石の世界と星の少女たち   作:aterm

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生まれて初めて自分で描いた絵をネットにアップするので、初投稿です。

まず、投稿が想定より遅れて申し訳ありません。気づけば9月だよ……。
夏の暑さにダウンしていたのと、全体の書き方に悩んでいたのが原因です。
読む側の負担にならないような書き方が、うまくできていればいいのですが……。

新たに当小説をお気に入り登録して下さったマシュ・マック様、stan.if様、茨木翡翠様、ありがとうございます!

今回からDr.STONEサイドの人物がプリキュアに変身するようになるので、読者様がイメージしやすいようにと、絵を描いてみました。
自分の絵の腕はド素人なので期待はしないで下さい。あくまで『イメージ』としてご覧下さい。

記念すべき最初のストーンワールドのプリキュアは、あの人です。プリキュア名ですぐ分かるかな……。
そして、今回のお話から『スタプリとは違うプリキュア作品からのキャラクター』が本格的に出始めます。
タグに追加しきれなかったので、注意書きに書いてあります。

にしても、プロローグと前回のお話を見返すと所々で細かいミスが多いこと多いこと(白目)。
現在はどちらも全体的に修正済ですが、今後は浮かれすぎてやらかさないようにしっかり確認してから投稿致します。


今回の話、長すぎたかな……?


石の世界のプリキュア☆キュアウッド誕生!

「ねえ、フワは大切な人達……ひかるや皆に会いたいの?」

 

 

 ひかるのいる地球から遠く遠く離れた所にある宙域、『星空界』。

 その聖域であるスターパレスにて、フワはいつものように遊んだ後、うとうとと微睡んでいました。

 

 そんな時、唐突にフワの目の前に白いワンピースを着た少女が現れました。

 ピンクのストレートヘアとエメラルドの瞳の少女は、フワに優しく微笑んでいました。

 フワはこの少女とは、完全に初対面です。けれども、花の香りがほんのりとしていて安らぎを感じ、どこか安心感を覚えました。

 だから、なぜ初対面の少女が自分やひかる達のことを知っているのかも、全く疑問に思いませんでした。

 

 

「フワ! ララやユニ、プルンスにはいつでも会えるけど、地球は遠いからひかる、えれな、まどかには会えないフワ……。皆大好きだから、ひかる達に早く会いたいフワ!」

「そうなんだ……。私と一緒だね!」

「一緒フワ?」

「うん。今はまだ会えないけど、また会いたい大切な人達が私にもいるからフワの気持ち、分かるよ。

 ……ねえ、もしもここではない別の世界で、もう1度ひかる達に会えるならあなたはその世界に行きたいと思う? また、『前』みたいに危ない目に遭うかもしれないとしても」

 

 

 フワの心からの願いに少女は寂しそうな表情を見せると、一転して真剣な様子でフワに問いました。

 それにもフワは即答します。

 

 

「フワ! ひかるや皆が一緒ならどんな場所でも、どんな時でも、全然平気フワ!」

「そうなんだ……。そこも私と一緒、だね」

「フワ?」

 

 

 心から嬉しそうに話すフワに、少女は手を差し出します。そして、その手の中に虹色の球体を現出させました。

 その球体をフワに近づけると、フワに吸い込まれるように消えていきました。

 

 

「これは私自身とこの世界と、この世界と別のもう1つの世界────『魔法界』。その全ての命から少しだけおすそわけしてもらって集めた、『イマジネーション』。

 前と少し違うし、完全ではないけれど力を戻したよ。加えて、ちょっとしたおまけ(・・・)もつけちゃった!」

「本当フワ!?」

「うん。でも、その代わりに頼みがあるんだ。

 ……フワもストーンワールドに行って、スタートゥインクルプリキュアのお手伝いをしてほしいの。

 その世界に混沌が迫っていて、このままだとその世界の全ての命が消えてしまう。その世界が滅んだら、今度はこちらの世界にも……。

 私は2つの世界だけじゃなくて、私の大好きな人達に似たあの2人も、命溢れるあの世界も守りたいの。

 意地悪なことして、ごめんなさい。本当は私達が行きたかったけど、やらなきゃいけないことがあるから。それが終わったら、私達もすぐにストーンワールドに向かうから。

 お願い、フワ。どうか石の世界に────」

 

 

 心から申し訳なさそうに、そして懇願するように頼み込む少女の言葉は、大きな衝撃によって遮られてしまい、少女の姿は消えてしまいました。

 もっと言えば、突然の衝撃でフワは夢から覚めたのです。

 

 寝ぼけまなこでフワが顔を上げると、そこには青色の魔人に襲われる12人の宇宙のお姫様。

 そして、彼女達の胸から出てきたプリンセススターカラーペン(流れ星)

 魔人が出てきたそれに手を伸ばそうとしているのを見て、フワは咄嗟に『力』を使いました。

 

 

「フーワー!!」

「!? この力は……!?」

 

 

 力強く叫ぶとフワの体が光り出し、スタープリンセスの頭上にワープホールが現れました。

 魔人がフワから放たれる力に驚く間に、12本のプリンセススターカラーペンは宙に現れたワープホールに全て吸い込まれるように入って行きました。そして、役割を終えたワープホールはすぐさま閉じられました。

 

 

「ふむ……。あれがプリンセススターカラーペン、そしてワープホールだね。ねえ、君はあれをどこに」

「フワ、早く逃げるルン!」

「ララフワ!? フーワー!!」

 

 

 魔人がペンの行方を探るためにフワを捕えようとしたその瞬間、聞きなれた声の少女(ララ)に抱きかかえられ、彼女が乗ってきたロケットに乗り込みます。

 フワは一瞬戸惑いましたが、抱きかかえられた腕の温かさに安心します。

 そのままララはロケットを発進させて、抱きかかえられたままのフワがもう一度ワープホールを開くと、ロケットはその中に入って行きます。

 

 

「あらら、逃げられちゃった。ドンヨクバール、彼女達の跡を追って行って。僕も後から行くから」

 

 

 ロケットが逃げるのを面倒くさげに見ていた魔人は、近くに待機させていた岩の怪物に命じます。

 その怪物は「ガッテン!」と頷くと、ロケットを追うためにホールへ入って行きました。そして、すぐさまホールが閉じられます。

 それを見届けた魔人は指をパチンと鳴らすと、周りの風景に溶け込むように消えてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 そうして誰もいなくなってから、しばらく。

 

 

「フワの力と、ストーンワールドにもあるイマジネーションの力を合わせれば、あの人達ももしかしたら……。

 フワ、スタートゥインクルプリキュアの皆さん。ストーンワールドの皆さん。巻き込んでしまってごめんなさい。

 2つの世界を安定させるためにまだ、この世界から動く訳にはいかないけれど、それももう少しで終わるから。だからせめて、その間はほんの少し皆をお手伝いするね」

 

 

 今度は、先程フワの夢に現れた少女がポツンと1人。

 

 

「5人のプリキュアとフワ達宇宙妖精。3700年の時を超えてもなお、変わらず輝きを放つあの2人。そして、彼女達と彼らがこれから出会う様々な人達。

 その全てのあまねく生命(いのち)に、未知とワクワクが溢れるストーンワールドに祝福を」

 

 

 少女の祝福の言葉は、誰にも聞こえず。

 しかしその祈りは、遠い遠い異世界へと運ばれて行ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は現在に戻って。

 ララが触角で操縦席に付いているボタンを操作すると、ロケットの図やら何やら書かれた画面が出てきました。

 

 

『緊急モード、ロケットの損傷率は92%。燃料は充分に残っていますが、修理を行わない限り宇宙へは飛べません』

「オヨ……。ここまで再現しなくていいルン……」

「うおおおお! 千空、ロケットが、ロケットが喋ってるぞー!」

「耳元で叫ばなくても分かってるての。ざっと見た範囲だが、AIが俺らの時代のよりかなり高性能じゃねえか。サマーン星……、どんだけ文明進んでやがるんだ?」

「うんうん、懐かしいねえ。私もAIさんが初めて喋った時に、大樹君と同じ反応してたなあ……」

 

 

 あの後、思いっきり落下してしまったロケットですが、耐久性がとてつもなく高かったのか、中の乗員は全員五体満足でいました。

 その代わり、ロケット本体はプスプスと煙を上げる程にボロボロになってしまったのですが。

 

 夕闇に染まるツリーハウスの前で、ララがひかると初めて会った日と全く同じようにロケットが損傷しているのに、「最悪ルン……」と落ち込んでいて。

 ひかるもその日を思い出して、感慨深げに頷いていて。

 大樹はAIにワクワクしている中、千空はララの故郷の科学技術の高さに唆っていました。

 

 

「ルン……。ここでじっとしてても仕方ないルン。まずはプリンセス達に会いに行くルン。そっちの方がいろいろと効率的ルン」

「じゃあ、早速スターパレスに向かってみよう!」

「さっきも言っていたが、スターパレスって何なんだ? そもそもどうやって行くんだ?」

「まあ見てて! おうし座のプリンセススターカラーペンがあるってことは……」

 

 

 大樹の疑問にはすぐに答えると言わんばかりに、ひかるはバッグから1冊の茶色いノートを取り出しました。

 すると突然それが光り、光が収まると表紙に流れ星が描かれた、ピンクのノートに変化したのです。

 

 

「その手帳は……?」

「これは『トゥインクルブック』。フワのごはんを出せたり、フワがこの中で寝れたりするんだけど……。驚くのはまだ早いよ!」

 

 

 続いて、おうし座のプリンセススターカラーペンを手帳の右上に差し込んで、開いたページの中の星にピンク色の液体が注がれます。

 液体で満タンになると星の中央におうし座を表す記号が浮かび上がり、それがクルクル回転しだすとそこからピンクの光が溢れ出し、やがて無数の星が点在する宇宙を映し出す画面が出てきました。

 ひかるはノートに差し込んでいたペンを取り出し、映し出された星の1つにタッチ。

 今度は勝手に線が引かれ始め、1つの星座が描かれました。

 

 

「おうし座フワ! フーワー!!」

 

 

 同時に、フワの姿がピンクの牛の姿に変わると思いっきり叫んで、この場にいる全員────ひかる、ララ、千空、大樹を12本の柱がある神殿へと転移させました。

 

 

「着いたよ! ここが私達の宇宙にある星空界の聖域、スターパレスだよ! ちなみに星空界は、地球に光が届かないぐらい遠い所にある宙域なんだ!」

「つまりここは、ひかる達の宇宙での『観測可能な宇宙の遥か外側』って訳か……。

 んでもって、星の宮殿(スターパレス)と御大層な名前がついているこの場所が、星空界の……拡大解釈するなら宇宙の中心ってことだな?」

「大正解!」

「千空! あれ……!!」

「どうした大樹……!?」

 

 

 スターパレスがどういった場所なのか即座に検討がついた後、千空は大樹の声がした方を見てみます。

 そこにあったのは、

 

 

「……え!? なんで!? スタープリンセスも石になっている(・・・・・・・)の!?」

 

 

 変わり果てた、12人の宇宙のお姫様(スタープリンセス)の姿。

 千空の頭の回転の早さに感心していたひかるも、彼女達の石像を見てショックを受けています。

 

 

「……ルン。私が来た時には、もう……。ここから先は本人に話を聞くべきルン。フワ、お願いルン」

「……フワ! 星の輝き、戻るフーワー!!」

 

 

 同様にショックを受けていたフワですが、ララの言葉に気を持ち直すと、両手の中にピンクの星を生み出して、牛を模したドレスの女性の石像に向かって打ち出しました。

 星が石像に当たると同時に、石像にひびが入ったかと思うと見る間に砕け散り、そして。

 

 

「お久しぶりです。キュアスターにキュアミルキー。そしてフワと異世界の少年達よ。私を元に戻してくれて、感謝します」

 

 

 最初に、【おうし座のスタープリンセス】が蘇ったのです。

 

 

「これが、スタープリンセス……」

「ほーん。こいつがスターパレスのお姫様か。いかにも重要ポジですって面しているこいつは、宇宙の神様ってところか?」

 

 

 大樹が目の前にいる人物に無意識に畏怖の念を抱いている一方、千空は首をゴキゴキ鳴らしながらもいつもと何一つ変わらない様子でした。

 

 

「ちょっとしか話していないのにそこまで分かっちゃうルン!?」

「スターパレスが星空界(ここ)の中心。で、ここは俺らが知っている範囲の宇宙の延長線上にあるから、その主のスタープリンセスが宇宙の神様じゃねえかと半分冗談で言ってみたんだが……大当たりみてえだな」

