ぬ~べ~クラスに転校しました   作:サイレント=フリート

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#002【転校初日】

「いってきます」

 

 朝の六時、他の生徒からすれば早すぎる時間帯に自分は童守小学校に登校する。

 その理由は―――

 

「おっはよ~真斗!」

 

 先生が迎えてくるからだ。

 霊力の強い自分では今の段階で1人だけ登校することは難しいので朝早くに学校に着き早朝から霊能力の修行をすることになった。

 

「それにしても驚いたな」

「え?」

「真斗には見えない制御ができていない。だから、今まで自分を助けてくれる存在として霊が寄ってくるんだ」

「実際に寄ってきましたからね。それはもう、毎日おんぶに抱っこ。その所為で運動は苦手になりましたし……マラソン大会も常にビリ」

「素人の霊感体質の人は霊を呼び寄せて不幸になったり命まで危険になることがある。だからこそ、驚いているんだ」

「へ?」

「その体質だと悪霊も寄ることがあるのに、この町に来て俺に出会うまでそんなことは起きてなかっただろ?」

「そういった悪霊だと嫌な感じがしてある程度分かるんですよ。だから、全力で逃げてました。逃げ足だけは自信あるんです」

 

 そこはあまり嬉しくないし、ぶざまかもしれないが生きていれば問題ない。

 

「霊能者としての勘は鋭い方で運は良い方か……それに」

 

 すると、先生は突然手袋を外して鬼の手を取り出した。

 

「……っ!?」

 

 その鬼の手で僕の頭に触れた。

 

「やはり、気がとても清純だ。だから、周囲の霊もくっつくだけで癒され満足して危害を加えないだろう」

「……幽霊磁石じゃない? 後、不意打ちの鬼の手は怖いです」

「悪い悪い。だが、その分お前もわかっている通り霊が寄ってくるのだろう」

 

 今でも先生がいなければ前の学校と同じ展開になっていたのはわかる。

 先生は再度手袋をして封印した。

 

「だが、霊力の修行をすれば、すぐに1人で登校もできるぞ。そうなれば、友達と外で遊ぶことが出来るだろ」

「……はい」

 

 それまでは先生と一緒に頑張るしかない。

 そして、ようやく童守小学校に辿り着いた。

 

「やっぱりか」

 

 外でこれだけ霊がいるのだから小学校も前の学校と比べ物にならないくらい霊がいることは分かっていたが案の定である。

 しかも、また寄ってくる。

 

「ははは、大人気だな」

「嬉しくないです。僕の体は休憩場じゃないんですよ。まったく」

 

 ため息をつく。

 慣れたとはいえ嫌なものは嫌である。

 これは先生抜きで外で遊ぶことは無理だな。

 

「それじゃあ、早速修行をしようか」

「はい。先生」

 

 そして、宿直室で霊力の修行をした。

 まず、優先的に行ったのは霊力のコントロールである。

 コントロールできなければ何を教えても意味が無いからである。

 その後で、霊が見えなくなる修行や結界を重点的に教えてくれる。

 

「朝はここまでだな。もうすぐ朝礼が鳴る」

「はい」

 

 座禅を終え痺れていた足を少し揺らして動かせるようにする。

 

「それじゃあ教室に行こうか」

 

 先生は僕を教室へ連れて行ってくれた。

 

「鵺野先生、おはようございます」

 

 声をかけてくれたのは黒のロングヘアが特徴の女の先生である。

 

「リ、リツコ先生! おはようございます」

 

 リツコ先生を前に先生の目がハートマークに変化する。

 昨日のカッコよさが無くなっている。

 

「え~と、そちらの生徒は?」

「……静村真斗です」

「あら、あなたが転校してきた子? 私は5年2組の担任の高橋律子よ。ヨロシクね。お友達がたくさんできるといいわね」

「あ、はい」

 

 律子先生は優しく微笑んでくれた。

 

「あ、鵺野先生。私、授業がありますからこれで失礼します」

「リツコ先生、頑張って下さいね~」

 

 律子先生は自分の教室に向かったけど、先生の目からハートは消えないままだった。

 

「……先生? おーい」

「へへへ、リツコ先生は今日も綺麗だな~……あれ? どうしたんだ?」

 

