第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年)   作:味噌帝国

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油断してるとドルフロやりたくなっちゃいますね

サブタイトルが『城之内死す』みたいになってますが気にしません


第五話:虎と蛍、レナ・シュヴァルツの最期

「あのティーガー、まさか()か?」

「隊長? 知っているんですか?」

「ここ最近連合軍の補給線をめちゃくちゃにしてる奴よ。生き残りの話だと相当手際が良かったらしいわ。あくまで予想だけど、ソ連軍と戦ってたヤツがこっちに移ったのかしら」

「……仲間が随分やられたようです」

「敵討ちね。奴の進撃は、ここで止める」

 

 

 

「そろそろだと思ったよ」

「隊長? なんですか?」

「いや、何でもない。アナ、奴の側面に回り込む。エマ、残りは私の指示で撃ってくれ」

 

 レナは一度、静かに深呼吸する。真の正念場はここからだ。あちらは万全なファイアフライ、こちらは致命的なダメージは貰っていないとはいえ、ダメージの蓄積したティーガー。だが乗員の士気は高い。

 

「さあ、最後の一仕事だ。全員無事ここから脱出するよ」

「隊長? 相手はそう簡単には許してくれそうにありませんよ?」

「グレータ、砲弾に『ごめんなさい』って書いとけ。戦車の中にぶち込めば相手も読んでくれるだろうよ」

 

 ハハハ、と車内で四人の笑い声が響く。そう言えば戦車に乗っている間は、みんなこうやって笑うのが我々の日常だった。

 

 私がめちゃくちゃな作戦を提示したり、アナはそんな私に苦言を呈し、グレータが柄にもなく冗談を言ったり、エマはそんなグレータを小突いて。そしてヘルガはいつも笑っていた。例えそれがどんなに無茶な状況でもみんな楽しんでた。

 

 そうか。気づくのが遅かったなぁ。

 

「ねぇみんな、最後に一つ聞きたい事があるんだけど」

「何です?」

 

 この戦車に乗る奴は皆。

 

「戦車は好きかい?」

「「「勿論!」」」

 

 私と同じ、戦車バカだったんだ。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 いきなり家の隙間から飛び出した傷だらけのティーガーが砲塔をこちらに向ける。ファイアフライはすかさず撃つが、ティーガーは巧みな操作でこれをいなす。弾は明後日の方向に飛んで行った。こちらの弾も惜しくも跳弾だ。

 

「そこの道路に入って! スモークも!」

「了解!」

 

 素早く小道に入り、スモークで道の入口を塞ぐ。これで暫くは時間稼ぎになるはずだ。

 

「追ってきてはいないか……やはりストーカーは相手にしないのが一番だな」

「撒けそうですかね?」

「モテる女は辛いよ」

 

 全速力でティーガーは道路を進む。この道を進めば広場に出る。そこから更に道を進めば、味方の勢力範囲に入れる筈だ。

 

 だがそうは問屋が卸さない。広場に出たティーガーを衝撃が襲う。広場にはあのファイアフライ。砲弾を受けたティーガー内部の装甲がまるで散弾のようにレナを襲った。

 

「ぐぁぁ!」

「隊長!」

「っ、問題、無い! 側面を晒さないように前進!」

 

 ポタリ、とレナの血がグレータの足下に落ちる。予想よりも結構やるじゃないか。レナは歯を食いしばり、しっかりと正面を見据える。ファイアフライの2発目の攻撃がくる。グレータが装填。

 

「撃て!」

「……駄目です! 弾かれました! 敵の装甲はかなり厚い!」

「何だと!」

 

 レナは知らない事だったが、前線で暴れまわったレナ達を撃破すべく、何両か『特別な』ファイアフライが作られていた。正面装甲は厚く、出力も上げ、各所に改良が施されている。対してこちらの残弾は残り3発。これで仕留めきれなければ、生き残れない。

 

 それに、時間もない。レナは自身の脇腹に手をやる。流れ続ける血。さっきの怪我が予想よりも深い。レナが限界を迎えるのはもう間もなくだった。

 

 路地に退避したティーガーに、ジリジリと詰め寄るファイアフライ。打開策は、あった。皆も、自分に命を預けた。ならば、後は実行するだけ。レナはこの勝負の方針を既に固めた。

 

「再度攻撃する。背後をとるよ」

「隊長無茶です! 撤退しましょう!」

「それさ」

「…………?」

「連中も同じことを考えているさ。()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()ってな。私だってそう判断する」

 

 逆を言えば、奴の不意を付くには今しかない。この場を引こうとすれば、敵の追撃で間違いなくやられる。

 

「チャンスは一度きりだ。気合い入れて行くよ!」

「「「了解! ご指示を!」」」

()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 それは、レナ達の一世一代の大博打だった。

 

