いつもとなりの友希那さん   作:葛葉一壱

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メンバーそろえよ友希那さん

 あれから少しの時間が経った。

 おおよそ一週間だろうか。春が少し過ぎ去り暖かくなり始める予兆を見せている週末の午後。

 何をしているかと言えば、それはもうライブハウスですることは1つ。

 だけど普段とちょっと違うのは、ここが俺の拠点とするCiRCLEではない。ということだ。

 

 ではなんでわざわざ使い慣れた拠点から退いてまで別のライブハウスに来ているかというと……。

 

 

「……はい、オッケー! そこまででいいぞーあこ」

 

「はい! はぁ……ふぅ。紘汰さん、どーでした!? あこのドラム!!」

 

「おー及第点だ。粗は目立つが気持ちがいい。もう一曲叩いてみ! ……流石、巴さんの妹さんだな」

 

「はーい! フッフッフ。我が闇の両腕に宿りし漆黒の……うーんと、なんとかが……バーン!!」

 

 

 あの日、俺の至らぬばかりに傷つけてしまったドラマー少女こと宇田川あこの強化特訓。とでも名付けようか。

 技術は確かなものがある。では後はあの音楽一筋の筋金入りを納得させるだけの意思をぶつけるだけでいい。

 しかし本人には姉という明確な追う背中があり、それが自分の中で勝手に妥協点を作ってしまっていると踏んだ俺は当初の予定通り湊と組めるように手助けをすることになった。

 

 別にCiRCLEでもよかったのだが、あそこのスタジオを借りるとほぼ100%の確率で歌うまモンスターがポップして再び不毛な言い争いになってしまうので却下。そこで手を借りたのが、彼女たちだ。

 

 

「はは、自慢の妹ですよ。それよりあこが世話になってすいません、紘汰さん」

 

「俺の責任でもあるから気にしないで。それより頼って申し訳ないよ、Afterglowには」

 

「おー、あこちん。いつの間にあんなに上手くなっちゃってー」

 

「うん。……悪くないね」

 

「紘汰さんにはCiRCLEに初めて来たときからよくしてもらってますし、私達も手伝えることがあればと思ってたんです!」

 

「あこちゃーん! 頑張れー!」

 

 

 Afterglow。既に一月ほど前にはなるが、CiRCLE利用を勧めたガールズバンド。

 あれからちょくちょく足を運んでくれた彼女たちの中にあこの姉がいるとはまさか思いもしなかった。

 ドラマー姉妹ということで巴さんのドラムも見せてもらったが、これが中々イカしている。妹が憧れるのもまあ納得のロック加減だった。

 どこかにあこと一緒に足を運べるライブハウスはないかと探していたところ、つぐみちゃんにここを紹介してもらった。というのが此処までに至る経緯だ。

 

 

「というかあこの言ってたカッコいい人って、湊さんだったのか……」

 

「おお? 巴さん湊のこと知ってるのか」

 

「うちの学校の一つ上ですね。そうか、紗夜さんと組んだって言うからどんな人かと……」

 

 

 まるであの人ならあの紗夜さんと組んだのも納得だなあ……。と言いたげな目でうんうん頷く巴さん。

 共に音楽にはストイックすぎることでこの付近では有名だ。Afterglowにもその名は轟いていたのだろう。

 

 

「というか、アタシらは藤井さんがあの実力主義の塊みたいな二人と知り合いだったっていうのが驚きなんですけど」

 

「蘭ー。それだいぶ失礼に片足突っ込んだ発言だとモカちゃん思う~」

 

「ま、まあ言わんとすることは分かる……。けど俺も音楽の感性はどっちかっていうとアイツら寄りだよ。私情が分かれてるだけで、むしろ一本筋で真剣な分湊たちの方が信頼できると思うぞ」

 

 

 要は半端モノってこと。と自嘲しつつかの孤高の歌姫サマにちょっと対抗心が芽生えつつある美竹さんとそれに突っ込む青葉さんにフォローだけは入れておく。

 確かに見る人が見ればお高く留まってると思われるかもしれないが、それが彼女たちは本気で上を目指そうともがいている証左だ。

 だったらそれを応援こそすれど誰が邪魔だてなどできようか。

 

 

「あこの湊と組みたいって願いを叶えたいのも、それが湊にとっていい方向に向くと俺が思ってるっていう打算込みだ。……結局のところ自分のやりたいことをやってるだけだよ」

 

「! で、でも紘汰さんは、その……あの時、困ってる私にも親切にしてくれて」

 

「そうですよ! むしろ好印象だと思いますっ!」

 

「さんきゅな。つぐみちゃん、上原さん。でも大人っていうのはそういう汚いもんを腹に1つは抱えてるもんだ。美竹さん達も、こういう大人にはなっちゃだめだぞ~?」

 

 

 もっと悪い大人の食い物にされちゃうからね。

 特にバンドマンなんて一歩間違えば悪い奴らとイコールで結びつきかねない程に世間一般からの印象はあんまりよろしくないと再三言ってることだし。

 こんな純粋な少女たちは、汚いことを知ってる大人が守っていかなきゃいけないとこだ。

 よりよい音楽の将来のためにも。

 

