第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年)   作:味噌帝国

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正直終わりまで書く気力ないから途中ダイジェストで結構省くことになるかも
完結はするようにしますがあんまりダラダラ長くなるのは避けたいのです


第十六話:エリカは激怒した③

「……負けた」

 

 試合終了後、夕焼けの中エリカはバンカーの裏で一人コーヒーを飲んでいた。今の時間なら誰も居ない。今日の試合がフラッシュバックする。激情に駆られたままフラッグ車を叩きのめす事だけを考えていたために簡単な偽装も見抜けず、まんまと敵の策略にハマってしまった。

 

「……隊長に失望されたかしら……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、とエリカは自らを責める。落ち着いて敵の戦力を潰していき、完璧な作戦を展開したに違いない。隊長はきっとダメな私に失望して、自分とは別の部隊に追いやったのだ。レーナに敗北した悔しさと、強い不安感と悲しみに襲われる。

 

「……っ隊長ぉ……! どうかっ……嫌ぁ……!」

 

 噛みしめた歯の間から、やがて嗚咽が迸り出る。ポロポロと落ちる涙が地面を濡らす。その時、足音と共に彼女が来た。音のする方を赤く腫れた目できっと睨む。憎き相手、レーナがそこにいた。

 

「理想の自分は時に自分自身を否定する存在になる……。探したよエリカ」

「……何ですか。負けた私を笑いに来たわけですか?」

「笑うものか。負けた相手を嘲笑していいのは恋愛と戦争だけだ。戦車道は誇りある競技だからな」

 

 レーナはエリカにとって謎が多い人物だ。黒森峰戦車道のエースであるドイツ人留学生。何故か日本にやってくる以前の記録は殆ど無い。普段は筋トレか酒ばかりに夢中なふざけた先輩だが、今のレーナの顔は真剣そのものだった。

 

「まほに憧れてるんだな。まほは強いからな。特にどんな局面でも動じる事無く対処し、自分たちの得意な攻めで敵を食い破っていく様は確かに魅力的だろう」

「……ええそうよ。だから私は隊長の隣に立ちたい。隊長の戦術を学ぶ必要があるのよ。それなのにアンタはッ!」

 

 レーナはエリカを見据えて、この後のエリカを大きく左右する質問を放った。

 

「エリカ、君は『西住まほの模造品』になりたいのか? 『逸見エリカ』ではなく?」

 

 エリカはその質問に直ぐには答えられなかった。レーナはエリカの隣に腰掛けた。

 

「エリカ、君の思考は『まほならこうする』とトレースしたものだ。確かにそれでもある程度は強くなれるだろう。だがいつか()()()

「どういう……いや、そんなはずは……」

「違わないさ。『西住まほ』だけを真似ていても『逸見エリカ』はそれ以上強くなれない。エリカ、君の戦術は理性ではなく、感情での攻勢だ。それが西住流に合わない理由でもあり、同時に君の強みでもある」

 

 確かにエリカは自身の実力が伸び悩んでいる事に苦しんでいた。エリカが停滞するだけ、まほとの差が開き、周りがエリカに追いつく。それが焦りを産み、精神面で致命的な隙を見せることになるのだ。

 言ってしまえば()()()()西()()()()()()()()()()。常に鉄の理性で戦場を操る西住流にエリカが憧れを抱いたのは確かだが、それだけに傾倒したエリカは他の流派や戦法を見切ってしまった。だから今のエリカのスランプが存在する。レーナが見抜いたのはそこだった。そして指摘され、少しでも納得してしまったエリカはレーナの言葉を聞くしかなかった。

 

「より幅広い視点から様々な戦術を手に入れ、自分の気に入った技術を自分で再構築しろ。何故こうした? 何故こうしなかった? 敵をどう動かした? もっといい方法は無いか……ってね」

「……つまり、隊長の技術を()()ということ……ですか」

「自分の物にする、という事だからな」

 

 夕陽がレーナの顔を照らす。どこか遠くを見ているような、そんな表情だった。レーナは話を続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。常に考えていた。何故、どうして、もしも、つまり……ま、やりすぎちゃって部下に怒られたけどね。『隊長! 寝言で戦闘シミュレーションをする癖なんとかなりませんか! 眠れません!』ってさ」