「なにぃ!? ひかる達の宇宙の神様だと!? 無礼を働かないようにせねば……!」

「いや、俺らは別にこの世界の人じゃねえんだから、変に気を使う必要なんかねえだろ」

「千空は平常運転しすぎだ!」

「いえいえ、無理して畏まる必要はありませんよ。気軽に接してくれて構いませんよ」

「そうそう! 私達もそんな感じだし!」

 

 

 千空と大樹が漫才を繰り広げる横で、おうし座のスタープリンセスとひかるがフォローします。

 それから少しして落ち着いた後に、スタープリンセスはララの補足付きでここで起きたことについて語り始めました。

 

 

 いつものようにスタープリンセス全員でお茶会を開いていたら、突然黒いワープホールが開かれ、そこから邪悪な気配を感じる魔人が出てきたこと。

 

 手から気味が悪い緑色の光を放つと同時に体がどんどん石化していったこと。

 

 自らの魂と星座の力を悪用されないために、プリンセススターカラーペンに変えてどこかへ飛ばそうとしたこと。

 

 完全に石化されて魔人がペンを手に取ろうとする前に、フワが開いてくれたワープホールに12本とも吸い込まれたこと。

 

 ララが駆けつけた時には、スタープリンセス達は体のほとんどが石になっていて、フワが魔人に襲われそうになっていたこと。

 

 そして寸前でララがフワを助け出し、もう一度フワが開いてくれたワープホールに入って行って、岩の怪物に追われながらもストーンワールドに辿り着いたこと。

 

 

「光を浴びて石化……。正に俺達の身に起きたことそのままじゃないか! 石化の犯人はその魔人なのか!?」

「あなた方を石化させた犯人と同じかは分かりませんが……、魔人の正体なら検討がついています」

「本当ルン!?」

 

 

 話を聞いて驚く大樹に、おうし座のスタープリンセスは首を縦に動かします。

 スターパレスを襲撃した犯人の正体を早く知りたいララに、コクリと頷き返すと続きを話し始めました。

 

 

「大昔に生命が溢れるとある星に、多くの眷属と共に大いなる『災い』が攻め込んできました。その時はその星を守っていた『ある者』により災いは太陽へ封印され、眷属もまた封印することに成功しました。

 しかし、今より数年前に災いとその眷属の封印が解けてしまい、他の星々を滅ぼしながらも地球を狙ってやってきました。一時は地球上の全ての生命が消えてしまいましたが、スタートゥインクルプリキュアとは別の3人のプリキュア(・・・・・・・・)によって災いと眷属は浄化されました」

「3人のプリキュア!? キラやば! 私達の他にもプリキュアがいたなんて! ……でもそんな大事件、覚えてないよ?」

「それに、他にプリキュアがいるなんて聞いたことないルン」

 

 

 自分達以外のプリキュアの存在に目を輝かせつつも、そんな地球を揺るがす程の大事件に遭遇した記憶がないのに首を傾げるひかると対照的に、ララは訝しげに語り手を見つめています。

 

 

「無理もありません。災いを跳ね除けた後、それは『なかったこと』になりましたから。そして、その方達は諸事情により二度とプリキュアになれません。

 奇跡(・・)がもう1度起こらない限り、難しいでしょう」

(『あの方』を除いては)

 

 

 おうし座のスタープリンセスは、口には出すことなく3人のプリキュアの内の例外である『彼女』に想いを馳せます。

 

 

「1つの星の生命体全部消し去るなんざ、スケールデカすぎだろ……。んで、当たってほしくねえが、今までの話の流れからしてその災いとやらが、俺らの世界で復活した……ってことか?」

「……ええ。あなたの言う通り理由は不明ですが、今度はあなた達の世界でまだ完全ではないとは言え、災いが復活してしまいました」

「命を消し去る災いが、俺達の世界に……」

 

 

 顔をしかめた千空の予想に頷くスタープリンセス。

 大樹は思わず人も、虫も、魚も、鳥も、木々や草花も、全て息絶えた不毛の大地を想像してしまい、固唾を飲み込みます。

 告げられたのはあまりにも突拍子もない内容ですが、目の前の女性の深刻な様子から、嘘ではないと判断した千空は質問を続けます。

 

 

「災いって奴とその眷属の詳細って分かるか?」

「残念ながら。1度目はこちらでいざござがありまして、2度目はノットレイダーに襲われた時に力を使い果たしペンになっていたので、いずれも私達は関与していないのです」

「ノットレイダー?」

「そう言えば、まだちゃんとプリキュアについて話していなかったね」

 

 

 眉を下げて首を横に振るおうし座のスタープリンセス。千空は「そうか……」と一言だけ、少し残念そうに呟きました。

 その横で、聞きなれない単語に疑問をこぼした大樹にひかるとララが説明します。

 

 

【ノットレイダー】は元々は広い宇宙の中で故郷の星にいられなくなったり星が消滅したりして、居場所がなくなってしまった者達の集まり。

 ただそれだけの存在だったのですが、ある日彼らの元に蛇を模した鎧を纏った【ダークネスト】が現れて、自分の部下になり宇宙を支配する手助けをするように取引を持ちかけられました。

 今まで誰も自分達に手をのばしてくれなかった、助けてくれなかったノットレイダー達にとって、ダークネストだけが手をのばしてくれた者でした。

 だからこそ彼らはダークネストに忠誠を誓い、全宇宙の支配を目論み様々な惑星を侵略していました。

 

 そんな時に現れたスタートゥインクルプリキュアは、宇宙に散らばってしまった12本のプリンセススターカラーペンを集め、ペンとノットレイダーからすごい力を持っている『器』と認識されていたフワ、そして宇宙をノットレイダーから守るのが使命でした。

 

 宇宙を支配するために必要だと言われていたフワやプリンセススターカラーペンを巡り、何度も衝突を繰り返す中で、彼らの心の傷に気づいたプリキュア達が何度も歩み寄った結果、和解と改心を果たしました。

 その最中に実は宇宙の支配ではなく、『宇宙の消滅』が真の目的だったダークネストに捨て駒にされていたと言う真実に、ノットレイダー達は多大なショックを受けますが、割とすぐにダークネストに反旗を翻したのでプリキュアと共闘することに。

 その果てに結局ダークネストの目的が果たされてしまいますが、プリキュアの大奮闘で宇宙は元に戻り、自身の持つ『闇の力』だけを消し去られたダークネストはどこかへ姿を消してしまいました。

 

 

『プリキュア、では見せてみろ。キラやばな世界とやらを。もしその世界が誤っていれば、我は再び現れよう』

 

 

 多様性溢れるこの宇宙(キラやばな世界)を望むひかるにそう告げて。

 

 

 ひかるとララの話を聞いた千空と大樹は

 

 

「おおお……。プリキュアっていうのは壮大な物語だったんだな! 壮大すぎて全然分からん! けど、スタートゥインクルプリキュアがすごいのは分かるぞ!」

「あ"ぁ……。ひかる達の宇宙が1回全部消えたってのにも流石に驚くが、それ以上に宇宙を丸ごと元通りにする……。さらっと言ってるが、お前らも充分神してんじゃねえか! 

 スタープリンセスと言いダークネストと言い、神のバーゲンセールかよ……。科学の世界に神はいなくても、宇宙にはいるってか?」

 

 

 と、思っていたより広く深い話に圧倒されています。

 ちなみにプリキュアを全く知らない千空は思いもしませんが、実は歴代のプリキュアシリーズでラスボスが『神様クラス』、最悪『神そのもの』なのは割かし多いのです。

 正体が宇宙そのものだったり絶望そのものだったり、とある星の神様だったり……。

 

 ちなみに元ノットレイダー達は、今は新たに移住した星の土地を皆で協力して開拓中だとか。彼らには、ノットレイダー時代よりもたくさんの笑顔と幸せで満ち溢れているそうです。

 ララから聞かされたひかるは、自分と何回も衝突を繰り返した河童に似た宇宙人、【カッパード】を思い出して頬を緩ませました。

 

 

「幸いにも、災いそのものが完全に復活するまでに、ストーンワールドから見て数年の猶予があります。ですが、当時より幾分か力が弱まっているものの、眷属は既に復活して活動を始めています。スターパレスを襲撃した魔人がそうです。

 このまま放っておくとストーンワールドの地球だけではなく、その世界にある全ての星々が滅ぼされ、その次はこの世界の地球……そして星空界の全ての命が消えてしまうでしょう」

「星も命も全部消えてしまうなんて、そんなの絶対に嫌だ! 例え他の世界でも!」

「ストーンワールドだけじゃなくて、この世界の地球と星空界まで……! どっちも私にとってとても大切な居場所(故郷)ルン! 絶対に守りたいルン!」

「俺も嫌だぞ! 復活液はまだ完成していないが、まだまだこれからなんだ!! 千空と杠と一緒に人類を助け出すんだ! だから、地球を死の星になんかさせんぞ! なあ千空!」

「あ"ぁ! 人類復活させて文明を取り戻したら、今度は自力で宇宙に行くんだよ。ククク……。想定よりだいぶ壮大になっちまったがな、人類救うついでに宇宙も救ってやんぞ! 唆るぜ、これは……!」

「フワも皆のお手伝いするフワ!」

 

 

 おうし座のスタープリンセスが告げる最悪の未来予想図に、闘志を燃やす5人。

 

 

「つーことは、俺らが今最優先でやるべきことは復活液の完成にプラスして、眷属の撃退。加えて、残り11本のプリンセススターカラーペンの回収ってとこか。本当は、災いそのものを完全に復活する前に叩きてえところだが……」

「災いが復活したのは、地球より遠く遠く離れた宇宙の果てです。今のフワの力があればそこに行けるでしょうが……」

「ロケットは今壊れちゃってるから無理ルン……。あの状況じゃあ修理は当分先ルン……。それに、プリキュアはまだ全員揃っていないルン」

「心配は要りません。残りの3人、そしてプルンスも時期にストーンワールドにやって来ることでしょう。これは『彼女』から聞いたので間違いありません」

 

 

 災いが復活した場所を知ったものの、ロケットが修理できないのと残りのプリキュアが揃っていない現状に、触角ごとしょんぼりするララ。

 そんなララにおうし座のスタープリンセスが残りの仲間も来訪することを教え、それを聞いたひかるが

 

 

「やったぁー! えれなさんにまどかさん、ユニもプルンスもこっちに来るんだ!」

 

 

 と、大はしゃぎしてララに抱き着きます。

 フワも「あの人が言っていた通りフワ!」と大喜びしながら、ひかるとララの頭上をクルクルと回ります。

 ララも嬉しくなったのか、触角をハート型にして頬を緩ませています。

 

 ちなみに、【プルンス】はフワのお世話係兼スタープリンセスに仕える宇宙妖精。

 ノットレイダーが襲撃した際にはフワを連れて逃げ、道中でララと出会いなんやかんやあって、フワの力でララと一緒に地球にやってきました。1年近くの大冒険の中で、要所要所でひかるやララ達を助けてくれた、頼れるサポーターでもあります。

 おうし座のスタープリンセス曰く、魔人に襲撃された日は彼はたまたま用事があって、その場にいなかったそうです。

 

 

「む? 眷属の撃退は分かるが、どうしてそこでプリンセススターカラーペンが出てくるんだ?」

「あのな、今おうし座のお姫様の話にあっただろうが。『魔人がペンを手に取ろう』としていたってな。

 ペンを利用したいのか破壊したいのかは知らねえが、そいつは原理は不明だが、変化したスタープリンセス(宇宙の神)の魂と力そのものなんだぞ。絶対碌なことにならねえだろうが」

「話が早くて助かります。私達スタープリンセスには宇宙の均衡を保つという役割があります。

 残り11星座のスタープリンセスの力を取り戻さねば、災いが攻めて来るよりも先にこの宇宙の全ての星々がいずれ消え行きます」

「……! そうだよ! ロケットが修理できるまで時間がかかりそうなのに、全てのペンを集めるまでの間、この宇宙はどうなっちゃうの?」

「それにもし、ペンを集めるのに何年も時間がかかってしまうなら、その間ずっとストーンワールドにいなきゃいけないルン。絶対私の家族やひかるの家族が心配するルン……」

 

 

 一方、大樹の素朴な疑問に推測を述べる千空。

 それに対して、ペンを集めないとどうなるかおうし座のスタープリンセスが告げると、ひかるとララはそれぞれ別の観点から、自分達がいない間の世界(故郷)を心配します。

 

 

「そちらも心配しなくて大丈夫ですよ。この世界とあちらの世界の時間の流れは大きく異なり、ストーンワールドで例え1年過ごしても、元の世界に戻る際はこちらは1分しか経ちません。