 

「……藤井さんは、汚くないですし。あと蘭でいいです」

 

「おー。蘭がそういうならあたしもモカちゃんって呼んでくださいな~」

 

「あっ! 私も私も! というかつぐだけちゃっかり名前呼びなのずるいですっ!」

 

「いやずるいて……。んじゃせいぜい心に留めるだけ留めといてくれ。……えと、蘭に、モカに、ひまり……えと、巴さんは」

 

「あ、アタシは別に今のままでいいですよ……無理しないでください」

 

 

 ああ、言っちゃだめだけどサバサバとした姉御肌から出るやさしさが染みる……。

 あこがいい娘に育つわけだ。

 いい姉兼目標になってくれているんだろう。実に理想の関係なのではないか。

 

 

「つぐだけやっぱりちゃん付けだし……」

 

「いやあつぐみちゃんはなあ……なんか、つぐみちゃん。って感じだし」

 

「ふぇっ!? あ、いや。えへへ……」

 

「誑し……」

 

「誑しだ~」

 

 

 はい。うるさいぞー蘭モカコンビ。お兄さんはそういう邪な感情は若造精神と共に封印しているのです。主に音楽の為に。

 さて、そうこうしている間にもしっかりと目の前で一曲叩きおわったあこが今か今かと指示を待っているのでそろそろ練習に戻るとしようか。

 これでも話しながらしっかりとミスった部分とよかった部分を指摘できるくらいには耳は肥えてるのだ。えっへん。

 

 

「紘汰さん紘汰さんっ! どうでした!? これ、友希那さんのライブ初めて聞いたときの曲で、すっごく練習したんです!」

 

「おう。興奮するとめっちゃ手数増やすのをやめて、ペダル踏む時に足全体じゃなくてつま先意識して踏むともっとよくなると思うな。音が整うし、後半息切れしにくくなるぞ」

 

「ぐぅ。や、やってみます……」

 

「じゃあまずは3分リズムキープな。はじめていいぞー」

 

 

 こうかなあ。と口でリズムを刻みながらゆったりとリズムキープする練習を始めるあこを後目に、再び休憩中のAfterglowの面々のもとへ。

 そこには少し神妙な顔持ちの巴さんが、自分のスティックをくるくると回しながら真剣に練習する妹の姿を見つめていた。

 

 

「……どうです? あこの奴、湊さんのバンドに入れてもらえると思いますかね」

 

「きちんと自信を持って、自分の音楽で湊と紗夜さんにぶつかっていければ……って感じかな。実力は確かにある。あこがそれに気付ければなんだが」

 

 

 実際、あの夜に湊の前で「私が一番のドラマーだ」と言えばすぐにでもセッションなりして湊はその実力を試しただろう。

 だがあこの中では姉の存在が大きすぎる。故に自分の中で無意識に追いかける者としての意識が染みついているんだろう。

 それでは、頂点に向かって全速力で走り抜ける覚悟の面子にはついていけない。

 

 

「でも、あこならやってくれるって、アタシは信じてます」

 

「自慢の妹だから?」

 

「それもありますけど――アタシの妹は、世界で一番カッコいいバンドのドラマーになる。らしいんで」

 

 

 ニッ。と笑みを浮かべる巴さん。

 世界で一番カッコいいバンドのドラマー……ねえ。

 なんだ、覚悟なんてとっくのとうに出来上がってるじゃないか。

 

 そうと決まれば、もう大丈夫だろう。

 きっと宇田川あこは既に湊友希那のお眼鏡にかなう楽器隊になっている。

 

 

「……おっ、と。まりなさんから?」

 

 

 ピリリ。と普段一切鳴らないスマホから着信がかかる。

 メッセージの相手は『月島まりな』。件名は……『助けて』?

 

 ……内容を恐る恐る開く。

 

 

『友希那ちゃんご乱心。紘汰君の所在所望。

 PS.ごめん』

 

 

 血の気が引くとはこの事か。

 

 

「紘汰さん? 何が――」

 

「ちょっと野暮用が。あこは多分、もう大丈夫。きっと湊も認めてくれる」

 

 

 だから。と付け加えようとする前に、巴さんが肩を叩く。

 やっぱり男らしいなあ。と思わざるを得ない所作に笑いながら、彼女の言葉を受けとめた。

 

 

「あこを、頼みます」

 

「任せとけ。世界で一番カッコいいドラマーになるはずだよ。……っと。そろそろ行かんと」

 

 

 ひとまずここを離れねば。

 でなければあこを湊に引き合わせる云々以前の話になってしまう。

 

 Afterglowの面々にはそれぞれ別れを済ませ、もう時間はとっくに過ぎたというのに集中してリズムキープを続けるあこの頭に手を乗せた。

 

 

「ひゃわぁ!? こ、紘汰さん?」

 

「あこ。明日……そうだな。学校帰りにでも湊にアタックしてみたらどうだ?」

 