「…………」

「でもさ、だからこそ私は今ここにいる。なんでも自分の物にして喰ってきたから『レーナ』は強いんだ」

 

 レーナはエリカの目をじっと見る。エリカはその場を動けなかった。悔しかったが、エリカはレーナの言うことが正しいと認めざるを得なかった。

 

「私の部隊に来たまえエリカ。技術の盗み方を教えよう。そして君はたらふく喰うんだ。君が、『逸見エリカ』という最高の戦車乗りになるまで、私は喜んで君に教えよう」

 

 エリカは目の前で手を差し出した彼女に、戦車乗りとして本心からの畏怖を覚えた。一体彼女は自分をどうするつもりなのか分からなかった。だが彼女の目の奥には、見覚えのある銀髪が砲弾飛び交う中を奮戦する様が見えた。エリカは自身の実力を伸ばすために一旦はレーナの部下という立場に甘んじようと決意した。たとえ相手が酒飲みの戦車バカであろうとも。

 エリカはレーナの手を握り、それからこう返した。

 

「後悔しないことね。私を今日この場で立ち上がらせた事を。私は隊長やみほだけじゃなく、いつかアンタの技術も、経験も、知識も全部食い尽くしてやる。なんだってやってやるわよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とレーナは自分の勘は正しかったとのだと喜んだ。まほから聞いた話だとエリカは元々ご令嬢だったらしい。それがここまで成長するとは相当な執念だ、とレーナは考えた。だからこうして焚き付けたのだ。

 結果はレーナの予想以上だった。エリカはきっと素晴らしい戦車乗りになれると確信した。

 

「うん。やはり戦車道は素晴らしいな」

「いきなりなんですか」

「うんにゃ、何でもない。さ、戻るよエリカ。シャワー浴びて汗流そ!」

 

 エリカとレーナは立ち上がり、夕陽を背に歩く。こうして、後に『黒森峰の《猟犬》』と呼ばれる逸見エリカは生まれた。

 

 

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※投稿遅かったからお詫びのサービスシーン※

 

 黒森峰女学園の戦車道設備は非常に充実している。その多くは戦車のためのものだが、シミュレーター、トレーニングジム、休憩所や作戦室など、生徒の為の設備も用意されている。その一つにシャワールームがある。

 なにせ花も恥じらう女子高生なのだ。誰が家まで汗臭い状態で帰りたがるのだろうか。いや、誰もそんなことはしたくない。だから皆ここで汗を流すのだ。

 シャワールームに隣接する更衣室でエリカとレーナの二人は制服を脱いでいた。二人とも味気ないスポーツタイプの下着だった。

 

「お腹の傷……大丈夫ですか? 昔の試合の最中に怪我を?」

「まぁそんなトコかな。エリカも十分気をつけてなよ。……あのファイアフライは強敵だったからなあ……」

 

 エリカはレーナの身体をまじまじと見つめる。しっかりと鍛えられ、引き締まったボディの所々に、()()()()()()()()()()()()()()()。もしエリカにもう少し知識があれば、すぐにそれが銃弾が掠ったことによる傷や火傷だと気づいただろう。だからレーナは誤魔化した。

 

「……その……あー、なんだ。昔不注意で砲弾の空薬莢で火傷したんだ」

「……そうでしたか」

「む。エリカの腹筋凄いな。努力の結晶だねぇ」

「ちょっと! 勝手に触らないでください!」

 

 話題を逸らすために腹筋を触ろうと後ろから手をまわすレーナと、身を捩り逃げようとするエリカ。そして二人はバランスを崩し、そのまま倒れてしまう。そしてそれと同時に今までランニングをしていた新一年生数人がシャワールームに入場してしまう。

 人の少ない夕方に汗だくの下着姿で互いに床で絡み合ってしまっている美少女二人を目撃した新入生は耳まで真っ赤にし、仲間と顔を見合わせそして━━

 

「「「お邪魔しましたごゆっくりどうぞ!」」」

「「誤解だ━━━!」」

 

 盛大な勘違いをしてしまった。

 

 翌日、エリカとの関係をまほにハイライトの消えた目で問い詰められたレーナがいたとかなんとか。




タイトルを『エリカ、キレた!』にしようか迷いました。

外出自粛なのでひたすら家でボクササイズしてるエリカを想像しながら僕も筋トレしてます

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