なんとか中編を追加せずにまとめることができました……。
「ウラコさんは……よくここに来るの?」
「いつもいるよ」
薄い笑みを浮かべたまま軽やかなステップで廊下を移動する少女に置いて行かれないよう、春馬も彼女の後ろを早足気味で付いていく。
自らを“ウラコ”と名乗ったセーラー服の彼女は…………突然現れたかと思えば、春馬に対して校内を案内してくれると申し出てくれた。
「ええっと……君はこの学校の生徒だったの?」
「ふふふ、どうだと思う?」
階段を駆け上がり踊り場で立ち止まった彼女は振り返ると、妖精が囁くような透き通った声で言った。
可愛らしく微笑み尋ねてきたウラコに戸惑いつつも、春馬は一段一段に足を乗せながら答える。
「制服を着ているから……OG?……違う?」
「内緒」
「ええっ?」
からかうように笑いながらウラコは跳ねるように階段を上り進めていく。
掴みどころのない雰囲気は……本当に妖精か何かと話しているかのような感覚だった。
「………………」
彼女の背中を追いながら校内を歩いていると、気になるものが時折視界に入ってきた。
部屋の中や、廊下…………至る所にある落書きの跡。チョークで描いたものだろうか。窓から見えた中庭の壁にも、虹の模様や「ありがとう」といったメッセージがペンキで塗られていた気がする。
……たぶん、かつての生徒達が残したものなのだろう。
「気になる?」
「え?」
ぼうっと描かれていたそれらを眺めていると、いつの間にかすぐ近くまで迫っていたウラコが顔を覗き込んでくる。
彼女は教室の床に描かれたイラストを見つめながら、どこか誇らしげな顔で言った。
「素敵でしょ」
「素敵……………………うん、素敵だ」
数秒考え込んだ後、確信するように春馬は頷く。
理由はわからない。けれど…………強く心に訴えかけてくるものを感じる。
かつて青春を過ごした者達の想い。それが形となって現れているようだった。
「——Aqoursのことが知りたくて来たの?」
「……えっ!?どうしてそれを……」
唐突に心を読むような問いかけをしてきたウラコに驚きつつ、春馬は肯定の意を示しながら聞き返した。
「ここに来る人達は、みんなそうだったから」
緩めた口元はそのままに、彼女は懐かしむようにしみじみとした声を漏らす。
やがて春馬の方に向き直ったウラコは、真っ直ぐに彼の瞳を視線で射抜きながら言った。
「実際に来てみて…………どう思った?」
彼女が口にした言葉を聞いて、春馬は深く思考を巡らせる。
……それでもやはり、数分前に感じたもの以外の感想は浮かんでこなかった。
「普通だな……って」
「ふふふ、そうだよ。特別なことなんか何もないもん」
春馬の返答に満足するように笑った後、ウラコはその場から駆け出してはくるくるとスカートを翻して舞ってみせる。
「でもね、あの子達は————ううん、ここの生徒達はすごいんだ。彼女達自身はみんな普通だったのに…………普通じゃないことをやってのけちゃった」
「それって……ラブライブで優勝したこと?」
「部分的に見ればそうだね」
いまいちピンとこない答えを返してきたウラコに首を傾けつつ、さらに続けようとする彼女の言葉に耳を傾ける。
「生徒の数が足りなくて廃校だなんて……今時よくある話でしょ?……けどね、彼女達は足掻いた。足掻いて足掻いて……足掻きまくった!」
ステップを踏んでいた足を止め、振り向きながら彼女がよく通る声を張る。
「それだけでも凄いことなのに、みんなそれで満足しなかったんだ。びっくりするくらいジタバタして————この学校の名前を永遠なものにしちゃった!……あの時は私も、すっごく嬉しかった!!」
