ごちうさ世界ならば、どんなに重い設定も浄化してくれる   作:Scharn_BC

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主人公がリゼの部屋で一緒にくつろいでいますが、仕事をサボっているわけではありません。
さみしがり屋なリゼの話し相手になるという大事な仕事中なのです。


第三羽

新学期が始まった。

新生活の始まりに期待や不安を感じさせる季節だが、桜がまるで新たな出会いを祝福しているかのように咲き乱れ、不安だけを遠くに吹き飛ばしてくれるような春風が心地よい。

このままラビットハウスにコーヒーでも飲みに行きたいが、そういうわけにもいかない。

昼間は学校に行き、放課後はお屋敷の家事と、春休み期間に比べて自由な時間がかなり減ってしまった。

使用人は私以外にもいるので、毎日仕事をしなければならないという訳ではないのだが、宿題や勉強を休日に纏めて済ませることが多いので、自由な時間はなかなか取れずにいた。

チノさんとは別の中学校に通っているため会う機会が減ってしまった。

 

私は昔から友達を作ることが苦手だ。小学校の頃は勉強や家事を覚えることに必死で、友達の作り方を知らないまま中学生になってしまったのだ。よく私に話しかけてくれて唯一友達だと思えるような子もいたが、その子は周りによく気を配ることができる子で、その子の周りにはいつも多くの人がいた。その子にとって私はたくさんの友達の中の一人にすぎなかったのだろう。それもそうだ。私は結局一度もその子の遊びの誘いを受けなかったのだから。もしかしたら向こうは友達とすら思ってなかったかもしれない。

母が亡くなって、リゼお嬢様のお屋敷に拾ってもらって木組みの街に来た当初は、そんな自分を憐れんで、多くの子が私に手を差し伸べてくれた。でも私はその手を取ることができなかった。可哀そうな子だなんて思ってほしくなかった。

今でも私に声を掛けてくれる人はいるが、そのたびにそんなことが頭に浮かんできてしまい、心の中で相手と距離を置いてしまうような自分が嫌いだった。

 

 

 

 

「この前学校に行く途中にココアと会ったんだけど、道に迷ってたみたいでさ。別れたと思ったらすぐ別の道からココアが出てくるから驚いたよ。それも3回も。なんだか異次元空間に迷い込んだ気分だったよ」

 

リゼお嬢様の部屋でアフターディナーティーを楽しみながらお嬢様の話を聞いていた。

お嬢様は最近、ココアさんやラビットハウスでの出来事をよく楽しそうに話してくれる。

ココアさんが来てからまだ数日しか経っていないが、話題は尽きないのか、毎日面白い出来事を教えてくれる。

 

「ココアさんはまだ来たばかりなのに、周囲に馴染むのがお上手なのですね。チノさんやリゼさんともすぐ打ち解けてしまいましたし」

 

それに私とも。私には真似できないような方法で、私が心の中で距離を置く前に飛び込んできてくれた。

友達の作り方のお手本を見せられたかのように感じた。

 

「そうだな。でも、イオだってすぐラビットハウスに馴染んでたじゃないか」

 

「そうですか?私はただ隅っこでコーヒーを飲んだり、たまにチノさんとお話したりしていただけですけど……」

 

「そこだよ。チノは人見知りで初対面の人と話すのが苦手なんだ。でもイオとは普通に話せてたからな」

 

私は表情も硬いし、あまり話しやすいタイプではないと思っていただけに、少し驚いてしまった。

 

「私に話しやすいと感じる方もいるのですね」

 

「そうか?イオは聞き上手な所があるし、話していて楽しいぞ?」

 

お嬢様って、さらっとそういうことが言えちゃうのがずるい。

 

「あっ、今照れてるだろ。イオは表情が分かりづらいだけで、手とか仕草にでるからな」

 

……ほんと?うまく隠せてると思ったんだけど。なんか恥ずかしくなってきた。

 

「きょ、今日はもう遅いですし部屋に戻ります!おやすみなさいませお嬢様!」

 

形勢不利のため撤退しようと慌てて立ち上がった時、お嬢様に呼び止められた。

 

「ちょっと待ってくれイオ!明日ラビットハウスで看板メニューを作るそうなんだが、一緒に行かないか?イオは料理得意だし」

 

「看板メニューですか?……確かに料理は得意ですが、メニューを作るとなるとお力になれるかどうか……」

 

