ただの金属片から黄金を生み出す錬金術師。そんな、存在に憧れた一人の青年はある日、偶然とある書物から錬金術のやり方を知る。青年は直ぐ様実行に移すも、その場で意識を失ってしまう。そして、目が覚めると目の前にある一人の少女が現れる――。
これは、錬金術師に憧れた一人の少女(元男)と、そんな少女をこきつかうお転婆王女のお話である。

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お姫様の元で働くためには、圧倒的チートとちっぽけな愛国心が必要なようです

「ついに、見つけたぞ……」

 

 

 

俺はそんなゲーム機を与えられた子供ような溢れんばかりの嬉しさを無意識に口元から溢れ落ちる。

 

そして、それが切っ掛けとなったのか、いつの間にか俺は目の前の少し古びた石の祭壇に置かれたとある書物に向かって走り出していた。

 

あと、一メートル、二メートルと確実に自身がその祭壇に近づいていっているのが感じられているのにも関わらず、それと同時にたくさんの不安も降りかかってくる。もし、自分が本を取る数秒前に誰かに取られたら、と有りもしないことが頭の中で膨らんでいく。そして、そんな不安を打ち消すように走る速さをさらに強め、祭壇に置かれていた書物を少し乱雑に手に取る。

 

その本は何処にでもあるような本であった。表紙にはタイトルと作者の名前がが記入され、裏表紙には自身が所属している国家の国旗が示された普通の本。一つ普通の書物と違う点を挙げるのならばその古さであろうか。縁はボロボロに剥がれ落ち、ページは白蟻に喰われて所々文字が読めなくなっていた。

 

 

 

「なんでこんなものが必要なのかね」

 

 

 

そんな本も右手に持ちながら小さなため息と共に今まで抱えてきた純粋な疑問も口から吐き出す。

 

そして、俺は直ぐ様そんな下らない思いを心の中に封じ込め、石の祭壇の奥に続く洞窟へと足を運ぶ。

 

コツ、コツと普段は気にしないような音が洞窟の壁と反響し、普段の数倍以上の音になって帰ってくる。そんか何故か心地の良い感覚になってから数分後。光が存在しないと思われていた洞窟の奥深くから一筋の輝かしい光が差し込んでくる。

 

突然の光に俺は瞳を狐のように細め、先ほどよりも少し慎重に奥へと歩みを進める。

 

そんな緊迫とした空気に胸をときめかせながら、奥へと進むにつれ徐々に突然現れた光の正体が見えてくる。

 

そこはまるで天国のような場所であった。辺りは草木に囲まれ、小鳥のさえずりはハープのような心地よさを醸し出し、洞窟を流れる地下水はまるで地上の川のように美しく、神々が住んでいると言われても信じてしまうような場所であった。

 

そんな美しく光景に俺は一瞬呆気に取られていたが直ぐに意識を取り戻し、その場所の中心部に向かって歩き出す。

 

一歩、一歩と歩みを進めるごとに何故か現れる正体不明な罪悪感に苛まれながら目線を前の方に移すと、そこには一つの台のような物があった。

 

それは古くから存在したのか回りは草木に覆われ、所々に苔が生えたお世辞にも立派な台と言える物ではなかった。

 

そんな台の前に近づくと俺は自身の右手でしっかりと握りしめていた古びた本をパラパラと捲り、とあるページでその捲っていた手を止めた。

 

そして、俺はそのページを開いたまま目の前にある古ぼけた台にそっと起き、目を閉じて深呼吸を一回する。

 

深呼吸をして少ししたあとに、男は自身が着用していたマントから一つのナイフも取り出し、自身の親指に手を掛ける。

 

その瞬間、男の身体中に熱に似たような激痛が走る。男は一瞬その場にしゃがみこみたい気持ちに駆られたが、もう一方の手で親指を切った腕を無理矢理抑え込む。少し虚ろになった目線の隅には親指から絶え間なく流れ出る赤い血液が映りこむ。そして、そんな血液はやがてゆっくりと指先へと流れてゆき、重さによって徐々にポタポタと垂直に落ちていく。

 

まるでスローモーションのようにゆっくりと落ちていく血液はやがて、真下に設置された古びた書物に付着すし、古びたながらも純白を保っていた書物の一ページが深紅に染め上げられる。

 

その次の瞬間、先ほどまで何の異常もなかった古びた書物から徐々にぼやけた赤色のような煙が出てくる。そして、それとほぼ同時に深紅に染められた薄汚れた紙の上に見たことがない文字で書かれた魔方陣が現れる。魔方陣は時間が経つごと膨張し出し、今では洞窟全てを埋め尽くすような大きさになっていた。

 

そして、魔方陣の光が徐々に強くなっていくと同時に、辺りに漂っていた赤い霧のような物が身体中に入り込んでくるのが感じられた。

 

身体中は理由もなく火照りだし、今までに経験したことが無いような気持ち悪い感覚と途方もないほどの眠気が自身の脳に襲いかかってくる。

 

そして、男はそんな不可思議な気持ちの悪さに堪えきれず洞窟の中では滅多にお目にかかることのできない原っぱの上に転がり込む。

 

 

 

「これで、俺の夢は叶ったんだよなぁ……」

 

