杏寿郎兄さんは死なせない   作:社畜にーと

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第弐話 ''死''

 あれから二年の時が経ち、父上が剣を捨てた。なんらかの文書を読みふけっていた所、急に柱を辞めると言い出したそうだ。そしてその数日、母が身罷られた。あまりにも突然の事で、父上は酷く荒れ、涙が止まらなかったそう。

 それから父上から剣技を教わる事はなくなった。父上は酒に溺れ、常に気が立っており、家族間での会話も次第に無くなっていった。

 

「人間の能力は生まれた時から決まってる。才能のある者は極一部。あとは有象無象。何の価値もない塵芥だ!!」

 

 父上の口癖みたいなモンだった。兄さんが何度か稽古をつけてもらうよう父上に頼んでいたが、「剣士など辞めろ」との一点張り。俺の目から見たら父上も兄さんも才能の塊なんだけどな。何が足りないのだろうか。父上の読んだ文書には何が記されていたんだろうか。

 

 兄さんは剣の道を諦めなかった。三巻しかない炎の呼吸の指南書を何度も何度も読み込み、鍛錬を積み重ねていった。

 俺? 俺は諦めたよ。もとより剣の道に興味はない。兄さんは尊敬しているけど同じ道に進もうとは思わない。

 

 

 そして五年後。俺が十五で、兄さんが二十の時に兄さんは柱となった。鬼殺隊を支える立派な柱だ。なんでも十二鬼月を倒したみたいで、その功績が認められたらしい。流石は兄さんだ。本当にすごい。

 

 久しぶりに兄さんが帰ってきた。どうやら柱となった報告を父上にしに来たらしい。とても律儀だ。しなくていいのにって思うのは俺だけだろうか。

 

「柱になったから何だ。くだらん・・・どうでもいい。どうせ大したものにはなれないんだお前も俺も」

 

 父上は息子の顔を見もせずぶっきらぼうにそう返答した。五年経った今も何ら変わりはない。

 

「頑張ろう! 頑張って生きて行こう! 寂しくとも!」

 

 兄さんと千寿郎が抱き合うところを少し離れたところで眺めていた。千寿郎も剣の道を進むそうだ。千寿郎は生まれつき小柄で、剣の道を進むのは難儀しそうだが、誰もそれを止めない。

 

「征寿郎ではないか! 征寿郎も鬼殺隊に入らないか!」

 

 兄さんがこちらに気づいた。鬼殺隊への入隊を勧められるのも何度目だろうか。その度に俺は申し訳無さそうな顔をして断る。兄さんが残念そうな顔をするのも毎度のことだ。何やら兄さんや父上は俺の才能を買っていたそうだけど、今になってそれはもうどうでも良いことか。

 

 

 そして数ヶ月が経った時。煉獄杏寿郎の訃報が家に伝えられた。上弦の参と対峙した後、亡くなられたらしい。信じられなかった。不謹慎な作り話だと自分に言い聞かせていた。上手く息ができない。足取りが重い。あの兄さんが? 誰よりも血のにじむような努力してたんだ。ずっと影で見ていた。弱音を一切吐かず。母上を亡くし、父上があんな状態であるにも関わらずだ。

 

 翌日、葬式が執り行われた。

 頭がぼーっとする。何も考えられない。

 涙を流す俺や千寿郎の隣には、ただ一滴の涙も流していない父上が座っていた。

 

 それから数日、一人のお客が煉獄家に立ち寄った。どうやら兄さんの最期の言葉を伝えに来たらしい。俺が駆けつけた頃には、父上と隊士さんの二人は地面に転がっていた。何があったのかと千寿郎に聞くと、どうやら殴りあったらしい。元柱の父上とお相子とはこの隊士さんなかなか強いな。

 目を覚ますとすごく反省していた。てかめっちゃ顔がげっそりしているけど大丈夫なのか?

