東方明夜郷   作:EnJaku

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第十一話 準備は終わっていく

 

「これとか良いんじゃないかしら」

 

 そう言いながら、店内に並べられた食器を手に取る霊夢。

 シンプルだが味わいのある茶碗だ。俺の好みとも一致している。

 

「それ良いな、採用」

「じゃあこっちはどうだ?」

 

 次に魔理沙が見せてきたのは、派手な色を塗られた皿。普段使うには少々目に悪い色だ……というか、この色で物を食べたくない。

 

「却下」

「えぇ、何でだよ? 面白い色じゃないか」

「食器に面白さを求めてどうしろと……!?」

 

 ……なんて会話をしながら、俺達は今、これから使っていくであろう道具の数々を買い揃える為、里を回っていた。財布は紫持ちで、ついでに荷物持ちも紫である。

 

 と言っても、実際に持たせている訳じゃない。流石の俺も女に荷物を持たせて平気でいるのは無理だったからな。スキマを利用させてもらっているだけだ。

 スキマワープもそうだが、紫の能力はかなり便利なもんで、こうやってスキマの中に物を収納することも出来るらしいので、それを使っているのである。

 

 本当に便利な能力だ、俺の持っている力と交換してくれねぇかな……。

 

「ありがとうございましたーっ!」

 

 店内を出るなり、紫に荷物をパスして次の店へと向かう。

 前を歩いて先導する二人の背中を眺めながら、ふと隣にいる紫を見た。

 

 楽しそうに見えるような、見えないような。そんな表情をしている。

 霊夢も魔理沙もよく分からないが、こいつが一番分からないよなぁ。何考えてんだろう。

 

「あら、どうかしたのかしら?」

「いいや、何も……」

「そこはお世辞でも「君に見惚れていただけさ」とか言っておくところよ」

「誰が言うか」

 

 整った顔なのは認めるが、それを口にするくらいなら舌を噛み切って死んだ方がマシだ。何でか認めたら負けな気がしてしまうんでね。

 

「次はこっちの店だぜ」

 

 魔理沙の案内で、次の店へと入る。

 さて……次は何を買うかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなもんかな」

 

 家具を一通り購入し店を出ると、俺は深く息を吐いた。

 全く、女との買い物は無駄に長引くと音に聞いていたが、本当に長かった。霊夢も魔理沙も紫も、あれが良いんじゃないか、これが良いんじゃないかと、まさに女三人寄れば姦しいと言った感じで、実に長い間俺の家具について議論してくれた。いやマジで……何で女って買い物長いの……何かの病気……?

 

「いやぁ、楽しかったな。こうやって色々見て回るのは良い暇潰しになるぜ」

「私も楽しかったわ。一つだけだけど、紫に物を買ってもらったし」

 

 疲弊した俺とは対照的に、この二人は満足そうな面をしている。俺は買い物というものを楽しいと思ったことは一度も無いんだが、もしかして浪費そのものが楽しいのだろうか……?

 

「それじゃあ……今日のところ、私達が手伝えるのはここまでくらいか?」

「そうだな、家具の設置をしようにも、まだ家の掃除が終わらないらしいし」

 

 紫が言うにはまだもう少し掛かるそうだから、この二人に手伝ってもらう訳にはいかないな。

 

「まぁ……そういうことで、今日は助かったよ。魔理沙、霊夢」

「おう。この借りはちゃんと返してもらうからな?」

「分かってるよ、死ぬまでには返してやる。霊夢もありがとな」

「良いわよ、元々は紫の所為だしね」

 

 片手をひらひらとさせて返事をする霊夢。

 

 ……里の入り口まで戻ってきて。

 

「私達は神社に帰るよ。じゃあな、霜夜、紫」

「じゃあね、また今度」

 

 宙に浮かび上がり、神社があった方角へと飛んでいく二人を見送る。

 スカートの中身が見えないよう注意したのは内緒だ。

 

 二人の姿が完全に見えなくなると、残された俺と紫は向き合って、しばしの間沈黙を味わう。……えぇっと、あんたはどうするんですかね?

