理を超える者   作:クズ餅

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新ジャンルに挑戦してみた。

注意としては、この作品には、オリ設定やバグ。そして作者の深夜テンションが含まれております。
以下の要素が駄目な御方は、軍隊も真っ青なほどの回れ右をして、ほかのポケモン作品に向かってください。

そっちの方が、確実に面白いので。


一章 世界に理を見せる者
それは始まりの光


思えば、あの日から僕の目標は決まっていたんだ。

 

「攻めろケッキング!のしかかりだ!」

 

「……」

 

 

あの日、ホウエンで行われていた、ポケモンバトルの大会。年に一度行われる、地方の実力者が集う大会。ジムリーダーの父さんが出る試合を、僕はテレビで見ていた。

対戦相手は、僕が住んでいたジョウトではあまり有名ではなかった人だった。そしてエースのポケモンはケッキングだそうだ。

 

その時の僕は、父さんの勝ちを確信していた。だってそうだろう、僕の父さんのセンリは、ホウエン地方でのジムリーダー。しかも、ノーマルタイプの使い手で、父さんの相棒もケッキングだった。どこに負ける要素があるのか、心のそこからそう思っていた。

 

 

 

「目障りだな」

 

 

その一言が、発せられるまでは。

 

相手のトレーナーがそういうと、相手のケッキングは悠然と父さんのケッキングに近付き___

 

 

 

 

正面から、ケッキングののしかかりを受け止めた。

 

 

「なに!?」

 

 

父さんの驚く声をマイクがひろっていた。当たり前だ、ポケモンは棒立ちでバトルをするのではない。技を読んで回避をしたり、出来なければ防御をするというのは当たり前の行為だ。

 

何故、という疑問に脳内を支配される。この大会はホウエンでも名の売れた大会であり、それ故に実力者も多く参加している。父さんだってそうだ。ジムリーダーとは地方における最高峰のトレーナーの総称、その名に恥じない実力と、実績を見せてきているのだ。

一瞬の空白が会場を包む。

 

「ボサッとするなケッキング!距離をとりながらきあいだまだ!」

 

 

その空白からいち早く立ち直ったのは、やはりと言うべきなのか、父さんだった。

一瞬とはいえ呑まれかけた父さんは、接近は危険だと判断したのか距離を取った。そしてその最中、きあいだまを溜めだした。

きあいだまは威力が高い技だが、その分集中力が必要である。きあいパンチのように完璧な隙を見せなければならないわけではないが、それでもこの技には、莫大な集中力がかかる。

 

それを距離を取りながら、その間敵から目を離さずに力を溜めることが出来るのは、他ならぬ父さんのケッキングが優秀であるということなのだ。

 

 

「何が狙いかは分からないが、反撃しないなら攻めるまでだぞ」

 

 

父さんの問いかけに、彼は答えない。ただただじっと、己のケッキングの後ろ姿を見ていた。

 

 

「……そうか、なら全力で打ち込んでその態度を崩すだけだ」

 

父さんの言葉に、ケッキングは答えるように込める力を増やした。そのきあいだまの威力は、カメラ越しでも分かるほど強力な力の集合体だった。

 

 

「やれ!ケッキング、きあいだまだ!!」

 

 

放たれたきあいだまは、一直線に敵のケッキングに向かって飛来していった。攻撃を受けてからのケッキングは、不気味な程に静かに、何もアクションを起こさずに父さんのケッキングを眺めていた。

それはきあいだまを放たれてからも変わらなかった。まるで無感動に、飛来するきあいだまではなく、父さんのケッキングを眺めている。

 

父さんは困惑していただろう。相手の意図が掴めない、何故攻撃を受けたのか、何故何も行動しないのか、ジムリーダーに赴任してからそこそこ経つが、そんな敵は今までいなかったのだろう。

 

かくいう僕も、初めて見るタイプの彼に疑問が尽きなかった。だからこそ、彼のポケモンがどんな事を起こすのか、それが知りたくて彼のケッキングをじっと観察していた。

 

きあいだまが今か今かと敵のケッキングに迫り、ついにその身へと振りかからんとする、僅か数メートルにまで達した時、敵のケッキングが漸く動いた。

 

 

右手を前に真っ直ぐと伸ばした。たったそれだけだった。

その目を見た時、僕は激昴しかけた。どういうつもりなのか、彼は、彼のポケモンは僕の父さんをバカにしているのか、そう腸が煮えくり返っていた。

 

飛来したきあいだまは、ケッキングが伸ばした右手に着弾した。

 

 

瞬間、起こった爆風がスタジアムに吹き荒れた。

 

会場を映していた固定カメラは爆風で吹き飛び、観客席にいたカメラマン達のカメラは、巻き上がった砂塵で視界を塞がれた。

めくれ上がった地表が観客席にまで吹き飛ぶような、天災的な一撃。当たり前だ、技を放ったのはあのケッキングだ。

 

