ロックマンエグゼのフォルテの能力・容姿の現地産オリ主がヒーローになるかもしれないしならないかもしれない、
いやむしろヴィランになるかもしれないしならないかもしれない物語です。

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ヒロアカ世界にて、無個性の婦長(FGOのナイチンゲール)がバーサークしながら人を救うのもアリかもしれない、
そんな作者です。


プロローグ〜一人は一人の為に〜

 

 現代から途方もない時間を遡った遥か過去より、過酷な環境と危険生物が跋扈する地球にヒトという存在が生まれ出でてどれ程の時間が経ったのかと、誰かがふと思考に耽るだろう。

 

 ただ一つ、その時から人は、弱かった。肉を切り裂き命を奪い取る鋭い牙も爪も無く、過酷な大地を踏みしめ己が存在と誇れる強靭な筋肉も体躯も無い。代わりに彼らは道具を手にして生存競争を生き延び、生を勝ち取ってきたのだ。

 

 道具、それは人がより良きを求めて試行錯誤を重ね発展させてきた物であると同時に、弱さを隠すためのモノでもあった。ナイフを手にした幼子が大人の体に突き刺せば傷を負わせられるように、肥満の男が銃を手にすれば鍛えに鍛えた強靭な肉体を誇る男を殺傷出来るようにと、人間の弱さをひた隠すための物。

 

 それが道具の本質であり、存在価値であった。

 

 しかし、人は道具に代わるモノを手にする。ターニングポイントは中国の慶應市にて、比喩では無く発光する赤子が生まれた事を起因としてユーラシア大陸を飛び出し、ヨーロッパ、オセアニア、アフリカに北・南アメリカの大陸と人の姿があるのなら、世界各地で人の身に超常現象が起こり始めた。

 

 おとぎ話やコミックにしかありえない摂理を無視した超常の力。それは有史以来から伝わる人の常識のことごとくをあざ笑うかのようで、親から子へと爆発的な勢いで人々に普及していった。

 

 道具から、個性へ変遷。

 

 自らのアイデンティティとも呼べる、生まれた時から各人に決められたステイタス。派手かつ強力な力の個性を持っていれば皆から羨ましく羨望の眼差しを向けられ、凡庸かつありきたり、そして無力であれば見下される。何より何の個性も無く生まれたならば、いうまでもなく劣等と蔑まされるのが総人口9割の人間が個性を発現させた現代の常となる。

 

 

 

 

 

 

 光あるところに闇があるとはよく昔から言われている言葉であり、街灯の光やビルの明かり夜空をひっそりと照らす月の明かりが表の道の輪郭をあらわにする。それと同時にビルや飲食店との間、建物の影に隠れた闇夜に奥へと続く狭い路地裏。老いも若いも皆問わず、道行く人々は暗く狭い闇を無意識に恐れ近付こうとは、決してしなかった。

 

 そんな路地裏にこそ潜む者達は居た。仲間と群れたことで自意識過剰となり度胸試しでたむろする若者達や、モラルや法から外れた者らの巣窟。法とルールに守られた表の人間が恐れ決して踏み入ろうとしない闇の中こそ住処とする悪意に塗れたアウトサイダー。そのような闇の中に、少年は居た。

 

 薄暗い路地裏につきの光が差し込んだ事によって少年のあどけなさの残る顔が浮き彫りとなる。未だ年若い少年であり、そのあどけなさの残る顔立ちを見れば闇の世界とは到底関わりようがない年齢である事が第三者の視点から判断できる。ボサボサで無造作に伸ばされた黒髪、サイズが違うブカブカの擦り切れたトレンチコートを羽織る少年は全体的に薄汚れていた。おおよそまっとうな生活をしてはいない事がすぐに分かる姿である。

 

 

「直進する個性……可燃性のガスを吐く個性に一定時間筋力を増大させる個性、か。凡庸だな。あぁ、だからこんな場所でたむろするしか能が無いのか」

 

 

 しかし、その眼は昏い。驚くほど暗く沈んでいた。他者を見下し踏み潰し、傷つける事に躊躇いが無い剣呑さを宿した無常の瞳が、路地裏の冷たいアスファルトにうつ伏せとなった男に向けられる。呻き声をあげ、僅かに身動きをとったその男への興味を既に失ったのか少年は鼻で笑い、倒れ伏した十数人の男達の間を抜けて闇の中へと足を進めた。

 

 苦痛によって生まれた呻きと絶対的な暴力に向けられた畏怖の視線が少年に向けられたが、少年の興味はもはや敗者に向けられていない。少年にとって必要なのは障害を排除するための力。何の足しにもならないモノを前にして悠長に構うほど少年の気は短く無いのだから。

 

 だが、彼らにとってはある意味幸運だっただろう。興が乗り、本気を振るう少年を前にしていたなら粉微塵となっていたのだから。しかしそれを彼らは知る由もなく、また今後知る事は決して無いのだから。

 

 常人には決して理解が及ばない理不尽で絶対的な力。それこそが少年の持つ力だ。誰も理解せず、恐れ遠ざけた程の大き過ぎる力は、少年を孤独に、安寧など決して生まれない光のない暴力の世界に叩き落とした張本人。

