第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年) 作:味噌帝国
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あと各話タイトルでダサかった物をいくつか修正しました
戦車道の名門たる黒森峰の訓練には、いくつかのプランがある。その内の一つがあらかじめ指定された目標を攻略していき、そのタイムを計る訓練。所謂タイムアタックである。レナはそれに挑戦した。
まほは装填手として、レナが指揮する様子を見ていた。一番車長の様子を見やすいからだ。
美しくはなかった。
華やかでもなかった。
機械的かと言われれば、それも違った。
レナの操る戦車は、自由自在に訓練場を駆け巡る。その様はまるで彼女の性格を表しているようであった。洗練された動きで、伸び伸びと草原を駆ける馬のようだった。
「次! 装填急げ! そしたら座標12-8まで前進、砲塔を右に40度旋回! 行進間射撃だブレーキ踏むなよ! 隠したって無駄だ出来るんだろう!」
「実力的に出来るギリギリを攻めている……なるほど、そうすれば乗員の成長も早まるだろう」
「まほさんは感心してないでレーナさんを止めて下さい! レーナさん結構スパルタです!」
短時間で乗員の性格を見抜いた彼女の指示は的確だった。出来る範囲で最短のルート、角度、タイミングで的の前に躍り出て、撃破していく。まほの戦車の事を、まほよりも早く乗りこなしていた。
乗員の出来る限界を見極め、それに限りなく近い難度の操作を要求する。言うなれば弦だ。限界まで引き絞れば、矢はより遠くに飛ぶ。
「乗員もよく見てるんだな」
「人間と同じさ。
「……レーナ、私は、そういうのに慣れてない……///」
「ドイツの女の子ってみんなこんな感じなんですか!?」
赤面してしまうような例えだったが、なるほど道理ではあった。だがそれをこの短時間でやるのかとまほは驚愕した。
「よく
まほは全体を盤面のように見て、あらゆる戦術を把握し、敵の動きを予測したり、味方の動きをコントロールすることは得意だ。そこにも『敵を知り、味方を知る』という原則はある。
だがレナのそれはまた違う。戦術や常識とは関係無く、自分の目に見える、或いは知っている情報をリアルタイムで活かし、自分の戦車が次に取るべき行動を常に考えている。反面チーム全体には目が届かず、隊長としてはまほと比べれば力不足かもしれないが、彼女が車長を務めればこれ以上の安心感は無いだろう。
「砲塔左90度! スピードそのまま、合図で撃って! 3、2、1、はい今!」
「……命中!? 嘘でしょ!? なんで今の当たるの!?」
「……的が真横に来たら撃てば良い話じゃない?」
「距離と! 速度を! 考えて! 下さい! 普通当たりません!」
「ぶつくさ言わない! 装填! 砲塔正面! 操縦手! 道なりに進んで!」
矢継ぎ早にレナは指示を飛ばす。まほも装填が忙しい。
「レーナ、本当に戦車道は初めてなのか?」
「戦車道
まほは奇妙な違和感を抱いた。五年。まほは小さな頃から戦車に乗っていたし、レナの言い分もおかしくない。だが実戦の経験は
「砲手さん、狙うなら砲塔と車体の隙間か履帯にするんだ。常日頃からそこを狙うようにしないと実戦で困るよ。ティーガーは足が遅いから最悪逃げられるし、敵の装甲に弾かれる時だってある。少ない砲弾で敵を無力化するのがベストなんだから」
「この人細かいなぁ……」
「なんだとぉ! 私は戦車に対してはいつも真剣だ! 山猫みたいに注文も細かくなるさ!」
「何で宮沢賢治なんて知ってるんだろう……」
(宮沢賢治はともかく、やはりレーナは実戦経験者だ。一体何処で戦車を教わった?)まほはやはりそこの違和感が拭えなかった。
「よし! 砲塔左に10度! 撃て!」
最後の的に命中し、無事にレナの試乗が終わった。驚くべきタイムだ。黒森峰の先輩を遥かに上回るタイムだった。まほすらここまでのタイムは難しかった。
「素晴らしい! まほ、こいつは良いな! エンジン、照準器、砲塔回り、流石の精度だ! 皆もありがとう! 欲を言うなら多分あと30秒は縮まるぞ!」
「キツイ……なんで……普段の訓練より緊張するんだ……」
「自己ベストだけど……レーナさん……凄い指揮だった……」
(成程……これは『戦車に一家言ある』どころの話ではないな……)
まほはレナの実力を正しく評価出来ていた。車長としての高い適性、何処で積んだかは分からないが豊富な経験、性格面も癖は有るが戦車道を履修する者は変わり者が多いから問題なし。そして戦車に対する強い情熱。
まほのレナに対する意識はとっくに『変人』から『戦車道女子』に変わっていた。そして西住流の人間以外で初めて出会った、特筆すべき実力者。それはつまりまほにとって━━
「『ライバル』か。悪くない」
「まほ! 何やってんの! ビール開けるよ! 記録更新の祝杯だ!」
「戦車の上でビール開けないでくださいレーナさん! あー! 零した!」
「この子もきっと飲みたがってるよ!」
「……やっぱりただの変人かもしれないな……」
そうして黒森峰の一日は終わる。
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帰り道。夕陽が傾き、巨大な学園艦がオレンジに染まっていく中を、レナはまほと並んで女子寮へと帰っていた。
二人は色々な事を話した。熊本の事、黒森峰の事、家族や仲間の事、そして勿論、戦車道について。
「ティーガーは私の最高の相棒さ! ずーっと乗っていたし、あの厚い装甲に何度も助けられた!」
「ふふ、でもパンターも良いぞ? 私の一番のお気に入りだ。自分が隊長になったら優先的に配備するつもりだ」
「ははは! 見かけによらず随分な性格だ! まぁ、やり過ぎないようにね!」
二人は互いに良い友人を得た。自分と同じ戦車道の実力者で、戦車が好きな女の子。意気投合にそうは時間はかからなかった。
「レーナ、今後良かったら戦車道の戦術について色々教えようか?」
「! 喜んで! こちらこそ戦車での戦闘について君に指南しよう!」
互いに切磋琢磨しあい、互いを教え合うことを約束したのだった。
そしてまほは直ぐに隊長に就任し、レナも戦車道の選手として注目を集めていく事となるのであった。
作者「まほパイセンのライバルというポジに収まった主人公!二人とも切磋琢磨して黒森峰を引っ張っていってね!そして何だかんだでしほさんに認知されて二人は結婚するんだ!」
アナ「は?(威圧)」
(ヒント:西住流のスタンスをもう一度整理してみよう)