中つ国召喚   作:瀬名誠庵

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今回、新章開幕と同時に原作回収となります。


第三話 ロデニウス戦役
開幕、ロデニウス戦役


西暦2029年3月4日 クワ・トイネ『王国』 首都タバタシティ

 

クワ・トイネ『公国』が日本と国交を結んで14年。この国は未曽有の発展を遂げていた。

主な国道はアスファルトで舗装された道路となり、交通機関もかつての馬車から鉄道へと変わり、識字率も急激に向上したおかげで工業化も進展。日本の支援により技術面や生活水準だけでいえば西暦1970年代レベルにまで発展していた。

たった十数年で総合的な文明水準が400年以上も発展した公国は、憲法制定により公位を王位に替え、定期的に行われる選挙で国王を定めるマレーシアやバチカン市国の制度をモチーフにした立憲君主国へと変貌し、近代国家としての発展を推し進めていた。

 

「しかし、14年前が遥か昔に思えてくる程の発展度だな。日本様様といったところか」

 

新たに築かれた近代首都タバタシティの首相官邸で、カナタはそう呟きながら、ビル群の建ち並ぶ街並みを見つめる。

日本の手厚い支援下での近代化・工業化政策は急速に進行しており、まず識字率は70パーセントにまで向上し、農作物以外に国産の工業製品もアルタラス王国やフェン王国、シオス王国といった早期に日本と関係を結んだ国々との貿易でよく売れていた。

おかげで生活水準は非常に向上し、1年前には国内に建設された自動車工場の操業が開始され、国内向け自動車の普及も進んでいる。隣国のクイラ王国も同様で、石油やレアメタルによってもたらされた富を使って砂漠地帯の再開発に力を入れている。水魔法や土魔法を使った灌漑や、木の精霊の力を借りた植樹・緑化政策が功を奏し、食料問題や産業の多様化で改善の兆しが見られ始めている。人口は医療技術や生活水準の向上の恩恵を受けて増加し、クワ・トイネ王国は14年前は1000万人程度だったのが今や1500万人に迫り、クイラ王国もわずか400万人程度だったのが600万人近くにまで増えている。ともに順調に発展を遂げていた。

 

「まさしく神のもたらした恵みが我が国とクイラを潤している。しかし…」

 

ここまで発展を遂げたとはいえ、カナタにはどうしても捨てきれない懸念が存在していた。西の隣国、ロウリア王国である。

この国も14年の歳月の中で発展を遂げていたのだが、その発展の様子が見られるのはアルタラス王国やシオス王国との交易の際にハブ港として使われる港湾都市ハーク・ポートぐらいで、地上の国境線辺りでは特に大きな変化は見られなかった。しかし軍事力を順調に増強しているとの報告も入っており、そう簡単に侮る事は出来なかった。

 

「…嫌な予感がする。念のために国王陛下に奏上してから西方師団に警戒を厳にする様に伝えよう」

 

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ロウリア王国 首都ジン・ハーク

 

クワ・トイネ王国とクイラ王国が急激な発展を遂げていたその頃、西のロウリア王国も発展を進めていた。

パーパルディア皇国の手厚い支援により王国軍は近代化され、武装はこれまでの槍や弓矢から銃などの小火器へ変わり、部分的にであるが工業化も進展。そのため『軍事力』だけでいえばかなりの高水準を有していた。

その首都たるジン・ハークの中心部、ハーク城の会議室では、数年前に逝去した前国王より王位を引き継いだハーク・ロウリア34世を中心に、会議が開かれていた。

 

「これより、会議を始めさせていただきます。まずは国王陛下よりお言葉がございます」

 

進行役を務めるマオス宰相の言葉とともに、ハーク・ロウリア34世は一同に向けて語り掛ける。

 

「前国王たる我が父が亡くなって5年…我が国は列強パーパルディア皇国からの手厚い支援を受け、ここまで発展した。今や我が国の軍事力は14年前とは比べ物にならないぐらい発展している。しかし、その発展に実際に貢献したのは今ここにいる全ての臣下と現場指揮官達である。まずは貴様らの努力に対して礼を言おう」

