第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年)   作:味噌帝国

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別で短編小説書いて自分の中のダークサイドを分離したので初投稿です。


第十五話:エリカは激怒した②

『やぁまほ、今年の新入生についてだろう? 分かるさ。まほの言いたい事は』

 

 ケータイからレーナの声が聞こえる。彼女はまほにとって親友であり、良き相談相手だ。彼女と話していると不思議と落ち着くのだ。それは親友だからというよりは、レーナのアドバイスの的確さからだろう。

 

「私は、エリカがこのままで良いのか悩んでいる。彼女が私に好意━━まぁ、憧れを持っているのは私だって分かる」

『ふむ。あまり良くないな。憧れは理解とは程遠い感情だ。本人のやる気に繋がるなら結構だが、彼女の視野は随分狭いらしい』

「……私はエリカを拒絶など出来ない。だがこのままにも出来ない」

『違う違う、この場合まほの側からの拒絶はなんの意味も成さないさ。大切なことはもっと別にある。私はそれをエリカに教えなきゃならない。ま、先輩の威厳って奴を見せなくっちゃあな』

 

 同い歳の筈なのに、まるで祖母や祖父と話しているようだ、とまほは思った。大人びている、という訳ではないが、彼女の発言には経験によって確かに裏打ちされた重さがある、とまほは感じていた。

 

『なに、部下の教育は私の得意分野さ。心配いらんとも。大将らしくドーンと構えてなさい。堂々としているっていうのは意外と大事な事なのさ』

「……ただふんぞり返るだけの指揮官になるつもりは無いぞ」

『まさか、誰もそんな事は思ってないよ! とにかくエリカは心配いらないさ!』

 

 力強い言葉だ。レーナはいつもまほの心の支えになってくれている。

 

「ありがとうレーナ。明日も頑張ろう」

『勿論! Gute Nacht!』

 

 通話が終わる。彼女の元気な挨拶が、まほの心の不安感を和らげてくれる。いい気分だった。笑顔で床に就く。まほはレーナに対し大きな信頼を抱いていた。

 

 或いは━━

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 エリカの宣戦布告から2日たった。

 

「ルールの確認だ。3対3での殲滅戦形式、細かいルールは実際の試合ルールに則って行う。制限時間無制限。使う戦車は自由だがチームメイトとしてほぼ未経験の一年生を使う。あくまで平等だ。それでいいかな?」

「すぐにその余裕をひっぺがしてやりますよ」

「言うねぇ~じゃ、エリカちゃんが勝ったら所属部隊の変更を打診するって事でよろしく。まほ隊長もそれで構わないかな?」

「異論はない」

 

 野次馬が集まる中、二人は向かいあって握手を交わす。エリカは雪辱を晴らそうと息巻いている。対してレーナは一見余裕の表情だが、目はエリカをしっかり見ていた。

 

 そしてその様子を見るギャラリーの中にはまほとみほの姿があった。みほは首を傾げながらまほに話しかける。

 

「お姉ちゃん、どっちが勝つと思う?」

「そうだな、本人達の能力に限って言えばレーナに分がある。彼女の単独での戦闘能力は既に全国でも指折りだ。1対1ではエリカはほぼ確実に負ける。だが個人の実力だけで覆せる程戦車道は簡単じゃない」

 

 まほはレーナに絡まれて、或いはエリカに叱咤されてビクビクしている一年生達を見やる。殆ど全員が、小規模ながらも試合を経験するのは初めてだった。

 

「チーム戦、それも新兵を率いての戦闘だ。互いに動きづらくはなるだろう。それにレーナも実力は付けてきたとはいえ、戦術的な実力ではエリカが上だ」

「うん、エリカさんは西住流門下生の中でも実力が飛び出てるよ」

 

 エリカはみほやまほに比べれば一歩劣りこそすれど、全国的なレベルでみれば低くはなく、寧ろ高い部類に入る。対してレーナは未だ戦術は勉強中の段階だ。エリカには及ばない。それはレーナとて承知の上だ。たとえどんな小規模な戦闘でも、個々の技量では無く、戦術や数が戦局を左右することはレーナ自身が良く知っている。戦争末期にレーナが活躍したのは単に強かったからではない。最後の戦い以外はゲリラ戦や敵兵站の破壊に尽力し、対戦車の場合砲兵との連携を徹底したからだ。それでも戦局を変えることは叶わなかったが。

 

「だがレーナは今までそれを乗り越えてきたんだ。戦術だけ完璧ならば戦闘が上手くいくとは限らない。彼女は身をもってそれを教えてくれた」

「確かにレーナさんは強いけれど、戦局をひっくり返せる程なの?」

「いや、注目すべきは戦術でも、実力でもない。みほもしっかり見ておくと良い。彼女の戦い方を」

「そんなに期待されると参っちゃうな~!」

 

 レーナはティーガーのキューポラから二人に笑顔で手を振る。対してエリカはしかめっ面でレーナを見つめていた。

 

「じゃ、配置に着いたら連絡する。合図は誰か頼むよ」

 

 そして、エリカの異動を賭けた戦いが始まった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 今回の試合は広い野原での戦闘になる。練習用に設置されているコンクリートの障害物やデコイがあるものの、比較的視界は通りやすい。だがそれなりにある起伏は照準を不安定にし、走行を不安定にさせる。それらの要素を前提にどう作戦を立てるか、そこが重要なポイントだ。

 

