Bloodborne The Demon Hunters 作:カンタレラ
胡蝶しのぶさんの柱になった時期がわかりません。
もし原作と違ってても、独自設定という事でお許しください。
柱と和解せよ
現在は昼、男女の二人組が彼の家に近づいていく。どちらも詰襟を着込み、羽織は着用している。腰には帯剣しており、その特徴から鬼殺隊と分かる。
「――――聞いていましたか? 冨岡さん」
片や蝶の紋様の羽織や髪飾りを付け、笑みを絶やさず落ち着いた口調で男に話しかける蟲柱、胡蝶しのぶ。
「………………」
片や長い髪を結び左右で紋様の違う羽織を身に付け、無表情で口を噤み寡黙を貫いている水柱、冨岡義勇。
「返事くらいしたらどうです? そんなだから皆から嫌われるんですよ?」
朗らかな笑みを浮かべた状態で毒を吐く胡蝶しのぶ。
「俺は嫌われてない」
内心ショックを受けつつも、無表情で強く否定する冨岡。
「漸く口を開いたと思えば、開口一番がそれですか? もう少し言うべきことが他にあるでしょうに」
胡蝶の言い分に思う所が有るのか冨岡は若干面倒そうな表情を浮かべながらも、説明するために口を開く。
「…………あの家は、一年前に鬼に襲われたはずだ。そう隊士からの連絡があった」
まともに説明できた冨岡に驚きながらも、胡蝶はその言葉から続ける。
「それが今や鬼に魅入られた人が鬼殺隊を退けている、と。俄には信じがたいですねぇ、一般人が隊士を退けるなんて」
一般隊士だろうが鬼殺隊である。育手の厳しい修行に耐え抜き、苛烈な選別をくぐり抜けてきた猛者たちである。その隊士が鬼に魅入られたとは言え一般人に遅れを取るとは思えない。
「そして不可解な点がもう一つ。その家に行った者は日輪刀を砕かれるも、大体は無傷で帰ってくること。鬼に魅入られてるとなれば生きて帰ってくる者は居ないはず。その上階級、甲が複数人で行っても無傷で送り返すっていうことを鑑みるに相当な実力者かも知れませんね」
曰く、それは子供だった。曰く、鬼の特徴は一切なかった。曰く、一瞬で意識を刈り取られた。曰く、相手の一振りで日輪刀が折れた。曰く、素手で日輪刀を砕かれた。曰く、それは呼吸を使っていない。曰く、おかしな武器を使っている。曰く、鬼が出てきて共闘したことが有るが姿が捉えきれず、終わったと思ったら蝶屋敷に居て日輪刀がなくなっていた。
と、胡蝶からしたら証言を聞けば聞くほどに信憑性を疑わざるを得ない。
「鬼と戦うということと、こちらを無傷で退けることを考えると本当に敵なのか怪しいですね。ですが相手の正体が不明な以上、普段の鬼より、特に武器破壊に警戒する必要が――――本当に聞いています?」
冨岡は少しだけ眉間に皺を寄せる。
「……ああ」
その様子に胡蝶がため息交じりに呆れながら言葉を紡ぐ。
「返事ができるなら先程も同じ様に返事をしてください、そういう所が嫌われる原因なんですよ? 冨岡さん」
解せぬと思いつつ、もう面倒なので無視する事と決め込んだ。
そうこうしている内に、目的地に着いた。
……鬼が居ることは間違いないらしい。その気配を肌で感じとることが出来る。だがもう一つ妙な気配を感じ取る事が出来る。無機質に近い何かが自ら動いているようだ。本当に人間かも怪しい。
無傷で隊士を返すことから対話の余地はあるだろうと考え、とりあえず戸を叩き相手の出方を伺う。
「はーい」
戸の奥で急に現れた気配に二人は驚く。鬼でもなければ先程の無機質に近いなにかの気配でもない。声を出した途端、急激に気配が濃くなった。
そして、少しだけ開けられた戸から出てきた顔に驚く。子供とは聞いていたがこんなに幼いとは。
「あらあら、こんなにも幼いなんて……一応聞きますけど、あなたが隊士を?」
急激に現れた気配といい、見た目の幼さといい。半信半疑であった胡蝶は問う。