 

「おお…何というありがたいお言葉…」

 

頭を少し下げながらそう語ったハーク・ロウリア34世の言葉に、多くの閣僚や将軍が感動に震える。そしてハーク・ロウリア34世は着席して言葉を続けた。

 

「では、会議を始めよう。パタジン将軍、此度の作戦内容を頼む」

 

求めに対し、ロウリア王国軍総司令官を兼任する首都防衛騎士団団長のパタジン将軍は、自身の鍛え抜かれた肉体に纏う銀色の鎧を輝かせながら、テーブルを構成する巨大な石板の前に立ち、表面に刻み込まれている文様に触れる。

直後、石板に光の線が走り、瞬く間にロデニウス大陸全体の地図が浮かび上がる。これは大昔に、かつて彼らの世界を支配していた大国『古の魔法帝国』が遺した石板型地図で、原理は未だに判明していないものの、何らかのシステムで大陸全体の地形や街の状況等を映し出す機能を有していた。そして如何に原理が分かっていなくとも、それを利用する方法は分かっており、パタジンは幾つかの文様に触れて操作を行い、幾つもの立体映像の駒を現出させる。

 

「まず、クワ・トイネ王国・クイラ王国両国の国境線に陸軍100万人を展開し、作戦開始予定日とともに侵攻を開始。まずは国境付近の町を全て陥落させ、中継地点とします。同時に陸軍主力のうち50万人をクワ・トイネ王国西部方面軍の根拠地にして王国西部にある唯一の城塞都市エジェイ周辺に集結させます。それと時を同じくして、海軍主力艦隊を出撃させ、総数4400隻の大艦隊と20万人の将兵という物量戦術によりクワ・トイネ王国のマイハーク港を陥落させます。これでクイラ王国は海上輸送路を喪失し、自然と干上がるでしょう」

 

駒がせわしなく動いて作戦内容を視覚化させ、閣僚達はその様子を見る。

 

「航空戦力は作戦序盤より全機動員します。現在我が国が保有するワイバーンはほとんどが改良型のロード種に発展型のオーバーロード種となっており、さらにパーパルディアより輸入した『機械飛竜』も存在します。これでクワ・トイネ王国の航空戦力を完全に排除する事が可能でしょう。制空権確保後、早急にエジェイを総攻撃で陥落させ、侵攻ルートを確保。それからはそのまま敵の首都まで一直線です」

 

ロウリア王国軍を示す赤い馬型の駒はそのままクワ・トイネ市まで突き進み、やがてクワ・トイネ王国とクイラ王国全体が赤く塗り潰される。すると閣僚の一人が尋ねてきた。

 

「しかしだ、クワ・トイネ王国とクイラ王国とやらは日本に台湾とかいう国から支援を受けているという。その国の援軍を考慮しなくてもいいのか?」

 

「ご安心を。諜報部やパーパルディア皇国からの情報によりますと、その2か国は軍事支援に消極的な様子で、せいぜい台湾がクワ・トイネ王国に銃を提供している程度と聞いております。また兵士の数も非常に少ない様で、こちらが総数200万人であるのに対してあちらは総数50万人程度…この程度ならば数の暴力で一方的に蹴散らせます。またこちらの諜報部がかなり苦戦しているという情報が閣下達のお耳に入っている様ですが、その数の少なさから来る貧弱さを隠し通そうと必死になっているのでしょう。何、我らの大軍でその徒労を無駄なものにしてやりますよ」

 

パタジンの自信に満ち溢れた言葉に、一同に笑みが零れる。そしてハーク・ロウリア34世は席から立ち上がって宣言した。

 

「よし…余はここに、ロデニウス大陸統一作戦の実行を命ずる!この大陸より全ての亜人を廃絶し、我らヒト種の万年王国をこのロデニウス大陸に築き上げるのだ!」

 

『ははーっ!!!』

 

閣僚や将軍達はそろって頷き、ここに、新たな戦争の開幕が宣言されたのだった。

 

