絶望の奴隷   作:海宙時計

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こんばんは。
二話めにして奴隷を出すことができました。
この先の展開は大方決まっているのでそこまで遅くはならないかと思われます。
お時間がございましたら、読んでいただければと思います。


鬼の奴隷

「4、3、6…ダン。……!!」

 

木までたどり着いた男はダンに言われた通り、強く木をたたき彼の名前をいった。

数秒後、男の視界がぐにゃりと歪んだ。

 

「ようこそお越しくださいました」

 

「ほう。なるほど…よくできた仕掛けだな」

 

周りの風景はがらりと変わり、いくつかのろうそくの明かりで照らされた薄暗い部屋の中に移動していた。おそらく、あの行為は空間移動の呪文を引き起こす合図のようなものだったのだろう。

そして目の前にはここの商人だと思われる恰幅のいい男がにこやかに男を迎えていた。その後ろには護衛であろうガタイのいい二人が控えていた。

 

「して、旦那様。ダン様のご紹介でお間違いありませんか?また、こちらに来るときに使われた移動ポータルは西の街の西にある巨木でお間違えないでしょうか」

 

「あぁ。間違いない」

 

「ありがとうございます。では改めまして。ようこそ私めの商館へ。私めは奴隷商をさせていただいております。バッヅと申します。以後お見知りおきを…。」

 

奴隷商はバッヅと名乗り大袈裟な素振りでこうべを垂れる。

 

「さて本日はどのような商品をお求めでしょうか。私めの商館では奴隷を主に扱っております。その他にもいわく付きの刀剣や禁呪の巻物なども扱っております!!」

 

「奴隷をみたい。用途は特に決めていないが、どんなのがいる?」

 

「ほほう!奴隷でございますね!それでしたらこちらに…ご案内いたします。階段で少し地下に参りますのでお足元ご注意くださいませ」

 

商人と男を挟む形で護衛の男が松明をもって地下へ続く階段を下りて行く。階段には明かりが一つもなくガタガタで段差もまばらになっていて一歩踏むごとにギシギシと大きな嫌な音をこだまさせた。

地下につき、重い鉄のドアを護衛が開く。すると中はかなり明るくなっていた。護衛が松明を入口脇にさしているのを見て、なぜ階段にも明かりを灯さないのか少し疑問に思っていると、その様子に気がついたのかバッヅが自慢げに話し始める。

 

「足元が悪くて申し訳ございませんでした。ですがこれには理由がございましてね。万が一奴隷が逃げ出した際に明かりがなく段差がまばらであれば彼奴等はうまく進めますまい?万が一も逃すわけには行きませんゆえ。」

 

太った体に似合わぬ鋭い眼光で暗がりでよく見えない階段を眺め、ニヤリと口を歪めながらバッヅは男の方に振り返る。

 

「さて、こちらに商品がございます。どうぞご自由に見て回ってください。種類も豊富で用途に見合った商品がきっと見つかることでしょう。質問等はこちらの護衛がすべてお答えいたしますので。ご購入の際はそれぞれの部屋の横に番号がありますのでそちらを言っていただければお値段の交渉に入らせていただきます。」

 

「なんなりと」スッ

 

「わかった。」

 

「それから、雌の商品でしたら一度ご使用されてからご購入を検討するということもできますのでその時も何なりとお申し付けください。そのままご購入される場合は結構ですが、気に入らなかった場合は一応、使用料としていくらかいただくことになりますが…」にやっ

 

「……わかった。」

 

バッヅの元をはなれ、男は商品とやらをみて回ることにした。その後ろには護衛がついて回り、さまざまな説明をとりつける。

 

「こちらの商品はオークでございます。かなり丈夫な種族ですので魔法や剣術の実験などに使うのがよろしいかと。両腕の腱は切断済みで、左足の腱も呪いをかけてあり治らぬように痛めつけてありますので、歩く程度はできますが自由に動くほどの力は残っておりません。ですので安全にご使用いただけます」

 

「…これじゃあ力仕事はできそうにもないな」

 

「ええ。こちらで取り扱っている商品は基本的に労働力ではなく、安全に、効率よく使用することを前提に調教してありますので…労働力としての奴隷のご購入を検討されているのでしたらそれ専門の商会にご案内させていただきますが…」

 

「いや、結構だ。紛らわしいことを言ってすまないな」

 

牢屋を覗き込む男の後ろで、その中の奴隷の説明を淡々と続ける護衛の男に辟易としながら男はスタスタと歩き続ける。

 

「いえ、お気になさらず。そして、そちらはホビット族の雌でございます。珍しい種族ですが、人より多少長く生きることと、成長しても小さいままという特徴以外は特に何ができるわけでもございません。まぁ人間に最も近い種族ですので対人間用の魔法薬の実験や単純に慰みものとして買われていく方もいらっしゃいます。気性もおとなしくこちらで調教済みですのでまず逆らうことはないでしょう。」

