第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年)   作:味噌帝国

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ちょっと見返したら葬式の途中で突然落語が始まって終わった瞬間喪にふくすみたいな変な小説だなって思った

挿絵貰ったので約束通り駅前で新宝島を踊った


第十二話:かわいい後輩

 砂埃を巻き上げながらあいつがやって来る。重戦車にあるまじき速度でやって来る。陣形から離れたそいつは新兵のヤケクソではなく、ベテランによる()()()()

 

 一度主砲が火を吹けば戦車から白旗が上がる。遮蔽物、地面の凹凸、敵味方の射線、太陽光、あらゆる物を利用し巧みに敵陣に食い込み、そのまま突き破る姿。

 

 まさにそれは黒森峰の誇る二人の逸材の内の一人。レナ・シュバルツの戦車道だった。

 

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 黒森峰の月日は飛ぶように過ぎる。まほを隊長とした黒森峰チームは例年通り全国大会に出場。見事な電撃戦、又は包囲戦を展開し試合を勝ち進んだ。当然レナも出撃した。

 

 結果は大勝。まほが指揮し、レナが突き崩すという戦法が攻守共に良く働いた。全国大会の優勝という有終の美を飾った三年生は引退、レナ、まほ達は二年生になった。

 

 まほは元々だが、レナも戦車道界隈では有名人となりつつあった。殆ど単騎で防御陣形を崩したり、増援部隊を引き付けたりする様子から『黒森峰の破城鎚』とか『鉄砲玉』とか色々と好き勝手呼ばれる様になった。

 

 ともあれ二年生である。レナは依然戦車道にまっしぐらだった。授業が終わればバンカーへとまっしぐら。戦車にいち早く乗り込み訓練を始めるか、バンカーの一角でまほのみならずOBや先輩や後輩、はては他校の生徒とも戦車戦や戦術について討論していた。

 

 レナはメキメキと実力を伸ばしつつある。戦車兵としては半ば完成された実力を持っていたレナだったが、指導する立場としての見解を深められたし、大規模な戦術もいざ学んでみれば奥深い。

 

 誰の命令にも縛られない、仲間と戦車道を楽しめるこの時間が、レナは誰よりも好きだった。

 

「戦車道には人生の大切な全ての事が詰まっているのさ(ポロロン)」

「そうらよね~! や~わらひもわかいころはたいふぇんでさ~いまがたのひくてたのひくて~(ゴキュゴキュ)」

 

 いつだったか学園艦にいた見知らぬ少女もそう言っていた。たしか彼女とは戦車道について意気投合して、公園のベンチでささやかな乾杯をして……ビールを飲んでいたので記憶があやふやだが、なぜか何かの楽器の音が耳に残っている。

 

 そして。二年生になった以上後輩も出来た。今レナは新入生の歓迎会と黒森峰戦車道の紹介を兼ねたイベントに参加していた。黒森峰の戦車道を見に来た新入生をレナは見渡す。何人かは西住流の教えを受けている経験者のようだが、中には戦車に全く触れたことも無かった人もいるはずだ。

 

 というかなんというか庇護欲が湧いてきた。なんだあのぽわぽわした感じのまほそっくりの子は。あそこの目つきの悪い銀髪の子も内心緊張気味なのが見て取れる。みんなかわいい、とレナは早くも後輩に対して可愛さを感じていた。

 

「かわいいなぁ~新入生ちゃん達……まほ、これからもっと戦車道が面白くなるよ」

「そうだな。ん、そう言えば話していなかったか。新入生の中には私の妹もいるんだ」

「なんと……あの子か。ってことは西住流?」

「……まぁそうだ」

 

 名簿を見ると栗毛のぽわぽわがまほの妹の『西住みほ』で、銀髪の子が『逸見エリカ』らしい。新しい仲間だ。レナは名前をしっかりと覚えた。

 

 楽しみだ、とレナは思った。未経験とは戦争においては弱さだが、戦車道においては常識に縛られない自由さと爆発力を併せ持つ。おっかなびっくり歩むヒヨコは果たして闘鶏となるかフライドチキンとなるか。可能性の塊である彼女らは実に愛らしい。

 

 もし新入生の中に光る奴がいたら自分の戦車に乗せてやろう。そして文字通り手取り足取り全てを叩き込む。と静かにやる気を燃やすレナはやはり黒森峰に来てから他人への教導が好きになっていた。

 

 レナの方を見た何人かの新入生が固まり、目を逸らす。何やら良くないオーラが溢れ出すレナからは目も逸らしたくなる。レナの噂は新入生の間にも知れ渡っていたからだ。

 

 黒森峰生曰く、『凄腕だがビールジャンキー』『面倒見が良すぎる』『戦車バカ』『美人ではある』『美少女の皮を被ったバーサーカー』『戦車道版ターミネーター』『無自覚スパルタ』などの冗談じみた話を真顔でされた一年生の心境は穏やかでは無いだろう。

 

 一年生の内心を露ほども知らずレナは会場を後にする。今日は戦車のメンテナンス中の上、一年生の対応の邪魔になるから練習は出来ない。取り敢えず体力作りだ。レナは足早にグラウンドに向かった。

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 みほは去っていく上級生の背中を見ていた。姉であるまほと親しいドイツ人の少女。直ぐに彼女が「レーナさん」だと分かった。西住流の後継者である姉をして「凄い奴だ」と言わしめる少女、らしい。

 

 綺麗な人だな、と思った。ロングの黒髪に薄い青の瞳。まるで本物の軍人のようにキチッと着込まれている制服が、彼女の見た目を一段と引き立てていた。

 

 みほはまほからよく彼女について話を聞いていた。姉の入学早々『友達が出来た。すごい奴なんだ!』と興奮冷めやらぬ様子のメールを送られた身としては、彼女が姉と仲良くしているならいいことだろう、というのがみほの考えだった。

 

 まほは西住流ということもあって、友達は多いというわけでもない。一定の距離を置かれてしまうのだ。だが彼女は違う。まほとレナは戦車乗りとして互いを尊敬し合っている。少し羨ましかった。

 

 友達が欲しかったみほは、先ずはあの人と仲良くなってみようと心に留めておいた。

 

 ━━そしてその後、グラウンドでトレーニングと称して両手にティーガーの履帯の束を持って延々とスクワットをするレナを見て、みほは後ずさりする事になる。




我気付小説閲覧数十万突破!謝謝那須!

さりげなく主人公のプロポーションを書いておく事で更なるファンアートをあなんでもないです

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