タイガ・ザ・ライブ!〜虹の向こう側〜   作:ブルー人

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虹ちゃんのアニメ……(鳴き声)


第62話 光も闇も

絶え間なく震撼する巨大宇宙船。その内部に蟻の巣のように張り巡らされている通路を駆けているのは…………白ドレスに身を包んだ少女達。

 

「みんな、もう少しだけ頑張って……!」

 

度重なる非日常的な災難に憔悴しきっている様子のスクールアイドル達を鼓舞しながら、歩夢は彼女達の先頭を走る。

 

先ほど後にしたオークション会場…………あの場にステラが現れたことで少しは心が落ち着いたが、正直に言うと状況を把握しきれていないどころか自分達が移動しているこの場所もどこなのかさっぱりわからない。

 

スクールアイドルだけを誘拐し、“商品”として宇宙人の間で競りにかけていることだけは何となくわかった。が、その危機を脱するだけの情報は持ち合わせていない。

 

これから自分達は……どうすれば——————

 

 

 

「あ、いたいた。無事で何よりだ、お嬢さん方」

 

「え?」

 

不意に通路の角から1人の青年が姿を現したと同時に歩夢達は足を止める。

 

彼が羽織っているのはオレンジ色のジャケット…………ステラが別れ際に口にしていた服装と一致している。

 

「ふむ、17人……全員揃ってるみたいだね」

 

「あの、あなたは……?」

 

「安心して、味方だよ。君達を助けに来たのさ」

 

そう柔らかく笑った青年の言葉を聞いてスクールアイドル達が揃って胸を撫で下ろす。

 

しかし一気に不安が消え去ったのも束の間、再び突き上げるような揺れが起こり歩夢達を恐怖の渦へ引き戻していく。

 

「……始まったか。早いとこ脱出しないと」

 

神妙な面持ちで小さく呟いた後、青年はジャケットを翻し翼の意匠が施された背を見せながら言った。

 

「ボクはノワール。地球防衛組織の卵————“GUYS”の隊員だ。名前だけでも覚えてから、地球へ帰っておくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィラン・ギルドとは別の勢力が暴れてる……?」

 

「はい、ノワールさんからの言伝です」

 

ようやくノワールとテレパシーでの会話を交わすことができた直後、カレンから告げられた報告に未来は難しい顔で口をへの字に曲げた。

 

「あの野郎……何もかも知った上で行動してやがるな……」

 

「リーダー?」

 

「いや、こっちの話だ。……全員にこっちの座標を伝えてくれ。まずは合流することを優先する」

 

「G.I.G!」

 

再び船内に散らばっているノワール、ステラ、春馬との交信を開始したカレンを尻目に、未来は口元に手を添えながら考える。

 

この作戦が始まる前にステラから聞かされた————“ウルトラダークキラー”というウルトラマントレギアの協力者のことが脳裏をよぎる。

 

正確にはノワールが情報源だが…………彼は今の今まで奴の存在に関して何も言及してはいなかった。

 

この作戦に紛れている“イレギュラー”が、その“ダークキラー”絡みだとすると…………事態は一刻を争うほどに深刻化してしまう。

 

(あいつなりに気を使ってのことなんだろうが…………悪いけど、遅かれ早かれ行動は起こすぜ俺は)

 

敵がどれだけ強大であろうと……GUYSのリーダーとして、1人の地球人として、背を向けることはできない。

 

なぜなら自分は誓った。

 

かけがえのない仲間に、友達に…………自分達だけでもやっていけると、約束したのだから。

 

 

「ほら、早く行ってくださいよ……」

 

「いやまだ心の準備が……!」

 

 

「“メテオール”解禁」

 

付近の物陰から怪しげな気配を感じ取り、未来は瞬時に懐から取り出したメテオール用ガジェットの引き金を絞る。

 

「「ギャアッ!?」」

 

射出された青白い弾丸が何かにヒットすると同時に半透明のバリアが展開。

 

キャッチされた何者かが悲鳴を上げたのを聞いて、未来は警戒しつつジリジリとその場へ歩み寄った。

 

「マグマ星人に……マーキンド星人?」

 

「うっ……!」

 

ドーム状の障壁の中に閉じ込められていたのは2人の宇宙人。この宇宙船にいるということは十中八九ヴィラン・ギルドの構成員だろうが……どうも様子がおかしい。

 