「え? でも――」

 

「あこなら大丈夫だ。自信持てよ、世界で一番カッコいいバンドのドラマーになるんだろ?」

 

「……っ! うん! わかった。あこ頑張る!」

 

「その意気だ。俺はもう行くから……頑張れ」

 

 

 エールの言葉に、あこは自信に満ち溢れた視線で応える。

 この分ならもう心配はない。きっと明日には湊のバンドに新しいメンバーが増えていることだろう。

 

 ライブハウスを出て、少し夜風の冷たさに当たる。

 冷静になった頭で考えることは1つだ。

 

 

「やっべ。湊になんも言ってねえや」

 

 

 そういえばそうである。あの後湊は何も言わずにあこと俺と置いていったし、当然特訓はその翌日からスタートした。

 まりなさんには仕事で付き合いがある故ちょっと所用で近くのライブハウスに行ってくるとは一応言いはしたものの、ものの見事にあの二人には何も言わずに一週間近く経っちゃっているのだった。

 バンドメンバー探してやるよと豪語しておいてこれは不味い。最悪殺される。

 さあてどうしようどうしようと思いつつも特に浮かばない。

 

 ……とりあえず商店街行ってブラブラして明日説明しよう。

 

 紗夜さんあたりにまた噛み付かれると思うと胃がキリキリしてきた。……薬局まだ開いてるかな。

 

 

 と、歩き始めた時である。

 ――――俺の横からふわりとした香りと、ちょっとの衝撃が体を襲った。

 

 

「お、っと――――湊?」

 

「はぁっ……はっ。はっ」

 

 

 艶やかな銀色の髪。鮮やかな金色の瞳を揺らして、なんとちょっと息まで切らしている。

 かと思えば一気にその眼光を鋭くさせるのだから心臓に悪い。しかも腕まで掴まれては逃げ場もなく。

 俺は何も出来ぬまま、ただ道中固まるしかなかった。

 

 

「あー……いや、その。湊? これはな」

 

「――――いなくなったと思った」

 

 

 ただでさえ悪かった心臓が跳ねあがったと錯覚する衝撃。

 普段冷淡な声色は震えて、今にも消え入りそうな程か細いくらいに。

 きゅ。と腕を掴む両手に力が入る。

 

 

「なんで何も言わなかったの」

 

「……その」

 

「メンバー集め、手伝ってくれるんじゃなかったの」

 

「悪い……」

 

「……見てて。って、言ったでしょ」

 

 

 ああ、敵わないな。と自覚する。

 この歌姫サマを一生かかっても追い越すことはできないんだろう。

 思わず口から出そうになる甘言を飲み込んで抑え込んで、ただ俺は湊の両手にそっと片手を添えて応える。

 

 

「ずっと見てるよ。湊と、湊の創る音楽を」

 

「なら、勝手に消えないで――意見を言ってくれる人がいなくて、少し困ったじゃない」

 

「ふ、ふふっ……」

 

「なっ……!? 何を笑っているのかしら。紘汰、大体あなたがぶらぶらとしているから練習の進行が」

 

「ああ、悪い悪い……俺が悪かった、機嫌治せよ湊。それに俺、ちゃんとバンドメンバー探してたんだぜ?」

 

「え、そう、なの? ……いえ、だとしても、きちんと連絡くらいは入れなさい」

 

「俺はバンドメンバーじゃないんだけどなあ……」

 

 

 いつの間にか、二人そろって道を歩き始める。

 駅までか? ええ、お願い。そんないつもの会話が一週間の間だけだというのに、何故か懐かしい。

 いや、心地よい。と言うべきか。

 

 

 俺のとなりに湊がいるのが、どうしようもなく『特別』であり日常であることを理解させてくる。

 ああ、やっぱり俺はコイツには敵いそうにない。

 湊友希那がとなりにいることで、どうしようもなく俺の感性を昔のようにしてくれる。

 なんの変哲もない日常が、また少し輝いて見えるんだ。

 

 

「そうだとしても、あなたが必要だと私が言ったはずよ? 忘れたの?」

 

「いやいや、忘れる訳ないだろ。最後までとことん付き合うって、言ったはずだぞ?」

 

「覚えていればいいのよ……あと、紗夜から伝言よ。『明日覚えとけ』。だそうよ」

 

「げ、マジか」

 

「精々言い訳を考えておきなさい」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 ふふん。と得意げに歩く湊の隣で、ため息をつく。

 まだ暖かくなるには少し遠い春の夜道を、ゆっくりと時間を噛みしめるように歩いて行った。

 

 

 青薔薇が花開くまで、あと少し。

 




友希那さん…なんか一週間近くとなりにいなかったせいで爆発中。
紘汰さん…一週間ぶりの友希那さんに倍プッシュで精神を削られ中。

失礼、ギスギスした雰囲気を書いたあとは反動でイチャこらさせたくなる病に侵されていましてね……。
アフロを混ぜつつあこちゃん編でした。
さて次回でようやくRoselia全員集合なるか。

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