その夜、奇跡はねじまがる   作:真坂ゆう

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人間計算機

 この世には、魔法を使える魔喰いと、実は使えない魔喰いがいる。

 

 そんなことをのたまった馬鹿がいた。馬鹿は外ならぬ彼自身だった。

 

 鏡の向こうにいる彼自身の顔はひどくやつれている様にも見えるし、逆に庭木に芽吹く雑草のようにタフにも見える。

 

 しかし、人は全て、

 

「客観的評価がその者の全てである」

 

 にたりと笑う鏡の向こう。ギラギラした服を身に纏い、立ち上がった親熊より高い背で国王より偉そうな自分の姿形に満足しながら、自室を出て、城の衛兵の間に続く廊下を歩く。

 

 曲がりくねるセンスの欠片もない廊下だ。国の決定権の大半を任された男、大臣のゲル・イスカリオテはこの城の設計を担当した前大臣が嫌いだった。

 

「思うに、奴が死んだのはこの不格好でローセンスなこの建築図案に許可を出したあたりに起因するのではないかと私は思う。センスは、如何様にもなる。センスの是非を作るのは上の人間なのだ。上が決め下に行き届き、下の人間は勝手に自分たちがセンスを選び抜いていると錯覚する、幻惑のようなものだ。なれば、少なくとも大臣の居室は閣議の間に限りなく近づけるなり、兵の寝床を近くに置くなり、合理に富めば自然と下々の考え方にまでそのセンスは芽吹き、合理性に結びつく。上の作りし不可視の機微が下の者どもを左右する。故にそれを無意識に感じ取る下の者共は上の者のセンスを最大限まで要求する。それはいわば知性であり、力、等である。自身を生み出し守る他者からの評価は弄れる。弄らなかった故に奴は死んだ」

 

 長々と独りごちる。前口上が長いのは幼少期からの癖だ。

 

 程なく彼は衛兵の間で兵を数人引きつれて、更に螺旋階段を下り、地下へと向かう。

 

「失敬。ゲル様。ここより先はマクイの居室ですが、何用ですか? 王に」

 

 皆まで言うなと、沈着に告げる。

 

「なに。ぬしらの耳にまで入れるのが面倒な些事よ。王も知っている。さあ、時間が惜しい」

 

 それ以上は言うまでもないようで、早々に特注の扉を開ける。

 

 こんなところまでバグ石で睨みを利かせるのもまだまだ技術が発展していない証拠だ。

 

 開く寸前で、きゃっと声がした。

 

 気にせず入った。

 

「どうされました!?」

 

 書き物でもしていたのか、ペンが転がり、飛びあがる魔喰い。

 

 例えばあえて今の反応に目くじらを立てて、早々に指示に従わせれば早いし、何よりその性格を他者に植え付けることもできる。この一事は万事となり、広く大衆に感性が行き渡るきっかけにもなる。そんな考えを常々持っているがそう都合よくも行かぬことも知っている。そも、少なくともゲルの目的は恐怖政治ではない。

 

「いやいい。座っていなさい。それより、ランチはいかがだったかな?」

 

 質問の意図がわからず困惑していたので、そのまま意図など気にせず、答えなさいと告げた。

 

「はっはい。大変、おいしゅうございました……それが一体?」

 

「どうだろう? 次はこんな時化た場所ではなく、会食の間でディナーでもいかがかな?」

 

 全員言葉を失って、沈黙が続いた。仕方なく、続ける。

 

「王直々の御達しだといえば早いか」

 

 すぐに背筋を正し、異口同音を連ねる彼らに少々ため息をつきながら、また来た道を戻ることになった。

 

 その際にもう一つ知らせておくべきだと考えを新たにし、告げた。

 

「簡単な食事だが、一つ。ぬしには毎食ある者達の血を吸ってもらう。太古の大地に斯様な魔物がいたそうだ。人の生き血を吸い、不老不死の術を得るという。これもまた古文書で知った魔女の系譜かもしれないので、今回比較的に合理的に富む実験として、それを行い、ぬしに結果を見せてもらいたく思った。過去には魔喰いなど存在せず、純然たる魔法の使い手が存在したとも聞く。もしぬしがその素養があるならば、ぬしを身売りした家族諸共、最高の待遇で迎えようぞ。ただし失敗した場合、すまないが、非常に申し訳ない。しんでもらうことになる」

 

 彼女の顔から笑みが完全に消えたのと、外でイヌワシが悲壮な鳴き声をあげたのは、ほぼ同時だった。

 

 マクイはマクイでも彼女のその呼称の意味するそれは所謂暫時的な影武者のそれであった。待遇の観点から見ても自分が死ぬわけはまずないと、信じ込んでいた。

 

 淡々と歩く廊下の足音に混じり、時折すすり泣く声が響き渡った。

 

 

 

 


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