 

 少年は望まず誰かによって崖の端まで追い込まれ、最後の一歩は少年自らが踏み出す事になったがその犯人が少年自身の力とは何という悲劇だろうかと、端から見る観客は嘆くだろうがそれは舞台の上で行われるフィクションだからだ。その身に理不尽が向けられれば喚き立て、我先にと逃げ出すだろう。

 

 誰も少年を救わず、また誰も少年を救えなかった。だからこそ、彼はこうして闇の中を彷徨うように生きている。

 

 しかし、だからこそ人は英雄を好む。闇の落ちた存在を光を背負う英雄が諭して正し必ず勝つ英雄譚を期待する。

 

 

「私がっ、空から降ってやって来た!」

 

「っ!? お前は……ッ」

 

 

 闇の中に現れ出たのは英雄だった。ビルとビルの間から差し込む僅かな月明かりに照らされたその顔に浮かぶのは曇りない笑みであった。

 

 タイツのように体にフィットした素材は英雄の強靭な肉体を浮き彫りにする。青を基調としたコスチュームは白と赤が映える。トリコロールカラーを纏う巨躯の男からは眩いばかりの光が後光のように幻視できた。

 

 

「ハッ。笑い種だなヒーロー」

 

 

 しかし、少年は嗤う。誰もが目を奪われる後光、その中に隠された傷と影の存在を見抜き嗤う。平和の象徴と呼ばれ誰からも讃えられる英雄、オールマイトの献身を無意味と見下した。

 

 

「やや! 毎度毎度手厳しいなフォルテ少年。こんな夜更けにこんな場所を出歩くなんて……感心しないぞ」

 

 

 フォルテ、それは『より強く』という音楽用語であり少年の名前では無い。そもそも少年にとって名乗るべき名前は既に無かった。

 

 

「そうか。それなら後ろのアレに言え」

 

「それなら心配ご無用、実は救急車と警察をもう呼んである! 彼らは大丈夫さ、君は——誰一人殺しては無いんだからね。だから、どうか私と一緒に来てはくれないかフォルテ少年」

 

「……何度も言わせるな。俺に居場所はどこにも無い」

 

 

 誰一人殺していないと迷わずに断言したオールマイト。オールマイトの雰囲気に一切の変化はなく、言葉の裏には別の意味が含まれている気配すら無い。つい先程まで、十数人に暴力を振るい傷つけ叩きのめした少年にさえ寄り添うような親愛と心配を向けている。

 

 それが、彼の癇に障ってしょうがなかった。

 

 それは嘲りか無表情しか浮かべていなかった表情に如実に変化を伴って現れる。眉間にシワがより悪鬼のように鋭い眼光がオールマイトに突き刺さった。大人と子供の身長差の関係上、オールマイトを見上げる少年という構図だが、直接向かい合う形のオールマイトがその背筋に悪寒を覚える程の迫力を覚える程の感情の発露。それを前にしてもオールマイトは一歩も退かない。

 

 

「——大丈夫だよフォルテ少年。私が付いてる。君がもう一度笑えるように、今そこに行く。だから、君も手を伸ばしてはくれないか?」

 

 

 拳は握らない。彼が拳を握る時は凶悪な(ヴィラン)を倒す時と守るべき人々を襲う悪意から守るときだけだから。

 構えは取らない。彼が構えを取る時は、相手と拳を交えると覚悟を決めた時だけだから。

 

 それに対して、少年——フォルテの対応と返答は簡潔だった。

 

 

「黙れ」

 

 

 踏み出し飛び出す。アスファルトの破片が吹き飛び、乾いた音響がなった瞬間、それを打つ消すほどの轟音が被さり路地裏に暴風が吹き荒れる。

 

 肉を打つ音、破壊音。ほんの数秒の間の交差の後、二人の人影が路地裏から飛び出しビルの屋上を飛び越えて夜空の月の下にその姿を曝け出す。

 

 

「ぬぅ! あいっかわらずいいパンチだ! これは、私も本気にならないとちょっとマズイな! 被害を出したく無いし、今日はちょっと強めに行くぞフォルテ少年!」

 

「ハッ! お前の力、今日こそ貰うぞ、オールマイトォ!」

 

 

 オールマイトと対比するような、痩せ細ったボディーラインが目立つ漆黒のボディースーツに両の手・足首を覆う黄金のリング。そして頭部を覆い隠すトサカのようなパーツが伸びたヘルメットを身に纏うフォルテは右手に漆黒の力を宿し、振りかぶられたオールマイトの拳へとぶつけた。

 

 吹き荒れる暴風の中、オールマイトは数多の重圧と恐怖に負けないように笑みを浮かべた。又、少年も自分の本気をぶつけても壊れない存在への喜びと更なる強さへの導に口端が裂けん避けんばかりの笑みを浮かべた。

 

 少年に、もはや名前はない。誰が言ったかただ一つ、『フォルテ』という彼の個性名だけが彼を識別する名称にて少年の生きる理由。

 

 個性・フォルテ——それは強大な力を秘めると同時に宿主が経験したありとあらゆる物を経験値とし、さらに強化・発展していく個性である。

 



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