英雄の子どもたち   作:銀楠

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感想お待ちしております!!

やっと戦闘シーンが書けます(歓喜)


強化種(ミノタウロス)

女が三人寄れば姦しいという。なるほど、うまく言ったものだ。

では、牛が三匹寄ればどうだろう?

なるほど、確かに(ひし)めいている。

目の前には(ミノタウロス)が三体立っている。ただのミノタウロスなら問題ないだろう。しかし、その肌は赤黒い。おそらく強化種だ。

通常のミノタウロスの適正レベルは2、しかし強化種となれば少し上がる。しかも三体だ。正直レベル4では足りない。

 

「三体同時に強化種とかあり得るの?」

 

「あり得ないよ普通…

逃げた方がいいと思うアイル兄さん」

 

「いや、ここを通らないと下には行けない…

リリア、離れてて」

 

腰に差したナイフを抜き構える。長年の相棒《小さな牙(リトルファング)》だ。第一等級武器には及ばないがヘファイストスファミリアで手にいれた大事な相棒だ。

 

三体のミノタウロスのうち二体は素手、残り一体は大剣を持っている。油断すると深傷を負うかもしれない。

 

自慢の敏捷をいかして突貫する。一番奥の大剣を持ったミノタウロスに斬りかかる。こういった場合一番手前の相手に攻撃し相手を盾にして戦うのが定石(セオリー)だが、モンスターの場合は仲間ごと大剣で斬り飛ばしにくるのでリーチの長い得物を持つものから倒しにいったほうがいい。

普通であれば成す術なく一瞬でやられていたであろうミノタウロスはさすが強化種といったところか、見事大剣でその一撃を防いだ。あと数合やりあえば魔石に届くだろうが、今回は一対一ではない。

振り替えると同時にハイキックを放つ。遠心力をのせた蹴りは迫っていたミノタウロスの拳を払いのける。その衝突の勢いを利用して、上がった右足を下ろす事なくバク転する。三体目の拳をバク転でかわしながら大剣を持ったミノタウロスの剣の間合いの内側に入り込む。

ミノタウロスは右手の剣で攻撃することを諦め左手で拳を放つ。体の大きいミノタウロスにとってかなり無理な体勢だが、強化種の一撃はそこそこの威力がある。アイルは横に飛びギリギリでかわしたが、拳がぶつかった地面には小さな陥没ができるほどだった。

 

仕切り直し。すでにアイルは三体の力量を計り終えていたが、そう簡単に決着はつかないだろう。

 

再び突貫。スキルによってブーストされた敏捷は残像を残すほどの速度でミノタウロスに迫る。おそらく本能で防いだのだろう。小さな牙(リトルファング)がミノタウロスの外皮に触れる前に大剣が滑り込まれる。超高速で衝突した二つの金属は激しく火花を散らす。ギャリッ、という嫌な音をたてながらお互いを逆方向に弾いた。アイルは弾かれた勢いを利用して、空中で体を捻る。そして、真後ろにいたミノタウロスの顔面に蹴りを放った。空中で発生した回転のエネルギーを余すことろなく込められた横薙ぎの蹴りはかなりの威力があったが倒すには至らなかったらしい。派手に回転しながら飛んでいったミノタウロスはそれでも動いていた。追撃したいところだが二体のミノタウロスに背を向けたままなのは非常にまずい。既に三体目のミノタウロスが強靭な角をこちらに向けて突進してきているのが気配で分かった。アイルは空中で蹴りを放った直後だ、着地してから回避は難しい。

しかし、アイルが焦ることはなかった。着地と同時に体を反転させる。ミノタウロスの角はすぐそこまで来ている。アイルは体を大きく後ろに反らした。二本の足でしっかりと地面を捕まえ、倒れるのをなんとか防ぐ。

結果、アイルは突進のために前傾姿勢になったミノタウロスの下に潜り込んだのである。この好機を逃すアイルではない。小さな牙(リトルファング)をミノタウロスの胸の中心に突き立てる。万事幻視(ファントムアイ)で魔石の位置は丸見えなため一撃で魔石を砕くことに成功した。

しかし、体を大きく反った状態から戻ると二体のミノタウロスに挟まれた状態になる。二体ミノタウロスは同時に攻撃してきた。コミュニケーションをとれるという情報はないので、おそらく偶然タイミングが合っただけだろう。しかし、二体同時の攻撃を捌ききるのは厳しい。

 

「ケラヴィス!」

 

瞬間、アイルの左手から発生した雷が大剣を持ったミノタウロスを襲う。速攻魔法であるため威力には期待できないが目眩ましにはなる。もう片方のミノタウロスの大振りな角の一撃を右手のナイフで逸らしてから、跳躍して離脱する。一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)を行う上で最も大切なのは常に一対一の状況を作ることだ。二体に挟まれた状態で戦うのはアイルの戦い方ではない。

既にミノタウロスは体制を整えこちらの隙をうかがっている。しかし、先程とは違いその数は二体だ。たった一体の差が心理的な面で大きな余裕を作った。

 

「ケラヴィス!」

 

速攻魔法の七連射。威力が低い代わりに反応しずらい雷撃が素手のミノタウロスを襲う。倒すには至らずともその表皮を焼くことはできたようだ。しかし、アイルはそれを確認せずに大剣を持ったミノタウロスに突進する。突き出したナイフは再び大剣に防がれるが今度はそのまま押しきった。地面を踏みしめ踏ん張ったアイルはミノタウロスを奥に数M(メドル)ほど押し込む。