 僕の顔を見て先生は慌てて気を引き締め直した。

 

「ハッ! ウオッホン! あ~……それじゃあ俺たちもみんなのところへ行こうか?」

「あ、はい」

 

 そして、ようやく自分の入るクラスに辿り着いた。

 耳を澄ませるとみんなの声が聞こえた。

 内容は転校生が来るという噂だった。

 中には昨日は体調が悪かったみたいとか、どんな子とか、カッコいいならいいのにとかの声も聞こえる。

 ヤバいこの前のこともあるし緊張してきた。

 

「カッコいいのかな?」

「サッカー部に誘ってみよう」

「こらこら、もうチャイムは鳴っているんだぞ……席に着いた着いた!」

「なあ、ぬ~べ~。今日、やっと転校生が来るって本当なの?」

「何だ、もう知っているのか? せっかくみんなを驚かそうと思って内緒にしてきたのに……また、美樹が言いふらしたんだろ? ……まあいいか。さ、入って入って」

 

 そう言われて僕は教室に入った。

 

「え~今日からみんなの仲間になる名前は静村真斗だ。みんなよろしくな」

「よろしくお願いします」

 

 礼をする。そして、みんなを見る。

 やはりというかみんなの守護霊も見える。

 守護霊も自分に興味があるように見てくる。

 

(ん?)

 

 すぐにこの教室の違和感に気付いた。

 大抵の守護霊は対象の生徒の後ろにいるが、その幽霊だけ一番後ろで誰にも憑かずポツーンと立っている。

 すぐに眼鏡をかけた女の子の守護霊かと思ったが、

 その割にはその霊はその子から離れているし、どうもその子の守護霊じゃないように気がした。

 

(……あの子の守護霊じゃないな)

 

 その霊も自分と目を合わせる。

 自分がいることに気付いていることに気付いたようだ。

 今までの幽霊と同様にグロテスクだがこれもそろそろ慣れたので悲鳴を上げることはなかった。

 

(一応、先生に話を聞いてみるか)

「それじゃあ真斗はあそこの空いている席に座ってくれ」

 

 先生がポンっと僕の背中を叩いた。

 

「はい」

「分からない事があったら遠慮せず周りの者に聞くといいだろう。みんなも質問されたら、ちゃんと答えてあげるんだぞ」

 

 はいというみんなの声が響いた。

 そして、その幽霊も自分の隣に移動し不思議そうに僕を見つめた。

 

「それじゃあ1時間目の授業を始めるぞ」

 

 授業が始まるが予習をしたおかげで苦にならない。

 もっともみんなの守護霊ともう一人の幽霊の好奇心な目を感じるが集中を絶やさずにいた。

 

――――

 

 授業が終わり、先生にすぐにあの幽霊と眼鏡をかけた子のことについてを聞いた。

 思った通りあの霊は守護霊ではなくどうやら、あの幽霊は四月にこのクラスになる筈の生徒だった。

 ところが、引っ越してくる途中に事故に遭い亡くなってしまった。

 だが、ここにいる理由はクラスに参加したいだけで特に害はなく先生も生徒として接しているようだ。

 その中で転校生で自分が見れる僕に興味がわいたようだった。

 先生も悪さするんじゃないよと一応注意はしておくようだ。

 眼鏡の子については自分と同じ霊力を持っている。

 だが、体が弱いので術を使って代わりに登校しているとのこと。

 それについても納得が付いた。

 

(……まあ、それなら僕もうるさく言う必要は無いでしょ)

 

 一応その霊が見えるようにノートの端に“返事の応答はできないけど、話くらい聞いてあげるよ”と書いておいた。

 参加するにしてもただ立っているだけなのは虚しいし、ちょっとのコミュニケーションも必要と思っての行動である。

 そう書くとその霊は少し嬉しそうな表情を見せた。

 

 そして、昼休みになった。

 

「ふぅ……」

 

 久しぶりの穏やかな昼である。

 先生の影響か幽霊も迂闊に寄ってこない。

 伸び伸びできる時間である。

 

「よぅ、転校生! 俺『立野広』って言うんだ! よろしくな!」

「あ、初めまして」

 

 ちなみに霊力など持っていることは内緒にしてもらっている。

 まだ未熟で下手に教えれてしまえば迷惑をかけるかもしれないので、不安だという理由で先生にお願いした。

 