「………………」
心底楽しそうに話す彼女を見て、春馬も自然と笑顔になっていた。
ゆっくりと足を進めるウラコの後ろに付き、また歩き始める。
「ウラコさんは……この学校が大好きなんだね」
「うん、好き。……みんな大好きだよ」
幼い子供のように無邪気な笑みを見せるウラコ。
屈託のないお日様のような雰囲気を持った彼女は————まるで自分達を暖かく迎え入れてくれた、この土地を体現したような人だなと、そう思った。
「あなたは……他の子とはちょっと違うみたい」
「……え?」
屋上までやってきた直後、前触れもなくウラコが言った。
「どういう意味?」
「うーん……。あなた自身にわからないなら、私にもわからないかも」
「ええ……?」
よく理解できないことを発するウラコに困惑しながらも、ダンスのような足運びで屋上を舞う彼女を目で追う。
「Aqoursのことが知りたいんだよね?————どうすればいいのか、もうわかってるんじゃないかな」
滑らかな動きで地面を巡りながら彼女が口にする。
春馬は俯いて胸に手を当てた後…………ここを訪れた当初から渦巻いていた感情をぐっと飲み込み、顔を上げた。
————Aqoursは…………彼女達は、特別なんかじゃなかった。それはきっと……マネージャーだった“未来”も同じ。けれどみんなが一生懸命だったんだ。
目の前のことを必死でやり遂げて、そびえ立つ壁も全部乗り越えて…………そうやって、自分達が普通として受け入れてきたものを守ろうと足掻いた。
変わったことは何一つしていない。彼らはどこまでも普通だったんだ。…………ただ少し、その情熱が際立っていただけ。
(……俺達は、このままでいいんだ)
握りしめた手を胸元まで掲げる。
自分やタイガ達のやることは変わらない。……今のまま頑張ればいいんだ。かつて“未来”という少年がそうだったように。
瞬間瞬間、目の前にあることを一つずつ。そうして積み上げてきたことは…………きっと最後にはかけがえのない思い出として、自分達の中に残り続ける。
……自分達らしく、前に進めばそれでいいんだ。
「もうハルくんてば……どこに行ったのかな……」
恐る恐る玄関をくぐり、幼馴染の気配を探りながら歩夢は廊下を歩き進めた。
目的地である学校が見えた途端に、彼はとても追いつけないような速度で走り出して…………あっという間に姿を見失ってしまったのだ。
病院のベッドに臥せっていた時では到底考えられない脚力と体力。
退院できたのだから、健康になったのだからいいじゃないか。今までそう思っていたのだが…………やはり不思議なことに変わりはない。
(……
無意識に結ばれていく真実の像。
そんなわけがない。そう結論付けようとしても思い当たる節がありすぎる。
…………もしかすると、彼は——————
「こっちの方じゃないか?」
「いやいや、もっと上に……」
「…………!」
不意に耳に入った何者かの声。
「ハルくん!?」
歩夢は反射的にその場から駆け出し、声が聞こえた曲がり角の先を確認しようと身を乗り出した。
「「……………………」」
「…………………………」
信じ難い存在と視線が重なる。
頭に触角を生やした異形と、黒ずくめの身体に金髪の男。探知機のような機械を手にしている彼らは突然飛び出してきた歩夢を一目見るなり、
「「うおあああああああああああっ!?!?」」
「きゃあーーーーーーーー!?」
揃って建物中に響くような叫び声を轟かせた。
◉◉◉
「……!今の声……歩夢……!?」
不意に聞こえてきた悲鳴に反応し、脇目も振らずに春馬は駆け出す。
「…………」