身を震わせながらこちらを見つめる彼らに怪訝な眼差しを送った後、未来は迷うことなく携帯警棒を装備した。

 

「ま、見つかったからにはとりあえず気を失ってもらうか」

 

「だぁー!待て待て!違う!手を貸しに来たんだよ、お前達に!!」

 

「……なんだって?」

 

バリア越しに詰め寄ってきたマグマ星人と視線を合わせ、未来はぽかんとした顔で聞き返す。

 

半透明の壁に額を押し付けながら、マグマ星人は早口気味に伝えてきた。

 

「お前ら、誘拐された地球人達を助けに来たんだろ?俺達がちょちょいと誤魔化せば……監視をくぐり抜けて、脱出用宇宙船の一つや二つ、簡単に頂戴できるぜ」

 

「なにが言いたい?」

 

「だから!協力するって言ってんだよ!!」

 

必死にそう訴えかけてきたのを聞いて目が点になる。

 

ノワール達へテレパシーを送ることに集中しているカレンを一瞥した後、警戒を解かないまま未来は続けて返した。

 

「ヴィラン・ギルドを裏切るのか?……俺達に手を貸すことで生まれるメリットは?」

 

「ふん……どうせ、いずれはこの組織も潰される。それが宇宙警備隊か、あるいはお前らの手によってかは知らんが…………内部の結束力が弱いようじゃ長くは保たないだろうな。実際……こうして俺達みたいな因子を出しちまってるし」

 

「だからって後先考えずにこんな大胆な行動するか……?」

 

「いや、その…………だから、俺達は————」

 

「助けたいんですよ」

 

突然発せられた声に未来とマグマ星人の視線が横へ移る。

 

同じようにメテオールの檻に閉じ込められていたマーキンド星人は、警棒を構えている未来へ一切淀みのない瞳を向けながら言った。

 

「囚われていたスクールアイドル達を助けたいと……心の底から願ったからこその行動です」

 

「スクールアイドル達を……?」

 

「ええ。……好きですからね」

 

マーキンド星人の発した言葉に確かな意思が垣間見え、未来は考え込むように押し黙る。

 

2人の宇宙人は未来とカレンがヴィラン・ギルドと敵対する地球組織の人間であるとわかっていながら出向いた。自分達が捕まるかもしれないリスクを背負い、未来がその存在に気がつくまでの間に上層部へ侵入者の存在を報告することもなく、だ。

 

けれども正直言って不安要素の方が大きい。出会ったばかりの敵組織の構成員をそう簡単に信用するわけにはいかない。

 

…………だが、しかし————マーキンド星人の瞳から伝わるファンとしての本気の想いには、賭けてみる価値がある。そう思うことができた。

 

 

「————わかった」

 

数秒間の沈黙の後、突きつけられていた警棒が下ろされると共に落ち着いた声が未来の口から漏れる。

 

その表情には不思議と……微笑みが浮かんでいた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ほら!ほらほらほらぁ!兄弟の中で2番目に強いこのピノン様に!!つまんない戦いさせないでよ!!」

 

縦横無尽に宙を駆るブーメランと合わせて放たれる拳と光線。

 

屋内にも関わらず一切の容赦も見せない黒い巨人————“ダークキラーセブン”の猛攻。自らをピノンと名乗った敵の攻撃を冷静に防ぎながら、ヒカリは宇宙船の外から届く戦闘音に意識を向けた。

 

『この気配……タイガ達が危険だ』

 

(…………っ)

 

防御に徹しながらステラは奥歯を噛み締める。

 

ノワールから聞いた話によれば、“ファースト”を除いたダークキラーは全部で4人。そのうち1人はどういうわけか春馬と行動を共にしていた。

 

……残りの3人が一斉にこの場に現れるのは流石に想定外が過ぎる。

 

春馬という前例から考えて、少しは話が通じる余地があるかもしれないと僅かな希望を抱いていたが…………目の前で猛威を振るっている輩を見ればそんな考えも即座に消え失せた。

 

「ドリャア!!」

 

両腕によるガードをすり抜けて叩き込まれた黒い鉄拳が蒼い身体のど真ん中に突き刺さり、オークション会場となっていたステージを巻き込みながらヒカリが派手に転倒する。

 