明日は当番の日ではないから時間はあるだろう。ただ、メニュー作りか……。

作るだけならレシピ通りにすれば大抵何とかなる普通の料理とは違い、ラビットハウスのイメージや雰囲気に合ったメニューを考えるのは難しいだろう。どれだけ美味しい料理でも、ラビットハウスのあのコーヒーの味と合わなければ看板メニューとは呼べない。

 

「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。それにチノやココアも来て欲しがってたぞ。遊びに行くと思ってさ」

 

友達からの誘い。昔のことが頭によぎる。以前の私ならば何となく距離を感じてしまい断っていただろうが、それでも久しぶりに二人に会いたいという気持ちの方が強かった。

 

「そうですね……では、ご一緒させていただきます」

 

「ああ!そうと決まれば明日の準備をしよう!イオがいればキッチンで合法的に材料調達できるからな!」

 

「合法的って……事情を話してくれれば、料理長からの許可も出ると思いますけど……」

 

私は苦笑いしながら答えた。私は知っている。嬢様は夕食後に時々キッチンに忍び込むことがある。そっちは多分許可は出ないだろうが。

 

ともかく、同年代の人たちと休日に集まるのは初めてなので、少し浮かれ気分でお嬢様とキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

翌日。毎朝のランニングの後、いつもならお嬢様方の朝食の準備を手伝ったりするところだが、今日は当番ではないので使用人向けの朝食を済ませ、自室で私服に着替えて今日持っていく材料について考えていた。あの後聞いたのだが、ココアさんはパン作りが得意らしく、看板メニューになるパンをみんなで作るための催しなのだとか。ならば持ち込む材料はジャムとかマーマレードなどが一般的だろうが、甘いものは他の人も持ってきそうだし、何よりそれだけでは面白くない。それ自体はメジャーな料理だが、誰かとかぶることは無いと思われる食材を準備した。

 

ラビットハウスに着いたときにチノさんが出迎えてくれた。ココアさんはもう一人に声を掛けていて、高校でできた新しい友達を迎えに行っているらしい。もう友達ができたのか。

 

エプロンを着て先にキッチンで準備をしていると、ココアさんが一人の少女を連れて戻ってきた。その少女は綺麗な黒い髪におっとりとした目をしていて、大人しい雰囲気を漂わせていた。

 

「みんなお待たせ!こちら、同じクラスの千夜ちゃんだよ」

 

「今日はよろしくね」

 

見た目に違わずおっとりとしていて優しい声色をしていた。

 

「チノちゃんとリゼちゃんにイオちゃんだよ」

 

「よろしくです」

 

「よろしく!」

 

「よろしくお願いします」

 

初対面の人と話すときは少し緊張してしまうが、ココアさんがティッピーについてただの毛玉じゃないだとか、モフモフ具合が格別だとか、他愛もないような会話であっという間に私たちと千夜さんを引き寄せてしまった。

 

「ふふっ。その子、ワンちゃんじゃなくてアンゴラうさぎって種類のうさぎさんなんですよ」

 

この空気が自然と私を会話に引き込んでくれたかのように、私は思わずそう言った。

 

「あら、そうなの?癒しのアイドルモフモフうさちゃんね」

 

「ティッピーです」

 

そんな会話を聞いていると自然と表情が柔らくなっていく気がした。

 

「よかったな、イオ」

 

お嬢様が耳元でささやいた。なんだか少し恥ずかしくなって、顔を隠すようにうつむいてしまった。

 

 

 

 

 

自己紹介も終わり、パン作りが始まった。

 

「各自、パンに入れたい材料提出ー!」

 

「イエッサー!」

 

「さ、さー!」

 

「暑苦しいです」

 

いつの間にこんな暑苦しいテンションになっているのだろうか。いつになく真面目なココアさんに続き、お嬢様と千夜さんが続く。

 

「私は新規開拓に、焼きそばパンならぬ焼きうどんパンを作るよ!」

 

いきなり看板メニューになるとは思えないものが来た。さっきの真面目さは何処に行ったんだと考えてしまったが、まあおいしそうだしアリと言えばアリかな。

 

「私は自家製小豆と梅と海苔を持ってきたわ」

 

「冷蔵庫にイクラと鮭と納豆とゴマ昆布がありました」

 