 長い時間いて体が成長してしまっても、『彼女』の力でストーンワールドに来る前の姿に戻れます。スターパレスからストーンワールドへは、フワの力でそんなに時間が経つことなく戻れますよ」

「え! ってことはずっとストーンワールドに居放題ってこと!? キラやば~☆」

「オヨ……。ひかる、喜びすぎルン……」

「だってそうしたら、千空君達の人類&文明復活作戦のお手伝いを最後までできるじゃん!」

「……それは」

 

 

 おうし座のスタープリンセスの説明を聞いて、期間限定とは言え、ストーンワールドにいられて千空と大樹に協力できると、またも目をシイタケにするひかる。

 ですが、ララはやる気に満ち溢れているひかるに、複雑そうな表情を見せました。

 

 

「ククク……。異世界人なのにやる気満々なのは、実におありがてえことだ。が、そんな虫のいい話、本当にあるのか?」

「信じられないかもしれませんが、『彼女』のおかげで今の状況が成り立っています。おそらくひかるやフワ、ララは既にお会いしていますよ」

「え……。あ! フワがさっきからちらほら言っていたからもしかしてと思ったけど、フワも私の夢に出てきた女の人と会ったの!?」

「フワ! 優しい香りのする人だったフワ!」

 

 

 都合が良すぎる話に本当は何か裏があるのではと疑う千空ですが、言外にひかるの夢に出てきた女の人のおかげで、支障なくストーンワールドにひかる達がいられると聞いて、全部を鵜呑みにした訳ではありませんが、そっと胸をなで下ろしました。

 

 

「女の人ルン……?」

「ん? もしかしてララの夢には出てきてないのか? てっきりララもひかると同じように、石化前の俺達の様子や女の人に頼まれる夢を見ているとばかり思っていたんだが……」

「女の人に『ストーンワールドを救って』と頼まれるのと、『スターパレスにいる皆が危ないから早く向かってあげて』とお願いされる夢は見たけど、大樹達の出てくる夢は見てないルン。

 スターパレスに駆けつけた時、本当はプルンスも一緒にと思ったけれど、探しに行く暇がなかったルン。……用事でいなかったとは言え、心配ルン」

「フワもプルンスに会いたいフワ……」

「ララもフワも見ていないんだ……。それに、その人に頼まれたからララはスターパレスに駆けつけてこれてフワを守れたんだね。その人に直接お礼を言いたいな……。

 ララ。フワを助けてくれてありがとう! プルンスもきっと大丈夫だよ。会えるっておうし座のスタープリンセスも言ってたし!」

「……ルン」

 

 

 自分の見た夢を話してくれたララに、ひかるは心からの感謝の気持ちを伝えます。

 以前守ると決めていたのに、フワを守り切れなかった(・・・・・・・・)故に。

 ひかると同じ思いを味わったララは、静かに頷き返しました。

 

 

「伝説の戦士・スタートゥインクルプリキュア、フワ。そして異世界の少年達よ。改めてお願いがあります。

 ────どうかプリンセススターカラーペンをもう一度集めて、災いを打ち払って下さい。双方の世界のために」

「うん! 任せて! ストーンワールドも大好きなこの世界も宇宙も守るよ!」

「フワも頑張るフワ!」

「俺は人は殴れないが……、守ることなら任せろー!!」

「とは言え、直接災いと対峙するのはプリキュアだがな。直接は戦えねえが、ペン探しぐらいなら手伝える。んで、どっちの世界も丸ごと救ってやるよ。唆るじゃねえか……!」

「……ルン。私も頑張るルン」

「皆さんの優しさに、感謝します」

 

 

 再び課せられた使命に決意を見せるひかると張り切るフワ。

 どちらかと言うと巻き込まれた側なのに、プリキュアに協力する気満々の千空と大樹。

 そして、そんな異世界(ストーンワールド)の2人に対して眉をひそめるララ。

 

 

「最後に1つだけ。私達はもう……、あんな『儀式』をする必要、ないよね?」

「ええ。あの時は、騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした。ですが、今回はペンを集めて災いを再び浄化する。それだけで十分ですので」

「そっか……。なら、良かった」

「では頼みます。プリキュア達よ」

(儀式……?)

 

 

 ひかるとおうし座のスタープリンセスの会話に疑念を抱く千空を余所に、おうし座のスタープリンセスの言葉を受けて5人はスターパレスから、ストーンワールドへと帰還していきました。

 

 

 

「あの時の過ちを繰り返さないためにも、私も『あなた』に微力ながらも力を貸します」

 

 

 空を見上げながら、今はまだ1人の星のお姫様は誓いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーンワールドに戻った時、辺りはすっかり暗くなっていました。

 

 

「うお!? 俺達がスターパレスに向かった時は夕方だったのに、もう夜になっているぞ!」

「まあ、今日はイベントがたくさんありすぎたからな。とっとと飯食って寝て明日に備えるぞ。明日から3人にもバリバリ働いてもらうからなあ……」

 

 

 首をゴキゴキ鳴らしながら、千空が少し悪い顔をして3人(正確には2人と1匹)を見やります。

 

 1人は、とびっきりの笑顔で「うん! じゃんじゃん働くから任せて!」と、腕をグルグルさせながら元気良く。

 1人は、ひかるによく似た笑顔で「フワ!」と、勢いよく。

 そしてもう1人は、「……ルン。私もお手伝いするルン……」と、どこかぎごちなく返しました。

 

 その夜は、火を起こして焼いた鹿のお肉とキノコを皆で食べることにしました。

 

 

「キラやば! キノコもお肉も、めちゃくちゃおいしい~!」

「ルン! お肉は少し固いけど、どっちも適度な塩分が最高ルン!」

「そうだろうそうだろう! 俺も初めて食べた時はとても感動したぞ!」

「海水から取った塩をまぶしただけだけどな。人間塩ふりゃ大抵のモンは食える。大樹に前言ったが、塩漬けの保存食にも必須だし、塩は原始人類最大の発明だな」

「お塩は最高の調味料ルン!」

 

 

 ストーンワールドに来てからの初めての食事に、ひかるとララは大喜び。

 フワも小さく切ってもらったお肉やキノコを食べて、ほっぺたが落ちています。

 

 

「フワ、ケーキもあるから食べよう!」

「ケーキフワ!?」

「ん? ケーキを持っているのか?」

「持っていると言うか……、まあ見ててよ!」

 

 

 そう言ってひかるは、トゥインクルブックとおうし座のプリンセススターカラーペンを取り出します。

 そして手帳を開き、星空のページにケーキの形になるように点を結びます。

 すると、手帳が光りだして中からイチゴのショートケーキが飛び出てきたのです! 

 

 

「フワー! ケーキフワ!」

「い、今の見たか千空!? 手帳からケーキが出てきたぞ!」

「こりゃすげえなあ……。さっきひかるがちらっと言っていたのは、これのことか。ペンダントもそうだが、妖精関連の物は全て超技術じゃねえか! 正直、どっちも解体して詳しく調べてみたいんだが……」

「だめに決まってるルン! トゥインクルブックはフワの家で、ペンダントはプリキュアへの変身とペンの捜索に欠かせない物ルン!」

 

 

 目を輝かせた大樹がよだれをちろっと垂らしながら、じぃっとケーキをおいしそうに頬張るフワを見つめています。

 千空はペンダントやトゥインクルブックの構造に興味深々ですが、ララにダメ出しされました。

 

 

「分かってるって……あ"? そういやこの広い地球でどうやってペンを探すか考えてはいたが、そいつはペンの探知機も兼ねてんのか?」

「そうだよ! ペンが近くにあるとこうやって音が鳴って光り出すの!」

 

 

 千空と大樹によく見えるように、ペンダントとプリンセススターカラーペンを取り出すと互いに近づけます。

 すると、ピロピロリンと鳴って白くペンダントが輝き出しました。

 

 

「このペンダントはね、羅針盤みたくこうしてペンの場所を教えてくれるの! 宇宙中にペンが散らばった時も、ペンダントのおかげでペンが落ちている星に辿り着けたんだよ!」

「うおおおお! このストーンワールドでどうやってペンを探し出したらいいか全然思い浮かばなかったんだが、これなら残り全部余裕で探し出せるぞ!!」

「あ"ぁ。だがまあ、全部日本にあるって考えるのは止めた方が良さそうだな。3700年も経てば地形が大きく変わっている。加えて雨風の影響とかで遠くへ流されたかもしれねえからな。

 けどいずれは、全ての人間を石化から復活させるために世界を巡るんだ。災い完全復活までまだ数年猶予があるし、地道に行こうぜ。

 なあ、オヨルン星人?」

 

 

 ひかるが実演している横で、何かを考え込んでいたララは試すように問いかけた千空に「オヨ!? ……もちろんルン」と、またもぎこちなく頷きました。

 

 

「……ララ?」

「それより、ごはんを食べたらさっさと寝るルン! 明日のためにも今日は早く体を休めた方がいいルン!」

「ああ! 食料を確保したり復活液を作ったり、やることはたくさんあるからな!」

「……そうだな」

 

 

 先程から少し様子がおかしいララを心配するひかるですが、隠し事など一切ないと示すかのように、ララはしきりに就寝を進めます。

 大樹は大きく頷いていますが、どこかララが空回っているのに、大樹以外の全員が気づいていました。

 

 食事を済ませ火を消した後、ひかるとララはロケットへ向かいます。

 ひかるやララにとっては寝る時間が早い気がしますが、明かりが火を除いてほとんどないこのストーンワールドだと、夜にやれることが限りなく少なくなってしまうのです。

 

 ところでララのロケットには、1年程前までに5人の少女達がそれぞれ使っていた専用部屋があり、突然の別れで片付ける暇がなかったためにそのままになっています。

 ひかるや他の仲間達の部屋は、ララが定期的に掃除しているので綺麗に保たれているままです。

 それを聞いたひかるは、自分達にいつ会えるか分からないのに掃除してくれていたのがとても嬉しくて、満面の笑みで「ありがとうララ!」と感謝の気持ちを述べました。

 その笑顔を見てララは(また、会える日を夢見て大事にしておいて良かったルン……)と、そっと微笑みました。

 

 就寝の時間となって、真っ先にお休みの挨拶を言ったのはフワ。「お休みフワ~」と眠たそうにフワフワ漂っています。

 ひかるは腕を振りながらお休みと挨拶をし、ララは頭だけを千空と大樹の方に向けながら、やはりどこかぎごちなくお休みルンと言いました。

 大樹もまたブンブンと大きく腕を振りながら大声で、千空は腕を組みながら静かに挨拶を返しました。

 その直後、ララは2人に気づかれないように、そっとひかるとフワに耳打ちしました。

 

 

「ひかる、フワ。千空と大樹が寝静まった後、こっそり外で話したいことがあるルン」

「……? うん、いいよ」

「分かったフワ!」

 

 

 そうしてロケットの中に2人の少女が入って行ってから、しばらく。

 ツリーハウスで「仲間も増えたし明日からまた頑張るぞ!」と寝る前なのに、やる気満々の大樹に千空は声をかけます。

 

 

「大樹。ちょっと付き合え」

「何かするのか?」

「なあに。ちぃっと夜のお散歩するだけだ」

 

 

 そう言って千空は目を細めてどこか懐かしそうに、そしてほんのちょっとだけ寂しそうに夜空を見上げます。

 

 

 今日はちょうど、雲一つない満月の日。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてから、ツリーハウスから人が起きている気配がしなくなったのを確認してから、ひかるとララとフワはロケットから出てきました。

 ララがご丁寧にロケットをキャリーモードにして、愛用の乗り物を小さな白い玉に変えてから。

「こっちに行くルン」とララに導かれるまま、ひかるは夜の森の中を歩いて行きます。フワはあれからパッチリと目が覚めて、ララが何をしようとしているのかずっと気になって、ソワソワしながら2人の後を着いて行きます。

 幸いにも星と月の光のおかげで、スイスイとまではいきませんが、特に支障なく森を歩くことができています。

 

 しかし、その道中にいくらひかるとフワがララを呼びかけても、どこへ向かうのか尋ねても、彼女は無言を貫いたままなので互いに顔を見合わせました。

 返事をちっともしてくれないので、ひかるもフワもまた何も言わなくなってからしばらくして。

 異世界から来た少女達は、一際大きな樹の前で立ち止まりました。

 

 奇しくもそこは昼間にひかるが通り過ぎた、少女の石像を守るかのように大地に根を張る大樹の前でした。

 

 

「ねえララ。今日のララ、途中から元気がないように見えるよ。スターパレスでおうし座のスタープリンセスと話した時から。……ララは何が不安なの?」

 

 

 樹を挟むようにララと向かい合っているひかるは今度こそララに尋ねます。

 

