英雄の子どもたち   作:銀楠

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感想お待ちしております!

アイルは死なない、だって主人公だから

今回はアイル主観を主観にして書いてみました


英雄(アイル・クラネル)

18階層、リヴィラの街。最近拡大し続けているこの街は物価が異常に高いことで有名だが、それでも物珍しさというのはそれだけで観光資源になるものだ。ダンジョンの中とは思えないほど活気づいたこの街の入り口でリーユとティオは立っていた。既に到着から半刻ほど経っている。

 

「遅いですね、アイルとリリア…

別れた場所を考えるともうとっくに着いていてもおかしくはないんですが」

 

「そう?まだそんなに経ってないよ?」

 

「あなたの感覚で言わないでください

何もなければいいのですが…」

 

「アイルとリリアなら大丈夫だよ!」

 

ティオは無駄に元気な声を上げる。自分の異母兄妹に何かあったと思いたくないのだろう。それはリーユも同じだ。

嫌な予感を抱きつつもリーユとティオは黙って待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い。

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い…

 

 

自分の体を見ると血まみれだった。着けていたはずのプレートアーマーは木端微塵に砕け、地面に散らばっている。肋骨がバラバラになったせいか胸が不自然に凹凸している。

両腕両足は無事だった。生きているということは首も折れてはいないだろう。

たった三発の攻撃でここまでやられるとは…低すぎる耐久を今頃呪いたくなった。

首を持ち上げ前を向くとゴライアスが嗤っていた。圧倒的弱者を前にした余裕。悔しい。

首を上げたことで頭から血が流れてきた。睫毛に一瞬塞き止められるが結局目に入ってくる。視界が赤く染まった。

これだけやられてもまだ意識があるのは不撓不屈(スキル)のおかけだろう。恩恵(ファルナ)は最後まで戦うことをお望みらしい。

しかし、体が動かない…痛みと恐怖のせいで。

 

 

おそらくもう勝ちの芽はない。ゴライアスが僕をどれ位弄ぶかは分からないが最後には殺されるだろう。

僕は揺らされ過ぎてまともな思考ができなくなった頭でぼんやりとそう考えていた。

 

僕を見下ろすゴライアスはにやっと笑い僕の反対を向く。

 

何処に行くつもりだ?そっちに何があるんだ?何故僕を殺さない?

 

ゴライアスが目指す先には岩があった。そこら辺にいくらでも転がっている岩。

アイルが陰にリリアを放り込んだ岩。

 

まさか…リリアを!?

 

「…や……め……」

 

ゴライアスを止めなければ。

無理に声を出そうとした僕は喉に溜まっていた血塊を吐いた。吐いた血は先に流れ出た血と合流し、血だまりを少し大きくする。

寝っ転がっている場合ではない。ゴライアスを止めなければリリアは殺されてしまう。

軋む体に自分で渇を入れ、無理矢理立ち上がる。

 

「やめろっ!!」

 

みっともなく血を撒き散らしながらあらん限りの声で叫ぶ。痛みを忘れ、怒りだけで体を動かしている状態。

 

ゴライアスはリリアを狙うのをやめ、こちらを向いた。先程とは違う雰囲気。嘲るのをやめた本気の殺意。

ゴライアスは拳を振りかぶる。止めを刺すつもりだろう。

僕は走り出す。不撓不屈(スキル)によって更に強化されたステイタスは先刻よりも遥かに上の速度を実現していた。

通り過ぎた腕を見ると僕の剣が突き刺さったままだった。半分ほどまで斬った筈なのにその痕がない。

 

「…自己再生(リジェネレート)か…」

 

自己再生(リジェネレート)…その名の通り損傷(ダメージ)を自動で回復する能力。

自己再生(リジェネレート)を持つモンスターを倒すには魔石を狙うしかない。魔石を破壊すればどんなモンスターでも活動を停止する。既に魔石の場所は確認済み。後はどうゴライアスの硬い肉を破るかが問題だ。