「フフフフフ……!そろそろ1キル目いただくとしますかぁ!!」

 

宙を飛び回っていたアイスラッガーを掴み取り、倒れているヒカリへ切っ先を向けながら歩みを進めるピノン。

 

勝負は決した。そう言わんばかりに満足げな様子で蒼い巨人に近づいた彼女は、迷うことなく手にしていたブーメランの刃を振り下ろそうとする。

 

「じゃあねっ!!」

 

命が刈り取られようとしている。

 

ステラとヒカリは眼前に迫ったアイスラッガーを捉え、その軌道を正確に予測すると——————

 

『(————ッ!!)』

 

紙一重で斬撃を回避。

 

「え?」

 

同時に流れるような隙のない動きでピノンの懐に潜り込むとナイトビームブレードを展開。突き出されていた右腕を根元から一息に切断してみせた。

 

「あ゛……っ……!?ぎ……ぁあぁあああアァアアアアアアアアア!!!!

 

泥のように溢れ落ちる黒い粒子を辺りに撒き散らしながら、ピノンは思いがけず迸った激痛に苦しみ悶える。

 

「いっ……だい……いたい、イタイイタイィィイイ……!!痛いよぉ……ッ!!」

 

黒い輝きと共に巨人の姿が少女の矮躯へと巻き戻る。

 

青ざめた顔で滝のように汗と涙を流しているピノンを尻目に、ステラは先ほどから感じる屋外の不穏な気配に意識を移した。

 

(……急ぎましょう!)

 

『ああ』

 

宇宙船の外で戦っているのは恐らく春馬達と……残りのダークキラー達。

 

相手は仮にもウルトラマンの力を備えた強力な戦士達だ。まだ経験の浅さが残るあのコンビと相対させるのはまずい。

 

焦燥感に駆られながら、蒼い巨人は天井を突き破る勢いでその場から飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の届かない、深海に落ちていくような感覚に陥りながら————春馬は懸命に思考を回転させる。

 

仲間であれ、敵であれ、誰かが行動を起こす時には必ず原動力となる明確な理由があると思っていた。……いや、正確にはそう思いたかったのだ。

 

でも現実はそうじゃない。

 

直接的な理由のない悪意。他の誰かを貶めること自体を目的として動いている者だってこの世界には存在するんだ。

 

以前トレギアと話した時…………自分には彼の心を理解することはできなかった。それはきっと、今までそういった純粋な悪意に触れる機会がなかったことが大きく関係している。

 

少し考えればわかることだ。

 

この世の全てを背負える人間なんていない。追風春馬という1個の命が尊重できるものなんてたかが知れている。

 

この世界にたったひとつの答えなんかない。あったとしても、それは通常の生命体が理解できるような単純なものではないだろう。

 

だから…………自分に許されているのは、抱えられるものを落とさないようにすることだけ。自分が信じたいと思ったものを貫くだけなんだ。

 

そしてその矜持は、この世界に生きる命の数だけ存在する。

 

互いにぶつかり合うことが避けられないというのであれば、それは…………それは——————

 

 

 

「幕引きだな」

 

動く様子のないタイガから足をどけ、ダークキラーゾフィー————フィーネは右手にエネルギーを集中させる。

 

高熱を帯びた平手に宿るのは一撃でウルトラマンを殺し得るだけの力。

 

フィーネは右腕を引き絞ると、横たわっている二本角の巨人へ殺意の塊を一気に振り下ろそうとした。

 

「…………!」

 

しかしそれを遮るように遠方から放たれた蒼い光線が迫る。

 

自分とタイガを引き裂くように地面を抉った一撃をバックステップで難なく回避した後、フィーネは猛スピードで飛翔しながら接近してきた巨人を視界に入れた。

 

 

(春馬!!)

 

『なんとか間に合ったか』

 

倒れていたタイガの身体を抱きかかえるヒカリ。

 

妹が足止めしていたはずの彼らがこの場に現れたのを見て、フィーネは浅い息をついた。

 

「ピノンは……生きてはいるようだな。ひどく弱っているが。……まあ、かの狩人が相手であればそれも仕方ないか」

 

(……ダークキラー……)

 

『ゾフィーのコピーか。……気をつけろ、ステラ』

 

今にも破裂しそうな張り詰めた空気が漂う。

 

黄金色の剣を伸ばしつつ、ヒカリは相手の出方を窺うように注意深く視線を這わせた。

 

 

(…………そう……だよね)

 

(……!春馬?)