「そんな他人行儀になるなよ。それよりもキミってなんて名前なんだい?」

「『静村真斗』」

「静村真斗くんね。あ、私? 郷子『稲葉郷子』よ。わからないことがあったら何でも聞いてね」

「うん」

「それからこっちが友達の美樹」

「ね~ね~、あなた転校してくる前は何処に住んでいたの?」

「ここより田舎だったよ」

「フーン、この町より田舎なんだったら何もないんじゃない?」

 

 だからこそ、逆に凶悪な幽霊に出会わなかったともいえるな。

 

「そうだね、欲しいものを買うのにも一苦労したよ」

「え~だったらこの町に引っ越してきて良かったじゃない! 私だったらそんな場所、退屈すぎて死んじゃうわ~」

「じゃあね、真斗くんの誕生日は?」

「あっ!? ノロちゃんのくせに……」

「もうすぐだよ。4月10日」

「フ~ンもうすぐだと一番お兄さんになるのだ」

「やだ~まこと君いつの間に?」

「僕だって真斗くんに聞きたい事があるのだ」

「でも、私が聞いているのに~」

「そんなことよりノロちゃん忘れてるのだ」

「……?」

「自己紹介がまだなのだ」

「あ、ゴメンナサイ。私、『中島法子』よ。よろしくね」

「僕は『栗田まこと』なのだ」

「じゃあね、次の質問! え~とね~」

「真斗くんは前の学校では何が得意だったの?」

「あ~また~」

「国語と社会だな」

「へ~転校生……じゃなかった真斗! 勉強ができるんだな~」

「それじゃあ克也くん、真斗くんに勉強を見てもらったら?」

「え~ノロちゃんひどいぜ~」

「アハハハハ」

「教えようか?」

「うっ……お願いします」

「勉強は人よりは出来ると思うけど、逆に運動は苦手だな」

 

 その理由は単純で図書館の方が幽霊の数が少ないからだ。

 いたとしても本が好きな幽霊なので傍に背中にもたれかかる以外特に何もしないので勉強がはかどるのだ。

 先生の説明だと気が清純だから椅子のクッション扱いされていただけかも知れない。

 

「あ、私も運動は苦手なの」

 

 運動が苦手な理由は違うだろうけど。

 下手に外に出ると幽霊がくっついて動きが阻害されてしまうのでスポーツし辛いのだ。

 だから、走るとか泳ぐ以外は不安が残る。

 霊力のコントロールが出来ればある程度解消できるだろうが……

 

「ここにいる昌もけっこう頭いいんだぜ!」

「イヤ~ハハハ……初めまして『山口昌』だよ」

「俺は『木村克也』! 克也って呼んでくれよな」

「真斗くんはクラブとかには入らないの?」

「そこはまだ決めていない。入るべきか入らないべきか……」

 

 それもコントロールしてからの話である。

 別にどのクラブに入りたいと強く思ってはいない。

 

「別に今すぐ返事しなくていいけど入りたくなったらいつでもいいなよ。ぬ~べ~に言ったらクラブの先生を紹介してくれるよ」

「フッ! まったくこれだから無知な君達には困るんだ! 僕のような育ちのいい子はそんな低能な質問はしないのだよ」

「……じゃあ何を聞くんだ?」

「フッ! 僕の質問はズバリこうさ! キミはUFOを信じるかい?」

「……UFO?」

 

 いきなりの質問に唖然とする。

 というよりもその質問の意図は?

 

「オイオイ、俺たちの質問とどこが違うんだよ? 見ろよ、真斗も唖然としてるぜ!」

「なんて事を言うんだ!! 宇宙人は既に地球に来ているのだぞ~!」

「……えっと」

「ハハハ……こいつ『白戸秀一』っていうんだけどさ、聞いての通り超自然オタクなんだ」

「い、一応答えを言うかな」

 

 おおう、白戸くんが期待した眼差しを見ている。

 ここは素直に思っていることを言っておくか。

 

「うーん、いるんじゃない?」

「え!? 真斗、UFO信じるの!? 宇宙人なんているわけないのに!?」

「だって、宇宙は広いから人が地球だけってのは考えにくいし地球の人間も宇宙から見れば宇宙人だよ。逆に宇宙人も地球人のことを認識していない可能性だってあるしあり得ない話じゃないと思うんだ……宇宙人も木村くんと同じ考えをしているかも知れないし……」