頭から流れる血を拭うと視界が晴れた。相棒であるナイフを探す。黒に近い岩の地面の中で鈍色に輝き存在感を放っている相棒は僅か数M(メドル)先にあった。

ゴライアスの拳を避けながらナイフに駆け寄る。いちいち屈んで拾い上げている暇はないので前転しながら拾う。速度を殺さないように走り続けながら手の中でナイフを回して逆手に持ち変える。

ゴライアスの巨腕は相変わらず何の芸もなくただ振られているだけ。しかし、その威力の凶悪さは我が身を持って知っている。

ゴライアスの拳を上体を反らすことでギリギリでかわし、逆手持ったナイフを突き立てる。上体を起こしながら力を込めたナイフはゴライアスの外皮に僅に傷をつけた。

しかし、それだけ。確かにステイタスは跳ね上がっているが肉を抉るにはまだ足りない。せっかくつけた傷もほんの一瞬で回復されてしまった。

ゴライアスの伸びきった腕が真横に振るわれる。それだけで僕の体は面白いように宙を舞った。血が空中で撒き散らされて真っ白な17階層に彩りを与える。周りを見渡すと流れた血があちらこちらに散らばって、奇天烈なアートを作っていた。

血を流しすぎている。毎秒ごとに体が重くなっていくような感覚。いっそ眠ってしまえと悪魔の声が聞こえてくる始末。

それでも諦めることはできない。敗けを認めれば『決着』が着いたことになり、不撓不屈(スキル)の効果がなくなって意識が落ちてしまう。そしたら僕は殺されリリアも殺されてしまうだろう。

それは認められない。例えどんなに痛くたって、みっともなく血を撒き散らしたって(リリア)だけは助けなくては。

 

ゴライアスの攻撃を避けて、防いで、弾いて…向上したステイタスは僕とゴライアスに僅かな拮抗をもたらした。避けるしか出来なかった攻撃を受けられるようになり、弾けるようになり、勝負が一方的展開から対等なものに変わる。

しかし、長くは続かないだろう。出血し過ぎた僕は既に動かなくなっていてもおかしくない状態だ。もって後数分といったところ。それまでに奴の魔石を砕かなければいけない。

残り少ない血を頭にまわして考える。

ステイタスは届いている。しかし、相手の防御は突破できていない。ならば技で、経験で、作戦で勝てばいい。ベル()がそうしてきたように、数々の英雄がそうだったように。

そろそろ本当にヤバい。足元がおぼつかなくなってきた。激しい運動をしている筈なのに体は妙に寒い。出血で気を失うことはないが死にはする。

 

 

 

おかしい。今にも死にそうで、怖くて怖くて仕方ないのに、楽しくてしょうがない。

気でも触れてしまったんだろうか?

いや、違う。そうか、このワクワクが冒険ってことなのか。

今までにない窮地。格上に単体で挑む恐怖。死と隣り合わせで戦う高揚感。

これが本当の冒険か。これが英雄の戦場か。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は今『冒険』している。

 

 

 

 

 

ゴライアスの表情からは既に嘲りは消えていた。 嘲りは焦燥に、焦燥は疑問に、疑問は恐怖にと忙しく変わり、今は気味悪さに落ち着いていた。

当たり前か、血まみの子供が自分に向かってくるのだから。何度打ち払っても立ち上がり、血を振り撒きながら襲いかかってくるのだから。打ちのめせば打ちのめすほど強くなっていくのだから。

 

さすがに限界だ。決着をつけよう。

限界まで細分化された意識でそう思った。極限の集中状態で次の次の次まで読みきる。ゴライアスの拳がやけにゆっくりに感じた。

 

「ケラヴィス!」

 

速攻魔法の五連射。発生した雷撃をゴライアスに向かって放出………せず、ナイフに押し込める。

『ケラヴィス』は本来付与魔法ではない。だから、これは本来あり得ないなはずの使い方。雷をナイフに押し込み精神力(マインド)で無理矢理押さえつけているだけ。集中を切らせば空気中に霧散してしまうような状態。

