S09地区、ここは鉄血とグリフィンの両者がシノギを削り合う激戦区。
これは、その地区にいくつも点在している前線基地に着任した
沢山の書類を抱えた人形が一人、前を確認しながら殺風景な廊下を歩いている。
「今日は変なことしてないといいけど……」
ため息を吐いて書類を運ぶ人形はM1911、通称ガバメント、又はガバ子ちゃんと呼ばれている。最も、後者で呼んだ場合いい顔はされないが。
そして彼女は執務室の前で止まり扉を開ける。
「指揮官、今回の遠征の書類ですけ──」
ガバメントは指揮官を見て言葉を失う。そう! 何故なら、強面でこの基地の戦術人形達から怖がられている指揮官は何時も身に着けている赤いコートではなくSIBAINUと犬のデフォルメされた顔がプリントされているエプロンを身に着けていた。
「おう、丁度ええ所に来たのぉ……」
「し、指揮官?」
その異様な光景にガバメントは声を引きつらせる。
「戦が始まる……準備せぇ……」
「は、はいっ!!」
そして、二人は今──
自転車をニケツしてグリフィン管理下の街を爆走していた。
「し! 指揮官!? 戦ってなんのことですか!?」
「今は喋るなァ!! 舌噛むでェ!!」
強面の指揮官はガバメントに警告する。だが、少し目を話した瞬間! 交差点から黒塗りの高級車が顔を出す。
「指揮官!? m──」
ガバメントが警告する前に指揮官の操る自転車は黒塗りの高級車に激突する。ガバメントはぶつかった反動を生かして華麗に一回転して着地するが指揮官は窓ガラスを突き破り車内へと飛び込んでしまう。
「なっ!? お、お前はっ!?」
「……あれ? お前、鉄血の──」
「指揮官!? 大丈夫ですか!?」
「
そう、指揮官はこの街へと侵入していた処刑人と偶然鉢合わせてしまう。だが指揮官は処刑人が攻撃してくる前に車から抜け出し困惑気味のガバメントを連れて
「おい! 追うぞ!」
「はいっ!」
それを逃すまいと処刑人とリッパーは指揮官達の後を追う。そうしてしばらくハイエンドモデルと人間の指揮官との奇妙な追いかけっこが開催される。
指揮官達はこの街にある大型のショッピングモールの中に入り込む。それを逃すまいと処刑人達も中へと入る。
「クソッタレが! おい! お前はこっちから回り込め! 逃がすなよ!!」
「了解!」
処刑人はリッパーに回り込むように指示を出して指揮官達を追いかける。
しばらく後を追うと指揮官とガバメントの背中が見えてくる。
「追い詰めたぜェ!!」
その声に指揮官は振り向く。そして処刑人を指差しこう言った。
「お前はあっちやァ!!」
「ん!?」
いきなり敵であるはずの指揮官から指示を出され困惑してその指示に従ってしまう処刑人。そして指さされた先には90%OFFと書かれた旗が棚に刺されており、主婦達がその商品を奪い合っている。
「アカン! このままやと商品がなくなるッ!」
指揮官はその主婦の群れの中へとガバメントを連れて突入する。その後を追い処刑人とリッパーも混沌の戦場へと突入する。
だが、新兵の三体は商品を取れずに
「お前ェ! これ持っとけ! お前はこれやァ!」
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そうして戦は終わり指揮官達は人気のない階段の踊り場で集まっていた。
「あほんだらァ! 大の大人が雁首揃えて……トレーナー二枚に靴下一足にちゃんちゃんこやとォ!」
「狙ってた
(((めっちゃ怒ってるやん)))
指揮官は並んでいる鉄血人形に大声で叱咤する。それを処刑人達と後ろでそれを見ているガバメントはなんとも言えない表情をして固まっている。
「
((……指揮官?))
「嘘つけェ! こんな指揮官いるわけねぇだろ!」
処刑人は怒りのあまり懐に隠し持っていた拳銃を指揮官の額へと向ける。
それを慌ててリッパーは止めに入ろうとする。
「処刑人様!? ここで騒ぎを起こしては……」
指揮官はその隙を突き拳銃を弾き足を掬い寝技をかける。
「ぐっ!?」
指揮官の素早い動きに対応しきれず転ばされてしまうが人形の特有の膂力で振り払う。
だが処刑人は身体に違和感を感じていた。
「なっ!? これは、いつの間にっ!?」
そう、処刑人はいつの間にかちゃんちゃんこが着せられていたのだ。
「これから……寒くなるからな……」
それを聞いて処刑人の脳裏に一つの思い出が浮かび上がる。
『おいおい、こんなのいらねぇよ』
『いいえ、つけておきなさい。いずれ必要になります』
それを思い出した処刑人は目を抑え膝をつく。
(……代理人っ!)
「処刑人様っ!?」
指揮官は満足そうな表情を浮かべ買い物袋を手に持ち基地への帰路につく。この一連の動作を後から眺めていたガバメントは静かに呟く。
「なに、これ……」
だがその呟きは誰にも聞こえることはなく、宙に消えてなくなるのであった。
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