慌てた様子で屋上から去っていく彼の背中を、ウラコは笑顔を崩さないままじっと観察するような目で見つめていた。
「ど、どどどどどどどうします!?まさか私達を追ってきた例の防衛チームの人間じゃ……!?」
「待て待て待て……!落ち着け!一般人の可能性もあんだろ……!」
冷静さを失いあたふたしている2人から距離を取り、歩夢は恐る恐る呟いた。
「う、宇宙……人……?」
「歩夢ーーーーーーっ!!」
直後、上の方から自分を呼ぶ声が反響し、咄嗟に付近にあった階段を見やる。
騒がしい足音を散らしながら駆け下りてきたのは————先ほどはぐれてしまった幼馴染だった。
「ハルくん!」
「歩夢!どうかし————って、うええええ!?!?」
駆けつけてきてすぐに歩夢のそばに立っていた宇宙人達が視界に入り驚愕の声を上げる春馬。
『マーキンド星人にマグマ星人だって……!?明らかに怪しい組み合わせだぞ!!』
「わ、悪い宇宙人なの……!?」
『え?あー…………とりあえず確保で』
「ええっ!?」
『ほら行け!』
捲し立てるタイガの言葉を聞いて一層焦りが募る。
ひとまず歩夢を庇うようにして宇宙人達の前に立ちはだかり、必死に険しい表情を作って威嚇した。
「チィ……!面倒な!」
「おおっと……!」
するとマグマ星人は手にしていたレーダーをマーキンド星人へと押し付けた後、対抗するように腰に下げていたカプセル状の入れ物を春馬達の前に突き出した。
「おい地球人!余計な動きは見せるんじゃねえぞ……?この“怪獣爆弾”をぶっ放されたくなければな!!」
変形させ、拳銃のような形状となったカプセルの先端を春馬達に突きつけながらマグマ星人が叫ぶ。どうやらタイガの早計すぎる判断は正しかったらしい。
『怪獣爆弾……確か近頃活発になってきている“ヴィラン・ギルド”とかいう組織がばら撒いているという話を聞いたことがある』
『ああ……発射と同時に圧縮された怪獣が飛び出てくるぞ』
『へっ!やっぱりロクな奴らじゃなさそうだな!』
緊迫した空気が漂い始め、互いに動けない状況になる。
(どうすれば……っ)
「……ハルくん……」
後ろに身を隠しながら不安げな声を漏らす歩夢。
とにかく彼女だけは安全な場所へ移さないといけない。この場にいたんじゃ変身することも憚れる。
息が詰まるような1秒が続き、銃口を振り払って退避するタイミングを窺っていたその時————
「——んんっ!?レーダーが最上階を指してもの凄い反応を!!」
「なにぃ!?」
思いもよらぬ隙を、宇宙人達は見せた。
『春馬!!』
「うん……!!」
マーキンド星人とマグマ星人の視線が奴らの手にしていたレーダーへと移った一瞬を突き、踏み込む。
「速っ!?——くそっ!!」
裏拳を放ち素早く怪獣爆弾を窓から外へ弾き飛ばした春馬を見てマグマ星人は右腕にサーベルを出現させ、咄嗟にそれを振るって彼の左肩を裂いた。
「ぐっ……う——!」
「ハルくん!!」
「大丈夫……!」
動きが止まっている間に2人の宇宙人は窓を飛び越え、地面に転がっていた怪獣爆弾を再び拾い上げて構える。
「ちくしょうめ……!!今回は引くぞッ!!」
「ひ、ひえ〜!!」
「……!待てっ……!!」
奴らを追跡しようと春馬が身を乗り出した直後、閃光と共に花火が打ち上がるような音が炸裂。
「ハハハッ……!潰されちまいなァ!!」
「……!?」
発射された
「あばよっ!」
春馬達が狼狽えている隙を狙い、マーキンド星人とマグマ星人は瞬時にその場から逃げ出してしまった。
「「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッッ!!!!」」