格好から相手が何者かを察した彼は、眉を顰めながら返答した。
「……ええ、まあ」
そろそろ鬼殺隊のことを面倒だなと思いながらも、彼自身元来の善性と導きの糸によって、問答無用で無慈悲に殺すということはしなかった。
……まあ禰豆子を傷付けられれば導き関係なく殺すが。
そんな彼の様子を気にも留めず、胡蝶は言葉を続ける。
「そんな貴方に二つほど、聞きたい事があるんです。一つは何故鬼を匿うのか、そしてもう一つは何故隊士を無傷で返すのか」
それで今後来なくなるならばと思い、素直に喋る事にした。
「一つ目はたった一人の大切な家族だからです、だから鬼になろうと誰にも殺させるつもりはありません。二つ目はあまり敵を作りたくなかったのと……あとは貴方達のように対話を試みるような人を待ってましたから。そして話の通じる貴方達に折り入ってお願いがあります、どうか家族を見逃していただけませんか?」
彼は腰を折り曲げ、頭を下げる。が、それに胡蝶は応じなかった。
胡蝶は首を横に振りながら敵対の意志を表する。
胡蝶自身、こういった人を相手にするのは初めてではなかった。大切な家族だから止めてくれと。だがそれで止めてしまえばその人は家族に食い殺される。そして鬼を先に殺せば今度はその人が牙を剥く。そして気絶させても、起きればまた襲ってくる。鬼に魅入られた数ある事例の一つだ。
だからこうなった場合、片方を戦闘不能にして鬼を手早く殺してしまうのが手っ取り早い。
「申し訳ないのですが、それは出来ません。私達は悪鬼を滅殺するという志の下、活動しております。例え貴方の大切な家族であろうともそれは変える事は出来ません」
胡蝶は思った。こんなことならば有無を聞かずさっさと不意打ちなりしてしまえば良かった。幼いながらも、此処まで真剣に家族を守ろうとしている彼の家族を殺すことは罪悪感を感じる。
だからといってそれとこれは別だ。鬼は滅殺しなければならない。
「……そうですか」
彼は頭を上げて諦観したような声を出し、そろそろ導きを無視するべきかと思案する。
「ですが大丈夫です! 家族を鬼にされ、剰えその鬼に魅入られてしまう可哀想な貴方も、苦しまないよう優しい毒で殺してあげます。安心してください、すぐにその鬼も送って差し上げます」
そう言いながら胡蝶は微笑みを浮かべ、刀を抜く。態と挑発する様な言動をし意識を己に向けさせた。
それに続き、冨岡も刀を抜く。
胡蝶は即死せぬ様、そして確実に戦闘不能にする為足の付け根を狙った突きを放つが、彼をその射程から即座にステップで離れ臨戦態勢を取る。腰に差した日輪刀を抜き放ち、エヴェリンを構えた。
避けられた事に驚きつつも、相応の実力者である事を承知していた為冷静に小声で冨岡へ鬼を殺すように伝える。
「あの子は私が抑えておきますので、冨岡さんは奥の鬼をお願いしますね」
「ああ」
"蟲の呼吸 蜻蛉の舞い 複眼六角"
牽制と拘束に重きを置いた無数の突きを放つ、先程の身のこなしを見て当たらないだろうということは分かっていた。だから下手な行動が出来ぬよう、息継ぐ暇も無い連撃を繰り出そうとした。
が、彼は隙の糸を見極め、初動を予測し、一突き目が放たれる瞬間にエヴェリンを撃った。
「ッ!?」
射出された水銀弾が鍔に当たり、攻撃を止めてしまった上に思わぬ衝撃で体勢を崩し、重大な隙を晒してしまう。
胡蝶は不味いと思ったが、全身は痺れた様に動かず、力が抜けて膝を突いてしまった。
だが彼はその隙を見過ごし、加速の業を使って冨岡の前に立ちはだかる。突然現れた彼に驚きつつも、冨岡は冷静に刀を振るい迎え撃つ。
"水の呼吸 壱ノ型 水面斬り"
胡蝶の突きが弾かれ、迎撃技である雫波紋突きは危険と判断し、水平斬りを放つ。
彼はそれを軽く上体を反らし、紙一重で避ける。だがその反らした隙に、冨岡は即座に離れてしまった。