 

「……少し話をしましょうか。霜夜」

「話なら散々したつもりだったが、まだ何か隠された秘密でもあるのか?」

「さぁ、どうでしょう? 散歩でもしながら、その答えを話しましょう?」

 

 踵を返して、里に戻っていく紫。

 ……妙な様子だ。俺がおかしな力を持っているとかいう話だけで未だにお腹いっぱいなんだが……もうちょっとだけ嫌な話が待っている予感がする。

 

 紫を追いかけ、歩きながらその話とやらを始める。

 

「で、何だよ」

「ようやく貴方の生活の基盤が整ったわね。いや、もうと言った方が良いのかしら」

「……あぁ、まぁな。来て二日程度で衣食住の問題が大体解決したなら、それは早いもんだと思うが」

「本当は私が全部用意してあげられたら良かったんだけどねぇ。それじゃ貴方は満足しないようだったから」

「そうかもな……施されてばっかじゃ気持ち悪いかもしれん。こうやってちょっと苦労した方が、達成感もあるし」

 

 ……とは言ったものの、家は紫から貰ったもので、職は魔理沙の全面サポートの上で手に入れたものだし、何だかんだ施されてばっかな気もする。まぁ、運の良さと努力の結果と考えとこう、よし。

 

「あとは貴方の能力を開花させれば、一段落つくわね」

「その、何だっけ、世界に害をもたらす悪魔みたいな力? それって結局どういう力なんだ? 生態系を崩壊とか、ネガティブな説明なら充分受けたが……」

「具体的にどうとは言えないけれど……上手く使いこなせれば便利な力には違いないわ」

「お前のスキマ以上に便利な力とは思えないけどな」

「あら、一概にそうとは言えないわよ。破壊と創造は表裏一体、使い手によっては破壊は創造足り得る能力。貴方の能力は、暴走すれば確実に破壊に該当するけれど、使いこなせば……ね」

「お前が何を言っているか俺にはさっぱり分からん。結局、破壊の力ってことでいいのか?」

「そうねぇ……ちょっと見てみる?」

「……は?」

 

 さっきから何言ってんだ? こいつは。

 

「見せられるものか?」

「私が見ることは出来ないけれど、貴方が自分の目で見ることは出来るわ」

「うん……?」

 

 やっぱり、意味がよく分からない。

 俺はオカルト的なものに関してはそんなに詳しくないが、それにしたって理解不能が過ぎる。つまり俺の力はどういうものか、って話がこんなにこんがらがるなんて思いもしなかった。

 いや……理解不能なのは幻想郷(この世界)に来てからずっとだったな。

 

「見せてくれるって言うなら、見てみるけど」

「じゃあ、少し目を瞑って頂戴」

「見るのに瞑るのか。心の目で見るとか?」

 

 一旦立ち止まって、とりあえず目蓋を閉じてみる。

 言うまでもなく、真っ暗だ。何かが見えてくる様子は全く無い。

 

 紫の指と思しきものが俺の額をつんと突く。

 何かが流れてくるような感覚。

 これは……妖力か?

 

「……いや、何も見えないんだ、が――――――っ!?」

 

 そう言いかけた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 光る線のようなものが、黒く覆われたはずの視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

「〜〜っ!!?」

 

 思わず目を抉り取ってしまいたくなるような、痛みでも光でもない未知の感覚が眼窩を襲う。

 何だ、これは。

 線が、目の前に、いっぱい映っている。

 それら全てが、それぞれ別の物と繋がっている。

 理解出来ない。

 頭がおかしくなりそうな感覚。

 駄目だ、これ以上見ていると……。

 

「はい、ストップ」

 

 紫からの妖力の供給が止められる。

 途端、視界が元に戻る。目蓋を閉じたままだったから、見慣れた暗闇が脳裏に広がった。

 

「っあぐ……死ぬかと思った……」

「この程度じゃ死なないわよ、人間って」

「死ぬギリギリくらいの恐怖を味わいましたぁ! なに、なんなの、今の……!?」

「ちょっとこう、貴方の能力を無理やり開花させてみたの。どう、見えたでしょう?」

「見えた、見えたけどさぁ……」

 

 こんな理不尽な苦しみを味わうなら先に言って欲しかったなぁ……って。

 

「っていうか、暴走しないように監視してたとか言ってた癖に、こんな無茶するか普通……?」

「あら、失礼。忘れてたわ」

「忘っ……は、はいぃ? どういう神経してるんですかねこの人は……!」

 

 そんな大事なこと忘れるとかシャレにならないでしょ、それは……。

 

「酷い目にあった……」

「でも、貴方の能力のその一端が分かったのだから良しとしましょう?」

「それは俺の台詞なんだけど……それに、結局見てもよく分からなかったぞ? 何か変な線がいっぱい見えただけって言うか、何だったんだ今のは?」

 