 

「あ、いえ、大丈夫です! えと、あなたが征寿郎さん?」

「そうです。さんと付けなくてもいいですよ。えーと、炭治郎君でしたっけ?」

「あ、はい! 竈門炭治郎です!」

 

 とても優しそうな子だ。炭治郎は兄さんの最期を細かく教えてくれた。とても立派な最期だったのか。兄さん本当にすごいなぁ。

 なんで助けなかった、なんて口が裂けても言えない。本当はその場に俺がいなきゃいけなかったんだ。

 炭治郎はヒノカミ神楽や日の呼吸について知りたいらしい。千寿郎は父上がよく読んでいた書物を取りに行った。俺もそれに興味がある。その書物を読んでから父上は変わった。柱を辞め、剣を捨てた。

 

 しかしその書物はずたずたに破られていた。恐らく父上が破いたのだろう。全く読めない。

 

「わざわざ足を運んでいただいたのに、ヒノカミ神楽や父の言っていた日の呼吸について結局何も・・・・・・」

「大丈夫です。自分がやるべきことは分かっていますから。もっと鍛錬します。舞いの手順を知っているヒノカミ神楽ですら俺は使いこなせていないんです」

 

 この人と兄さんの姿が重なった気がした。物事を前向きに捉え、だけども冷静に判断し、熱心に物事を取り組むその姿。この人もすごいなぁ。みんなすごいよ。

 

「足掻くしかない。今の自分ができる精一杯で前に進む。どんなに苦しくても悔しくても」

 

 その言葉を、俺は5年前に聞いていたら何か違っていたのかな。兄さんの背中を追いかけ、俺も鬼殺隊の一員となり、兄さんを守れたのかな。

 

「そして俺は、杏寿郎さんのような強い柱に必ずなります」

 

 何かを決心したような、ふっきれたようなそんな顔だ。真っ直ぐな目をしている。この人にもう少し早く出会っていれば。なんて後悔してももう遅い。

 

「兄には継子がいませんでした。本当なら私が継子となり、柱の控えとして実績を積まなければならなかった」

 

 炭治郎がチラリとこちらを見てきた。何を言いたいのかだいたい察すれる。炭治郎と同い年くらいの俺ではなく、なぜ千寿郎が継子になるべきなのかと。本当にそうだ。何故俺は剣を捨てるといった過ちをおかしたのか。すぐにでもその時の俺をぶん殴ってやりたい。

 

「でも、私の日輪刀は色が変わりませんでした」

 

 千寿郎から涙が零れ落ちる。弟の言葉のひとつひとつが俺の胸に突き刺さる。どれだけ努力しても報われない。煉獄家としての使命。俺が不甲斐ないばっかりに弟の千寿郎に背負わせてしまっていた。

 

「・・・・・・征寿郎さんは継子にならないんですか?」

 

 なんらかの理由があるかもしれない。しかし勇気を持って恐る恐る炭治郎は聞いてくれた。大した理由なんてない、ただの俺の我儘。嫌だ嫌だと辛い道から逃げ続けた結果がこれだ。この際、全てを打ち明かそう。千寿郎にも言っていない。幻滅されるかもしれない。でも俺が悪いんだ。

 

「今からでも間に合います。杏寿郎さんの遺志を継ぎ、繋げていけます。勿論無理にとは言いません。正しいと思う道を進んでください」

 

 炭治郎の言葉は太陽のように暖かい。

 でも、今からでは遅いんだ。もう兄さんは帰ってこない。後悔の念が何度も何度もおれに襲いかかってくる。

 突如、炭治郎は俺を頭突きした。

 

「死んだ生き物は土に還るだけだ! いつまでもべそべそとしたって戻ってこないんだよ! 悔しかったら強くなれ! 杏寿郎さんのように誰を死なせないように強くなれ! どんなに惨めでも恥ずかしくても生きてかなきゃいけないんだ!」

 

 まるで自分に言い聞かしているかのようだった。涙を流し、感情のままに全てを吐き出す炭治郎。

 言葉ひとつひとつに意味が籠っており、俺の胸に突き刺さる。そうだ。後悔してももう遅い。これからどう生きていくかが大事なんだ。失ったものは戻らない。

 決めた。俺は兄さんのようになる。そして、もう誰も死なせない。こんな目に遭う人をなくす。誰も悲しませない。そう心に強く決めた。

 

 炭治郎は帰っていった。

 この場は千寿郎と俺の二人。千寿郎は俺のことをどう思っているのだろうか。自分の我儘で剣を捨てた兄の事を。

 

「私は征寿郎兄さんを全力で支えます」

 

 それだけ言い残し、部屋へと戻って行った。見捨てられていなかった。涙が止まらなかった。頑張ろう。もう、後悔しないように。

 

 

 

 

 

 

 

 




炭治郎の口調がおかしいかも、、、

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