理を超える者   作:クズ餅

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ヒャッハァ!!ガチャピンの時間だァ!!

という訳で、続きです。


揺るがす龍

『マスターのこと?大好きだよ?』

 

ある日の昼下がり、我が主が今夜の宿の予約をしている間、私は仲間の1人のラティアス__ラピスにある問いを投げかけた。

 

__お前は、我が主のことをどう思っているのか、と。

 

 

我が主の人望を疑っている訳ではない、寧ろ疑う理由など存在しないのだが、それでも私は私の義務としてそれを聞き出す必要があった。そしてそれを把握することは、私にとっても重要なことである。

 

ラピスは、主の手持ちに加わった4体目の仲間だ。既に配下の者が居た中で、私は1匹の異常な者を見つけた。

 

 

その者は、我が主の配下として過ぎた感情を持ち合わせていた。

 

有り得ない感情を持ったそのものを、主は許容し、手元に置いてはいるが、私はそれを認めた訳ではない。しかし、主の決定を疑う等臣下として有り得ない。確かに時には意見すら必要だが、それは今ではないだろう。

 

だからこそ、私は問わなければならない。

 

果たしてこの者は、我が主に相応しい配下なのか。

 

それに見合わぬ者ならば、私が躾ける必要があると。

 

 

しかし、ラピスから帰ってきたのは、屈託の無い笑顔と純真な好意だった。

 

 

『……質問を変えよう、我が主を、どのような存在だと考えている』

 

『うーん、キングみたいに王様って訳でもないしな〜』

 

 

少し悩むように、うんうんと唸るラピス。その仕草だけでラピスが危険な思想を持った者ではないと分かる。

ラピスは、純真なのだ。彼女はまだ生まれて間もない、幼子のようなあどけなさや、純粋さを持っている。それは分かっていた筈だ。少し私は焦っていたのだろうか。

 

 

『あっ、分かった!私がマスターをどう思っているのか!』

 

 

長考が終わったのか、嬉しそうな顔でこちらを向く。そして私に近寄り、満面の笑みでこう答えた。

 

 

『マスターはね、私にとって__________』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『__お父さん、かな?』

 

 

無邪気に、しかし少しだけ恥ずかしそうに言う彼女の笑顔に、私はホッと、息をついた。

 

願わくば、このまま純粋に育つように。

 

 

 

 

奴のようには、ならないように。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

シンオウ地方の片田舎、カンナギタウン。昔を伝える町として知られるこの町は、シンオウの歴史において重要なヒントとなる遺跡が存在している。その少し寂れた、しかし存在感を放つ町。

 

 

『着いたよマスター!』

 

「(バッカお前上空50メートルで落とす奴がおるかぁ!!)」

 

 

その上空50メートルで、準伝に落とされたアホの心の声がとても煩い。

 

「(いや「着いたか」って言った俺も悪いけどだからってここで放り出します?カーナビじゃないんだから着地まで案内しなさいよ君ィ!!)」

 

だったら声にだして伝えろ(正論)。

相も変わらずのコミュ障と勘違いで落とされたリヒト、ここで彼の逃避行は、いや人生は終わってしまうのか。

 

 

「まだだ!!」

 

 

そういうと、リヒトは体の向きを変え、踵から地面に、斜め気味に付けると、地面をガリガリと削りながら滑り出した。は?

 

そも着地をしている時点でおかしいのに、何故そのままの勢いで滑るのか。というか靴は無事なのか。

 

 

「(母さんが高い所から落ちたら足から地面に着けば大丈夫って言ってたし、滑ればセーフってばっちゃんが半笑いで言ってた!!(謎理論))」

 

おまえは何を言っているんだ。

 

 

しかし何故か理にかなっているのか、靴も無事でその後数十メートルを滑った後に停止した。怪我をしている様子も無く、靴も無事だ。

 

靴も無事だった。本人もおかしいが靴の耐久もおかしいのではないだろうか。

 

 

突然のダイナミック降下を終えたリヒトは、体に着いたホコリを軽く払うと、ぐるりと辺りを見回した。そこにあるカンナギタウンの景色を一瞥したのち、深呼吸をした。

 

「(リラックスできる、空気も美味しいしのどかだ……まるで実家のような安心感だ。寧ろここが実家なのでは?)」

 

 

お前の実家はミシロタウンだ、正気に戻れ。

世迷言を吐くリヒトは、そこでスマートフォンを取り出す。そしてある名前を1度押し、電話をかけた。

 

10数回のコールののち、その人物は電話に出た。

 

 

「……は〜い、もしもし……どなた?」

 

「シロナか、研究で徹夜をするのは仕方ないが、程々にしておけ」

 

 

現シンオウチャンピオン、シロナだった。しかし、電話口の彼女はいつものクールなイメージでは無く、どこか疲れていて気だるそうだった。

研究者としての側面もあるシロナは、シンオウの歴史について研究している。その結果研究にのめり込み、徹夜等珍しくない。そう思ったリヒトは、そのまま要件を伝えることにした。

 

「少しカンナギタウンに立ち寄った、お前の実家に挨拶に行く」

 

「…そうなの……お祖母様に宜しくね……」

 

「(寝ぼけてんなぁシロナ、こういう所が多いから敬称付けないんだけど、まあ言っても無駄でしょこの人)ああ、分かった。宜しく伝えておこう」

 

内心で歳上を軽く詰ったリヒト、しかし嫌っている訳では無く、仕方ないやつだなぁと思っているようだ。こんなアホにそう思われてるとか、シロナさんもっとしっかりした方がいいですよ。