なんだそのチョイスは。

パンを作るチョイスではないのは確かだ。千夜さんのは小豆パンとか梅パンとか海苔パンとか聞いたことがある渋いチョイスだと思ったが、チノさんのは炊き立てのごはんに乗せた方が美味しいものばかりじゃないか。

ちなみに後でインターネットで検索したらイクラパンも鮭パンも納豆パンもゴマ昆布パンも出てきた。世界は広い。

 

「これって、パン作りだよな……」

そう言いつついちごジャムとマーマレードを取り出すお嬢様。普通にジャムとかで大丈夫か心配していましたが、杞憂でしたね。

 

「私は板チョコとカレーを持ってきました」

 

「カレー?そんなものいつの間に作ってたんだ?」

 

「夜中にこっそりキッチンで……内緒ですよ?」

 

お嬢様もたまにキッチンに忍び込んでるでしょ?黙っててあげるからさ。

 

材料確認も終わり、ココアさん指導の下でパン作りが始まった。

 

ひたすら生地をこねる作業にチノさんや千夜さんは疲れが見え始めている。

 

「パンをこねるのってすごく時間がかかるんですね。リゼさんは……平気ですね」

 

「なぜ決めつけた?」

 

「イオさんも平気そうですね」

 

「そうですね。これぐらいこなせないと、お嬢様の護衛は務まりませんからね」

 

「お嬢様?」

 

ああ、そういえば千夜さんには言ってなかったか。

 

「イオさんはリゼさんの家の妹メイドさんなんです」

 

「あとリゼちゃんの護衛もしてるんだって!」

 

私の代わりにチノさんとココアさんが答えてくれた。

妹メイドってなんだ。いかがわしさマシマシじゃないか。

 

「へー!リゼちゃんの妹さんだったのね!私、本物のメイドさんって初めて見たわ!」

 

「メイドなのは本当ですけど、妹ではな「ああ、そうだよ。仲良くしてやって欲しいな」

 

お嬢様!?

 

「わかったわ!よろしくねイオちゃん!」

 

そういって千夜さんはパン作りのせいでプルプルと震えている腕で頭を撫でてきた。

 

「ち、千夜さん!?頭は撫でなくていいですから!それよりパンをこねるの手伝いましょうか?」

 

無理矢理に話題を変える。ココアさんに頭を撫でられて以来、妙に恥ずかしく感じてしまう。

 

「いいえ大丈夫よ!ここで折れたら武士の恥ぜよ!息絶えるわけにはいかんきん!」

 

すごい気合いだ。何が彼女をそうさせたのだろう(小並感)。

 

 

 

 

 

「チノちゃんはどんな形にするの?」

 

こねた生地を一時間発酵させ終わりそれぞれパンの形を整えていた。私はカレーパンを作っているので、発酵させ終わったらカレーを生地で包み、二次発酵させてから揚げるだけ。手持無沙汰になってしまい、チノさんと千夜さんとおしゃべりをしていた。

 

「おじいちゃんです。小さいころから遊んでもらってたので。コーヒーを淹れる姿はとても尊敬していました」

 

「おじいちゃん子だったのね」

 

「ではこれからおじいちゃんを焼きます」

 

「おじいちゃんを焼くって」

 

思わず笑ってしまった。

 

「イオちゃんは笑顔もかわいいわね」

 

……ふぇあ!?

 

「そうですね。私もそう思います」

 

「チノさんまで……」

 

「イオちゃんは本当に照れ屋さんなのね」

 

「誰から聞いたんですか!?」

 

「「ココアちゃん(さん)から」」

 

ココアさん!?いつの間に千夜さんにそんなことを……というか、チノさんにまで話しているのか……。

よし、逃げよう。

 

「私、カレーパン揚げてきますっ!」

 

「あら、逃げられちゃった」

 

「逃げましたね」

 

うぅ……しょうがないじゃないか。笑顔がかわいいとか言われたことないし。というか私、笑えてたのか。

自分の頬をムニムニと触りながらカレーパンを揚げ始めた。

 

 

 

 

 

すべてのパンが焼き終わった。いろいろな種類のパンがテーブルに並び、焼きたてのパンの香りがキッチンを満たした。

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

まずは自分の作ったカレーパンから。外側はサクッと小気味良い音を立て、内側はふわふわな二種類の食感。カレーも甘すぎず辛すぎずちょうどいい。

 