 

「ひかるは、千空と大樹を巻き込んでいいルン? このままプリンセススターカラーペンを探すのに巻き込んだら、ノットレイダーと戦っていた時みたいに、また周りや千空と大樹に被害が及んでしまうかもしれないルン……。

 だから私達は2人から離れて、残りのペンを探すのに専念すべきだと思って、ここまでやって来たルン」

 

 

 ペンダントを両手で包み込むように持ちながら、不安そうに口から漏らすララの言葉の意味が、ひかるには痛い程に分かっていました。

 

 ノットレイダーと戦っていたあの頃は、12本のプリンセススターカラーペンが宇宙中に散らばってしまったため、フワの持つワープの力を使い様々な星を巡ってペンを回収していました。

 たまに、地球にいる間にペンを手に入れたノットレイダーの方からやって来て、彼らからペンを取り戻すこともありました。

 ペンを全て回収した後はフワを執拗に狙ってきたため、地球で戦うことが必然的に多くなっていきました。

 

 その戦いの最中、ノットレイダー達はダークネストから貰った力を使って、人の持つ想像力(イマジネーション)を塗りつぶして【ノットリガー】と呼ばれる怪物に変貌させたり、人や動物から負の感情や思い(歪んだイマジネーション)を抜き取り武器に変えてしまったり、歪んだイマジネーションを増大させて巨大な【ノットレイ】に変えてしまったりと、地球・宇宙関係なく多くの人が巻き込まれてしまいました。

 その中にはひかるやララ、仲間達の家族や友達がいたのです。

 

 それらはプリキュアの力で無事に浄化され、怪物や武器の素体にされてしまった人達はその時の記憶がないまま、元の生活に戻ることができました。

 しかし時には、ノットレイダーの攻撃で周りが破壊されてしまうことも……。

 人や建物がいる付近でノットレイダーと遭遇した際は、周りに被害が及ばないように誘導する時もありましたが、その場で戦わざるを得ない時の方が多かったのです。

 

 

(ララの言ってること、分かるよ。アレは人の『心』じゃなくて『物』が素体になっているみたいだけど、あちこちに石像があるこの世界で災いの眷属と戦うことになったら、戦いの余波で壊されちゃうかもしれない……。それでも……!)

 

 

 目を閉じながらあの戦いの日々とストーンワールドに来てからのこと、夢で見た日常を思い返すひかる。

 そして、現状にめげずに大きな夢を抱き続ける千空と大樹を見ていて抱いた想い。

 

 少しの間、されどしっかり考えて答えを出した少女の開かれた桃色の瞳には、強い決意が宿っていました。

 

 

「私ね、この世界に来る前に夢を見たんだ。千空君や大樹君達が過ごしていた当たり前だった(・・・)日常の夢。その日常があっけなく壊れてしまった、悲しい夢も」

「ひかると大樹が言っていた夢のことルン?」

「うん」

 

 

 頷いてひかるは、大きな樹に守られている少女の石像を見やります。

 

 

「大樹君は夢の中で、杠さんにとても大事な話をしようとしていたんだ。だけどその前に石化の光が現れて大樹君は、杠さんを近くの樹に掴まるように言って光から守ろうとしたの。……でも、大樹君も杠さんも、石になっちゃった」

 

 

 告白の件はぼかしたまま、ひかるは少女の石像に歩み寄ってそっと頭を撫でました。

 

 

「最初来た時は混乱してて通り過ぎちゃったから気づかなかったけど、よく見たらこの人は杠さんだ……。そっか……、ずっとこの樹が守ってくれていたんだね」

「この石像が杠ルン? 近くで見るとよくできた人の石像に見えるけど、どこか生きているようにも見えるルン。不思議で少し怖いルン……。まるで、かつての惑星レインボーの人達みたいルン」

「フワ……。杠も早く大樹に会えたらいいのにフワ」

 

 

 悲し気に眉を下げるララも、石に変えられた杠に近づいて頬にそっと触れます。ひかるの話から(恋愛については全く知らないけど)杠が大樹にとってとても大切な人であると悟ったフワもまた、杠の頭をヨシヨシと小さな手で撫でます。

 そうして思い出すのは、かつてノットレイダーの幹部だった科学者の【アイワーン】のせいで暮らしていた人々がある日突然石に変えられてしまった、仲間の故郷のこと。

 

 

「そう言えばまだ聞いていなかったけど、惑星レインボーはあれからどうなったの?」

「石に変えられてしまった人達はアイワーンの研究のおかげで皆元に戻ったって、こないだ訪れた時にユニから聞いたルン。

 鉱石しかなかったあの星に畑を耕す研究をアイワーンが進めているって、ユニと惑星レインボーの人達は皆喜んでいたルン」

「そうなんだ……。良かった。ユニとアイワーンとレインボーの人達が仲良くなって。いつか、惑星レインボーの人達とお話したいな……」

 

 

 石化から逃れた、たった1人のレインボー星人と悪の科学者の軌跡を思い返しながら、ひかるは心の底から安心しました。

 

 最初は、惑星レインボーの人々を石に変えたことに何の罪悪感も抱かなかったアイワーンでしたが、猫の獣人の少女で惑星レインボーの唯一の生き残り、【ユニ】と衝突する内に彼女の深い悲しみを知り、ユニと元に戻ったレインボー星人にきちんと謝ることができるようになりました。

 元々孤児でたまたまノットレイダーのいる星に流れ着いたアイワーンですが、ユニが言うには、今の彼女はノットレイダーにいる時よりもずっと幸せそうだそうです。

 

 

「……それでね。この世界に来た時、夢のこともあったからここが元いた地球で、私の知らない間に家族や友達が皆石に変えられてしまったんだって思って、とっても怖かったし寂しかった。

 きっとそれは1番最初に目覚めた千空君も、杠さんを想い続けた大樹君も同じ、ううん、それ以上だと思う」

 

 

 話を戻したひかるは、最初にストーンワールドにやって来た時を思い返します。

 大樹に出会うまでの間、それほど長い時間ではなかったとは言え、人が誰もいない森の中を彷徨っている時、心細さと不安と恐怖をずっと感じていました。

 

 あんな思いは、二度としたくない。

 

 

「オヨ? 2人同時に石化から解かれたじゃないルン?」

「うん。千空君はずっと考え続けていたって言うか、3700年もの間ずっと日にちを数えていたから、そのおかげで大樹君より半年早く目覚めることができたって言ってたよ。キラやばだよね!」

「さ、3700年もずっと数えてたルン!? 流石に今の私でもAIを使わないとできないルン!」

「そうだよね。しかも石化している間は、暗闇に意識を持っていかれないように頑張っていたみたいだし……。

 おまけに、石化から解ける時に体にひびが入ってしまうみたいなんだ。2人とも言っていなかったけど、3700年前にはなかったひびが顔に入っていたから。

 ……石化している時どんなに怖かったか、誰もいない文明が滅んだ世界で1人で生きるのがどれだけ寂しくて大変か想像しきれないし、私だったらどっちも耐えられる自信なんて全然ないよ。でも」

 

 

 それでも立ち上がって諦めないでここまで頑張ってきた……ううん、今も頑張っている千空君と大樹君がキラやば! って思ったんだ! 

 それに、石になってしまった人達を私も助けたい! 

 だから、千空君と大樹君のお手伝いができないままここから離れるなんて、できないよ! 

 

 

 そう続けたひかるの瞳は、星と月の明かりを受けてキラキラと輝いていました。

 さながら、何千年経とうと輝き続ける星に手を伸ばそうとする純粋な子供のごとく。

 

 ララはその瞳に見とれます。

 出会った時から変わらずある、自分の中の『心の宇宙』を広げてくれたひかるの(イマジネーション)に。

 

 

「……私もストーンワールドに来たばかりだけど、来てみて初めて分かったルン。『ストーンワールドを救って』って言葉の意味を。それは災いのこともそうだけど、この地球(ストーンワールド)で石にされてしまった人達のことも言っていたと思うルン。

 私だって本当は2人に協力したいし、この世界の人達を放ってはおけないルン。でも、この世界の人達を私達の戦いに巻き込みたくなくて黙って行っちゃったルン。

 ひかる、1人で考え込んで勝手に動いてごめんルン。朝になったら千空と大樹にも謝らないといけないルン……」

「そんなことないよ! ララの言うことも正しいし、やりたいことを改めて決められたし! やっぱり、ララはしっかりしてて頼りになるね。ありがとうララ!」

 

 

 ララが本当の気持ちと少しの後悔を暴露すると、ひかるは改めて自分のやるべき/やりたいことを自覚できたと、出会った時から変わらないララの慎重さに感謝します。

 

 

「ルン……! じゃあそろそろツリーハウスに戻って……オヨ!?」

 

 

 ひかるのおかげで先程から固くなっていた表情をようやく緩めたララは、元の場所へ戻ろうとして樹の根っこに引っかけてしまったのか転んでしまいます。

「ララ、大丈夫!?」とひかるに声をかけられ、うつ伏せから仰向けに体制を変えたララは差し出された手を掴もうとして────

 

 

 ピロピロリンと軽快な機械音が静かな森の中に響き渡りました。

 

 ひかるとララと、空気を読んでひかるが話しだしてからずっと黙り込んでいたフワが音の発信源の方を見てみると、ちょうど水平(・・)になったララのペンダントが光り輝いていました。

 

 

「ララ、これって……!」

「ルン! これは『ふたご座のプリンセススターカラーペン』ルン!」

 

 

 ペンダントに描かれた星座のマークが知らせる2本目のペン。場所を特定するために音と光が強くなる方向を探すと……。

 

 

「えぇぇ!? ペンはここにもあったの!?」

「オヨ! もう2本目ルン!」

「ふたご座発見フワー!」

 

 

 ペンダントが示すのはなんと、杠を守る大きな樹の天辺。よくよく目を凝らすと、樹の枝に混じって少々見えにくいですが、白く輝くペンが木の枝に挟まっているのが見えました。

 

 

「早速回収しに行くルン!」

 

 

 そう言ってララが樹をよじ登ろうとした、正にそのタイミングで。

 

 突然、強い風が吹き荒れました。

 ひかるとララとフワはその強さに、思わず目をつぶってしまいます。

 

 

「見ーつけた! どうもこんばんは、プリキュアのお嬢ちゃん達」

 

 

 風が止んだ後にかけられた声に驚いて、その方向を見ると1人の男がそこに立っていました。

 けれどその風貌は、頭に一対の角がある丸々と太ったオレンジ色の肌の巨漢の、童話に出てくる『ランプの魔人』のようなこの世のものならざぬモノ。

 

 

「オレは【ラブー】。……いきなりで悪いけどさ、消えてくんない?」

 

 

 フランクな態度や言葉とは裏腹に、ひかるとララとフワを鋭く睨み付けるラブーと名乗る魔人。

 

 

「あなた、まさかスタープリンセスが言ってた災いの眷属なの!?」

「あ~スタープリンセス? 『あいつ』が石に変えたって言っていたのに、話が違うじゃないの。まあいいか。また石に変えればいいだけの話だし。

 そうだよ。なんて聞かされているのか知らねえけど、俺は偉大なる『あのお方』の眷属ってわけ」

 

 

 もしやと察したひかるが確かめるように尋ねると、すんなりとラブーは肯定しました。

 

 

「スターパレスを襲ったのもあなたルン!? まさか、この世界の人達を石にしたのも……!」

「いんや。俺は1回もそこに行ったことないね。それにさ、俺()はあのお方が来る前に、この地上から邪魔者をお掃除しとくってのが仕事なわけなのよ。まだ数年の余裕はあるけども、『前』みたいになりたくないからね。

 だから、何の力も持たない地上の者なんかに構ってる暇なんてないのさ。

 おまけに、俺らはまだ復活したばかりで本調子じゃないんだよね。この体(・・・)にも馴染んでないしさ。そのせいで前みたいに『結界』は張れないけども……。

 出てきな! ドンヨクバール!」

 

 

 そう言ってラブーが指をパチンと鳴らすと、突如虚空にひびが入りそこから黒い怪物が顔を覗かせます。

 するとひかる達の後ろにいた、3700年もの間1人の女性を守り続けてきた大きな樹が石像と一緒に、怪物の口の中に吸い込まれてしまいました。

 

 黒い怪物はそれらをパックンチョすると、地上に降り立ちその姿を変えます。

 そうして現れたのは、大きな樹の幹に赤いバッテンの付いた黒い顔が生えた、この世界のモノざる怪物。手の代わりと言わんばかりに長く伸びる枝の1つには、杠の石像が抱えられていました。

 

 

「ドンヨクバール!!」

「ああ! 杠さんと樹が!」

「こいつは【ドンヨクバール】。我らが『ムホー』の力が生み出す魔物さ」

 

 

 ひかるが悲鳴を上げているのにも関わらず、ラブーは自慢げに語り出します。

 

 

「ムホー……?」

「そうさ。ムホーは地上のあらゆる道理を超え、強大なエネルギーを自在に操る力。これはよ、俺達にとっちゃできて当然のものなのよ」

「そんなこと聞いてないルン! 今すぐに「杠を離せ!!」……ルン?」

 

 

 自慢げなラブーの態度にカチンときたララが言い出すよりも先に、杠の解放を命じる大きな声。

 突然響いたその声にこの場にいる全員がその方向に首を向けると、そこにいたのは怒りの灯る瞳でラブーとドンヨクバールを睨む大きな人影。

 

 

「「「大樹/君/ルン/フワ!?」」」

 

 

 なぜツリーハウスで寝ているはずの大樹がここに……? 

