いつもとなりの友希那さん   作:葛葉一壱

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となりで魅せたい友希那さん

 春である。

 別れと出会い。新しい年度の始まりの季節。

 まだまだ寒さはあるものの、次第に暖かさを感じることができる今日この頃。

 

 そんな日々をまったりと過ごす俺は、今日も今日とて日常を謳歌しているのであった。

 

 

「謳歌しているのであった……はずなのになぁ」

 

「いやー……あははは」

 

 

 カウンターに肘をついて溜息を一つ。

 溜息ついでに愚痴を吐けば、隣からはバツの悪そうな笑いが漏れた。

 

 

「いくら暇だからって俺を引きこみます? 普通」

 

「だ、だって……音楽詳しい知り合いで手が空いてたの、紘汰君しかいなくって……!」

 

「まあ勝手知ったる場所ですからねぇ。本当に暇だったのは確かですし。今日位は付き合いますよ」

 

「こ、紘汰君……!!」

 

 

 あれはまだお昼前の平日のこと。

 いつも通り暇だなー。とブラブラしつつ結局拠点のライブハウスCiRCLEに吸い寄せられた俺は、予約しようとカウンターに近づいたのが運の尽き。

 一瞬目を光らせたと思いきや瞬時に俺を捕まえ、どこに隠してたと言わんばかりの力であれよあれよという間に一日限定ヘルプとして引きこまれてしまったのだ。

 

 なんでも、今日入るはずだったシフト二人がどちらも季節の変わり目により体調不良。代わりもなくまりなさん一人で本来回さなきゃいけないと頭を抱えていたところ、ぼけーっとカモがネギ背負ってやってきた。ということらしい。

 

 カモネギ扱いとは、大変遺憾である。

 

 

「うぅ……ごめんね? 本当に今日だけの臨時でいいから……!」

 

「はいはい。まあ貸しひとつってことで。流石に離れてた時期が時期ですから、カウンターだけでいいですか?」

 

「ありがとねー……。基本はカウンターにいてもらって、必要になったらその都度振らせてもらってもいいかな?」

 

「りょーかいです。んじゃ、一日のんびり臨時バイトさせてもらうとしましょうか」

 

「神様仏さま紘汰様だよー……」

 

 

 誰が神様やねん。

 よよよ。と泣きながら裏手に回っていくまりなさんを見ながら、やれやれと本日何度目かの溜息をひとつ。

 窓から刺す日差しが実に心地よく、温もりだけを体に届けてくれる。

 たまにはこんな日もありか。と切り替えつつ、椅子に座って適当な音楽雑誌を捲っていくのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「うへぇ……新しい機材の導入とか聞いてねー……」

 

 

 あの窓から刺す日差しはいずこへ。時間はあれから大分経ち学生諸君待望の放課後と呼ばれるものまで過ぎ去っていた。

 確かに必要になったら呼ぶ。という要求にOKを出したのは俺だが、ボスラッシュにも程があった。

 呼ばれてみれば出るわ出るわ肉体労働の数々。カウンターだけでいいですよねと俺言ったよね?

 頼まれたものと言えば天井スピーカーの取り換え、舞台照明を一々取り換える必要のあるカラーフィルター式をライブスタジオだけ最新のLED式にアップグレードする等etc...

 

 ライブスタジオ一室だけと言って侮るなかれ。照明とは音響と切っても切れない重要な部分故、かなりの台数が設置されているのだ。

 長尺の脚立に乗って外す作業はプロの照明の仕事だろうと愚痴を垂れつつ、しかし経験者であることを盾に結局は引き受けてしまうのは甘さだろうか。

 

 そうして力仕事が終われば今度は合間にやってくる客への対応。

 平日昼間ということで閑散としたなかに疎らにやってくる程度であるが、スタッフ二人で回すには少々過酷シフトが過ぎる。これはオーナーに直訴も辞さない。

 

 

「……あのー」

 

「大体まりなさんもちゃんと最初から言ってくれればそれなりに覚悟するってのに……。まあ苦労してるのは分かるから怒るに怒れんけどさぁ」

 

「? あ、あのー……」

 

「もうちょっとオープンにしてほしいよなぁ。これは今日飯奢ってもらおう。そうしよう」

 