いつも以上に禰豆子に危険が迫り、脳内が激情で埋め尽くされる。彼は荒ぶる感情を脳内で警句を思い浮かべることで落ち着かせていく。
「ああ分かった、よく分かったとも。お前達が本気で禰豆子を殺そうとしている事を」
彼が一言発する毎に、その場の温度が下がる。彼の一つの動作が、その場を濃密な殺気で埋め尽くす。
「最初から和解を求めることが無駄だったんだ」
日輪刀を仕舞い、夢から落葉を取り出し甲高い音を鳴らして双剣に変形させる。
「そろそろ鬱陶しいって思ってた頃合いだった、此処が引き時なんだろう。抑止の為に一人二人は犠牲になってもらう」
"我ら血によって人となり、人を越え、また人を失う"
"知らぬ者よ"
"かねて血を恐れたまえ"
彼は息を大きく吸い、声を荒げる。
「来い! お前らなんかに禰豆子を殺す資格は無い! 来るのが一年遅いぞ間抜け共!!」
今の今まで甘かった自身を咎めながらも、意識を切り替える。
"ゲールマンの狩りを知るが良い"
「居るんでしょう? 出てきてください、隠の方」
彼は度重なる鬼殺隊の襲撃で隠の人とある程度の面識はあった。と言っても気絶した隊士を引き渡すからなのだが。
呼びかけても出てこない隠に少しだけ痺れを切らし、ちょっとした脅しをかける。
「早く出てこないとこいつら本当に殺しますよ」
朗らかな笑みを浮かべながら、物騒なことを吐き出す。
すると全身黒装束で、顔を覆い隠した黒子が慌てた様子で出てくる。
非戦闘員に手を出さないのである程度警戒は解けたが、今回ばかりは柱をも気絶させたと言うこともあり、相応の警戒心を与えてしまった。
「だー!! 分かった分かった! すぐに出てこなかった事は謝るからそれはやめてくれ」
何かと此方の家に来る事が多い後藤という隠である。と言っても最初に行った時に気絶させられなかったからと言うだけでこの任につかされた可哀想な隠である。最初にこの任を受けた時は死を覚悟したらしい。
「居るならさっさと出てきてください」
「悪かったっての……にしても、強い強いとは思っていたがまさか無傷で柱を打ち倒すとはな……」
そう、彼は二人を殺さなかった。彼の生来の甘さと、この二人から強く輝く導きの糸が頭の隅をちらつき、鬼舞辻無惨への憎悪が彼の刃を鈍らせた。この導きが鬼舞辻無惨に繋がると思ったが故に。
それに今回はまだ未遂なので、気絶するに留めておいた。これで本当に傷付けていたら、二人の柱はこの世にいなかっただろう。
「思ったんだが、今回はやけにこっ酷くやったんだな」
致命傷はないものの、全身裂傷だらけだった。失血によって気絶したようだ。
「流石に大切な家族を殺されそうになって、冷静を保っていられるほど根気強くは無いので。それに、これだけやっておけば向こうも手出ししづらくなるでしょう」
とりあえず彼は失血死しないよう聖歌の鐘を鳴らし、傷だけ塞いだ。
「奇っ怪な武器といい、理解不能なそれといい。一体何者なんだ……」
人差し指を口元に置きなから彼は言う。
「好奇心は猫をも殺す、下手な詮索は止めておきましょう。知られたくないと言うより貴方に危険を及ぼしたくないんです、脅すために言ってるわけではないので勘違いしないで下さい。とは言えこれに関しては私もあまり理解できていませんが。ってことで私ももう疲れたんでさっさと持ってっちゃってください」
彼は矢継ぎ早に喋り柱の二人を投げ渡して、家の中に帰っていった。
……因みに今回は失血でしばらく動けないだろうと判断し、日輪刀を砕かなかった。
結果、和解不可
まあ知ってた
大正コソコソ噂話
炭治郎は狩人からしたらすごい甘いです。どれくらい甘いかと言うと同じ狩人に叱られるレベルで甘いです。デュラですら叱ります。デュラも敵対者である狩人から住人を守るために容赦なくガトリングをブッパしますから、導きが見えたとは言えすごい甘いです。