 

「ホビットか、初めて見るな」

 

「こちらはエルフの雌でございます。見目麗しく慰みものとしてご購入されていく方が非常に多い種族でございます。そのほかにも、魔法研究など多岐にわたりさまざまな使い方ができる人気商品でございます。もちろんこちらで調教済みでございますので安心してご使用いただけます。多少お値段は高くつきますが」

 

「エルフか…わるくないな…」

 

どの奴隷も一様に牢の隅でうずくまり、こちらの声、足音に面白いほど敏感に反応する。

恐怖心は消耗品。この異常な環境でソレを与え過ぎれば心など簡単に壊れてしまう。だが、どの奴隷もその極限を維持し続けている。

その怯え具合は〝奴隷〟として一級品であり、バッヅの調教師の腕の高さが伺えた。

 

「こちらは――」

 

「……ん…?おい」

 

新たな奴隷の説明を始めようとした護衛の言葉を遮り、男は視線の先のおかしな模様のある鉄の扉を指さす。

 

「あれの中には何があるんだ。ほかの牢とは違うみたいだが…」

 

「…あちらでございますか…?あれは…何と言いますか…」

 

「煮え切らないな。いったいなんだ」

 

男の問いかけに歯切れの悪い言葉を返す護衛だったが、男の目が鋭くなったことに気がつき、説明を始める。

 

「あちらはですね、その、少し変わった雌がいまして…非常に希少で危険な種族でして、まだ調教もあまり進んでおりません。ですので商品としての価値がまだつかずご購入はできないものとお考え下さい」

 

「そうか…気になるので見てもいいか。あと説明も頼む」

 

「は、はぁ…構いませんが…。こちらは鬼と呼ばれる種族でございます。はるか極東の地にのみ生息しているといわれ、恐るべき怪力を有しております。また自然治癒能力も異常の一言につきまして、過去に何度か手足の腱を切断したのですが一時間もあればほとんど再生してしまいまして…怪力自体は我々の開発したこちらの首輪で人並み程度までは抑えてあります。本来オーガでさえ指一つ動かせなくなるほどの術式の込められた首輪なのですけれど…」

 

護衛は、説明しながら鉄のような物質に呪文の文言が刻まれた首輪を取り出し、男に見せた。

 

「おに…?聞いたことない種族だな…少し気になってきた。姿が見たい」

 

「わかりました。今部屋の明かりをつけます。こちらの小窓からどうぞ」

 

パッと真っ暗だった部屋に明かりがともる。

中を覗くと、身体にぼろぼろの布をまとい、肩まで伸びた栗毛色の髪をした少女がいた。

およそ怪力を持つとは思えない華奢な体つき。頭を垂れてぺたんと床に座っている姿などはパッと見人間と違うところなどないように思える。

 

「これが…おに…か。見たところ人間と容姿はほとんど同じようだが…」

 

「はい。今は髪で見えませんが、頭部に二本鋭く短い角が生えており、牙が発達しております。また今は白い肌に黒い瞳、栗毛色の毛髪ですが、興奮状態になると肌が赤黒く変色し、髪は黒く、瞳が金色に輝きます。そうなった際はこちらの首輪の効力をもってしても一時的にオーク以上の力を発揮します。お恥ずかしながらこの力と治癒能力のせいで調教が進んでいないのが現状でございます」

 

「なるほどな…」

 

男の口元がニヤリと歪む。

その様子にいち早く気がついた護衛はイヤな予感がし、足早にその場を去ろうとする。

 

「…よろしいでしょうか?よろしければ次にまいりま――――」

 

「こいつを買おう」

 

「は…?」

 

「こいつを買う。いくらだ」

 

「いや!ですから!!こちらは―――」

 

護衛がそう言いかけたときにはすでに男は踵を返しバッヅの元へと歩き始めていた。

護衛はやれやれと肩をすくめ男の後についていくのだった。

 

 

➖➖➖➖➖

 

 

「……なんですと??」

 

「鬼の子をもらう。いくらだ」

 

「…」ジロッ

 

「…っ!!」ビクッ

 

男の言葉に動揺を浮かべつつバッヅは護衛の男を一度睨みつけたあと、苦笑いを浮かべ男に向き直る

 

「お客様…大変申し訳ないのですが、あちらはまだ調教が完了しておらず、非常に危険なためお売りすることはできないのです」

 

「それは聞いた。無理を承知で頼んでいる。金は言い値を支払おう」

 