「あ、あの……」

 

「そうと決まれば美味い飯屋探すか……どれ近場の高い店は」

 

「あのッ!!!」

 

「はいっ!? いらっしゃいませぇ!?」

 

 

 突然の大声。びっくりして声を裏返しながら決まり文句を言う俺。

 こちらもびっくりしているがお客さん側もそこそこびっくりしたようで、目をまん丸にしてこちらを見つめていた。

 学生服……見覚えがあると思えば湊と同じ学生服だ。確かこの近くにある女子高だったか。

 ともかく少し自分の世界に入りすぎたことを戒めつつ、急いで張り付けた営業スマイルでこの小さな少女の対応をせねばなるまい。

 

 

「あ、あぁ。驚かせてすみません……。えと、どういったご用件でしょう?」

 

「い、いえこちらこそ大きな声を出してしまって……。えと、ここがCiRCLEさん、で間違いないでしょうか?」

 

 

 如何にもここがCiRCLEである。なんて厳かに言いたいがネタを言う相手は弁えよう。

 茶髪のくりくりした目が特徴の、少しシャイそうな少女の問いにその通りですがと返す。

 するとそうですか。と少し安心したように笑みを浮かべてくれたので、どうやら初手のやらかしについては挽回が効きそうで安心だ。

 

 

「えと、私。幼馴染でバンドを組んでるんです。それで新しい練習場所を探すことになりまして、近場にライブハウスがあると聞いて、是非見学したいなと!」

 

「ほう? バンド……そりゃまた随分意外というか」

 

「ッ……やっぱり、そうですかね?」

 

 

 おっと、これはやらかした。

 すぐに訂正を入れる。音楽は誰でもやる権利がある。見た目等二の次三の次なのだ。

 

 

「いや、こりゃ失言でした。バンド、いいと思いますよ。仲間と一緒に何かやるのも、音楽やるのも誰でも権利があって自由で然るべきだ」

 

「ぁ……! はい……ありがとうございます!」

 

 

 軽口は災いの元だなこりゃ……。と再び自分の胸にしかと刻んでから、また笑みを取り戻してくれた彼女からようやく事の詳細を聞くことができた。

 要は新天地探しだろう。聞けば色々なライブハウスを試しているそうだが、本当に音楽が好きならばここはうってつけだと断言できる。

 何せ仕切ってるのがあの人(まりなさん)だ。女性の立場から応援もできるだろうし、理解もある。

 

 ともなれば、おすすめしない理由はないだろう。

 

 

「んじゃあCiRCLEは大歓迎ですよ。ここの実質店長みたいな人……今は裏で休んでるけど、女性だし音楽にすっげー理解ある。しかも気さくな人だ。見学もいつでも来ていいから」

 

「そうなんですか! よかったぁ……。あ、じゃあ早速! 今からでもいいですか!?」

 

「今から? まあ平日でレッスンスタジオも空席があるし、構わないですけども……。バンド仲間は大丈夫なんで?」

 

「大丈夫です! 私達、すぐ近くに家がある幼馴染同士なので! すぐ来てくれると思います!!」

 

 

 ぐっ。とガッツポーズを小さく決めてからメルメルとスマホを操作しだす茶髪ちゃんの気迫に一瞬気圧されて「あ、はい」と押し込められてしまった。

 というかまだ会って数分の男性に個人情報を教えるんじゃありません。危ないでしょ。

 ……思えばおんなじ高校の湊も大概不用心であった。

 確かそこそこの進学校だったと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

「……くしゅんっ。……やっぱり風邪かしら。薬、帰りに買っていきましょう」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「あ、そろそろ着くみたいなので、私迎えに行ってきますね!」

 

「はいはい。気を付けていっておいで、つぐみちゃん」

 

 

 元気にとたた。と駆けていく茶髪少女、もとい羽沢つぐみちゃんとは、先程ちゃんとご挨拶を交わしておいた。

 まだ連絡とってから30分も経っていないところを見ると本当に全員近くに住んでいるらしい。

 幼馴染っていいよなー。もしいたらなー。なんてありもしない妄想に憑りつかれそうになったところで、再び入口のドアから今度は複数人がわいわいと入店。

 

 

「……おおう。赤メッシュ」

 