「これなら看板メニューにできるよ!」

 

「この「焼きうどんパン」「梅干しパン」「カレーパン」「焦げたおじいちゃん」!」

 

「どれも食欲そそらないぞ」

 

えっ。自分としてはかなりいい感じにできたのだが。不服そうな顔でお嬢様を見つめる。

 

「いや、イオの作るカレーって辛すぎるんだよ。コーヒーの味が分からなくなりそう」

 

ええっ!?まじ!?そんな馬鹿な……。これくらいの辛さなら大丈夫だと思ったんだけど。

悲壮感を漂わせる私の横に、ココアさんが追加で焼けたパンを持ってきた。

 

「じゃーん!ティッピーパンも作ってみたんだ!」

 

ティッピーの形を模した普通のメロンパンぐらいの大きさのパンだった。形がかわいいし、もちもちしてて美味しい。甘いいちごジャムもコーヒーに合うだろう。何よりとてもラビットハウスっぽくていいと思う。

でも……。

 

((なんか、エグイな……))

 

ティッピーをかじって中から赤いいちごジャムが出てくる様がなんというか……ね。

中身をオレンジマーマレードにすればいいんじゃないかな。

 

 

 

 

 

一週間後、パン作りのお礼にと千夜さんの家の喫茶店に招待された。甘兎庵という喫茶店らしい。

 

「甘兎とな!?」

 

うん?いつか聞いたことがある気がするやたら渋い声が聞こえた。

 

「チノちゃん知ってるの?」

 

「おじいちゃんの時代に張り合っていたと聞きます」

 

今絶対チノさんの声じゃなかったと思ったが、ココアさんもお嬢様もまるで気にしていない様子。気にしたら負けなのか……。

 

しばらく歩くと、とても渋い看板を掲げたお店を見つけた。

 

「看板だけ和風……」

 

「面白い店だな」

 

「おれ……うさぎ……あまい?」

 

「あまうさあん、ですよ」

 

漢字が読めないココアさんは置いといて、先に入ってみる。

 

「こんにちは」

 

「こんにちはー!」

 

「みんな!いらっしゃい!」

 

そこには和服の上にエプロンを着て仕事をしている千夜さんがいた。

 

「その服、お店の制服だったんだ!初めて会った時もその格好だったよね」

 

「千夜さん、和服すごい似合ってます」

 

「ありがとう。あの時は仕事で羊羹をお得意先に配った帰りだったの」

 

「あの羊羹美味しくて3本いけちゃったよー!」

 

「3本丸ごと食ったのか!?」

 

ココアさんの食欲は一旦置いておくとして、店内を見回してみる。家具や調度品は普通の洋風の喫茶店のようだった。和風なものはバックヤードの入り口に掛けてある暖簾と千夜さんの制服くらいで、店内だけ見ると普通の喫茶店だと思ってしまうが、表の看板の強烈なインパクトが和菓子を出してくれるお店なのだということを思い出させる。

中央においてあるうさぎの置物に目をやる。あれも王冠をかぶっていてあまり和風っぽい感じではないな、と思いながら近づいたとき、うさぎの置物がぎょろりと首を回し、私と目が合った。

 

「ひょわっ!」

 

「変な声出してどうした」

 

お嬢様に聞かれてた……。

 

「うさぎだ!」

 

「看板うさぎのあんこよ」

 

置物かと思った……すごいびっくりした。

 

「あんこはよほどのことが無いと動かないのよね」

 

と、チノさんがあんこに近づいたときだった。あんこがティッピーに向かって体当たりをした。

チノさんは後ろにしりもちをついてしまう。

 

チノさんは少し驚いただけでケガはしていなかったが、あんこがすごい速さでティッピーを追い回している。

お前、そんな早く走れたのか……。

 

 

 

 

 

「私も抹茶でラテアートを作ってみたんだけどどうかしら」

 

席に座った私たちに千夜さんが抹茶のラテアートを出してくれた。

なんでも葛飾北斎に憧れているらしく、浮世絵のようなラテアートだった。

私に出されたのは富嶽三十六景、神奈川沖浪裏だろう。クオリティ高い。

 

ココアさんに出されたのは俳句だそうで、「ココアちゃん どうして今日はおさげやきん? 千夜」と書かれていた。

文字を書くなんてすごく難しそうだが。あとこれ川柳じゃないかな。

 