「…そうは言われましても…アレを出すのは非常に危険を伴いますし…なによりお客様の身に何かがあった場合、我が商会にとっての信用という面で多大な損害となります故…1人の商人としてそれはできません。商人にとって商品の質と店の信用はなにより重んずるべきものですので…」

 

「それなら……金貨200枚でどうだ」

 

「なっ!?!?」

 

男の提示した金額の非常識さにバッヅは動揺を隠せず声を上げる。

 

「金貨200枚だ」

 

「…少しお待ちを」

 

(…この男いったいどういうつもりだ…用途は決まってないなどと抜かしていたが…よりによって鬼か……それよりも重要なのはこんな男がなぜ金貨200枚も持っている…並みの貴族の総財産と同じレベルだぞ…怪しい…はったりをかましている様子ではないが…とりあえず現物をださせるか…)

 

「ごほん!え~…その金貨200枚、現在お持ちいただいているのでしょうか??」

 

「もちろんだ。少し待っていてくれ」

 

男は手のひらを前に出し、呪文を詠唱する。すると空中に裂け目のようなものができ、大きな音を立ててテーブルの上に頑丈そうな麻袋が4袋落ちてきた。

 

「一袋金貨50枚だ。確認するといい」

 

「…………確かに…」

 

(重さからしてほぼ間違いない…ほぼ金貨200枚…いままで長いこと商人をしてきたがこの額を一括で払う奴なんて初めてみたぞ……)

 

「わ、わかりました…お売りいたします…」

 

「成立だな」

 

「…ですが一つ!一つだけ条件をよろしいでしょうか…?」

 

「…聞こう」

 

「普段であれば、逃げ出した際の追跡及び捕縛、代金の一部を返還等の保証、商品による傷害の際の保険などのアフターサービスがつくのですが、今回、それらは一切保証できかねます。もし万が一のことが起こった際、全責任をお客様自身でご負担することをこちらの書類にサインと血判を押していただきたく思います」

 

「…いいだろう」

 

「…それでは…一緒に来ていただけますか?」

 

「わかった」

 

バッヅは護衛の一人に言付けをし、護衛は一度地下を出て行った。しばらくすると数人の同じく護衛であろう男たちを連れて戻ってきた。

バッヅと護衛数人に連れられ男は先ほどの奇妙な鉄の扉の前に来た。

 

「それではこの扉を開放します。少し下がっていてください」

 

ギィイイ…

 

あけ放たれた扉の向こう。うつむいていた鬼の子がゆっくりと顔を上げる。太い鎖につながれた少女は苦悶の表情でもなく、おびえた表情でもなくじっと男を見据えていた。

護衛たちが素早く周りを取り囲むが、そんなことには目もくれずじっと男を見る。

まるで周りの護衛たちなど気にも留めていないように、もう見飽きたとでもいうかのようにただじっと初めて見る男だけを…  

 

次の瞬間、護衛たちが一斉に鬼の子に飛びついた。ほぼ同時に鬼の子の髪が、肌が、目が変色していく。

めちゃくちゃに暴れる鬼の子を屈強な護衛が複数人でようやく抑え込む。抑え込まれ、暴れながらも瞳は男を刺すようににらみつけている。

 

「…おいおい…オークなんてもんじゃないだろこれ」

 

「だから言ったじゃありませんか…。首輪をしていてこの力です。まぁもっとも、首輪の効力を全開にしている今であれば、この状態でいるのは相当消耗するらしく、せいぜい数分しか持ちません。しかもこれが解けた後はかなりぐったりとしますのでその時を狙います」

 

「…そのぐったりしてるときに調教できなかったのか…?」

 

「もちろん何度か試しましたが、意識自体ほぼない状態になるようで恐らく記憶にも残らないのでしょう…この状態のときにどれだけ体を痛めつけても意識が戻るころには傷は大方修復されてしまいますし…精神も壊せず肉体の破壊も無意味に近い。手の打ちようがないのです」

 

「やっかいなことだな。…まぁだからこそおもしろいってな」

 

「は、はぁ…そうですか…おっと、終わったようですな」

 

みると鬼の子の体は元の色に戻っていて完全に脱力しているようだ。周りには息を切らした護衛たちが鎖を解き、鬼の子を抱きかかえてこちらに向かっていた。

 

「ご苦労だった。では上に戻りましょう。この状態はおよそ一時間ほどは続きますので、その間に拘束具を増やしてお客様の馬車に積み込みましょう。」

 

「よろしく頼む」

 

「…それから…いくつかお渡しいていたいものもございます。」

 

そう言ってバッヅは男を手招きし上の階にもどっていったのだった。




鬼という種族。昔ばなしによく出てきて私は馴染みがあって大好きです。特に泣いた赤鬼が好きです。
皆さんも心にいつも好きな鬼を住まわせてみてはいかがでしょうか。

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