ケッキングは、多くのトレーナーになまけという特性で敬遠されがちのポケモンだが、その身に秘められたポテンシャルは想像を絶する程のものだ。その力は現存するポケモン達の多くを凌駕すると、父さんが自慢げに言っていた。

そのケッキングが、限界まで力を込めて放ったきあいだま。それをまともに受けた敵は、一溜りもないだろう。

 

圧倒的なまでの威力による、蹂躙。観客達はその爆風から身を守りながら、父さんの勝ちを確信していただろう。あのケッキングが、あれ程の力で、しかもきあいだまを放ったのだ。

まともに受けたのだ、無事なわけがない。多少力のある挑戦者が、頑丈なポケモンを見せる為のパフォーマンスで失敗し、受け止め切れなかった。観客の誰もがそう信じ、歓声を上げていた。

 

 

___でも、本当にそうか?

 

 

「やったわユウキ!流石お父さんね!」

 

「ああ……そうだね」

 

 

隣で一緒に見ていた母さんの言葉に、僕は曖昧に同意した。

だが口では同意していても、僕は何か嫌な予感がしていた。

 

父さんを信用してない訳じゃない。むしろ信用しているからこそ不安なのだ。

 

 

 

あれ程傲慢な態度と、その耐久力を見せていたケッキングが、()()()()()()()()()簡単に倒されるだろうか?

 

答えは、返されなかった。

 

ただ一言で、僕の予想の答え合わせが行われた。

 

 

「キング、()()()()

 

 

今だきあいだまの余波で砂塵舞うそのフィールドに、彼は問いかけた。その様に観客は嘲笑していた。あの威力のきあいだまを受けたノーマルタイプのポケモンが、倒れぬはずがないと。

 

いくらケッキングとはいえ、そのようなことも分からないのか、観客は口々に彼を冷やかすような言葉をかけていた。

 

 

 

Guooooon!!

 

 

 

それを遮ったのはきあいだまを受けた、片手を前に突き出した体勢で唸り声を上げた、彼のケッキングだった。

 

呆然となるスタジアム、それも当然だ。さっきまで倒れ伏していると思っていたポケモンが、牙を剥き、主を貶されたことに対して怒りを見せている。

先程までの戦いにおいて、何も映さなかったその瞳を、怒りに染めてこちらを睨み付けているのだ。

 

 

「静まれ、お前が向けるべき目は目の前の同族だ」

 

 

フンッと鼻をならし、主の言葉に従うケッキング。傷ひとつない身体に、受けた掌も、少し焦げ付いた程度で何も支障はないらしい。

そして向かい合ったケッキングは、何かを思い出したのか、再び彼の方を向き、そして首を横に振った。

 

彼の問は、「届くか?」という一言のみ。つまり……

 

 

 

 

 

お前を脅かすにレベルに届くか?という問に、ケッキングは否と返したのだ。

 

 

「さすがに正面から貶してくれるのは…少し腹立たしいな」

 

 

その挑発ともとれる発言に、父さんは苛立ちを隠せなかった。無理もない、先程の彼の言葉は、今現在に至るまでの自分と相棒の努力を、それを貶されたのだ。これに怒りを覚えないトレーナーはいないだろう。

 

 

「すまないな、俺は力不足というものが嫌いでな。どうしても口にしてしまうんだよ、気に触ったか?ならば謝罪しよう」

 

 

尚も父さんを挑発する彼に、会場からブーイングが起こる。傲慢過ぎる態度に、会場にいる全ての人、もしかしたら画面の向こうの人達でさえも敵に回しているかもしれない。

 

でも僕だけは、彼の態度だけでなく、その言葉を浴びる彼の目を、じっと見ていた。

 

その目は、罵声を発する会場や、対戦相手である父さん、それに相棒であるケッキングさえも見ていなかった。

彼は、一体何処を見据えているのだろう。

 

 

「では此方からいかせて貰おう」

 

 

そう言って、彼は漸くケッキングに目を向けた。

攻撃体勢に移行する彼に、父さんは即座に身構える。いつ来ても対応出来るように、自分のポケモンに指示が出せるようにした。

 

それに対して、彼はなんの感情も映さない目で相棒のケッキングを見つめ、口を開いた。

 

 

「キング、小手調べだ。威力を抑えてのきあいだまだ」

 

 

そう指示を出し、その指示に対して、父さんが何かケッキングに言おうとした瞬間__

 

 

 

 

 

父さんのケッキングは、一瞬の間に消えてしまった。

 

 

何が起こったのか、恐らく会場の人は分からなかっただろう。突如として消えたジムリーダーのケッキングに、観客は動揺を隠し切れずざわついていた。

 