メニューを見せてもらったが、日本語で書かれていなかったから読めなかったよ。とりあえず適当に頼んでみた。

 

「和服ってお淑やかな感じがしていいねー。イオちゃんとか似合いそう」

 

「そうですか?実は和服って着たことないんですよね。今度借りてみましょうか……お嬢様もどうです?」

 

「うぇっ!?いや、別に私は……」

 

「着てみたいんですか?」

 

「リゼちゃんもきっと似合うよ!」

 

お嬢様はじっと千夜さんを見ていたため、着てみたいと思っているのはバレバレだ。こう見えてかなりのかわいい物好きだから。

 

「すっごくかっこいい!」

 

ココアさんがイメージしているやつ、多分違うよね。さらしとか巻いてそう。

 

「おまちどうさまー」

 

千夜さんが甘味を持ってきてくれた。

どうやら私が頼んだものは抹茶パフェだったらしい。

出された甘味はとても美味しかった。名前は読めなかったけど。

 

「それにしてもこのぜんざい美味しいな」

 

「うちもこれぐらいやらないとダメですね」

 

「たしかになにかデザートがあった方が人気が出ると思います」

 

「それならラビットハウスさんとコラボなんてどうかしら?」

 

甘兎庵とコラボか……面白そう。

「タオルやトートバッグなんてどうかな」

 

「私マグカップが欲しいです」

 

あれ?料理の話じゃない?あ、でもティッピーとあんこのマグカップとか欲しいかも。

 

 

 

 

 

「じゃあそろそろお暇するか」

 

「私の下宿先が千夜ちゃんの家だったらここでお手伝いさせてもらってたんだろうなー」

 

「あっ、それ私も思いました。もしココアさんの下宿先がうちのお屋敷だったら、一緒に働いていたかもしれないですよね」

 

「メイドのココアちゃん……いいわね……!」

 

「ココアさんは早起きできないのでダメでしょうね」

 

「辛辣だな……」

 

「ふふっ。メイドさんは無理でも、うちは常時従業員募集中よ」

 

「それいいな」

 

「同じ喫茶店ですしすぐ慣れますね」

 

「ココアさんならどこへ行ってもうまくやっていけると思います」

 

「じゃあ部屋を空けておくからさっそく荷物をまとめて来てね」

 

「誰か止めてよ!」

 

 

 

その日はそんなやり取りをしてそのまま解散した。この一週間で千夜さんという新しい友人ができた。

 

「イオって友達作るのが苦手だって言ってたよな」

 

夕食後のアフターディナーティーを楽しみながらお嬢様にそんなことを言われた。

 

「はい、確かにそう言いましたけど」

 

「それ、もう克服できたんじゃないか?」

 

「そんな簡単には克服できませんよ。それに千夜さんとお友達になれたのはココアさんのおかげです」

 

「ココアが来る前にチノと友達になってたじゃないか」

 

「そういえばそうですね。でも、私は今まで通りに話していただけです」

 

そう。今まで通りに心の中で勝手に相手から距離を取って。

 

「何を気にしているのかは分からないけど、チノはそんなイオが話しやすいって言ってたぞ」

 

「……そうなんですか。私は人と話すときに、決して自分の本心をさらけ出さないようにしている節がありました。相手に弱みを見せないように、薄っぺらい言葉を返すのが精一杯で。それが申し訳なくて」

 

「そうだったのか……でも、イオだってチノのことを友達だと思えたんだろ?それはどうしてなんだ?」

 

「そうですね……コーヒーが美味しかったから、でしょうか」

 

亡くなった祖父から受け継いだコーヒーの味。母のことを思い出させてくれた味。チノさんは大好きだったお爺さんの技術をしっかり受け継ぎ、ラビットハウスで働いている。その姿に親近感を覚えたのかもしれない。私と同じような境遇の子ってなかなか居ないし。

 

「なんだそれ」

 

微笑みながらお嬢様は答えた。

 

「今、イオは私に本音を打ち明けてくれたじゃないか。十分成長してるよ。それに、友達だからってなんでも話さなきゃいけないってわけじゃないしさ」

 

「……今のままでも良いってことですか?」

 

「ああ。その証拠に、話しやすいって思ってくれる奴がいるんだからな」

 

今のままでいい。そう言われたのは初めてだった。

その一言で、ずいぶんと心が軽くなった。

 


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