまない、待たせたね。アルゴ君」

 

「イヤ、急なお願いを依頼したのはコッチだから、気にしてないサ」

 

オイラの前に現れたのは紅のローブをまとった灰色のオールバックから一房垂れた髪の毛が特徴の男性プレイヤーだ。

 

「さっそくだケド、コレが見てもらいたい品ダヨ」

 

オイラは調査依頼を受けたアイテム、行動不能(スタン)耐性の《バフポーション》を彼の前でオブジェクト化した。

 

それを見た瞬間、冷静沈着を保っていた目の前のプレイヤーは目を見開く。

 

「……驚いたな。こんなに早くバフポーションが出てくるとは……」

 

「やっぱ、そうだよナー」

 

一番期待していた相手であるため、その驚いた様子に僅かばかりガッカリしてしまう。

正直、最前線にいるプレイヤー以外でこんな事が出来てしまいそうなのは、オイラの知る限りじゃこの人ぐらいかと思ったが。

 

「……一つ借りても構わないだろうか?知り合いに、《鑑定》スキルを上げているプレイヤーがいるのでね」

 

オイラは男のまさかの提案に驚くが、すぐさま返した。

 

「構わないヨ、けど結果が分かったら直ぐに教えて貰うってのが条件だけどネ」

 

「無論だ、すぐに連絡する事を約束しよう」

 

これはいいネタが期待できそうだ、と思わず笑みを浮かべる。

目の前のプレイヤーがポーションを見た瞬間から雰囲気が変わったことに気づくことが無かった。

 

 

 

 

「あー、楽しかったわー」

 

迷宮区から戻り街に入った瞬間のラヴの第一声である。

俺は今日何度目ともなる苦言を呈する。

 

「……言っておくが、楽しいか楽しくないかでやってるわけじゃ無いからな」

 

「んもうっ、これでもわきまえてるつもりよ。それに何事も楽しむ方がいいじゃない?」

 

わかっているのか、わかっていないのか。俺は一つため息を吐いた。

ラヴはやる事はやっているのだ、咎める必要は無いのかもしれない。

 

それより、今日迷宮区にいって実際に彼ら《レジェンド・ブレイブス》の動きを間近に見れたのは収穫であった。

ピカピカの武装で固めてあった5人であるが、戦闘の技術、パーティとしての連携、そしておそらくレベルも装備の質とまるっきり見合っていないのは明らかである。

彼らの武具が強化詐欺によってハイペースで鍛えられているのは明らかであった。

後はもうそのトリックを解くだけだが、強化中にどうやれば武器をすり替えられるのかが一向に思い当たらない。

よもや実際に強化を依頼する以外に選択肢は無くなってきたと思った。

 

「さて、明日はどうしましょうか?」

 

ラヴはウキウキしながら俺に尋ねてきた。

何がそんなに楽しいのか疑問に思うが、俺は明日の動きを考える。

キリトとアスナに意見を尋ねるか、アルゴに依頼した情報について尋ねるか、ぐらいしか思いつかない。

そんな事を考えているとメッセージの受診が表示される。

俺はラヴに断りを入れてメッセージを確認する。

送り主はアルゴであった。丁度いいと思い中身を確認するが思いもよらぬ内容であった。

 

『お前に会いたいというプレイヤーがいるんだが、会う気はあるカ?ちなみに――』

 

あまりにも突拍子もない提案である。

ここまでを読んだ段階では、俺は断ろうと思っていたのだが、先の一文で断れない状況に立たされた。

 

『バフポーションの事を詳しく聞かせて欲しいそうダ。オネーさんも詳しく知りたいナ』

 

 

 

バフポーション。

本来、この層では絶対にありえないアイテムを生み出し、NPCに販売を委託したのは紛れもなく俺だ。

ポーション作成に必要な《調合》自体は第一層の時から上げていた。

 

その理由は単純である。

このゲームがデスゲームだからだ。

 

どれだけ強い剣を持とうが、どれだけ硬い防具を身につけようが、一度HPが全損すればお終いである。

しかし、HPゲージに直接干渉できるポーションを作れる《調合》スキルは、他者を救う事を命題としている俺にとっては必要な事であった。

そのため、空いている時間があればポーション作成に勤しんでいた俺の《調合》は中々の熟練度に達していた。

 

しかし、俺にはこのポーションの作成者である事がバレたくはない理由があった。

それはこのポーションで俺は、まとまった金を稼ごうとしているからである。

 

あるプレイヤーと第一層で出会った事によってポーションの量産体制は整いつつあるが、最前線の一定数に嫌われている俺が売っていると知られればポーションを買う物は減るだろう。

何より、現状存在するはずがないアイテムであるためビーター論争が再燃されるのは本意ではない。

 

 

だからこそ、バフポーションの件は俺にとって急所と言える部分なのだ。

 

「すまないラヴ、明日は予定ができてしまった」

 

「えぇー」とブーたれるラヴを無視しアルゴにメッセージを送信する。

 

『時間と場所、そして相手の名前を教えてくれ』

俺がメッセージを送るとすぐざま返事が返ってきたのであった。

 

 

 

 

翌日、午前10時

第一層《はじまりの街》の飲食店

俺はアルゴの後ろを付いて行きながら、その場所にたどり着いた。

 

そこには一人の長身の男性がテーブル席に腰掛けていた。

俺はそこに近づき、これまでにない強い眼光で告げた。

 

「待たせたな、俺がカムイだ」

 

俺の様子にその男は薄く笑みを浮かべながら答えた。

 

「気にする必要は無いさ。そして、私がヒースクリフだ」

 

 

これより長きに渡る因縁が今ここに交錯する。

 


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