 先程の光景を脳裏に浮かべてみるが、分かることと言えば、意味が分からないということだけである。

 これが俺の能力に関係しているってのは分かる。しかし、これがどう関係しているかというのがいまいち俺の頭じゃ推理すら出来ない。

 

 俺の問いに紫は、

 

「それは物と物を繋ぐ線。個を描き、成り立たせる線よ」

 

 などと、やはり理解出来ない回答をした。

 もしや答える気が無いのではという疑いすら湧いてくる。

 

「……理解出来ないのでこの話は終わりにします。能力の話はまた今度で」

「そうねぇ。簡単に理解出来るモノじゃないみたいだし、その方が良いわね」

 

 だったら最初からこんな話するんじゃなかったな……ぶっちゃけさっきの光景が夢に出てきそうで内心ビクビクしてるし。

 

 ……再び歩き出して。

 

「何か別の話にしよう。そう、明日からの予定について」

「そういえば、明日から寺子屋で教師を始めるそうね。じゃあ、能力の特訓は授業が終わってからね」

「寺子屋の方がいつ終わるかは分からないけど、それで頼むよ」

 

 能力についての小難しい話から離れて、出来るだけイージーで他愛無い会話を選択する。今日の天気がどうだとか、里の文明レベルはどうなってるかだとか、そんな感じの会話である。

 

 ついでに、これからについての簡単なスケジュールも組んでおいた。

 まず、朝から夕暮れまでは寺子屋の仕事だ。これは週に五回、平日に行われる。

 仕事が終わってからは、紫が俺を迎えに来て、神社で能力の特訓。これは毎日、平日も休日も関係無しだ。ただしその代わり、特訓後は八雲邸で藍お手製の夕食を食べられるらしい。

 その後、帰宅して就寝……こんな流れだ。

 

 毎日特訓なんてクソみたいな生活だと文句をつけたくなるところだが、藍の料理が食べられるなら素直に受け入れよう。あれは極上だからな。

 

 ……自分がどれだけ単純な人間か、よく分かってしまうのは悲しいことだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで完璧ね」

 

 時間が経って、夕方。

 掃除の終わった家に行って、家具の設置を終わらせた。これで本当に、幻想郷で生活していく基盤が整ったのだと実感が湧いてくる。

 

「欲を言えば、もう少し装飾したいところだけれど」

「イルミネーションでも付けるか? もう少ししたらクリスマスだし、丁度良いかもしれん」

「それだと明るすぎるわね」

 

 クスクスと笑う紫と、買ったばかりのちゃぶ台を挟んで向き合う。

 俺の元々の部屋には畳もちゃぶ台も無かったが、こう実際使ってみると中々良いものだな。

 

「この後は? お前も帰るのか?」

「そろそろお夕飯の時間ね。貴方も一緒にいかが?」

「お言葉に甘えさせてもらうよ。自炊出来ないもんで」

 

 そうだ、これからは飯の心配もしないといけないのか……カップ麺、売ってたら良いんだけどな……。

 

 紫が立ち上がって、部屋の壁にスキマを作る。その先は恐らく八雲邸だろう、と疲れた頭で推測しながら立ち上がる。

 

「お疲れのようね」

 

 疲労が溜まっていることに気付いたのか、紫がスキマを潜りながら俺に言う。

 俺もまた、スキマを潜りながら答える。

 

「慣れないことが続くと身体が疲れるもんで」

「それはいけないわね。今日はぐっすり休みなさい、明日からはもっと大変なんだから」

「明日……かぁ」

 

 明日は教師をして、それから特訓だっけ?

 おお、つらいつらい。

 

「そんな嫌そうな顔しないの。明日もきっと楽しいわ」

「どうだかな」

「じゃあ、今日は楽しかったかしら?」

 

 唐突にそんなことを聞かれて、一瞬、思考がフリーズする。

 しかしすぐに正常を取り戻して、俺は、どう答えてやろうか思案する。

 

 空を飛んだのは……悪くなかったし、気持ち良かった。

 教壇に立ったのは……まぁ、新鮮ではあった。

 買い物をしたのは……退屈だったが、嫌ではなかった。

 

 ……………………。

 

「あら、どうしたの? 固まっちゃって」

「…………いーや、別に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪な日ではなかったな、なんて思っただけだよ」

「……男のツンデレってどうなのかしら?」

「つ、ツンデレじゃないですけどっ!?」

 


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