アインズ・ウール・ゴウンが幻想入りしたようです。(再投稿)   作:TubuanBoy

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依頼-1

 

 その日、アインズもといサトルは人里に来ていた。

 

「本当に、この部屋を使って良いんですか?」

「ええ、サトルさんは娘の恩人。

自由に使って良いですよ!」

 

 

 異変の際、ゾンビ化しそうだった少女の両親がそのお礼に家賃格安で立地の良い、部屋を貸してくれたのだ。

 どうやら父親が不動産屋だったらしい。

 

 家は二階建ての部屋は二階にある。

 生活用スペースと事務所が混ざった部屋で個人事業主が生活しながら働くための部屋だ。

 

 こちらはナーベラルと二人だが、これ以上の注文は難しいだろう。

 

 一階部分は別の物件となっており近々入居が決まっていた。

 どうやら、飲食店らしい。

 

 部屋に入ろうとするとナーベラルがサトルを止めた。

 

「サトルさん、部屋の中から何かしらの魔力を感じます。

お気をつけください。」

 

「人里で妖怪?…空き家だったから雑妖でも住み着いててもおかしくないが…」

 

 ナーベラルが警戒するのだから最低限の力があるという事だ。

 

 里の中には人々に寄生しないと存在できない最弱クラスの妖怪が有象無象といる。

 彼らは獣ほどの知性もなく力もなく害も小さいため里のルールが適用されない。

 彼らまで警戒していたらキリがないのでナーベラルも普段は無視している。

 

 サトルは助けた少女の両親と別れ、警戒しながら入ることにした。

 

 

 辺りを見渡すが誰もいない。

 しかし、確かに探知に反応はある。

 

「居るのはわかっているんだ!

出てきてくれないか!…

我々に危害を加える気は無い。」

 

 すると部屋のどこかから声がする。

 

「部屋に入る前から某の存在に気がつくとは流石でござる。

 しかし、姿を隠していないのに某を見つけられないとは悲しいでござる。」

 

 姿を隠していないのにみえないとなると幽霊系だろうか?

 

(…ござる?…)

 

 サトルは声のする方を注視する。

 

 

「………」

「………」

掌サイズの愛玩小動物(ハムスター)と目があった。

 

「ようやく、見つけてくれたでござるか」

 

 

 サトルの思考が停止する。

「ナーベラルよ、私は疲れているのだろうか…ハムスターが喋っているようにしか見えないのだが…」

「いえ、わたしにもそうみえます。」

 

 腹話術の類かと思い探知したが見つからない。

 間違いなく喋るハムスターだ。

 

「殿、お待ちしておしました。

今日よりまた、お世話になるハムスケでござる。」

「殿?…また?って私はお前を知らないが、どういうことだ?」

 

 喋るハムスターはもちろん、自分をどのだという存在に心当たりはない。

 

「どう説明したら良いのかわからぬでござるが、某は気がついたらこの家にいてその前の記憶が全くないのでござる。

唯一覚えているのは名前と我が主人がアインズ・ウール・ゴウンであり、某は再び殿に使えるべくしてここにいるということだけでは確信できるでござる。」

 

(記憶が消された上に擦り込みまでされているのか?……)

 

 知らんと言って追い出す事は簡単だが、何故だがこのハムスターとは初めて会った気がしない。

 

 

(まったく、誰の仕業だ?…

いや、考えるまでもなく八雲紫だろうな。)

 

 こんな、周りくどく意味のわからない事をするのは彼女ぐらいだろう。

 

 すると、この店に初めての仕事が舞い込んでくる。

 

「おーい、サトル〜きてるか!?」

 

 店に妹紅が現れた。

 

「あぁ、妹紅さん。

どうなされましたか?」

「初仕事を持ってきてやったんだが…

なんだ?そのまん丸な鼠は。」

「ハムスターですよ。妹紅さん」

 

 妹紅はひょいとハムスケを持ち上げた。

「ふ〜ん、こんだけ丸々してるなら焼いたら旨そうだな。」

 

「なんと!?…」

 妹紅の言葉に慌てふためき、ハムスケは暴れ出した。

 

「と〜の〜!某は食べられてしまうのでござるか!?」

「やめてください。流石に鼠を食べるのは…」

 

「いや、流石に冗談だからな?

ていうか、コイツ喋るのかよ。

経立以上妖獣以下ってところか。」

 

経立とはよ鳥獣戯画に代表される長い年を生き、人のように動き回る動物の妖怪のことだ。

 

 動物が猫や狐なら尾が割れ妖獣へと発展する。

 勿論、鉄鼠・火鼠・旧鼠と名前が並ぶ程ネズミに類する妖怪が多い様に鼠の経立も珍しくはない。

 ハムスターの妖怪は珍しいが…

 

「なんだ、おまえの仲間か?