 

 

だんだんと意識が朦朧とし出した中、俺は純粋なに言い聞かせるように吐息同然の独り言を呟き、自身の血塗られた右手を胸にかざす。服の下からドクリと心臓の鳴る音が手のひらに規則的に伝わってくる。

 

そして、俺は行き場所のない濁流のように暴れる眠気を抑え込むようにニヤリと笑い、洞窟の隙間から射し込んでいる日光を掴みとるように手を伸ばす。

 

 

 

「必ず俺は幸せになってやる――」

 

 

 

重く閉じかけていたまぶたを無理矢理こじ開けて発した言葉は洞窟に反響し、まるで鏡を見ているような気持ちさせた。

 

そして、そんな心地の良い感覚も相まってか俺は徐々に意識を暗くさせてゆくのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「懐かしい夢を見てたな……」

 

 

 

そんなことを呟きながら、ベッドの上に座り込む少女は自身の手のひらをぼんやりと見つめる。

 

手のひらは先ほど見た夢の中とはうってかわって色白と美しく、しいて同じ部分を言うのであれば親指に付いている切り傷だけであろうか。

 

 

 

「私も色々あったなぁ……」

 

 

 

私は昔の出来事に思いを馳せながら、部屋に取り付けられた窓にへと目線を移す。

 

窓からは晴天の元に広がる西洋風な城下町を観ることが出来る。今は昼時なのか城下町は特に賑わいを強めており、家族連れの人達も多くその国が平和であることを表しているようであった。

 

 

 

「ちょっと、アイラ! 起きてる?」

 

 

 

そんなことをぼんやりと考えていると、扉をノックす?音と共に少し馬鹿そうなふにゃふにゃとした声が聞こえてくる。

 

 

 

「起きてますよ。今から朝食を食べるところです」

 

 

 

そう機械のような返答をしながら大きなあくびを一回する。

 

 

「丁度良かったぁ! お金の貯蓄が切れちゃって……。だから、いつもの"あれ"やってくれない?」

 

 

 

そんなことを言いながら、扉の奥にいたはずの少女が瞳に涙を浮かべながら私の腰に抱きついてくる。

 

 

 

「いや、そんな軽々しく言わないでくださいよ。私がいなかったら財政破綻ルート確定ですよ、これ」

 

 

「だって、皇民の人達が大変そうだったから……」

 

 

 

私がそう呟くと、目の前の少女は申し訳なさそうにもじもじと指を動かす。

 

少女がそんなことをしてから数秒後、私は大きなため息を一回する。そして、「これが最後だからね」と少女に念を押しながら懐からあるものを取り出す。

 

それは、歪な形をしており、色も様々な物を混ぜたのかどす黒い色をしていた。

 

そんな鉛のような金属の塊を私は手に取り、頭の中で一つの文を唱える。――錬成、と。

 

すると、どういう訳か先ほどまで濁流のような模様をしていた金属の塊は神々しい光と共に姿を変えて、いつの間にか金塊に変貌していた。

 

 

 

「次からは気をつけて下さいね。それと、いくら便利だからって、最近出会ったばかりの見知らぬ女を国の財源にしないでください……」

 

 

自身を皮肉るように呟くと、目の前に立つお転婆王女はニコりと笑いながら話しかけてくる。

 

 

 

「大丈夫よ! だって、もう友達でしょ? 通りすがりの錬金術師さん?」

 

 

 

少女はイタズラが成功したいたずらっ子のようにニシシ、と笑みを浮かべて私の部屋から去っていく。

 

私は少女が部屋から出ていったのを確認すると、直ぐ様大きなため息を数回吐き出したあと、自身の部屋に設置されたベランダを使って外に出る。

 

外は春らしい暖かな風が優しく吹いており、自身の荒んだ心を癒してくれるようであった。

 

 

 

「あのお転婆ささえ無ければ、普通に良い王女様なんだけどなぁ」

 

 

ベランダの手すりに肘を乗せながら、愚痴を漏らすように独り言を呟く。すると、それに答えてくれるように、自身の隣に一匹の蝶がピタリと止まる。蝶はあの王女様と同じ美しく銀色の羽を持っており、まるで自分の愚痴に答えてくれているようであった。

 

 

 

「まぁ、あれもあれで王女様の良い所か……」

 

 

 

そう呟いた瞬間、後ろの方から強烈な春風が吹き、自身の着用しているマントが大きく靡く。

 

そして、その風は私の思いを国中に伝えるように遠くまで広がり、木々を大きく靡かせる。

 

 

 

 

「ねぇ、アイラ! なんか、隣の王国から催促状が来たんだけど、どうすれば良い?」

 

 

 

そんな思いに浸っていると、また馴染みの声が白中に響き渡る。

 

 

 

「言ったそばからですか……」

 

 

 

私はそんな少女の声を聞いて、少し迷惑そうに頭を少し掻きながらため息を付く。

 

 

 

 

「まぁ、こんな日々もたまには良いですかね」

 

 

 

私は自身を納得させるように呟くと、無意識のうちに口元に笑みを浮かべながら、自身の助けを待つ少女に向かって走り出すのであった。

 




台風テンションで書いたけど、作者は結構気に入ってます笑笑


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