第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年) 作:味噌帝国
最近百合ばっか書いて調子乗ってたから今日はマジメくんです。タイトルでほぼ察してくれたかと。
今年の全国戦車道高校生大会における黒森峰女学園の勢いは凄まじい。西住姉妹という隙の無い指揮役に、稀代の実力者であるレーナ・ベーカー、更には黒森峰入学以来レーナの下で恐ろしい成長をつづける逸見エリカ。その他のメンバーも実力と忠実さを両方とも持ち合わせた、正に鉄壁の布陣。黒森峰が十連勝の栄冠を手にするのは、最早誰の目にも明らかだった。
勝ち進んだ黒森峰はいよいよ決勝戦を迎える。大雨にも関わらず観戦する人々の歓声と、実況と解説の場繋ぎのトークの中、選手用のテントで試合前最後のミーティングが行われた。 顔を合わせる全員がやる気に満ち溢れた表情だ。士気は高い。だが一人だけ……レーナだけは不安そうな顔をしていた。エリカが訝しげに問いかける。
「急な雨とはな……あまり良くない。全員戦車の防水加工はきちんとすませてるな?」
「問題ありません。……
「……いや、緊張というかなんというか……」
「……まほ、すこし提言したい」
「どうしたレーナ、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。……この雨だ。この布陣のこの川沿いの私の部隊と、山に近い部隊は別の配置に移すべきだ。増水と土砂崩れが起きたら事だ」
レナにはこれから何が起こるかは分からなかったが、不安要素はできるだけ潰したかった。
「山の部隊を下がらせるのは賛成だ。この雨だ。戦車で泥だらけの斜面を登ろうとしても悪戯に燃料を減らすことになる。プラウダの戦力も重戦車が中心だ。山は登れまい。それに今日は視界も通らない。山を確保するメリットは確かに無いだろう。代わりにこちらの高台は早めに確保しよう」
他の二、三年生も同意しているようだった。しかし━━
「だが川は駄目だ。レーナ、君には何が何でもこの川を確保して欲しい」
「……まぁ、そうなるか」
「あぁ。この川の周辺をいち早く確保できれば橋を渡って敵側へと容易に進軍できる。逆に取られてしまえば敵と川を挟んで撃ち合うことになりかねない。そうなれば攻勢は困難になる」
レナはまほの言い分が理にかなっているのは重々承知だ。それに対して反論もしない。これは単なる第六感だ。私がとやかく口は出せない。更にプラウダは強敵だ。まほだって勝ちたいだろう。
「……分かった。期待に応えよう」
「うん。よろしく頼む」
結果レナは自身の不安を頭の片隅に留め、試合に集中する事にした。
そして、戦車道界隈を大きく揺るがす大事件が起きることになる。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「隊長! レーナ車から連絡! 雨で川岸が崩落し、一年生の戦車が一台川に落ちたとの事!」
「落ち着いて報告しろ。どの車両だ?」
「赤星車のようです!」
試合開始から暫くして。川の確保に向かっていた部隊がトラブル、いや致命的な事故に巻き込まれた。戦車の水没自体は過去に何度か事例はある。黒森峰の戦車が水没するのは初めてだったが、他校の事例ではいずれも助かっていた。戦車道用の戦車の安全面を考慮した水密性ゆえである。だからまほはこう指示を
「全車そのまま作戦を続行。赤星車の救助は大会側に任せる、と伝えろ」
了解、という返事が次々と返ってくる中、二両の戦車からのみ返事が無かった。まほが不審に思っていると、信じられない通信が入ってきた。
「ったっ隊長! レーナ車より通信! 『車長が赤星車乗員の救助に向かった』と!」
「何だと!?」
まほは一瞬、無線手が一体何を言っているのか理解出来なかった。レーナの戦車が、それも黒森峰の実力者が、事実上作戦を放棄?