そうして、要件が終わったリヒトは、通話を切るためにボタンを押そうとした時、新しく電話から声が聞こえた。

 

 

「……えっ!!リヒト君!?ちょ、ちょっと待っ」

 

ブツリと切れた通話、まだ何かを言おうとしていたシロナだったが、リヒトの耳には届かなかった。

 

 

「(徹夜明けでしんどいだろうし、電話しないようにしとこ)」

 

 

ここでリヒト、スマホの電源を切る。そのためシロナから掛け直されたことに気付かない。哀れシロナ、可哀想に。どんな要件があったのだろうか。

 

「(さてと、じゃあばあちゃんに挨拶してくるか!なんか前に来た時に「うちに来たかったら何時でもおいで。ついでにシロナもプレゼントするよ」って真顔で冗談言ってたな〜。しかもからかう為にわざとシロナと俺の布団一緒にしてたし、「昨日はお楽しみだったねぇ」とか言うし、面白いばあちゃんだ)」

 

 

それは外堀を埋めようとしているのでは?

あまりに危機感が無いリヒト、というか12の子供に何させようとしているのだろうか彼女は。いやまあ、孫とナニさせようとしているのだろう。曾孫でも見たいのだろうか。

 

 

フンフンと鼻歌を心の中で歌いながら、楽しげに__無表情で__歩くリヒト、なんでこいつこんなに楽しげに罠に飛び込んでいるのか、コレガワカラナイ。

 

 

そうして歩き、1件の家にたどり着く。その扉の前にあるインターホンを軽く押し、要件を伝えた。

 

 

「リヒトです、シロナに了解を得て挨拶に来ました」

 

 

通る声で言うリヒト、しかし家の中から誰も出て来ない。不思議に思ったリヒトは、再度インターホンを鳴らすが誰も対応しない。

留守なのだろう、そうリヒトは思いつき、踵を返して帰ろうとするリヒト。しかし、振り向いた先には、リヒトを覆うように立っていた影が1つあった。

 

一瞬止まるリヒト、しかしゆっくりと影の正体を確認するため、顔を上げる。そこには、顔立ちの整った、茶髪の女性が居た。

リヒトよりいくつか歳上であろう彼女に、リヒトは見覚えがあった。というかなんなら彼女たちに用事があってここに来ていた。

 

故に、挨拶はせねばなるまいと、リヒトはあまり開かない口を開き、挨拶をした。

 

 

「お久しぶりで___

 

 

 

 

 

 

 

「姉さんが欲しければ私を倒してからにしなさい!!」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

唐突に叫ばれた意味不明の文言に、リヒトが一瞬呆けた。その瞬間、彼女は脇に控えさせていた自身のポケモンに、()()()()()()()()()

 

 

「ルカリオ、はどうだん!!」

 

至近距離で、しかも高威力の技を繰り出した女性。普通に考えて錯乱しているか明確な殺意を持っているとしか思えないこの行動に、リヒトは内心、こう考えていた。

 

 

「(田舎って…みんなこうバイオレンスなのかな)」

 

 

田舎に謝れ。

 

しかし、アホな考えとは裏腹に、脅威は迫っている。対ポケモン用の技であるはどうだんを人間に向けるという行為は、当然起きてはならないことである。

 

迫り来るはどうだんに対し、リヒトは特別焦るわけでも無く、ポケモンをだして応戦しようとした。出すポケモンはもちろんキング、だって安心だから。

 

しかし、物事とは何事も思惑通りに行く訳ではない。

 

突然、腰に付けていたボールの1つが、激しく揺れ出した。そしてそれに呆気に取られるリヒトをよそに、そのボールが独りでに腰から外れ、スイッチから地面に落下し、中に居たポケモンが解放された。そして__

 

 

 

 

 

 

 

「…ヴィーラ、じしん」

 

 

大地を揺るがすその一撃で、ルカリオを打ち砕いた。

 

 

一瞬のことだった。それこそ、瞬きをする間に終わってしまう程の、圧倒的なまでの瞬殺。

 

飛び出したそのポケモンは、リヒトの指示を聞くと同時に、技の準備に入った。その身で、自然すらを意のままにする技を行使する為に、手を振り上げ、そしてその手で持って、()()()()()()()()()()()()

 

そしてそのままの勢いで腕を振り下ろし、地を揺らす。その攻撃に、ルカリオは自身の技を消されたという事実に気付かぬまま、瀕死となり、意識を落とした。

 

 

吹き飛ばされた相棒の音で、我に帰る女性。何が起きたか、一瞬足りとも分からなかった。しかし、どうなったかは分かってしまった。

恐る恐る、正面へと視線を向けた女性。しかし、それを見た彼女は、恐怖に支配され、竦んでしまった。そこに居たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しやりすぎだ、だが、良い速さだ。ヴィーラ」

 

 

主であるリヒトに、鉄仮面のまま褒められ、体を撫でられる。紫の体躯を持った__ガブリアスだった。

 

 

気持ちよさそうに体を擦りつけるガブリアス、嬉しそうにしているその顔、だがその眼は、彼女を捉えていた。

 

 

彼女はその眼に___

 

 

 

 

 

 

 

 

___強烈な、己への殺意を読み取ってしまった。

 

 

 





ガラル地方は絶対に書きます。それによってこちらの更新が遅くなることは有り得るでしょう。


だが私は謝らない。

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