そして再び突進。魔法を当てたミノタウロスが戦線に復活する前に走り出す。ミノタウロスは大剣を大きく振り応戦しようとするがアイルはそれを読んでいた。

陽動(フェイント)。突進を中断(キャンセル)し急停止したアイルの鼻先僅か数ミリを大剣が(はし)る。大剣を振り切ったミノタウロスの体はがら空きそのもの。一M(メドル)ほどの距離を一瞬で詰め、魔石にナイフを突き刺す。

 

「ケラヴィスッ!!」

 

ついでと言わんばかりにナイフを通して魔法を叩き込むと、ミノタウロスの背中に雷が咲いた。

残すは一体。大剣を拾い上げ、ナイフを腰の鞘にしまう。

アイルは大剣を使ったことがない。しかし、大剣を扱うのに技術は余り必要ない。大剣とはそもそも『斬る』ではなく『叩きつける』ための武器であるため、筋力さえあれば扱える。

アイルは大剣の柄を両手で握りしめてミノタウロスに突貫する。そして、ミノタウロスの目の前で左足を軸に駒のように回り大剣を叩きつけた。その様は不恰好としか言いようがなく剣に振り回されているようにしか見えない。しかし、威力はあった。十分な助走を経た回転は剣先に伝わり、ミノタウロスの体を吹き飛ばした。

ダンジョンの壁に叩きつけられたミノタウロスはピクリとも動かない。絶命したのだろう。

 

 

 

 

 

 

リリア・クラネルはその戦いを見ていた。最初から最後まで。

 

アイルは自己評価が低いが、間違いなく戦闘の天才である。

背中に目がついているかのように背後を把握し、未来でも見ているかのように次の動きをベタ読みする。反射神経は人並みを大きく上回り、判断力は既に熟年の冒険者と比べても遜色ない。

リリアが尊敬する兄はそういったステイタスに反映されない部分において他の冒険者たちと一線を画している。その証拠に兄はミノタウロスの強化種三体に挑み、一撃ももらわずに勝ってしまった。アイルの姉弟達はこの才能を高く評価している。そしてリリアもまた憧れている。

 

「リリア、悪いけど魔石とってもらえる?」

 

そう言うと、アイルは座り込んでしまった。疲れたのだろう。

 

「あ、うん…分かった」

 

強化種の魔石はギルドで高く買ってもらえる。いまだに生態が掴めない強化種の魔石は希少であり調査する必要があるからだ。三体中一個しか残せなかったのは残念だが、背に腹は変えられない。

『死んで花実が咲くものか』というやつだ。

リリアはサポーター歴がかなり長い。魔石を抉り出す作業は慣れたもので、簡単に終わらせてしまう。取り出した魔石を背嚢(バッグ)に放り込んで代わりに小瓶を二つ出す。

 

「はい、アイル兄さん」

 

「ありがとうリリア」

 

小瓶を受け取ったアイルは一気に二つともを飲みほした。中身はもちろん回復薬(ポーション)だ。旨くも不味くもない味が口内に広がる。微妙な味がするこの液体は可能な限り一気飲みする方がいい。

昔、一時だけ回復薬(ポーション)に味がつけられていて甘い味がした時期があったが、嗜好品として楽しむ者が出始めたため現在ではなんともいえない味に戻っている。

今アイルが飲んだ回復薬(ポーション)は疲れを癒すポーションと精神力(マインド)を回復するポーションだ。既にアイルは万全の状態になっていた。

 

「そういえばアイル兄さん、何で剣を使わなかったの?」

 

「………」

 

アイルはナイフを好んで使うが細剣も使える。ナイフの方が小回りが効くため普段はそちらを使っているが、単純な攻撃力では剣には及ばない。最初から剣を使っていればもっと速く片付いていたであろう。

そんな意図が込められたリリアの質問に対するアイルの答えは黙秘。

リリアは嫌な予感がしながらも再度問う。

 

「アイル兄さん…?

そういえば剣、何処にあるの?」

 

普段アイルの腰につけられている剣が見当たらない。もうほとんど確信に変わった疑念がアイルに向けられていた。

 

 

「………忘れちゃった」

 

 

「は? はあぁぁぁぁぁ!?」

 

どうやらダンジョンに得物を忘れるバカはティオだけではなかったらしい。

こんな兄に憧れを抱いているのか…と、リリアの評価が少し下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アイル・クラネル Lv,4
力:B754 耐久:H186 器用:S986 敏捷:SS1102
魔力:D501
幸運:G 対異常:H 逃走:I

《魔法》
【ケラヴィス】
速攻魔法

《スキル》
英雄ノ子(クラネルブラッド)
・格上と戦う際、ステイタス中上昇
・『守る』ために戦う際、ステイタス超上昇
・早熟する
不撓不屈(アイアンスピリット)
・戦闘開始後、決着か逃走が成立するまで意識を失わない
損傷(ダメージ)を受ける度、全アビリティ高補正
万事幻視(ファントムアイ)
・透視と遠視が可能
神速兎(スピードスター)
・戦闘時、敏捷のアビリティ高補正


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