 

 それに宇宙人が地球人だけっていうのも寂しいし世界中の人が全員が全員嘘をついているとは思えないんだよね。

 幽霊が見えるからそういった存在もいるという可能性捨てきれない。

 

「フン! わかる人にはわかるのだよ。無知なキミ達にはとても理解できないよ」

 

 白戸くんは嬉しそうに笑っていた。

 とは言ってもそう思うのであって調べる気はない。

 質問の内容はあくまで『存在するか否か』であって興味があるかはまた別である。

 

「ハハハ、どうだ気に入ったか? こいつらが真斗のクラスメート達さ! そして真斗を含めた全員がこの5年3組ぬ~べ~クラス……俺の可愛い生徒達なんだ!」

 

 ぬ~べ~が言い終わるとチャイムが鳴った。

 

「さあ午後の授業を始めるぞ~みんな自分の席に着けよ~」

 

 その後も色々と質問をされた。

 サッカーは好きかだったり特撮見ていると色々である。

 質問攻めが終え放課後になった。

 

「そういえば」

「ん?」

「体調は大丈夫なの?」

 

 稲葉さんが聞いてきた。

 そういえば、先生がそうみんなに言い訳をしてくれたのを思い出した。

 

「うん、もう大丈夫だよ」

「そっか~クラス全員心配していたのよ」

 

 その言葉が刺さる。

 普通にそう言った自分が恥ずかしい。

 

(学校に有名な霊能力教師がいるなんて普通に分かる筈が無いよ……)

「あ、先生に呼ばれているからもう行くよ」

「え? ぬ~べ~に?」

「うん、それじゃあね」

「あ、ちょっと」

 

 言い訳が思いつかず会話を切り上げて教室を出てしまった。

 だけど、理由を話すとまず自分の霊力の話になる。

 コントロールが出来ていないからすぐに話すことは勇気がいる。

 そこまで勇気はないし、コントロールでき、幽霊が寄らなくなってからでも出来る。

 少なくとも一緒に帰ろとか、一緒に遊ぼうという要望はまだ受けれない。

 少なくとも今の段階では先生と一緒でなければ……

 

「もう、行っちゃたわ」

「郷子、どうしたんだ?」

「それが真斗くんも一緒に帰ろうと誘おうとしたけどぬ~べ~に用事があるからって行っちゃったのよ」

「ぬ~べ~に用事?」

「まだ体調優れないのかしら?」

「ハハハ、もしかしたら幽霊がらみでぬ~べ~に相談事かな?」

「あるいはぺちゃぱいの郷子と帰るのが嫌だったのかもね」

「なんですって~!! 美樹!」

「おほほほほ!」

 

 そして、先生がいる職員室へ向かった。

 

「失礼します! 鵺野先生は……」

 

 そう言って先生がいる机を見るとボロボロになった先生の姿があった。

 

「ま……また……リツコ先生に……振られてしまった」

「大丈夫? 先生」

「ん? おお、真斗か!」

 

 ボロボロの姿ですぐに立ち上がり笑顔を見せる。

 何があったか知らないが言葉通りリツコ先生に怒らせたようだ。

 

「続きをするのか?」

「はい」

「そうか。広達と帰らないのか?」

「コントロールできることが優先なので」

「……わかった。ただ、一緒に帰りたくなったり遊びたくなったらいつでも言っていいんだぞ」

「はい」

 

 外を見る。

 同級生が帰っていく。

 中には自分と一緒に帰れなくて残念そうな顔をしている子もいる。

 

「お願いします」

「ああ」

「みんなと一緒に遊んだり帰るためにこの修行を頑張ります」

 

 そして、すぐに座禅を組み精神を集中した。

 

「その意気だ、真斗。それじゃあ行くぞ! 宇宙天地 與我力量 降伏群魔 迎来曙光 吾人左手 所封百鬼 尊我号令 只在此刻」

 

 しばらく、この生活は続く。

 それでもみんなのために頑張る。

 それに加えいつか自分のこの嫌な能力が誰かの助けになると信じて。


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