 ひかる達が疑問に思っているのを余所に、大樹はもう一度「杠を離せ!! 杠をずっと守ってくれていたそのクスノキもだ!」と、ラブーに言います。

 

 

「やだよ。だってさ、さっさとプリキュア(邪魔者)を消しちゃいたいからね! やれ! ドンヨクバール!」

 

 

 ラブーは大樹の願いを当然のごとく拒否。まずは、目の前のうるさく取るに足らない存在を排除しようと、ドンヨクバールに攻撃を命じます。

「ガッテン!」と答えた怪物は大樹を薙ぎ払おうと、大量の枝を勢いよく振りかぶります。

 枝が急速に自分に迫ってきたので、回避が間に合わないと判断した大樹は、衝撃に備えて両腕をクロスさせて身構えます。

 

 

「危ないフワ! フーワープ!!」

 

 

 その寸前で、フワが駆け寄り彼にタッチしながら呪文を唱えると、2人の姿があっという間に消えてしまいました。

 大樹を薙ぎ払うはずだった枝は見事に空振りし、ドンヨクバールは「ドド!?」といきなり大樹が消えたのに混乱します。

 ラブーはフワのワープを見ても、「あらら。また逃げられたよ。まあ、あいつはどうでもいいけれども」と、特に気にしていないようでした。

 

 

「フワ、ナイスだよ!」

「ん!? いつの間に移動したんだ、俺は!?」

「フワがワープの力を使って大樹を助けてくれたルン! 無事で良かったルン……」

「そうだったのか! フワ、助けてくれてありがとう!」

「フワ!」

 

 

 件の彼は急に移動したので辺りを見渡して軽く混乱しており、ドンヨクバールと少し離れた所にいるひかるとララの近くに移動していました。

 ひかるはフワに親指を立てて、ララは胸を撫で下ろします。フワは少女達の説明で混乱が収まった大樹の礼に得意気に。返事を返しました。

 

 実はフワには、かなり距離が開いている地球と星空界を一瞬で移動できる程の凄まじいワープの力があり、その力のおかげでひかる達は気軽に地球と星空界を行き来できていました。

 さらに、瞬間移動を駆使するあるノットレイダーの幹部と対峙した後は、その動きを参考にして自分や他人を短距離テレポートさせる技も身に付けました。

 その力もダークネストとの戦いの後に失われてしまいましたが、ある程度力が戻った今は再びワープできるようになったのです。

 

 

「でもなんで大樹君がここに……?」

「オヨルン星人があからさまに挙動不審だったんでな。ついてきたんだよ」

「オヨ!? 千空までいるルン!?」

 

 

 疑問に思うひかるの後ろからもう1人の少年の声が聞こえてきて、ララは触角をギザギザにさせながら驚きで飛び跳ねます。

 

 

「大樹テメー、何があっても飛び出さないようにって……と言いてえところだが、流石にこの状況じゃあ、じっとなんてしてられねえわな」

「千空すまん! だが杠が!」

 

 

 杠の石像を抱えたままのドンヨクバールを睨みつけている千空に謝る、両の握り拳を震わせる大樹。

 その拳に、温かみのある手が重ねられます。

 

 

「大樹君、大丈夫だよ!」

「ひかる……」

 

 

 左側には大樹を安心させるように微笑むひかるが。

 

 

「杠は私達が助けるルン!」

「ララ……」

 

 

 右側には大樹を励ますように笑顔を見せるララが。

 

 

「2人とも……すまん! 杠を頼む!!」

「「任せて/ルン!!」」

 

 

 2人の少女に頭を深く下げる大樹。下げられた側は揃って頷くとフワに「もう一度大樹君と千空君を守ってて!」と頼むと、あれから動きを見せない異形のモノの元へ向かって行きました。

 

 

「作戦会議は終わったかい、お嬢ちゃん達?」

「……返してもらうよ! 杠さんと」

「杠をずっと守ってきたクスノキを!」

 

 

 ひかるとララは即座にペンダントを構え、本日2度目の変身をします。

 

 

「スターカラーペンダント! カラーチャージ!!」

 

 

 先程の宇宙空間の時と同じように、『なりたい自分』をペンで描いていきます。

 

 

「スタートゥィンクル☆スタートゥインクルプリキュア☆アアァ~」

宇宙(そら)に輝くきらきら星! キュアスター!!」

「天にあまねくミルキーウェイ! キュアミルキー!!」

 

 

 宇宙を守る伝説の戦士が、今度はストーンワールドの大地に再臨しました。

 

 2人に向けてドンヨクバールは、大樹に向けたのと同じように大量の枝を勢いよく伸ばします。

 

 

「「はぁ!」」

 

 

 2人同時に大きくジャンプして枝を躱すと、スターは星形の足場を作りそこから勢いをつけてドンヨクバールに突撃。

 ミルキーもまた、迫りくる無数の枝を躱しつつも枝にうまく飛び移りながら、杠の元へと向かいます。

 

 

「やあ!」

「ルン!」

 

 

 星のバリアで枝を弾き、それでも弾ききれなかった分はミルキーの放つ電撃とバリアで対処してもらい、スターはノーダメージで杠が抱えられている枝の元へ辿り着きました。

 

 

「杠さん、今助けるからね!」

 

 

 石にされていて意識はないかもしれないけど、それでも気持ちが届くようにと杠に声をかけて、スターはペンを構えます。

 

 

「プリキュア! おうし座・スターパン……」

 

 

 速攻で決着を付けるために大技を出そうとした、その瞬間。

 

 

「ドンヨクバール……!」

 

 

 ドンヨクバールが杠の石像を構えたのです。自身を守る盾のごとく。

 杠を人質にするかのような行動に、スターは一瞬動きを止めてしまいます。

 1年近く戦ってきた伝説の戦士でも、少女の石像を人質にされては攻撃を止めざるを終えませんでした。

 なぜなら、自分が放つスターパンチで石像が砕けてしまう可能性があったからです。

 

 ────しかしそんな戸惑いは敵には関係なく、戦いの場で一瞬だけとは言えスターは、致命的な隙を見せてしまったのです。

 

 

「スター、危ないルン!!」

「……は! きゃああああ!」

 

 

 ミルキーの忠告が聞こえるも間に合わず星のバリアを張る暇もなく、横から大きく振りかぶってきた枝に直撃してしまい、星々が輝く空中へ吹っ飛ばされてしまうスター。

 

 

「スター……!! わああああ!」

 

 

 重たい攻撃をまともに喰らってしまったスターを心配そうに見上げるミルキー。彼女もまた、仲間を心配した隙を突かれて放たれた枝の攻撃で、大きく吹き飛ばされて地面に激しく衝突してしまいます。

 

 

「スター!!」

「ミルキー!!」

「フワー!!」

 

 

 その惨状に観戦することしかできない千空と大樹とフワは、思わず大きく声を上げてしまいます。

 そして3人の見ている前で、スターとミルキーは体勢を立て直す暇もなく、大きな枝に巻きつかれてしまったのです。

 

 

「く、苦しい……」

「オ、オヨ……」

「あらら……。そっちのプリキュアの力はこんなもんかい? ほんの小手調べのつもりだったのにさ、ちょっと石ころを盾にしただけでこの様だねえ……」

 

 

 枝に締め付けられて苦しむスターとミルキーを嘲笑うラブー。

 

 

「い、石ころって……!」

「杠さんは石ころじゃない! 大樹君にとってとても大切な人なんだよ!」

「人、ねえ……。そういや、石に変えたとか何とかお嬢ちゃん達話してたねえ……。俺には関係ないけどさ! トドメをさしてやりな! ドンヨクバール!!」

 

 

 杠に対するあんまりな物言いに憤慨するスターとミルキーですが、それでも平然と構えているラブーはドンヨクバールに命令を下します。

「ガッテン!」と頷いたドンヨクバールは、枝の締め付けをさらに強めます。

「うぐぐ……」とさらに苦しみだすスターとミルキー。

 

 

「スター、ミルキー! 今助けに行くぞ!! うおおおおおおお!!」

「あの雑頭! 何の策もなく向かって行っても攻撃くらうだけじゃねえか!」

 

 

 千空が止める間もなくドンヨクバールに突進していく大樹。

 その一直線で単純な動きに対し、羽虫を払うかのように枝の一振りだけで大樹をはじき飛ばすドンヨクバール。

 今度はフワが駆けつけるのにも間に合わず、近くの木に背中を強く打ちつけてしまいます。

 

 

「フヘヘヘ……。プリキュアならともかく、何の力もない人間如きが俺達に勝てる訳ないじゃない」

「グ……」

「大樹!!」

「大丈夫フワ!?」

「千空、フワ……。これぐらいどうってことない!! まだまだ平気だ!! それより、杠とスターとミルキーを放せ!!」

 

 

 心配して千空とフワが駆け寄りますが、痛みがあるもののまだまだ余裕を感じる大樹は、2人を安心させるように微笑みかけると、再度ドンヨクバールに3人を解放するように言います。

 

 

「プリキュアもそうだけどさあ、人間はこんな物(・・・・)のために頑張るものなのかね? 面倒くさいねえ」

「こんな物なんかじゃない!!!」

「「大樹/君……」」

「……」

「フワ……」

 

 

 ドンヨクバールが未だに抱え続けている杠の石像を呆れた目で見るラブーに、強い怒りを見せる大樹。

 縛られたままのスターとミルキーも、千空もフワも彼を心配そうに見つめています。

 

 

「石にされていた3700年の間、ずっと杠に想いを伝えることだけを考え続けていた」

 

 

 突然、身の上話を始めた大樹を怪訝そうに見つめるラブー。その視線にも関わらず大樹は話し続けます。

 

 

「何十年、何百年、何千年……。気が遠くなりそうだった。いつになったら石化が解けるのか、もしや永遠にそのままなのではないか。そう考えた時もあった」

 

 

 石になっている間、見えていたのは辺り一面の闇だけ。何もないあの空間で正しく、大樹は『一人(独り)』でした。

 

 

「あの絶望的な暗闇の中で一人生きていられたのは、杠のおかげなんだ。

 あの時、クスノキに掴まった杠が大丈夫だって信じていたから耐えられた。──────杠にずっと守られてきたんだ、俺は」

 

 

 中学の時、千空が作ったロケットに乗せるための編みぐるみを作って欲しいと手芸部に頼みに行った時、快く承諾してくれた彼女。

 そのまま、ロケットの打ち上げにも立ち会ってくれた少女。

 打ち上げられたロケットから出てきた編みぐるみが宇宙にいる映像を見て、少し照れながらも嬉しそうにしていた女の子。

 その縁で、千空の実験を自分と一緒に手伝うようになったウルトラ器用なあの子。

 手芸部を覗いた時にたまたま見かけた、手際よく服を何着も作っていた根気のある女性。

 告白しに向かう時にちらっと見えた、折れかけたクスノキの枝にリボンを結んでいた女子生徒。

 

 

『ここにもう1人、その考えなしの恥ずかしい子がいます。ワオ!』

 

 

 そして、石化事件が起きる数日前。

 石にされてしまったツバメを遅刻覚悟で連れて行ったものの、まだ開いていなかった動物病院の前でばったり会った、自分と同じくツバメの石像を運んできた、とても優しい子。

 

 どれだけ時が経っても想いを伝えようと決めた、大好きな人。

 

 

「だから今度は、俺が守りたい! 杠と、杠を流されて壊れないように守ってくれたクスノキを!! そして、杠とクスノキを助けようとしてくれた、スター(ひかる)ミルキー(ララ)も!!!」

 

 

 ドンヨクバールにされてしまったクスノキと、囚われたままの杠の石像に想いの丈をぶつける大樹。

 長い時を経ても消えることのない強い想いを感じ取ったフワは、そっと彼のそばに寄りました。

 