ビリビリと空気を伝って届く怪獣の絶叫。
「……!まずい……!!」
「こ、これって……怪獣……!?」
急いで外へ飛び出した春馬と歩夢のすぐ近くに巨大な影が着陸し————刹那、目視できないほどの速度で放たれた
「きゃあっ!!」
「うわっ……!?」
大地が両断され、その衝撃によって吹き飛ばされる歩夢。
「っ……あゆ……むッ!!」
血の気の引いた身体を起こしてすぐさま倒れ伏している彼女のもとへ駆け寄るが、既に気を失ってしまっている状態だった。
「頭とか打ってないよね、これ……!?」
『見た感じ大きな外傷はなさそうだな。ひとまず安全な場所へ運ぼう』
「うん!」
タイタスの言葉を聞き、反射的に歩夢の身体を抱えて校舎の屋上まで跳躍。
彼女をゆっくりと下ろした後、春馬は背後に迫る怪獣へと鋭い眼差しを向けた。
「この子は私が見てるよ」
不意に背後から飛んできた声に肩を震わせる。
咄嗟に振り返ってみると……そこにいたのは、あの妖精のような少女。
「ウラコさん……」
「ここで暴れられるのは困るから、もうちょっと遠く…………海の方で戦ってくれるかな」
「……?」
歩夢の横で膝を折り、彼女を見守るような視線を注ぎながらウラコは言う。
異様な気配を感じ取ったタイガは、静かにしゃがみ込んでいるウラコに対して探るような眼を向けた。
『……まさか…………俺達が見えてるのか……?』
「えっ!?どういうこと————!?」
「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーッ!!!!」
聞き返そうとしたその時、轟音と共に拡散する怪物の咆哮。
振り向いた先に見えたのは————暗い青色の体表に、長い首によって大きな胴と繋がっている頭部を二つ備えた怪獣。
『宇宙斬鉄怪獣“ディノゾール”…………その変異種、“ディノゾールリバース”か』
「なんか怖ぁ……!」
『……!来るッ!!』
多くの疑問が頭の中を横断するなか、強引に目の前にいる危機にだけ意識を集中させる。
どうしてウラコにウルトラマンであることがバレたのかはわからないが…………今は戦わなければ。
《カモン!》
「バディゴー!!」
《ウルトラマンタイガ!!》
屋上から飛び降りると同時にタイガスパークを起動。瞬時にタイガの肉体へと変身を遂げ、
『(はあっ!!)』
「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!」
ディノゾールリバースの巨体に突貫。奴を持ち上げたまま飛翔して水平線を目指す。
「◼︎◼︎ーー!!」
(うぐっ……!?)
海岸に到着した直後、目にも留まらぬ速さで繰り出された
バランスを崩した巨人と怪獣が海面へと叩きつけられ、高層ビルの如き水柱が打ち上がる。
(さっきから一体……何なんだ……!?)
『奴の舌だ!』
『この速度……目で捉えるのは不可能だぞ!』
(それならフーマのスピードで————うわぁ!?)
春馬がタイガスパークを操作するよりも前にディノゾールの放った舌による斬撃がタイガの身体を掠める。
攻撃の間合いが広すぎる。回避に注意を削がれてしまってフーマへバトンタッチができない……!
「「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーッ!!」」
『ぐぉ……っ!!』
双頭から同時に伸びた刃が退路を消しながらタイガの肉体を切り刻む。
このまま喰らい続ければすぐにエネルギー切れを起こしてしまう。体勢を立て直しつつ次を警戒————!!