でも、この時僕は、自然と答えが分かっていた。今でも不思議に思うのは、何故この時、僕は初めて見た彼の事を、そして彼が起こすことに対してあのように信を置く事が出来たのだろうか。

 

その答え合わせは、すぐに示された。

 

 

強烈な破裂音が、突然スタジアムに響いた。その耳を疑うような音に、不意打ちだった為かその場に居合わせた人々は耳を塞ぐ。耳朶を震わせる害から身を守るために取った、当たり前の行動だ。

でも、この時父さんだけが耳を塞いでいなかった。

 

なんせ……

 

 

 

 

「ケッキング!!」

 

 

その音は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から発していたからだ。

ぐたりと項垂れているようにも見えるケッキングに、審判が駆け寄る。そしてケッキングの様子を確認すると、審判は手を挙げた。

 

 

「ケッキング、戦闘不能!!」

 

 

呆気なく発せられた敗北宣言、審判から出た言葉に、誰もが信じられないとばかりに声をあげた。

その中の誰かが言った、彼はイカサマをしたのだと。何か小細工をもって父さんのケッキングを陥れたのだと。

 

それに同調した観客から、ブーイングが飛ぶ。しかし、その中でも、僕と当事者の父さんだけは、何が起こっているかが理解できた。

いや、正確には理解したというよりも、推測を立てたというだけだ。

 

あの瞬間、確かに彼のケッキングからは、きあいだまを貯める気配がした。では何故、父さんのケッキングが吹き飛んでいるのか。

 

 

それは、彼のケッキングが、恐らくだが僕等が見えないレベルでの、高威力かつ超スピードなきあいだまを放ったのだ。

現に、倒れたケッキングの腹部には、きあいだまを思わせる球状の跡があった。

 

 

だが、最も恐ろしいのはここじゃない。

 

 

「…ケッキング、俺は小手調べと言ったぞ。まだ加減はできただろう?」

 

 

彼のケッキングは、これは魅せ札にすらならないのだと、なんでもないように彼は言った。

 

その後の事は、語るまでもないだろう。

あの後、彼は当然のように父さんの手持ちを蹂躙した。彼の手持ちを、ケッキング以外全く見せず、彼はその全てを薙ぎ払った。

 

立ち向かう全てを、真っ向から受け、そしてそれを吹き飛ばす。その圧倒的なまでの力と、王道的なまでの姿。

 

きっと彼は、相棒にそうあれと願い、キングと付けたのだろう。事実その期待に答えるように彼のケッキングは強くなったのだろう。

あの強さに至るまで、一体どれほどの修練と、どれほどの時間が必要だったのだろう。どれほどの覚悟や、どれほどの絆があれば、彼らのようになれるのだろう。

彼らのその背景に、想いを馳せると共に、僕はその姿に、無意識にも憧れてしまった。

 

 

 

 

……嗚呼、その姿は、ポケモンとトレーナーとしての在り方は、何と羨ましくも美しいものだろうか。

 

眩いばかりのその姿、画面越しではあるものの、僕はその姿に惹かれた。

 

 

 

いや、この言い方は相応しくない。

 

僕は正しく、彼__リヒトのその強さと美しさに、幼かった僕の両眼は、彼の光に焼かれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side リヒト

 

 

スタジアムは、余りの出来事に静まりかえっていた。

 

ホウエン地方における、非公式のこの大会。ポケモンリーグにおける、公式の大会では無いものの、全国中継をされる程の知名度を誇る大会である。

 

その大会で、前代未聞の出来事が起こったのだ。

 

 

 

全くの無名、今の今まで名前すら出なかった男が、ホウエン地方のジムリーダーの本気の手持ちを、嬲り倒したのだ。

会場こそ静まり返ってはいるが、その外は大騒ぎだ。なにせポケモンリーグ公認のジムリーダーが、公然の場での公開処刑にも等しい敗北を喫した。リーグは今各方面からの電話が鳴り止まず、対応に追われていた。

 

 

そうとは知らぬ会場では、対戦者である男__リヒトがケッキングをボールに戻して、踵を返して歩き出した。最早ここにようは無い、そう言わんばかりの態度の彼に、誰も制止の言葉をかけない。

 

さっきまで嬲っていた相手にすら、一瞬でさえも視線を向けない。冷徹な男だと、観客は誰もが考えていた。

 

 

 

では、観客が考えているリヒトの姿はそうであろう。だが、渦中の彼の心境はと言うと……

 

 

 

 

 

「(やっべぇぇぇぇジムリーダーボコしちまったァァァ!!明日からどんな顔してホウエン歩きゃいいんだよ畜生めぇぇぇ!!!)」

 

 

……死ぬほど、現状にビビっていた。

 




続かない。

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