 

「……面倒だね。プリキュアより先にこいつを始末しちゃえ!!」

「ガッテン!!」

「「「大樹/君!!!」」」」

 

 

 その尊い想いに心からうんざりしたラブーは、今捕まえているプリキュアよりも先に大樹を倒すようにドンヨクバールに命じます。

 命じられたドンヨクバールはもう一度枝を大きく振りかぶり──────

 

 

 

「俺はこの世で一番大好きなあの子を……、杠を、守る!!」

 

 

 

 自分に迫る枝を真っ直ぐに見据えながら宣言した大樹。その強い意志を感じたフワは、両耳に付いたリングを光り輝かせます。

 

 

「フーワァァァ!!」

 

 

 やがてその光は大樹を包み込むように広がり、それにひるんだドンヨクバールは枝の攻撃を中断してしまいます。

 

 

「こ、この光は……!?」

「も、もしかして……!」

「ルン! 私達の時と一緒ルン!」

「いったい何が起きているんだ!?」

 

 

 ラブーが戸惑っている一方で、スターとミルキーはよくよく身に覚えのある現象に驚きを隠せません。

 千空にも、何が起きているのかさっぱり分かりません。

 

 一方で、光に包まれた大樹の目の前に突然トゥインクルブックが現れました。

 その開かれたページから、『青いペンダント』と『先端にカラフルな6つの星がついた透明な羽の形をした緑色のペン』が出てきました。

 大樹はそれを見て一瞬驚きましたが、この力があれば皆もクスノキも、そして杠も守れる。

 そう確信した大樹は、力強くペンを握りしめます。

 

 すると、スターカラーペンが輝きを放ちました。そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 ペンダントの蓋が開き、スターやミルキーの時と同じようにどこからかホップなBGMが流れてくると、大樹の周りが緑色が多めのカラフルな異空間へと変わります。

 同時に大樹の着ていた服が動物の毛皮でできた服ではなく、鮮やかな緑のシャツとズボンに変わりました。

 そして掲げたペンを数回振ると、その羽飾りが白い輝きを放ちます。

 

 

「スターカラーペンダント! カラーチャージ!!」

 

 

 ペンをペンダントに挿入したのとほぼ同時に大樹のおでこから左目までに伸びていたひびが消え失せ、ペンダントの中央部分が緑色に発光します。

 そのままペンダントからペンを離して、自分を囲うように木の葉のマークを描きます。

 すると、大柄な彼を覆い隠すように大量の若葉が吹き乱れました。

 ペンをペンダントにタッチすると、ペンダントが純粋な白に輝きを変えます。

 

 

「きらめく~ほしの力で~あごかれの~わたし描くよ~」

 

 

 力強く舞いながらペンで空間に白い線を描くと、その線が大樹の両手と両足に蔦が生えるかのごとく纏わりつき、葉っぱの飾りが付いたグローブと短めのエメラルド色のブーツに変化します。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 今度はその場でグルッと一回転すると、ペンから出た白い線が木の葉のように変わり、上半身に張り付くように覆うと半袖の緑のシャツに変わりました。

 同時に、大樹の腰の辺りに紫のペンケースが装着されます。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 周辺に舞い散る葉が大樹のズボンを覆うと、黄緑色のズボンに変化。

 ペンの先から星を出して、自身の腰よりちょっと上の辺りをグルリと一周分なぞると、星飾りの付いた茶色のベルトが現れました。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 その次に、ブーツとシャツの真ん中にそれぞれペンをタッチすると、蕾が湧いて出て白い花が次々に開かれていきます。

 その後、両耳にペンを当てて葉っぱのイヤリングを付けてそれから、宙で森の木こりを思わせるような帽子を描くとそれが本物になり、頭に被ります。

 すると、帽子に流れ星の飾りが付くと同時に、彼の髪の色が新緑に変わります。髪の量も変身前より少し増えています。

 それと同時に、両目に緑色のハイライトが付きました。

 その次にペンダントにペンを当てると、真ん中部分が青、白、青、緑と次々に変わり、ペンダントが青いブローチに変化します。

 

 

「スタートゥィンクル☆スタートゥインクルプリキュア☆アアァ~」

 

 

 背後で大量の流れ星が天に昇る中、仕上げと言わんばかりに宙に今度は大きな四角を描くと、それが色とりどりの星とロケットが描かれたマントに変わり、肩に装着されます。

 そして、星の舞台にドンッと思いっきり着地すると、ペンケースの中に変身スターカラーペンがしまわれていきました。

 

 

「星空を守る大いなる樹! キュアウッド!!」

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 大地に力強くそびえ立つ樹のように、ドッシリ構える大樹のプリキュア。

 

 この瞬間、石の世界初のプリキュアが誕生したのです。

 

 

 

 

「な!? プリキュアが増えただと!?」

「キラやば~☆キュアウッド……!!」

「ストーンワールドのプリキュア……!」

「大樹がプリキュアに……!ククク、今日は本当に予想外の連続だな!」

 

 

 突然現れた新たなプリキュアに、三者三葉の反応を見せるスター達。

 当のキュアウッドとなった大樹は

 

 

「うおおおおお!? なんだこれは!? 変身しているし、なんか勝手に歌っていたぞ!?」

 

 

 と、大きく変わった自分の格好と歌いながらの変身に、自分の体をペタペタ触りながら戸惑っていました。

 

 

「……まあいい。こいつも倒してしまえばいいだけだから。やれ! ドンヨクバール!!」

 

 

 突然の出来事に固まっていたラブーは復帰すると、ドンヨクバールにウッドを攻撃するように命じます。

「ドンヨクバール!!」と勢いよく鳴き声を上げながら放たれた枝の攻撃にウッドは咄嗟に、思い切りジャンプして躱します。

 

 

「うお!? 千空、空を飛んでるぞー!!」

 

 

 変身する前より遥かに高い所までジャンプできたのに驚きますが、それだけでなくなんと、背中のマントによって夜空を自由自在に飛べるようになっていたのです。

 これは変身した時に、なんとなく頭のどこかで分かっていたことですが、それでも驚きます。

 

 

「あ"ぁ。バッチリ見えてるわ。……ガチモンのスーパーマンじゃねえか、大樹」

 

 

 千空は、満月を背にして飛び回る大樹(ウッド)に嬉しそうに目を細めます。

 そして、ドンヨクバールの天辺に目を向けてから「フワ、テメーに頼みたいことがあるんだが……」と、そばにいる白い妖精に話しかけました。

 

 千空とフワの会話を知らないウッドはそこから急降下して、まず最初にとスターとミルキーを救出しに向かいます。

 ウッドも捕えようとたくさんの枝が伸ばされてきますが、

 

 

「プリキュア! ウッドシールド!!」

 

 

 木の枝が大きく伸びるように両腕を広げると、ウッドの体全体を覆うように木の葉のマークが描かれたバリアが張られて枝が全て弾き返されます。

 バリアに戸惑ったドンヨクバールの一瞬の隙をつくように、スターとミルキーに接近すると縛られていた枝を通常よりさらに倍増された腕力で剥がします。

 

 

「ウッド、助けてくれてありがとう!」

「ありがとルン! これであとは……」

「ああ! 杠だけだ!」

 

 

 3人のプリキュアが見つめる先には囚われの石像が。3つの視線に気づいたドンヨクバールは、先程と同じように盾にするように石像を構えます。その瞬間。

 

 

「よっし! 2本目のペン、ゲットしたぜ!!」

 

 

 突然自分の頭(正確には1番上の枝)から聞こえてくる1つの声。その声に驚いたドンヨクバールは声がした先を見ながら、枝を伸ばそうとして────。

 

 

「今だ! キュアウッド!」

「……ああ! 今行くぞ、杠!!」

 

 

 親友の意図を察したウッドはマントを翻しながら、杠の元へと一直線に飛んで行きます。

 それを黙って見過ごすドンヨクバールではなく、今までで1番多くの枝を振りかぶろうとしますが。

 

 

「ふん! ウッドの邪魔はさせないよ!!」

「ルン! 何度も同じ手は食らわないルン!!」

 

 

 スターの星のバリアとミルキーのハートのバリアに阻まれてしまいます。その間にウッドは目的の場所へと辿り着き

 

 

「杠……! 良かった、どこも壊れてない!!」

 

 

 囚われのヒロインを助け出して、少し涙ぐみながらもお姫様のように抱えながら地上に降り立ちました。

 

 

「大樹……いや、ウッド。杠救出大作戦、大成功だな!」

「ああ! 千空が気をひいてくれたおかげでな。助かった! ……ところで、どうやって千空はあそこに?」

「ククク……。さっきテメーが体験したばっかじゃねえか。こいつの力だよ」

 

 

 握り拳を向ける千空に杠を降ろしたウッドも握り拳を向けて、互いの拳を軽くぶつけ合います。

 杠救出のきっかけを作ってくれた彼にお礼を言うと、ドンヨクバールの頭にいた理由を尋ねます。

 すると千空は、そばにいた妖精を撫でながらそちらに目を向けます。

 撫でられているフワはちょっと気持ちよさそうに「フワ」と、返事をしました。さっきより幾分か元気がなくなっているように見えますが、どこか誇らしげにしています。

 

 ちなみに、ドンヨクバールがウッド達に気を取られている間に、千空とフワはもう一度ワープして元の位置に戻りました。

 

 

「ところでドンヨクバール。テメーの元となったその樹の天辺にはある物があったんだよ。……テメーの主が血眼になって探している、ペンだ」

 

 

 千空は今度はドンヨクバールに多少オーバーな物言いをしながら、上の方を指差します。ちょうどフワを背中に隠すように立ちながら。

 指差した先はちょうどついさっきまで彼がいた場所で────。

 

 

「俺が探している物? ……まさか!?」

「そのまさかだ! 受け取れ、ミルキー!!」

 

 

 そう言って千空は、細長い何かを思いっきりミルキーに向けて投げます。投げられたそれに壊すように命じられたドンヨクバールが枝を向けます。

 そのままそれと枝が衝突して、バラバラになったのを枝先で感じます。

 

 

「やっぱり人間は愚かだね。わざわざ俺らが消し去りたい物をよこしてくれるなんて」

「千空! 受け取ったルン!」

「……は?」

 

 

 何かがバラバラになったのを見ていたラブーは愚者(千空)を嘲笑っていましたが、下の方から聞こえてきた少女の声に疑問符を浮かべます。

 声の方を見やると、そこには双子の絵が描かれた孔雀色のペンを持つミルキー。そしてそのそばにはフワも。

 

 

「面倒くせえな……! これでもくらえ!!」

 

 

 何が起きたのか察したラブーは指をパッチンして、周りにいくつかの紫の火球を生み出すと、ミルキーとフワに飛ばします。

 

 

「今度は決める! プリキュア! おうし座・スターパンチ!!