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西暦2029年3月11日 日本 東京 首相官邸

 

その日、首相官邸では緊急閣議が開かれていた。議題はもちろんロウリア王国の軍事行動である。

 

「諸君、ついにロウリア王国が軍事行動の準備を始めた。しかもかなり大規模だ」

 

日本の新たな内閣総理大臣である富水の言葉に対し、閣僚達に緊張が走る。続いて防衛大臣が説明を始める。

 

「人工衛星からの情報によりますと、現在クワ・トイネ王国とクイラ王国両国との国境線付近に最低50万人規模を収容可能な野営地と仮設の飛行場らしき施設が確認されており、ロウリア王国国内の各都市及び城塞より多数の将兵や車両の移動が確認されました。それらの部隊はこの野営地に集結を進めており、どう見ても侵攻作戦を準備している様にしか見えません。また洋上には2000隻以上の艦船の集結も確認されており、海上からの侵攻も計画している様子が伺えます」

 

「経済産業省です。現在、ハーク・ポートへの我が国や台湾、クワ・トイネ王国、クイラ王国船籍の船舶入港が禁止された状況となっております。恐らく情報漏洩を警戒しての措置でしょう。ですがこれにより交易活動に影響が生じています」

 

経済産業大臣からの報告が挟まれ、国交省大臣も顔をしかめる。防衛大臣は再び説明を再開する。

 

「現在のクワ・トイネ王国軍の規模は、5個師団4万人に車両2000台、哨戒艇数十隻にレシプロ式軽攻撃機十数機、ワイバーン500騎と全て現在の文明・技術水準の範囲内で国防を果たせる程度のものです。しかも戦車や口径40ミリ以上の火砲は供与されておらず、生産も禁止しています。恐らく初撃は耐えられても防衛線は直ぐに崩壊する可能性があります」

 

ロウリア王国はこの14年間、ただひたすらパーパルディア皇国とだけしか関係を持たず、軍事力の強化に励んでいる事は人工衛星からの報告で知っていたし、一応はクワ・トイネ王国の租借地に駐屯地を設けて、ロウリア王国軍という『テロリスト』から穀倉地帯を守るための安全保障体制を構築していた。

しかし、彼らは今そこに、『どうせロウリア王国の軍事力では自衛隊に勝てないだろうし、むしろ戦争を起こさせないためにクワ・トイネ王国の軍事力は最低限のものであらせよう』という慢心と争いに対する怯えがあった事を自覚する。しかもロウリア王国側には人権の考えがないらしく、すでに数件程ロウリア王国軍がクワ・トイネ王国側に対して散発的に攻撃を仕掛け、死者を出している。

恐らく、ここで彼らは決断するしかないだろう。それがどんな反発を引き起こし、どのような結果をもたらすのか分からなくても。でなければー。

 

「…現在、我が国に存在する在日米軍は旧在韓米軍だった部隊のみとなっている。しかもアメリカはクワ・トイネ王国の事を左程重要視していない。それに安全保障条約も14年前とは大きく違ったものとなっている。純粋に食料と資源の輸入が困難になる問題が生じる上に、我が国の新たな国際関係の中でどの様に存在感を示すのか、それも重要となっている。直ちにダイダルに駐屯する外地派遣部隊にクワ・トイネ王国軍支援命令を発令せよ。さらに自衛隊全部隊に対して防衛出動を命令し、第三文明圏外国共同安全保障条約に基づく自衛隊派遣を決定する!」

 

富水の下した決断に対し、全ての閣僚が頷く。

翌日、日本国政府はロウリア王国の侵略的行為を批難すると同時にクワ・トイネ王国・クイラ王国両国に対する自衛隊派遣を発表し、自然と日本が参戦する事となった。また同じ安全保障条約に入っている台湾も同様の動きを示し、台湾軍の派遣も決定的となる。

こうして、その後の第三文明圏の運命を変える出来事の始まりとなるロデニウス戦役は幕を開けたのだった。




次回はギムの戦いです。

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