「……ハル……くん……?」
遠くの方で何度も巻き上がる海水。
ぼやけた視界の奥に見えた巨人と怪獣の戦闘に、歩夢はこれまでには無かった胸のざわつきを感じていた。
「おはよう」
ふと横に顔をずらしてみると、そこには涼しい表情で自分を見下ろすセーラー服の女の子。
目覚めた自分を介抱するように背中へ手を回しながら、彼女は空気の中に溶けてしまいそうな幻想的な声色で言った。
「頑張ってるね、彼」
「……え?」
「もう気付いてるんでしょ?ウルトラマンの正体」
怪獣と命のやり取りを行っている光の巨人を見つめながら、少女は歩夢に語りかけてくる。
…………目の前にいるこの女の子が何者かはわからない。けど、彼女には何もかも見透かされている気がして、
「…………どうすれば……いいのかな」
ほとんど独り言のように歩夢は呟いた。
————巨人が怪獣と戦う姿を見て、そして今少女に問いかけられて…………確信してしまった。
ウルトラマンに変身しているのは春馬だ。秋葉原に怪獣が出現したあの時から…………彼はずっと戦い続けてきたんだ。
「あなたにできることは、とても限られてると思う」
隣に腰を下ろしつつ、少女は膝を抱えながら小さくこぼす。
「だからその限られていることを一所懸命にするんだよ」
「限られていること……?」
「あなたは彼の
歩夢の心の奥で燻っている感情を呼び起こそうとするように、少女の瞳は真っ直ぐに彼女を捉えていた。
「私は……」
自分は春馬の幼馴染で、同好会の仲間で………………それだけだ。
今思えば彼の病が治ったのもウルトラマンになった影響なのだろう。そこにどんな想いがあったのかは知らない。でも自分の身体が健康になるから、という理由ではないはずだ。
彼はきっと自分にできることを精一杯やろうとしてる。
だったら…………だったら、自分も——————
「いつまでも……支えられるだけじゃダメだよね」
これまでのことを思い返しながら、歩夢は立ち上がる。
これからも春馬に寄り添いたい。
病室で過ごすことしかできなかったあの時……自分はただ見守ることしかできなかった。
だから、今度は…………“支える人”になりたい。
「————え?」
刹那、歩夢の胸が眩く輝き始めた。
暖かい……どこか安心するような光。
「ふふ」
太陽の如き熱を放ち始めた彼女を一瞥し、少女は薄く笑う。
「……そっか、あなた————あの子と同じなんだね」
「えっ?えっ……?」
「いいよ。私も
「きゃっ……!?」
少女の身体もまた凄まじい輝きを放出させた後————歩夢の胸元へ人差し指を向ける。
直後、歩夢の輝きと共鳴するように少女の光は集束し……黄金色の剣へと変化を遂げた。
「どうかあなた達にも…………素敵な物語が紡がれますように」
そう少女がこぼした次の瞬間、剣は海岸目掛けて一直線に
(……!?なんだ————!?)
『うおおッ!?』
物凄い速度で迫ってきた黄金のエネルギーがタイガのカラータイマーへと吸い込まれ、一体化していた春馬の目の前まで降りてくる。
光で構成された……黄金色の剣。それは春馬が腰に身につけていたホルダーへと宿り————新たな“力”として顕現した。
(新しい……キーホルダー……?)
『これは……俺の、光の力と共鳴している……!?』
いつも使用しているタイガのキーホルダーよりもふた回りほど大きくなり、クリスタルも三つに増えている。
そして何より…………これまでのそれとは比較にならないほどのパワーを感じる。
(……タイガ)
『ああ、試してみる価値はありそうだな』
(ようし……!よくわからないけど————!)
《カモン!》
ホルダーに下がっていたそれを手に取り、春馬はタイガスパークのレバーを操作。
(新しい力で……あの怪獣を倒そう!)
《アース!》
《シャイン!》
キーホルダー上部にある二つのクリスタルにそれぞれタイガスパークをかざし、力を解放。
……なんだかほっとする。
まだ入院していた頃、歩夢がお見舞いに来てくれた時に感じた…………暖かな気持ち。それが形となって現れているかのようだった。
(————輝きの力を……手に!!)