 

 

 しかし、スターがピンク色の大きな星を火球にぶつけると全て打ち消されてしまいました。さらに星がそのままドンヨクバールにぶつかると、「ドドド!?」と悲鳴をあげながら転んでしまいました。

 

 

「ミルキー、今だよ!」

「スター……! ルン!」

 

 

 スターが作ってくれたチャンスを逃さないために、ミルキーはふたご座のプリンセススターカラーペンをペンダントに差し込みます。

 すぐに取り出してペンで星を一筆書きで描くと、そこからふたご座のマークが現れペンダントに吸い込まれると孔雀色に輝きます。

 ペンダントから孔雀色のハートが飛び出すと、ミルキーの頭に付いている星飾りに吸い込まれます。

 そこから染み渡るように星のオブジェの色が両方とも孔雀色に変わると、女性の姿をした電撃が飛び出してきました。

 

 

「プリキュア! ふたご座・ミルキーショック!!」

 

 

 強化された電撃を存分に浴びたドンヨクバールは「ドンヨクバール……」と力なく呟いた後、元の姿であるクスノキへと浄化されていきました。

 

 

 

 

 

 その光景を見ても、ラブーはまだまだ余裕そうにしていました。

 

「こっちのプリキュアもやるじゃない。今日はもうやめとくよ。疲れたし、まだ力が完全に戻ってないからね」

「何度来たってラブーの思い通りになんかさせんぞ!」

「何度も来ないよ。『次』で終わりにしてあげるからね」

 

 

 勇ましく吠えるウッドに対して、ラブーは指を鳴らすと空気に溶けるようにその姿を消してしまいました。

 

 

「消えた……」

「次で終わりにするって言ってたけど……」

「俺『ら』って言っていたし、これからってところだな。それに、奴らの狙いが『ペンの破壊』だって分かったのは大きな収穫だった。じゃなきゃ俺が投げた()に攻撃を差し向けないし、第一思い切り『破壊しろ』って言ってたしな。……ペラッペラ喋りすぎだろ、あのランプの魔人」

 

 

 ラブーが去った後、変身を解いたひかる達。千空は早々にラブーのいた所から目を離すと、今回の戦いで手に入れた情報を確かめるように話します。

 同時に、敵に情報を漏らしたラブーの迂闊さに呆れてもいましたが。

 

 

「にしても、千空すごいルン! 私の目の前にペンを持ったフワがいきなり現れた時はとても驚いたけど、囮を投げてドンヨクバールとラブーの注意を引きつけてくれたおかげで、ドンヨクバールを浄化できたルン。ありがとルン!」

「いんや。ただ、俺にできることをしただけだ」

 

 

 実は千空は、ウッドがドンヨクバールの注意を引きつけている間にフワに今回の作戦を話していました。

 

 まず、フワープで樹の天辺に移動して、ふたご座のプリンセススターカラーペンを手に入れる。ラブーが樹にあったペンの存在に気づくことなく、怪物に変えていたので元あった場所にあるままだと睨んでいましたが、ものの見事に当たっていました。

 

 次に、ペンを手にした後にわざと大声をあげてドンヨクバールの注意を引き、ウッド達が杠を救出できるように誘導する。

 

 最後にもう一度フワープで地上に降りた後に、フワを隠しながらこっそりペンを渡してフワープで今度は、フワとペンだけをミルキーの元へと向かわせる。

 

 その結果、見事に敵は千空の策にはまってくれました。

 

 

「千空は昔からそういうのがうまかったからな! 俺に指示を出す時は雑頭でも分かりやすく教えてくれるんだ」

「なるほど~。ところで大樹君。杠さんはどうするの?」

 

 

 誇らしげに幼馴染を褒める大樹に関心を示したひかるは、ちらっと大樹のそばに置かれている杠の石像を見やります。

 

 

「うむむ……。そうだな、浄化された時にクスノキから離れてしまった訳だし……」

「だったら置けばいいだろ。ツリーハウスに」

 

 

 杠をどうするか悩む大樹に、千空は言いました。

 

 

「その方が復活液ができた時に即、杠にかけられて100%合理的じゃねえか」

「千空……。そうだな! その方がいいな! またドンヨクバールに捕まってしまうかもしれないしな!」

「私もそれが合理的だと思うルン!」

「うんうん! 復活液ができたらすぐに杠さんが復活できる!! ……杠さん、絶対喜ぶよ!!」

「フワも賛成フワ!」

 

 

 千空の提案に皆賛成します。特に大樹は、心から嬉しそうにしていました。

 

 

「じゃあ、ツリーハウスに杠を置いてきたらスターパレスに……」

「その前に、いいだろうか?」

 

 

 早速、ツリーハウスに戻ろうとするララに待ったをかける大樹。

 大樹は浄化され元に戻ったクスノキを見て、3700年ぶりに杠と再会した時のことを思い出します。

 

 洞窟から川に沿って歩き続け見つけた、大きく成長したクスノキ。そして、リボンの恩返しをしているかのように守っていた、最も会いたかった少女に再び会えた時のことを。

 

 

(あの時は『大好きでした(・・・)』と告白した訳だが、千空達がいる今は違う。人がいないこの状況で言うのはずるしているみたいだから、直接言えるのは当分先になってしまう。それでも待っててほしい、杠)

 

 

 杠、()も大好きだ。何百年も、何千年も……! 

 

 

 

 心の中で告白すると、今度はクスノキを見上げて深く頭を下げます。

 

 

「クスノキ! 3700年もの間、杠を守ってくれて、ありがとうございました!!」

 

 

 その様子を見ていた4人は、大樹のそばに並び立ちクスノキに向けて頭を下げました。

 

 

「クスノキさん、杠さんを守ってくれてありがとうございます!」

「3700年がどれ程長いのか実感湧かないけれども、クスノキもずっと頑張っていたのは分かるルン。ありがとルン!」

「クスノキさん、ありがとうフワ!」

「大樹。テメーがあの時、杠にクスノキに掴まるように言ってなければ、洪水で流されて壊れていたかもしれねえ。だから、テメーも立派に杠を守ってるんだよ。それに、すぐそばにクスノキがいなきゃ、杠が掴まれる所がなかったしな。

 感謝するわ、クスノキ。これからは俺らで杠を守るから、テメーはそこで大人しく突っ立ておけ。もう怪物にされるなよ?」

「……千空! うおおおおお!! そう言ってくれるだけで俺は、俺は……!」

「デカブツ、テメーのその腕力で抱きしめるんじゃねえ! 骨が折れるわ!」

 

 

 ひかるとララとフワが素直に礼を言っている横で、千空は少し素直じゃないお礼と共に大樹に『事実』を伝えます。

 それを聞いた大樹は千空に抱きつこうとしますが、そのチート級のパワーをよく知っている千空は激しく抵抗します。

 幼馴染同士の慣れ親しんだその様子を見ていた、異世界の来訪者達はちょっとだけポカンとすると、やがてフフフと互いに小さく噴き出しました。

 

 満天の星空の下で、クスノキもまた笑っているかのように風がそよぎ、枝や葉っぱが優しく揺れました。

 

 

 

 

 

 ツリーハウスに戻って杠をそっと置いた後、ララがトゥインクルブックに新たに手に入れたペンでふたご座を描くと、光が溢れ出しフワの姿が変わります。

 両耳が小さなフワのぬいぐるみのように変化したので、今のフワの見た目は双子どころか三つ子のようになっています。

 

 

「ふたご座フワ! フーワー!!」

 

 

 そして夕方と同じく、瞬く間にスターパレスへと転移しました。

 

 

「星の輝き、戻るフーワー!!」

 

 

 そう言ってフワは、孔雀色の星を生み出すと見た目が瓜二つの2人の女性の石像へと打ち出しました。

 星は当たる寸前に2つに分かれると、それぞれの石像の中心に当たります。

 すると、石像が同時に砕けて中から小さなハープを2人で抱え持つ、孔雀色の髪と瞳の女性が現れました。

 全く姿が同じと言う訳ではなく、髪型や付けているさくらんぼの髪飾りの色が異なりますが、星座の名に相応しく正に双子でした。

 

 

「【ふたご座のスタープリンセス】が元に戻ったルン!」

「キラやば~☆」

「おお! 本当に双子だ!」

「しかもご丁寧に、俺らの世界の星座と同じくハープまで持ってやがる。12星座は地球だけ(・・)の基準のはずなんだが……」

「「プリキュア、私達を助けてくれたことに感謝します」」

 

 

 ひかるとララが喜び、大樹が星座のまんま(正確には、ストーンワールドでのふたご座の元になった人物達は男性ですが)なスタープリンセスに目を輝かせ、千空がある疑問を抱いているとふたご座のスタープリンセスは同時にお礼を言いました。

 

 

「まさか、ストーンワールドで新たなプリキュアが誕生するとは……」

「キュアウッド。そしてもう1人の異世界の少年よ。こちらの事情に巻き込むような形で申し訳ないのですが、どうかスターやミルキー、フワの力になってあげて下さい」

「「世界を超えて助け合うその想像力は、必ずあなた方の力になります」」

 

 

 濃い赤色のさくらんぼの髪飾りを付けた女性が意外そうに大樹を見つめる一方で、薄いピンク色のさくらんぼの髪飾りを付けた女性が大樹と千空にお願いをします。

 それに対して2人の少年は

 

 

「もちろんだ! 俺達の世界は俺達で守りたいし、俺自身もスター達の力になるぞ! 守ることなら任せてくれ!」

「俺はプリキュアじゃねえが……、その代わりに科学の力で思う存分手助けしまくるわ。だから、ここでただ突っ立ってこの宇宙(ひかるとララの世界)を守ってくれればそれで充分だ」

 

 

 と、どこか頼もしそうに返しました。

 ふたご座のスタープリンセスは2人揃って少年達に微笑みながら、「「ありがとう」」と言いました。

 

 残りのスタープリンセスは、あと10人。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば千空君、さっき私達の後をついて来たと言っていたけどもしかして、クスノキの前の私達の会話聞いてた?」

「あ"ぁ。バッチリ聞いてたぜ。テメーらが本気で、こっちの世界に関わろうとしているってな」

「ああ! ララが俺達から離れると聞いた時は思わず飛び出しそうになったぞ!」

 

 

 ストーンワールドに戻ってきた後、尋ねてきたひかるの質問に千空と大樹は正直に答えます。

 

 ひかる達がロケットから出て行った後、眠ったふりをしていた千空達は彼女達をこっそり尾行していたのです。

 ララがさよなら発言をした時、尾行前に話した千空が大樹に言った「何があっても絶対に飛び出すんじゃねえぞ」という忠告を守るために、動いたり大声を出すのを我慢していたのと、道中で大樹が枝などを踏んで音を鳴らさないように千空がフォローしていたことは、それぞれの心の中にそっと閉まっておきました。

 

 

「……千空、大樹。その、ごめ……」

「正直、俺はひかるやララを疑っていた」

 

 

 ララが謝ろうとするのを遮るように話す千空。疑っていたと言う言葉に顔を強張らせるひかるとララに、「1mmだけな」と指を1本立てた後続けます。

 

 

「マンパワーが欲しいのも、パラレルワールドからの来訪者に宇宙人に妖精、宇宙の中心にプリキュアと唆りまくっていたのも全部本当だ。だが、同時にこうも思った。

 いくら災いとやらが俺らの世界で復活したとしても、俺らの人類皆復活させましょ作戦にまで関わる必要なんざねえ。それこそ、ララの言う通りにプリンセススターカラーペンを全部集めて、災いとその眷属達を倒すだけで事足りるってな。

 ……地球も宇宙も滅ぼす災いさえ倒せば、ひかるもララもフワも、元の世界に帰れるだろ」

「千空君……」

 

 

 月を見上げながらそう話す千空がほんの数秒だけ、心配そうに3人を見たのにこの場にいる全員が気づきました。

 

 

「が、ひかるとララのあの熱烈な告白を聞いたらな。心変わりしたわ」

 

 

 どこかとぼけたように言っていたルビーの瞳の少年は、一転して真剣な表情に変わるとひかるとララとフワを真っ直ぐに見つめ、「頼みがある」と切り出しました。

 

 

「さっきも言ったが、このストーンワールドで文明を復活させるためには、マンパワーが圧倒的に足りねえ。人類全員もれなく助け出して文明を200万年駆け上がって、宇宙に行く。その夢を叶えるために、少しでもマンパワーが欲しい。ペンを全て集めて、ある程度文明が戻るまでで充分だ。

 ────俺らに、手を貸しちゃくれねえか?」

「俺からも頼む!」

 

 

 3人を真っ直ぐに見つめながらもどこか不安気に瞳を揺らす千空に続き、大樹も地面にぶつかってしまうぐらいに深く頭を下げて頼み込みます。

 そんな少年達の様子を見て、少女達は互いに目を合わせて頷いて彼らに笑いかけます。

 

 

「そんな水臭いこと言わないでよ! 話聞いてたなら分かってるじゃん! 私達、最後まで千空君達を手伝う! ペンを集めて石になってしまった人達を助けて、この世界を守る!」

「ルン! 私達の世界の時間経過は気にしなくていいと言われたし、災いを追い払って文明が完全に元通りに……1から発展させるのに最後まで付き合うルン!」

「フワ! フワもい~っぱいお手伝いするフワ!」

 

 

 返ってきたひかる達の答えを聞いた千空はそっと息をつくと、ニヤリと笑って言いました。

 

 

「ククク……。これで労働力3人分ゲットしたぜ。テメーら、明日からバリバリ働いてもらうからなあ」

「もちろん! じゃんじゃん働くから任せて!」

「フワ!」

 

 

 返事は2つ。そしてもう1つは

 

 

「ルン! いっぱい手伝うから任せるルン!」

 

 

 先程とは逆にはっきりと元気ありまくりで返ってきました。

 

 

「ああ! こちらこそ、これからよろしく頼む!!」

「うん! よろしく!」

「よろしくルン!」

「よろしくフワ!」

 

 

 パラレルワールドからの来訪者を心から歓迎する大樹にも、ひかる達は返事を返します。

 

 こうして、新たにひかるとララとフワが加わって再び復活液のレシピを探る日々が始まりました。

 しかし、人数が増えてもそう簡単に人類の希望(復活液)は完成できません。

 それでも、5人で過ごすストーンワールドの日々は大変だけど、とても楽しいものでした。

 

 

 

 

 