 

 入ってきた五人組はつぐみちゃんを覗けば大分パンチが効いていた。

 パンクロック風と言うべきか、先頭に立つ黒髪に赤いメッシュをいれた強烈な印象を残す少女に、背の高めの少女は赤く染めた長髪と中々にかましている。

 後に続く二人も先頭二人と比べれば落ち着き気味だがそれでも溢れ出る派手さを放ち続けてるときた。

 そうとくればそりゃあ茶髪のつぐみちゃんは意外って言われるの嫌だよなあ……。

 この辺は極めてデリケートな問題であることを再確認してから、雑誌を横において改めて接客対応だ。

 

 

「いらっしゃいませ。つぐみちゃんが言ってたバンド仲間さん?」

 

「どうも。先程はつぐみがお世話になりました……美竹蘭です。今日はよろしくお願いします」

 

「青葉モカですー。つぐのツグりにお付き合い頂き大変ありがとうございましたー」

 

「宇田川巴です。今日はよろしくお願いします!!」

 

「わはー! 感じのいい男の人だぁ……あっ上原ひまりですっ!」

 

「改めまして羽沢つぐみです。私達、Afterglowっていうバンドやってるんです!」

 

 

 うんうん。見た目に騙されそうになったが、いい子達そうで安心した。

 美竹さんに青葉さんに宇田川さんに上原さん。そしてつぐみちゃんと。五人組ということはそこそこ本格的なバンドなのかもしれない。

 今から彼女たちの練習を聞くのが楽しみだ……というか、気になってたがツグりってなんだ。

 

 

「ツグりってなんだ……?」

 

「わっわっ。そこは気にしなくて大丈夫ですっ」

 

「そう? んじゃあ……俺は藤井紘汰。今日は臨時で店員やってるけど、いつもはここを利用する側だ。もし会ったら、よろしく頼むな」

 

「え? 臨時なんですか? なんだー若い男性店員さんとのロマンスはないのかぁ」

 

「滅茶苦茶失礼だよひまり……」

 

「あっはは。アグレッシブな娘だな上原さん……ここ仕切ってる人なら、そろそろ出てくると思うけど――ほら」

 

 

 ぐいぐい来よる。美竹さんが突っ込んでいるところを見ると案外苦労人枠なのかもしれない。

 いかにもJKだなあ。と感じるノリに苦戦しそうになっていると、後ろの休憩室からのそりとお疲れ気味のまりなさんが御登場だ。

 今の今まで寝ていたのかしばらく俺を見てからしぱしぱと瞬きをした後、俺の背の向こう側の五人組を見つめて――――。

 

 

「お客さんっ!? こんなに若い娘たちが、嘘ー!」

 

「あーこちらAfterglowっていうバンド組んでる娘たち。見学らしいですよ……んで、こっちがここを大体仕切ってる月島まりなさん」

 

 

 よろしくお願いしまーす! と元気よく挨拶している数人にあらあらまあまあと嬉し気に話しかけていくまりなさん。

 やっぱりその性格からか相性はいいようで、既に打ち解けている様子だ。 

 うむうむ。姦しいとは言うが女の子がきゃっきゃしている様は見ているだけでも微笑ましい。

 一部女の子? が混じっているが、口にするとうっかり〆られかねないので心の最深部にしまって鍵をかけておくことも忘れずに。

 

 話はとりあえず当初の予定通り今日は一旦CiRCLEの見学。本格的な使用はまた後日ということになった。

 まあ見た所何人かは楽器を持ってきていなかったみたいだし、当然と言えば当然か。

 

 

「よーし、じゃあお姉さんが特別に案内しちゃう! 着いて来てー!!」

 

 

 元気のいい返事に更にテンションがおかしい方向に振りきれたまりなさんが、Afterglowの面々を連れてスタジオ方向へと引っ込んでいく。

 中々いい常連さんを見つけられたみたいだ。これから彼女たちがどんな活躍をするのか見物である。

 

 

「何をしているのかしら。紘汰」

 

「ほわぁ!? な、なんだ湊か……いらっしゃい」

 

「……バイト? 労働とは殊勝な心掛けね」

 

「頼まれただけだよ。てかいつ来たんだ……今日はレッスンか? スタジオなら空いてるけど」

 