 戦車の弱点として最も分かりやすいのが後部だ。前部に比べて装甲は薄く、エンジンの積んである部分である。当然そこを攻撃されればどんな戦車でも容易く撃破される。あらゆる国の戦車乗りにとって常識だった。

 

 だからファイアフライはもし突然ティーガーが出てくれば、反射的にティーガーの()()を撃つだろう。

 

 だがもしその時、もしも、()()()()()()()()()()()()()。加えて、スモークで隠された状態ならば。砲弾を弾く事も、不可能ではあるまい。そう考えたのだ。

 

「車体を旋回! このままバックで奴の隣にくっつく!」

 

 更に旋回し、装甲を斜めにとる。直後に車体に振動と、甲高い音。レナの博打は、大当たりだった。ティーガーの装甲は、ファイアフライの砲弾を弾いた。

 

「敵の砲弾を弾きました!」

「砲塔旋回! 撃て!」

「敵戦車から煙! 装填急いで!」

 

 敵の装填の隙に敵戦車の隣に並ぶ。そのまま後ろを取ろうとするも、『そうはさせるか』と敵もバックする。だが間に合わせない。

 

 敵戦車の後ろには、広場の噴水。噴水に阻まれ、ファイアフライはこれ以上下がれない。

 

 レナの宣言通り、ティーガーはファイアフライの背後をとった。レナは叫ぶ。

 

「撃て!」

「撃破!」

 

 ファイアフライから火が上がる。そして、レナ達は勝利した。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 ボロボロのティーガーの前ハッチから、アナが飛び出す。砲塔部に登ると、そのままハッチからレナを引きずり出した。後からエマ、グレータも出てくる。レナはぐったりとして動かず、とめどなく流れる血は止まらない。アナが声を掛ける。

 

「隊長! しっかりしてください!」

「…………全員、無事?」

「はい、隊長」

 

 辛うじて意識はあるレナは、口から血を出しながら全員の顔を見る。勝利したが、生き残れなかった。だがレナには後悔は無かった。自分の部下が生きている。車長としての役割を全う出来たと感じた。

 

「…………さっきのアレ、いいアイディア、だったでしょ? アレ、いつかやろうって、いつも、考えてたんだ」

「~~~っ! こんな時まで、隊長は! 止血します! 黙ってください!」

 

 レナは精一杯ニヤリと笑う。それをエマが叱咤する。レナは戦車を思う存分楽しめた。最後の死闘は緊迫した命のやりとりだったが、終わってしまえば楽しかったという感想がレナからは出てきた。

 

「いや、もう……自分でも……わかるよ。私は……助からない……」

「嫌です! 隊長らしくもない! 目を開けてください!」

 

 目を閉じたレナに、グレータが焦りの声を上げる。レナはゆっくりと三人に指示をした。

 

「この後の判断は……アナに……任せる。でも……私のわがまま……を……聞いて……欲しい」

 

「全員……生きてくれ……降伏しても良い……国外に……逃げても……いい……」

 

「君達は……私の大切な……仲間だから……もし……死んで……私の墓参りに……来ないなら……許さない……から……」

 

「それと……ヘルガに……きちんと……墓を建てて……あげて……」

 

「あぁ、でも……もしも、()があれば……」

 

「もっと……五人で……戦車を……()()()……たかった……なぁ……」

 

 レナは、意識を手放した。

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 そして、時は流れ、世界は変わる。

 

 ドイツは戦争に負けた。

 

 戦争は終わり、世界が目覚しく変わる中。1950年代に、ある一つの文化が生まれた。

 

 安全性を追求した戦車を使った、戦車戦を模した女子の為の競技。それは世界中で広まり、多くの人が熱中した。

 

 即ち━━━『戦車道』である。

 

 発案者であり、国際戦車道連盟の会長でもある()()()()()()()はこう語る。

 

『戦争は恐ろしいものですが、私の昔の()()のように━━本人は隠してるつもりだったらしいですが━━戦車を愛する女性も存在します。私もその一人です。けれども残酷な事に、戦車は兵器だった。その事で悩む人もいたかも知れません。

 それでも戦車道でならば、戦車は戦争や死といった事から分けて楽しむ事が出来るはずです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私は声を大にしてそう言いたい』

 

 そうして戦車道が広まった世界で。

 

「みほ! あたらしい戦車がきたよ! みにいこう!」

「うん! おねえちゃん!」

 

 少女達の物語が幕を開けようとしていた━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その前に。

 

「あれ? 何処だここ? 私死んでなかったっけ?」

 

 とあるドイツの街で、軍服姿の少女が草むらから起き上がった。




過去パートはこれでほとんど終了です。お疲れ様でした。

次回は1回主人公のスペック確認したらいよいよガルパン時空に絡ませます。過去パートよりも主人公が生き生きするように書きますのでお待ちください

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