 例えば、プリキュアの能力のおかげで狩猟が簡単になったり。

 

 

「ミルキー、そっちに猪行ったよ!」

「分かったルン! プリキュア・ミルキーショック!」

 

 

 ミルキーの電撃でバタリと倒れ込む猪。

 

「千空から『プリキュアの力を使えば、大型の獲物取り放題じゃねえか!』と提案されてやってみたものの、罪悪感が出るルン……」

「ララ……。それが自然界ってことなんだよ、きっと。だからせめて……お肉も皮も感謝の気持ちを込めて、大切に使おう」

「……ルン。猪、ごめんルン。そしてありがとルン」

 

 

 ひかるとララが原始の世界で生きるとはどういう事かを学んだり。

 

 

 

 

 例えば、夜に星空界について聞きたがる千空と大樹にひかるが話したり。

 

 

「骨の雨が降る星、ケンネル星……。唆るじゃねえか!」

「でしょでしょ! 星そのものも骨の形をしていて、住民は皆モジャモジャなんだよ!」

「ほーん……。骨は主にカルシウムやマグネシウムなどのミネラルで構成されているが、雲つーか大気がミネラルでできているのか……? なあ、ケンネル星人の特徴は他に何がある?」

「えっと、数える時には『ワン』としか言わなくて、フサフサでいるのが1番大事で、挨拶はこう!」

 

 

 左右に向かってワンワンと吠えた後逆立ちするという、ケンネル星式の挨拶を再現するひかる。

 

 

「おおお! ケンネル星の挨拶は随分独特なんだな! こうか!?」

 

 

 それを真似する大樹。

 

 

「そうそうそんな感じ! ……現地でやってみた時は、ダメ出しされてたけどね」

「星が違えば文化も異なる、か……。そこは地球の国とそう変わんねえな。他にはどんな星があるんだ?」

「他に、は岩も木も地面も宝石でできた惑星クマリンとか……」

「宝石でできた星! 唆るじゃねえか!」

 

 

 目を輝かせる千空に、同じく嬉しそうにこれまで巡ってきた星々について語り出すひかる。そして

 

 

「ひかる! ロケットに戻っていないと思ったら、ツリーハウスにいてしかも夜通し話続けていたルン!?」

「いやあ、千空君と星空界について語り合っていたらつい……」

「千空もマンパワー足りないとか言っていたくせに、寝不足でなくしてたら意味ないルン!!」

「いやあ、宇宙大好き少年として話を夢中になって聞いていたらつい……。言っとくが最初から夜更かしする気は」

「何か言ったルン?」

 

 

 言い訳しようとする千空を鋭く睨むララ。加えて、ピンク色に変色してバチバチと電気を放つ触角。千空はそれを見て黙り込みます。

 

 

「とにかく! 少しだけならともかく、一睡もしないで語り合うのは禁止ルン! ちゃんと早く寝るルン!」

「「はい、すみません……」」

 

 

 例えば、ひかると千空が夢中になりすぎて朝まで一睡もせずに語り合ったので、ララがそれに怒って、以降それで夜更かしするのを禁止したり。

 ちなみに、大樹は途中で脱落してしまい、ひかると千空が話し続けている間もいびきをかきながら眠っていました。

 フワもまた、トゥインクルブックの中でぐっすり眠っていました。

 

 

 

 例えば、ララの触角を利用して小魚を捕まえたり。

 

 

「ルン! ……やった! お魚獲れたルン!」

「ララの触角から流れる電流って、マッサージや工具として使えるだけじゃなくて、そうやって魚を気絶させたりできるんだよね。応用性があるよね!」

「ルン。電流の強さはこっちで調節できるから簡単ルン。……最近、自分で生き物を狩るのに慣れてきてる感じがするルン。生きるために必要とは言え、複雑ルン……」

「痛ぁ!」

「ひかる!?」

 

 

 魚獲りの最中にひかるがサワガニに指を挟まれてしまったり。

 

 

 

 例えば、ララがワインに興味を持ったり。

 

 

「オヨ……。これがワインルン。これ、おいしいルン?」

「市販品の100億倍酷ぇが、思ったよりいけるぞ」

「え!? 実際に飲んだの!? だめだよ、未成年の飲酒は違法だよ! それに体に悪いし!」

「未成年者飲酒禁止法や他の法律なんざとうの昔に消えてるし、それに俺と大樹は3716歳。未成年余裕で飛び越して爺さん……仙人の域だ」

「でも、体は石化当時のままだから、肉体は高校生のままなんじゃ」

「試し飲みでちょっとしか飲んでいないから大丈夫だ!」

「むー…。それならいいけどなんか納得いかない……(ってあれ? そう言えば、千空君がさらっと『市販品の100億倍ひどい』って……。石化前にも飲んだことあるの?)」

 

 

 ひかるが首を傾げる横で、「いただきますルン」とワインを一口飲むララ。すぐさまに「ゲボッ!?」と変な声をあげます。

 

 

「ワ、ワインって苦いルン……。大人(・・)の私だけど、酒はまだ早かったみたいルン……」

「大人って、俺達とそう変わらないだろう?」

「サマーンでは13歳から大人ルン! だからお酒も大丈夫ルン!」

「なにぃ!? 中学の時点で大人だと!?」

「中には16~18歳で大人だと認識される国もあるから、そんな星があってもおかしくはねえよ」

「……今更だけど、その法律って正確には『満20歳未満』の飲酒を禁止しているんじゃ」

 

 

 初めてお酒の味を味わうと言う、ある意味貴重な体験をしたララでした。

 なお、試し飲みでちょっとしか飲んでいないために酔うこともなく、体も健康なままです。

 

 

「フワもワイン飲みたいフワ!」

「「フワは絶対飲んじゃだめだよ/ルン!!」」

「急に慌ててどうした?」

「フワは酔っぱらってしゃっくりを起こすと、たくさん増殖しまくるルン!」

「フワ☆パニックが起きちゃうよ!」

「しゃっくりで増える……?」

「改めて思うが、妖精って規格外過ぎやしないか……?」

 

 

 未成年の飲酒や未成年にお酒を飲ませるのは違法だから、絶対にやっちゃだめだよ! お酒は20歳になってから! byひかる

 

 

 

 例えば、首をゴキゴキ鳴らしながら土器を作る千空を、彼の手と首をちらりと見てひかるが心配したり。

 

 

「ねえ、ずっと気になっていたんだけど千空君、首凝ってるの?」

「あー、まあな。今更これぐらい、どうってことねえよ」

「だったらさ、私揉もうか?」

 

 

 両手をにぎにぎさせながら近づくひかるに千空が顔をしかめる。

 

 

「いや、そんなのいらねえって」

「まあまあ遠慮しないで! 無理は禁物だよ! こう見えてもおじいちゃんとおばあちゃんの肩や腰をよく揉んでいたから、マッサージは得意だよ! あと、ララの触角で電流マッサージもできちゃうし!」

「押しが強えな、ひかるテメー……」

 

 

 もしやマッサージが下手と考えているのではと思い、自信があると伝えるひかる。その善意増し増しの様子に断りづらくなる千空。悪意が全くないから余計に。

 彼は少し考え込みます。ひかるのキラキラした目に見つめられながら。

 

 

「……分かった。揉むの頼むわ」

「やりぃ! じゃあ揉むね!」

 

 

 そしてとうとう折れた千空の返事にひかるは喜び、早速マッサージを始めます。

 

 

 モミモミ「力加減はどう? 気持ちいい?」

「あ"ぁ。すげえ効くわ……」

 

 

 思ったよりかなり上手な、ひかるのマッサージに心地良さを感じる千空。そうしてしばらく。

 

 

「あれ? ここ(・・)、残ってるよ?」

「そのままでいい」

 

 

 何かを見つけて疑問に思うひかるに、ピシャリと告げる千空。

 

 

「でも、ずっとそのままだと辛くない? できたらすぐに」

「余裕ができたら何とかする。それまではそのままだ。ララや大樹に話したらお人好しのあいつらは心配して、真っ先に俺の方に使おうとするだろうから、まだ話さないでほしい」

「う~ん。千空君がそこまで言うなら……。分かった。でも辛くなったらちゃんと言ってね! 私だけじゃなくて、大樹君もララもフワも心配するから。ね?」

「分かってるって」

 

 

 

 例えば、復活液を作ったり。

 

 

「ううむ……。今日もだめか……」

「オヨ……。ワインと硝酸の配合をいろいろ変えて試しているけど、全然ツバメが復活しないルン……」

「フワ……」

「分かってはいたが、中々うまくいかないもんだ。復活液ができるのは早ければ早い程いいんだが……」

 

 

 落ち込む3人を尻目に研究室の入り口で苛立ちを隠すように、足元にあった小さな土器を軽く蹴り上げる千空。

 

 

「待って! 皆、これ見て!」

 

 

 その直後に響くひかるの声と何かがひび割れるような音。

 千空がその方向を振り向くとそこには、試作品をかけた部分の石化が解けた(・・・)1枚のツバメの羽。

 

 

 

 ひかる達がストーンワールドにやって来てから1週間。

 長く地道な努力の末に、とうとう復活液が完成したのです。

 

 

 

 

 

 

 

「教えてやるよデカブツ、ひかる、ララ、フワ」

 

 

 外に出て、石のツバメに千空が復活液をかけながら言います。

 

 

「科学では分からないこともある、じゃねえ。『分からねえことにルールを探す』。そのクッソ地道な努力を、『科学』って呼んでるだけだ」

 

 

 すると、左目からひびが入って全身に広がり、そして。

 

 

「うおおおおおお!」

「キラやば!!」

「オヨ……!!」

「フワ!!」

 

 

 3700年の眠りから目覚めたツバメは、今まで動けなかった分を発散するかのように、ストーンワールドの空を飛び回ります。

 

 大樹は、ちょっぴり涙を浮かべながら歓喜の雄叫びを上げ。

 ひかるは、人類の希望が完成されたことを実感しながら目を輝かせ。

 ララは、驚愕と感動が入り混じりながら空を見上げ。

 フワは心から嬉しそうにツバメ程の高さではありませんが、宙をクルクル飛び回っています。

 そして、復活液のレシピを考えついた張本人(千空)はと言うと。

 

 

「実験始めて1年……。意外と早かったな。ククク……、地道なもんだ。ファンタジーに科学で勝ってやんぞ……!」

 

 

 石の台に腰掛けて目を細めながら、ツバメが自由に飛び回る大空を見上げます。

 これまでの努力を示すかのように、汗を流しながら。

 

 千空が石化から目覚めて1年。大樹が石化から目覚めて半年。ひかるとララとフワと出会ってから1週間。

 ようやく、人類総復活計画が本格的に動き始めました。

 

 

 こうして、この小さな木の家と質素な研究室、そして可愛らしいロケットが置かれているこの大地から、千空とひかる達の壮大な冒険が始まったのです。

 

 

 

 

 

 

「唆るぜ! これは……!」




イメージOP:Good Morning World!



やったあ!!ついに復活液完成だ!!

おめでとうルン!それに、大樹もプリキュアになれて嬉しいルン!

大樹がストーンワールド最初のプリキュアか……。めでてえじゃねえか。
その記念に、大樹。テメーが最初に復活させる人選べ。

ありがとう千空!もちろん決まってる!だが、予想外の出来事が起きてだな……。

最初の復活者は……、霊長類最強の高校生!?


次回、Dr.STONE×スター☆トゥインクルプリキュア!
新たな復活者と純白の貝殻☆

次回も唆るぜ、これは!




おまけのQ&A

Q:なんでこのタイミングで大樹がプリキュアになったの?
A:メタ的に言って、後の展開考えるとこのタイミングしかなかったんよ……。

Q:変身時の歌の一人称は『わたし』のままなの?
A:最初は該当箇所を『じぶん』にしようかと思ったんです。本家スタプリとの差別化のために。
 でもそれだと、『替え歌』に相当すると思ったのでそのままにしました。
 まあ、男の人でも一人称が『私』の人はいるから、セーフセーフ!

Q:なんで前の話でペンダントが出た時に、千空が持っていたペンに反応しなかったの?
A:ペンダントが水平じゃなかったから。水平じゃないと反応しない。

Q:なんで千空の方へ、おうし座のプリンセススターカラーペンがやって来たの?千空が見たのは何?
A:千空が見たのは星空界の光景。そこら辺は今回入れる隙間がなかったので、次回入れる予定。


それと、活動報告にドクストキャラが持つスターカラーペンダントと、キュアウッドのスターカラーペンの絵を載せます。
本編に載せるのは少し違うかもと考えたために、そちらに表示致します。
絵のクオリティはキュアウッドと同じですが、もし時間があれば参考までに。

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