 

 カウンターでニコニコしていると、唐突に聞き馴染のある声が鼓膜を揺らす。

 目を向けてみればそこにはマスクをつけた湊がそこにいた。喉対策だろうか。ちょっと芸能人っぽい。

 

 さて貸出書類はとごそごそ漁っている最中、ふと視界の端にその立ち姿が目に入るのだが。

 

 

「……っ ね、ねえ」

 

「んー?」

 

「今の、あの娘たち……」

 

 

 なんだ。妙にそわそわしていると思えば結構前から居たらしい。

 女子高生集団なんてこのCiRCLEで一切合切見てこなかったものだ。それは珍しいだろう。

 

 

「ああ。Afterglowっていうバンド。CiRCLEの設備見たいってんで、今日見学なんだよ」

 

「そう、そうなの……バンド、ね」

 

 

 書類をバインダーに挟んで差し出すと、答えたにもかかわらず湊は若干そわそわしたままだ。

 何か気になるものでもあるのだろうか。目線があっちこっちに散らばったあと、ふい。と遠慮がちにこちらの目線とぶつかった。

 おっと。その上目遣いは凶悪だ。一体どこで学んだんだい?

 溢れ出る若造精神を抑え込む。ングッと変な声が喉から漏れたがなんとか耐えたことにしたい。

 

 

「ねぇ。今日は、忙しい……?」

 

「けほっ……ん? いや別にピークは昼頃だったし今は別に暇だが……」

 

「! な、なら……えっと」

 

 

 手をもにょもにょとさせながら、湊は貸出書類に記載をしてこちらに返してくる。

 まだ何かあるのかと身構えれば、取り出したるは俺が先日手渡したUSB――ではなく、恐らく複製したものだろうか。

 原本はきちんと保管する。データ管理の基本を守っているようでなによりだ。

 

 

「大分仕上がってきたの……歌、聴いてもらえたりはしないかしら」

 

「もう仕上がってるのか!? すげえな歌姫……そんなことなら、よろこんで」

 

 

 どうやら歌姫サマは新曲の仕上がりを確認してほしいそうだった。

 まあ作詞作曲した本人が身近にいれば意見を欲しがる気持ちは分かる。俺だってそうするだろうし。

 二つ返事で返すと、その冷淡な表情を少し和らげてから「じゃあ、待ってるから」と湊はレッスンスタジオへ姿を消していく。

 

 さて、では俺も準備をしてしかと聞かせてもらいましょうかね。

 

 

 

「あれ、紘汰君どうしたの?」

 

「まりなさん。はい、受付バトンターッチ」

 

 

 軽くカウンター周りを整頓してから後を追うと、見学を終えたのか後ろにAfterglowの面々を連れたまりなさんと鉢合った。

 この様子だと湊とはすれ違わなかったらしい。

 事情を一々説明するのも面倒だと、手を挙げてそう宣言すると、まりなさんは訳も分からずえっえっ。と声を漏らしながらハイタッチ。

 

 さあこれで受付係交代だ。安心して一観客の役割に戻れる。

 

 

「えっ紘汰君!? なになに、どういうことー!?」

 

「Afterglowのみんなも、よかったらCiRCLE御贔屓にな」

 

「はい! 紘汰さんも、これからよろしくお願いします!!」

 

「紘汰君! 説明してよぉ!!」

 

 

 五人組にも軽く挨拶をすれば、つぐみちゃんが代表してそう返事を返してくれる。

 やっぱりいい子だぁ。と感動している最中にも、しかしまりなさんはお目目ぐるぐるで抗議してくるわけで。

 

 ああ面倒くさいと。端的に、一言に纏めて。

 

 

「歌をとなりで魅せたいっていう奴の応援ですよ。そんじゃ!」

 

 

 すたこらさっさと廊下を駆ける。

 久し振りに聞ける歌声は、どんなに進化してるのだろう。

 今から楽しみでしょうがない気持ちを抱いて、俺は彼女が待つルームの扉を開けるのだった。

 

 




友希那さんと言いつつも半分アフロ回
時系列的にはまだ友希那さんがバンド組む前の二年生春ごろです

さて次回からはRoselia結成編に。お楽しみいただければ幸いです。

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