 

不意に四肢へ力を込めたタイガがヒカリの腕から上体を起こす。

 

(俺達が引けないように……君にも……譲れないものが……あるんだよね。……なら、俺はなにも言えないよ)

 

トライブレードを宇宙船の外壁に突き立て、タイガの身体を支えながらその中で春馬は続ける。

 

(戦おう。君が俺達の……大切な場所を脅かすなら、全力で抵抗させてもらう。君もそうであるように————!)

 

ブレードの刃に宿る三色の輝き。

 

(俺達は…………絶対に負けられないんだから!!!!)

 

構えの体勢から突き出す形で解き放たれた光柱は、直線上に立っていたフィーネめがけて伸びていった。

 

反射的にフィーネの片腕から繰り出された漆黒の光線と衝突し、凄まじい衝撃波が周囲に拡散する。

 

(……!春馬、待って!!)

 

広範囲に爆発が起こると同時にステラが制止するも、春馬はそれを意に介すことなくタイガの身体を突き動かした。

 

春馬とタイガ達の同調率は未だ高い水準を維持している。彼らは揃って無茶を押し通そうとしているのだろう。

 

 

『『『(はあああっ!!)』』』

 

トライブレードによる一撃を受け止めつつ、フィーネは眼前にある巨人の瞳を正面に捉える。

 

「笑止、だな。お前の認識は周回遅れが過ぎる。今更入り口に至るとは愚かの極みだ。……やはりお前は、“長男”に相応しくない」

 

(っ……!)

 

フィーネが交差させていた腕を勢い良く振り抜き、弾かれたタイガは強制的に後退させられる。

 

「もはや見るに堪えない。オレ達の父……その唯一の汚点であるお前を、今ここで消し去ってやる」

 

フィーネの肉体からにじみ出る闇のオーラ。

 

世界を塗り替えてしまいそうなほどの感情の波を感じ取り、タイガは対抗するように全身から炎を迸らせた。

 

 

 

 

『はいはいそこまでだよーーーーっ!!!!』

 

刹那、スピーカーを通して発せられた何者かの声が上空を横切った。

 

その場にいた全員がそちらに意識を移す。漂っていたのは旅客機の半分ほどの大きさの宇宙船。

 

『いけそうか?』

 

『“メテオール”ダウンロード完了、バッチリです!』

 

『よっし!解禁解禁!』

 

 

『“キャプチャーキューブ弾頭弾”、発射!!』

 

騒がしいやり取りの後に宇宙船から射出されたミサイルのような物がフィーネの頭上で炸裂。

 

「なんだこれは……?」

 

突然の事態に驚くのも束の間、首を傾げている彼を瞬く間に形成されたドーム状のバリアが包んだ。

 

(……!未来!?脱出できたの!?)

 

『ああ、スクールアイドル達も一緒に乗ってる。あとはお前らが離れれば作戦終了!俺達の完全勝利だ!』

 

『皆さん!今のうちに離脱してください!』

 

(わかった!)

 

状況を飲み込むよりも先に身体を動かしたヒカリが強引にタイガの身体を抱え、その場から飛び立つ。

 

 

(あ…………)

 

ヒカリの脇に収まりながら、徐々に遠ざかっていく宇宙船に春馬は視線を注いだ。

 

メテオールの檻に閉じ込められ身動きがとれない状態でありながら、フィーネは内に秘めた憎悪を送り届けるようにタイガを睨み続けている。

 

 

————お前だけはいつか、必ずこの手で始末する。

 

 

聞こえるはずのない声が耳朶に触れる。

 

薄れゆく意識の中、春馬は自分に刻まれた“ダークキラー”としての因縁を噛み締めるように…………言葉にならない感情を、心の奥底に沈めた。

 

 




今回の件を経て、春馬とフィーネには互いに戦うしかない存在であるという自覚が生まれました。これはトレギアに関しても同じことが言えますね。
今後ダークキラーブラザーズが何を感じ、どのような行動を起こすのかにも注目して頂ければと思っています。

次回はオークション編のエピローグを描きつつ、この先の展開に繋がる要素も小出しにしていく予定です。

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