手甲が装着された右手で握り締めた直後、キーホルダーが翼を広げるように展開。
瞬間、溢れ返るような黄金色のエネルギーが春馬達を包み込んだ。
《ウルトラマンタイガ!フォトンアース!!》
「「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッッ!!!!」」
ディノゾールリバースが放った二重の斬撃がタイガへと殺到する。
しかし彼は防御の姿勢は取らず、ただ目の前の怪獣を一撃で粉砕できるだけのエネルギーを蓄積し続けている。
『(はぁぁぁああああ…………っ!!)』
光が晴れ、巨人の全貌が再び露わになる。
全身にまとった黄金色の鎧と角。今までのタイガとは違う————“輝きの戦士”がそこに立っていた。
『(“オーラム——ストリゥゥゥウウウウウウウウウウム”ッッ!!!!)』
ディノゾールリバースが繰り出した刃を鎧で受け止めながら、タイガは周囲に作り出した金色のオーロラのエネルギーを光線として撃ち出す。
「「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!」」
ディノゾールの持つ強靭な外骨格を焼きながらもその威力は徐々に増大し、やがて光線が海のような水色を帯びた時、
『(いけぇえええええ……ッ!!)』
「「◼︎◼︎————!!」」
奴の身体を貫き、その肉体が木っ端微塵に砕けるほどの爆発を引き起こした。
(はあっ……はあっ……!)
肩で息をしながら春馬は学校のあった方向へ振り向く。
今はもう廃校になってしまった校舎。
……そこに生き物のような感情はないはずなのに、不思議と春馬には……笑っているように見えた。
◉◉◉
(きっとこの金色の力は……あの学校がくれたんだと思うんだ)
『は?』
帰りの電車の席。
夕焼けの光が窓から差し込むなか、春馬は頭の中でタイガ達に向けて言った。
『学校がっ……て、どういう意味だ?』
(そのままの意味。あの学校が俺達を助けてくれたってこと)
『建物に意思が宿っていると……君はそう言いたいのか?』
(うん)
タイタスの言葉に相槌を打ちながら、春馬は数時間前の出来事を思い出す。
あの光————フォトンアースに触れた時、歩夢の心と同時に“別の誰か”の想いが流れ込んできた気がした。それは誰もいない校舎の中を歩いた時に感じた……あの暖かな空気とよく似ていた。
(もしかしたら……あの場所を守ろうとしたのかもね。俺達と一緒に)
『いやいやいや、そんなおとぎ話みたいなことがあるか?』
『ふむ……なかなか面白い推理だな。だとしたら一体どのような作用が働いて……ブツブツ……』
『なーに真面目に考えてんだ旦那は……』
3人の会話を横目に、春馬は窓から見える景色に視線を移す。
…………戦いの後、屋上にいたのは歩夢だけだった。
今考えてみても不可解な点がいくつか思い浮かぶ。……“ウラコ”と名乗ったあの少女は、一体何者だったのだろう?
……もしかすると、彼女自身が——————
「また難しい顔してる」
「え?」
隣から聞こえてきた声に、春馬は反射的に首を回した。
微笑みを浮かべた幼馴染の顔が視界に入る。
歩夢は東京を出発した時よりも、遥かに明るい笑顔で語りかけてきた。
「大変なことに巻き込まれちゃったけど…………何か得るものはあった?」
「うん、たくさんあったよ!何だかすごくスッキリしてる!」
「そっか。よかった」
ふっ、と真剣な顔つきになった歩夢がじっとこちらを見つめてくる。
「これからも、無理はしないようにね。……私はずっとあなたを見てる。いつでもハルくんの味方だから」
「へっ?……えーっと……どうしたの改まって?」
「ふふっ、なんでもない」
「ええー!?気になるよ〜!!」
からかうように笑った歩夢は明らかに何かを隠しているようだったけど…………結局彼女は、そのことについて最後まで話そうとはしなかった。
衣服に残っていたものか、微かに鼻をくすぐる潮風の匂い。
それはまるで、夏の始まりが近づいていることを…………春馬達に知らせているようだった。
初登場で本編における特殊必殺技を発動するフォトンアースくん。
一方歩夢は春馬の正体に気付きましたが、敢えてそれを伝えないことを選んだようで……。
ていうかそろそろライブシーンを書かなきゃですね。
次回からの展開はまだ構想中ですが、近いうちに各メンバーに焦点を当てた個人回を投稿できればと考えております。