…別に構わんが躾はしっかりしろよ。」

 

 鼠の妖化はタチの悪い妖怪に進化することが多い。妹紅は警告した。

 

「それで?仕事とは?」

「おう、いくぞ」

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 二人と一匹は妹紅に連れられ、とある一軒家に到着した。

 

「最近、里全体で食品の盗難が頻発してるんだ…」

「盗難ですか…」

 

 今から入るのはその被害者宅の一つ。

 

「被害内容は主に食料。

最初は棚のお菓子とか、ちょっとしたものが多かったんだけど最近になるに連れて数も規模も多くなって来たんだよ。」

 

 どうやら犯人を目撃した情報が全くないため、捜査が難航している。

 

(正体不明か…)

「博麗の巫女には相談したんですか?」

 

 事件が妖怪の仕業である可能性がある限りはそれは博麗の巫女の仕事だ。

 

「したけど、被害者の家からは妖怪の気配の残痕さえまるで感じなかったそうだ。」

 

 サトルは念のため、センサー系の魔法を使用した。

 

「…たしかにそう言った反応は無いですね。」

 

「だから巫女も妖怪の仕業じゃなければ私の仕事じゃ無いって言って帰ったんだよ。」

 

(まだ、妖怪の仕業じゃ無いって決まったわけでは無いんですけどね…)

 

「だから、お前の魔法ならどちらにも対応できるって思ったんだよ。」

 

(とは、言っても手掛かりなしでは魔法も使えないからな…何かないかな〜)

 

 サトル達一向は部屋の探索から始める。

 目につくところはすでに探し尽くされたであろうから目につかないところを重点的に探す。

 

 するとナーベラルが小さな綻びを見つけた。

 

「藤原妹紅、これはなんだ。」

 

 箪笥の裏に隠れた壁の隅に出来た小さな穴。

 

「何って、ネズミが何かの穴だろ。

なんだよ。見るのは初めてと言わんばかりの顔は。

そりゃ、お前達の実家には無いかもしれないがな。」

 

 妹紅には素性は知られていないが、二人の関係からかなりの上級家庭の出だと思われている。

 

「確かに、鼠なら食料ばかり盗まれているのも説明がつくが…」

「ただの鼠だったらこんなにも大規模になる前に犯人がわかるもんだ。

そこのハムスケとやらと同様妖怪化しているなら巫女が気が付かないはずがない。」

 

 ここまで計画的に組織的な事件の犯人が鼠とは考えにくいが、サトルは調べてみることにした。

 

 

(まぁ、念のため調べてみるか…)

「ハムスケ、頼めるか?」

「任せるでござる!」

 

 ハムスケはその穴を調べることにした。

 

 壁の隙間から天井、縁の下、蓋のある側溝ハムスケは痕跡の匂いを辿って追跡を始める。

 

「匂いは某の同族…つまり鼠でござる。

『そうか、仮に鼠と遭遇した場合。

意識の疎通は可能か?』

 

「妖怪化していなくともカタコトぐらいなら聞き取れるでござる。」

《『頼む、人の目撃者はなくとも鼠の目撃者なら見つかるかもしれないからな。』》

 

 ハムスケとは魔法を通じて連絡し合う。

 会話だけではなく、視覚情報をモニタし地図で位置を確認しながら捜索している。

 

 これらの魔法を聞き驚くどころか当然と言った顔のハムスケ。

 

(我々の魔法を少なからず知っている…

まるで行動を共にしていたことが本当にあるようなそぶりだな…)

 

「進めば進むほど臭いが強くなるでござる。」

『地図的にはどんどん里の外側に進んでいくな。』

 

 まるで一ヶ所に集まるように。

 

 鼠は通常ひとつの集団で、最優位にたつ雄鼠1匹、雌鼠多数、その子鼠で構成されている。

 そして縄張りが存在するため交わることは無い。

 

 つまりこの先にはそれだけに巨大な集団が存在するということだ。

 

 ハムスケが辿り着いたのは里外れの荒廃した一軒家。

 人は住んでいないようだ。

 

 サトル達は到着にまだかかるようなのでハムスケは先に入ることにした。

 

「お邪魔するでござる〜

少しお聞きしたいことがあるでござる〜」

 

 そっと扉を開けるとそこには部屋一面の鼠が待ち構えていた。

 

「!!!!」

 

