少なくとも、藤丸立香ではない   作:初弦

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「――久しぶりだな。邪悪なる竜(ファヴニール)。二度蘇ったなら、二度喰らわせるまでだ……!」

「かっけえ」

 

 ところでジークフリートさんってファヴニールとやらを殺したことがあるの? 聞いたことある名前ではあるけれど何をしたかまでは知らないんだよな。

 

「もとは北欧神話がモデルで、ニーベルングの指環という題の楽劇がリヒャルト・ワーグナーによって執筆された際に、ジークフリートという名がつけられたそうで――」

「盾の嬢ちゃん、おいマシュ、解説してる暇あるかよ!?」

「よく知ってんなあ」

「マスターも感心していらっしゃる余裕があるなら足を動かす! 早く逃げますよ!」

 

 叱りつけてくるインフェルノさんに、現実逃避に決まってんだろ、とボケるにはちょっと場の緊迫感が強かった。ごめんね。

 鬱陶しく追ってくるワイバーンを蹴散らすサーヴァントの皆さん。頼もしい。

 

 しかし追手は迫るわけで。

 

「私がフランス軍の救出に向かいます! 皆さんはそのサーヴァントを!」

 

 ジャンヌさんはそう言うが「いや」と私はそれに待ったをかける。

 

「ジャンヌさんに誰かついてて!」

「では私がつきましょう」

「私一人でも――」

「あなた一人ではフランス軍を助けたとして、後ろから刺されかねませんよ」

「……そうですね。お願いします」

 

 ジャンヌさんはぐっと唇を噛んだものの、わりと素直、すぐに気を取り直したように駆け出した。

 

 アマデウスさん曰く、追ってきたうち一人はシャルル=アンリ・サンソンという名の英霊――マリー・アントワネットを処刑した人間であるそうだ。

 ……英霊になるのは誰でもアリなのか? それとも処刑以外に何かした人なの、この人?

 史実で名前が伝わっているなら後者の可能性が高そうだけれど。

 

 こちらの戦況は今のところマシだが、羽虫の如く湧いてくるワイバーンに若干ジリ貧。

 フランス軍の方はジャンヌさんが逃げろと勧告してはいるが、案の定竜の魔女の方の黒ジャンヌさんと誤認されて逆効果。

 インフェルノさんは早々に諦めたらしく、襲ってくるワイバーンを屠ることに集中しているようだ。

 

「彼らは私を敵と憎み、立ち上がるだけの気力がある。それはそれで、いいかと思うのです」

 

 ……血の伯爵夫人のように、正気か? という感想を私も抱いたことは秘密にしておこうと思う。

 いや、あの、うん、格好いいとは思う。でも、それ以上に、その……正気か? 嘘だろ? マジで言ってる? メンタルオリハルコンか?

 

 敵を退けた先、逃げ込んだ砦にて、ジークフリートさんの傷を治すには聖人があともう一人必要だということが判明。

 フランス内を手分けして探す――戦力の分散は、少し不安になるが。

 

「……こうなるか」

 

 くじ引きでは、マリーさんとジャンヌさん、マリー様とクー・フーリンさんとインフェルノさん、アマデウスそんとマシュと私とジークフリートさん、というふうに別れた。

 

「マスター、大丈夫かしら? わたしがいなくても泣かないでね?」

「マリー様の優しさが傷口に塗りこまれる塩のようにしみる……マシュがいるので! 平気です!」

「先輩……!」

「たぶん!」

「先輩……」

 

 一瞬でキラキラとした目がじっとりとした瞳に早変わり。

 いや、うん、まあ、嘘はつけないよね!

 

 締まらねえな、とクー・フーリンさんが溜息を吐き出した。

 

 ティエールに辿り着いた私たちは、トカゲの喧嘩を仲裁し、ついでにワイバーンを追っ払った。トカゲの喧嘩といえばトカゲの喧嘩だ、それ以外にない。

 いや、同類にするのはトカゲに失礼かもしれないが。

 

「またキレてるだろ、この子」

「すみません、先輩は短気なんです……」

「短気っていうか、私情緒がちょっと不安定なんです」

「それ、よりダメじゃないかな?」

「うるっせーほっとけ」

 

 のち、ジャンヌさんと探していた聖人たるゲオルギウスさんを逃がすため、マリーさんが残ったと知り、皆が全力で引くまでガチ泣きしたのは私であるけれど。

 クー・フーリンさんチームとも合流したため、困った顔で私の顔を拭うマリー様が印象的だった。なにせマリー様の顔を見て更に泣いてるからね、私。

 アマデウスさんは「違う意味で汚いね」と溜息を吐いていた――ごめんて。いやごめんて。

 

「ところでマスター」

 

 何故かまだいる清姫(トカゲの片割れ)さんに声をかけられ、私は泣き過ぎで出てきたしゃっくりを止めようと奮闘しながら「私ですか?」と返す。

 

「もちろん貴方です。仮ですが、マスター契約を結んで下さいますか? ええ、小指を出して下されば充分です」

「ずずっ……いいですけれども」

 

 ゆーびきーりげーんまーん。

 うそついたらはりせんぼんのーます。

 ゆびきった。

 

「これで契約完了です。マスター契約は絶対なので、以降わたくしに嘘をついた場合、針を千本呑んでもらいます」

 

 ……ん?

 

「よろしいですね? それでは、よろしくお願い致します」

「……いいですけれども……」

 

 要は嘘つかなきゃいいだけですよね、まあそれなら。

 そういえば清姫って、自分に嘘をついた安珍って僧を焼き殺したんだっけか。なるほどそこから。

 

 しかし、私と清姫さんの会話に顔を引き攣らせたのはクー・フーリンさんであった。

 

「マスター、危機感持ってくれねえか!? なんで勝手に危険な契約交わしてんだよ!?」

「すげえ、初対面にして私を焼き殺しかけた人が言うことじゃねえや」

「それとこれとは話が別だろ!?」

 

 そうだろうか? 本当にそうだろうか?

 私としてはどっこいどっこいどころか、クー・フーリンさんのことはまだ許してないので……。

 

「あんた本当に根に持つよな!?」

「うふふ」

 

 清姫さんは口元に手を当てて、美しく微笑んだ。この子も顔がかわいいので眼福。

 

 ともあれ、ジークフリートさんも晴れて復活、仮契約を結んでくれたので何よりである。


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