 エリカは双眼鏡で周囲の様子を伺う。今回の編成はエリカ側はティーガー1両にIV号戦車が2両だ。レーナ側の編成は知らされてないが、エリカはほぼ同じ編成だと考えていた。エリカはフラッグのティーガーに乗車して今回の戦いに挑んだ。エリカとしてはまず一番の脅威は当然レーナだった。下手をすると彼女一人に全滅、なんてことも有りうるからだ。ならば敵の大将を囲んで叩くというシンプルかつ最適な答えをエリカが出すのも当然だった。

 

 会敵までに二分もかからなかった。砂塵を巻き上げながら味方のIV号戦車2両が配置に向かう。即席の突破陣を組み上げたエリカは1両の敵ティーガーが丘に陣取るのを確認した。敵のIV号戦車2両もスモークを焚きながらこちらに向かってきている。強引に詰めるつもりだ。

 

 確かに高い場所から戦況を把握する分には良いが、レーナは味方2両にこの場を任せて、自分は有利なポイントから攻撃するつもりだと、エリカは考えた。あのティーガーにはレーナがいる。彼女さえ倒してしまえばほぼこちらの勝ちだった。

 

 だからこそ電撃戦だ。エリカは矢継ぎ早に指示を飛ばして2両の敵IV号を味方のIV号1両に任せる。戦果は期待していない。ただ2両を敵ティーガーから引き離し、時間が稼げればそれでいい。捨て石だ。

 

「フラッグのティーガーを追う! 増援が来る前にさっさと片付けるわよ! 運転手はもっとスピード出して!」

「これ以上は出ません!」

「馬鹿! アクセル踏み込めって話じゃないのよ! 走る場所を選べって言ってんの!」

 

 エリカはイラついていた。矢張り遅い。これではあのムカつく先輩には勝てない。あのヘラヘラした態度のアイツに一発ぶち込まないといけないのに。激情がエリカを支配していた。ティーガーからこちらに砲撃があるがお構い無しに駆ける。

 

「エリカさん! 味方から離れてます! スピード落としましょう!」

「気合い入れて走るよう発破かけなさい! グズは戦いに要らないわ!」

「うわっ! 撃ってきました!」

「運転手! 障害物の裏をまわるのよ! とにかく動き続けて! 護衛役のIV号は無視よ無視! どうせ素人、何も出来やしない!」

 

 予想通り敵からの砲撃は掠りもしない。矢張り素人だ。こちらが動いてるなら当たらない。そして味方もエリカに何とかついてきてるようだ。全て順調だった。このままエリカ達がティーガー1両相手に接近戦を挑めるまで近づければほぼ確実に勝つだろう。

 

「待ってなさいよ……絶対に許してやるもんか……後悔させてやる……! そして私こそが隊長の隣に相応しいことを証明してやる!」

 

 遂に距離は30メートル迄になった。ティーガーがスモークを焚いていたが無意味だ。勝てる。エリカはそう確信した。すかさず砲撃。砲塔にダメージ。逃げるティーガーを追い詰める。

 

「撃ちまくりなさい! 2両で袋叩きにしてやる! 楽しみね! アンタが悔しがるのを高笑いしながら見てやる!」

 

 岩陰に隠れたティーガーを相手に砲弾が襲う。エリカに攻勢を緩めるという選択肢は無い。貧弱だった幼少期に西住流に憧れた。そして電撃戦の如くここまで駆け抜けてきた。今だってそうだ。彼女を倒して、隊長の横に立ち、そして━━━

 

 ━━━()()()()()()()

 

 何か大事なことに気がついた気がした次の瞬間、エリカは強い衝撃に驚愕した。金属が何かと激しく擦れる音だ。

 

「こんな時に衝突!? 一体何が━━」

「エリカさん! I()V()()()()()()! ()()()()()()()()()I()V()()()()()()()()()()()()()()! 岩に挟まれて身動きが取れません!」

「はぁ!?」

 

 信じられない報告だ。有り得ない。そこに居るはずがない。《3両目の》IV号戦車はエリカに食らいつき、その砲塔をエリカの味方に向け、撃った。

 

「後続のIV号戦車がやられました! 後方の1両は生きてますが━━」

『エリカさん! こちら後方! こちらの戦車の内1両はダミーです! I()V()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「後退━━」

 

 衝撃と共に、エリカのティーガーから白旗が上がった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 隊長。私だってやれます。あなたの隣に立ちたいんです。

 

 駄目だ。君の意思だけを尊重する事は出来ない。

 

 ならば! もっと、もっと強くなれば! あなたは私を認めてくれますか! あなたの背中に追いつけば! 

 

 ……()()()()、私は、君の想像するより遥かに弱い。仲間も守れない、そんな━━

 

 最近のあなたはそういうばかりだ! ()()()()()()()はいつから敗北主義者になったんだ! そう! だからこそ私は悔しい! 今の弱っているあなたにも私は及ばない! 

 

 アグネス……私はただ……

 

 もういい、私の目標は()()()()()じゃない。あの、スターリングラードで戦ったあなただ! あなたの目を覚ます程の戦績を上げてやるとも! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アグネスは死んだ。命令を無視し敵の戦車大隊に単騎で奇襲を挑み、12両撃破の大戦果を上げた。

 

 彼女が誰の真似をしたかなんて、私には分かりきった事だった。




出てきた瞬間死んじゃうアグネスちゃんかわいそう

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