 ハムスケは驚いた。

 初対面で警戒されたとしても最低限のコミュニケーションを取れる自信があっただだけに目の前に広がる同族から感じる感情は殺意のみであった。

 

《『不味い!ハムスケ逃げろ!』》

 

 これだけの数の敵を前にハムスケの危険を感じたサトルは逃げるように言ったがもう遅い。

 

 次の瞬間向かってきた鼠の頭部がハムスケの尻尾によって吹き飛んだ。

 

『え…』

 

 そこには森の賢王と謳われた獣の姿があった。

 

「数でかかればどうにかなると思われているのであれば某も見縊られたものでござる」

 

 襲いかかる鼠を次々と薙ぎ払うハムスケ。

 

『(なんだ?このハムスター強く無いか?)』

 

 後で調べた話だが、ハムスケのレベルは推定30程度。

 ナザリックは勿論幻想郷全体の水準としても雑魚妖怪に毛が生えた程度だが、里のに寄生する雑魚からしたら頭一つ二つ抜けていた。

 

 それ以上に全長20センチ程度の小動物が30レベルの戦闘力を振るえば誰しも驚く。

 ナザリックにも似たようなのはいるが…

 

 彼はもともと大の大人が乗れるほどの巨大であったが、転移の際にハムスター本来の大きさに変えられたがレベルやステータスはそのままの為このようなことになったのだ。

 

「殿、親玉が見つかったでござる。」

『でかしたぞ。ハムスケ』

 

 ハムスケは戦いながらも周囲を観察していた。

 ハムスケの強さに一通り驚いたサトルは冷静に戻った。

 

 群の中に一匹混ざる白い鼠。

 一際強い殺意を放つその個体がどうやら親玉であろう。

 

「理由はわからないでござるが襲ってきたからには倒させてもらうでござる!」

《『行け、ハムスケ。お前の力を見せてみろ!』》

 

 ハムスケは下っ端鼠を薙ぎ払いながら親玉に近づいて行った。

 

『(なんだ…この感覚…)』

「これは…そういうことでござるか…」

 

 一匹、また一匹と倒していくたびに倒した鼠の死体から思念がハムスケに、そしてサトルに伝わってきた。

 

 彼らの人に対する強い憎しみ。

 かつて何万、何億と居た同胞の屍を踏み越える度に彼らは強くなった。

 

 毒とも言える環境汚染に対応するため耐性を付け、何十種・何百種にも渡る罠を掻い潜るため知恵を身につけ、そして数少ない生存圏を守るために自分の何倍もの獣と対峙するために強さを得た。

 

 敵も味方も全てを糧にして得た憎しみの力がそこにはあった。

 

「なる程、お主達は苦しんで来たのであったな…」

『だけど、俺たちはお前達を倒さなくちゃいけない。わかっているよ立場の違いだ仕方ない。』

 

 親玉の白い鼠の前に辿り着いたハムスケ。

 一際強い憎しみを抱く彼からは一際強い思念が伝わってきた。

 

 研究所の実験用のマウスであった彼は投薬からの激痛と日々仲間が数を減らしていくことに恐怖していた。

 

 なんとかしてここを出ようと。

 逃げ出せたのなら自由に生きようと。

 

 ある日、助手の隙を見て仲間と共に脱走した彼であったが、この世はどこも地獄であった。

 

 前述のような環境から共に逃げ出した仲間は居なくなりこのような環境を作り出した人を憎んだ。

 

 せめて我が子らには生き延びてほしいと願い戦い続けた。

 ここにいる鼠は皆、容姿は違えど少なからず自分の血を引いていた。

 

 投薬のせいなのか既に通常の鼠の数倍は生きていた。

 いつしか鼠達の憎しみを一心に背負いこの地に流れ着いた。

 

 里の食料を盗み、食いつなぎ。

 いつしか里を転覆させる。

 

 それが彼の生きる術であり、人に対する復讐であった。

 

 しかし、そんな彼にも年貢の納め時がやってきた。

 ハムスケが彼のもとにたどり着いた。

 

「武技《斬撃》!!…でござる。」

 

 

 

 

 

 サトル達がたどり着いた頃には全てが終わっていた。

 

 親玉は真っ二つに切り裂かれ、他のものは全てハムスケの〈全種族魅了(チャームスピーシーズ)〉の支配下に置かれていた。

 

 親玉の死体を見てサトルはなんとも言えない気持ちになった。

 

 奴は自分と一緒だ。

 この地に流れ着いた外の世界の犠牲者。

 外の世界のあの状況を知っているからこそ奴らの気持ちが痛いほどよくわかる。

 

「あんまし、自分を責めるなよ。

お前は正しいことをした。」

 

 死して尚伝わる負の感情。

 それはすでに上記を逸していた。

 放っておけば奴は必ず妖怪化していたであろう。

 それもただの妖怪では無い。

 現代の科学技術をその身に宿した過去に類を見ない鼠妖怪に。

 更に奴が立てていた計画を考えると里転覆ぐらいなら本当にやりかねなかった。

 

「残った奴ら、処分するんだろ?