「レーナ車の乗員にレーナを止めるように指示しろ!」
「了解です!」
素早くまほは地図を見る。敵のスタート位置から考えれば、もう川に敵部隊が到着していてもおかしくない。プラウダもこの川の重要性を分かっている筈だ。落下した赤星車、車長が作戦を放棄したレーナ車は戦力にカウント出来ない。残存勢力はみほと、数台の戦車のみ。確実に勝たなければならないこの局面において戦力が不足している。
「副隊長車より通信! プラウダ高校が川に到着した模様! 現在交戦中……な!? 副隊長まで救助に向かったと!」
「なんだって!?」
車長というまとめ役がいなければ戦車の戦闘力は激減する。まほの動揺は頂点に達した。が、西住まほとして、ここで自分まで作戦を手放す訳にはいかない。鉄の理性で以て、自らの動揺と不安を押さえつける。
「……川は放棄する。川の部隊は全員本隊と合流させる。そう伝えろ。これからプランCで行く。予定の配置に着け」
「了解、副隊長とレーナさんは……」
「……恐らく失格にはならない。なんとかこちらに合流して貰わなければ……」
まほは理解していた。レナが仲間思いで、みほは優しすぎるという事を。片や親友、片や妹だ。だがこの大事な局面で私情を挟むようなタイプだとは思ってもいなかった。
そう。まほはただ知らなかっただけだ。仲間の危険というものがレナ・シュバルツにとって最大の弱点であり、彼女の心に刻まれた最も深い傷だということを。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
戦車道とは何か。当然『戦車』を突き詰める『道』である。戦車道はその特性上様々な人間がいる。理屈、数の暴力、勇気、ノリ、火力、スピード、博打、奇策、情報戦、ロマン……と、中には戦争中ならば考えられないような戦法や主義を以て戦う者もいる。
戦争を経験した、そして戦車が大好きな私にとってみれば、それはとても素晴らしい事だ。意外で、有り得ない、そんな戦術も戦車も認められ、それを考えた奴らと戦いが終わったあとに握手ができ、笑いあえる。アナが作り上げたこの素晴らしき戦車道を、戦車が大好きな仲間たちを、決して失いたくない。そう。
だから私は、迷いなどしなかった。自分の選択にも後悔はしない。ただ━━
━━親友を裏切った代償は、きっと償いきれない。
雨の降り注ぐ中を必死の形相で駆ける。耳元のイヤホンから聞こえる制止の声は、イヤホンを捨てたことで収まった。
確かに赤星達は無事かもしれない。赤星車と連絡が取れないのは無線が故障しただけかもしれない。だが、
近くの丈夫な木にロープを掛け、自身の腰にもロープを結んだ私は躊躇いもなく川に飛び込んだ。酷い濁流だ。沈みかけの戦車の横の緊急用のハッチを開けようとするも、水圧で開かない。危険だが仕方なく戦車によじ登り、上部ハッチを開く。中に赤星達がいる。浸水はしているが取り敢えず無事だ。だが時間が経てば完全に沈んでしまうだろう。
「全員無事か!?」
「レーナさん! 全員無事です!」
「落ち着け。出血は無いな。よし。取り敢えず全員戦車の上に出るんだ。浸水するぞ」
手を貸しつつ、なんとか五人全員を戦車の上に移動させる。川の流れはより勢いを増す。寒さと、水に対する無意識下でのパニックは危険だ。すると川の対岸に何故か副隊長━━みほが居るのが見えた。ビックリしてケータイで連絡する。
『みほ!? 何でここに……試合は!?』
『私も助けに来たんです! 今向かいます!』
『待ってくれ! 木に括りつけてあるロープが分かるか? 今から赤星達を全員ロープで送る! 手を貸してくれ!』
私の身体に括りつけたロープを赤星達に掴ませる。このロープは対岸の木を周り、最終的に私の手元に来る。私がロープを引けば赤星達と私自身が岸に送られる仕組みだ。みほの助力もあれば全員を岸に送るのは不可能では無い。
「全員落ち着いて息をし続けろ! 浮くことと、ロープを離さない事に集中するんだ!」
みほと息を合わせてロープを引き少しずつ、少しずつ岸に近づいていく。ロープが身体に食い込み、手の皮が破れ、激痛が走る。絶対に救うんだという意思だけが私を動かしていた。
「レーナさん! 危ない!」
だから、みほの悲痛な叫びが聞こえた時、私は咄嗟に反応出来なかった。右肩に衝撃と鋭い痛みが走る。折れた木が、私の肩、頬、肘、首に━━━
私は、そこで意識を手放してしまった。
前回と雰囲気違いすぎて心臓マヒ起こした
ちょっと注釈
・原作ではフラッグがみぽりんですが今回うろ覚えだったのでフラッグはまぽりんです。面倒だから修正しません
・水難事故の際は川に飛び込まず岸から出来ることをしましょう。オリ主は覚悟キマってたので無事(?)ですが普通出来ません。真似しないでね。