火葬ならやってやるよ。」

 

 心ない一言が妹紅の口から発せられたがこれは代わりに手を下すことで罪を共に背負ってくれるという彼女なりの気遣いだ。

 それにこんな怨念じみた奴らは火葬で葬ってやらないと後が怖い。

 

しかし、サトルの背負い方は全く違った。

 

「ハムスケ、今から言う場所にこいつらを連れて行け。」

 

 その言葉にハムスケは感動した。

 

「この者たちを許してくださるのでござるか!?」

 

 ハムスケや人里に手を出したのだから妖怪化する手前とはいえ処分されて当たり前だと思っていた。

 

「おいおい、こんな数の鼠は。

まさか飼うつもりじゃ無いだろうな…」

 

 このような事態になったように食事だけでも与え続けるだけでも大変だ。

 

「大丈夫ですよ。心当たりがあるので」

「まじかよ…でもよ」

「心配要りません。もう人は襲わせませんから。」

 

 心当たりとは勿論ナザリックのこと、そしてサトルの考えはハムスケ達を紅魔館に連れて行き鼠達をハムスケの支配下に置く魔法をかける。

 

 鼠達は一時的にナザリックに厄介になるがあそこならデミウルゴスが営む農場から食料を確保できる。

 

 将来的にはその農場の流通ルートから鼠達の食料を確保して里に潜伏させありとあらゆる情報を集める手足とする算段だ。

 

 その日、ハムスケは鼠達の長となった。

 元の世界で彼女が言っていたハムスケ王になると言う発言はある意味かなったのであった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

-魔法屋-

 

「「カンパーイ!!」」

「乾杯…」

「乾杯でござる。」

 

 その夜、サトル達は店を構えての初仕事が成功したことで祝杯をあげていた。

 

「まあ、仕事としては後味悪かったけど首尾は上々だったな。」

「えぇ、思ったよりもこのハムスケが役に立つみたいで喜ばしい限りです。」

 

 ハムスケを評価する妹紅とサトル。

 

「これからも某の事を頼るでござる!」

「調子に乗るな小動物。

今回はたまたま噛み合わせが良かっただけだ。」

 

 その返しにナーベラルは辛辣に意見する。

 

 たしかに今回の事件はハムスケが活躍するための事件と言っても過言では無い内容であった。

 

 本来の妖怪退治を専門とする博麗も妖怪化する前の妖気を感じることはできない。

 しかも、妖怪化してからでは里が手遅れになる可能性まであった。

 

 妖怪、非妖怪のどちらも対応できるサトルだったから解決できたのであり、ハムスケの活躍のお陰で迅速に対応できたのだ。

 

 サトルは今回の仕事の出来栄えに手応えを感じていた。

 

 しかし、気になる点も存在した。

 

「ハムスケ、お前が鼠と戦っている最中に鼠達の記憶や感情がお前を通じて流れ込んで来たのはお前の魔法かスキルか?」

 

と言う疑問に対しハムスケは答えた。

 

「いえ、某にそのような力は無いでござる。

あれは殿がやった事では?」

 

(やはり、無自覚か…

ならば八雲紫の仕掛けの一つという事だろうな…)

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

-一階-

 

 サトルが店を構えた建物の一階。

 買い手こそ決まっていたが、まだ誰もいないはずの部屋に一人の女性が居た。

 

 元の持ち主が飲食店を開いていたため既に調理場とカウンターが備わっていた。

 

 女性はカウンターでグラスを傾け、酒の味を楽しんでいた。

 

「思いつきで作ってみたけど中々面白いわね。」

 

 その正体は言うまでもなく八雲紫。

 今回、ハムスケを送り込んだ張本人だ。

 

 彼女の目論見は本来の転生先のアインズに近しい者のコピーを送り込む事でつながりを深くする端末を作る事だ。

 勿論端末としての役割を果たすために手を加えているが、今回はそれが功を奏したのだ。

 

 しかし、今回の本質はそこでは無い事を紫は知っていた。

 

「鼠さえも生き抜くには苦しい世界になったのね…外は…」

 


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