魔法に集中しながらもゴライアスの相手をしなくてはいけない。迫るゴライアスの拳をもう一度避ける。今度は横ではなく上に。地面に刺さったゴライアスの腕に乗り顔に向かって疾走する。

巨人の腕を走る少年。まるで物語の主人公のようだ。僕は今、このときだけは英雄なんだから。

 

とはいえ、なにもせずにやられてくれるゴライアスではない。左手で右肩の僕を叩き落とそうとしてくる。当然避ける。もう一度上に。

勢いよく跳ねた僕はそのまま天井に張り付く。ゴライアスの腕の届かない場所(間合いの外)

 

「ケラヴィス!ケラヴィス!ケラヴィス!」

 

これ幸いとばかりに怒涛の連射を行う。一撃も漏らさずにナイフに打ち込み、閉じ込めていく。本来鈍色の刀身は青白く光っている。バチッ、バチッ、っと音をたてながら解き放たれるときを待っているようだ。

下を見るとゴライアスもこちらを見ていた。右腕には僕が走った証拠の赤い線がついている。

 

ゴライアスが口を開ける。『咆哮(ハウル)』の準備だ。質量を持った音はこの距離でも容易く届く。地面に足が着いていない今の僕ではかわせない。

ゴライアスは自らの十八番(おはこ)をこのときのためにとっておいたらしい………僕の読み通りに。

 

天井を強く蹴りつける。跳躍ならぬ墜落。スキルによって超強化されたステイタス、プラス重力によって加速した僕の体は、一瞬で音速の壁を突き破りゴライアスの口の中に突っ込む。大魔法にも届くほどの雷を纏いながら落ちるその姿は神の怒り(落雷)のよう。

神雷の英突(アルゴ・ケラウノス)』。今の僕の全力の一撃。

硬い体を突き破れないなら直接体内に全力の一撃を。

ゴライアスの体内で魔石に突き刺さったナイフは膨大な青雷を流し込み、一瞬の抵抗も許さず砕く。

 

ゴライアスを縦に貫通して地面に降りると体から力が抜けていく。ふと右手のナイフを見ると刀身が炭化していた。パラパラと崩れていく。

 

「今まで有り難う『小さな牙(リトルファング)』…」

 

 

 

 

 

崩れ去った相棒に深い悲しみを抱く。リリアは無事だろうか?リーユ姉さんとティオ、心配してるだろうな。ホームに帰って暖かいご飯が食べたい。

色んな想いが溢れて駆け巡って、纏まらない。

 

ゴライアスが崩れて煙のように消え去った。僕の横に大きな魔石が落ちてきて、僅に遅れてデスペレートMK2(マークツゥー)が落ちてきた。

意識が落ち始める。決着がついたからだ。眠りに落ちるような、闇に飲まれるような、そんな感覚。

 

18階層へ続く穴に積った岩が吹き飛ばされるのを見て僕の意識は完全に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レベルアップおめでとー」

 

派手なクラッカーの音と共にファミリアの団員が一斉に声を上げる。

 

いつもはバラバラの夕食も今日は一緒だ。自惚れでなければ僕は愛されているのだろう。

 

 

 

今回の一件の落ちを話すと、僕が気を失う少し前にリーユ姉さんとティオが心配になって17階層に来たところ、17階層が瓦礫に塞がれているのを発見したらしい。焦ったリーユ姉さんが詠唱破棄(スペルキャンセル)魔道具(マジックアイテム)まで使って魔法を発動し瓦礫を吹き飛ばしたところ、血まみれで倒れる僕を発見して慌てて回復薬(ポーション)を大量に飲ませたらしい。

その後、リリアも無事発見して地上まで戻ったそうだ。

リリアはその日のうちに目が覚めたが、僕は次の日の夜まで眠っていた。

目が覚めた後はリーユ姉さんにこっぴどく怒られ、そして誉められた。嬉しくもあり、ちょっと照れくさくもある。

リーユ姉さんに怒られた後は抱きついてくるティオをかわしてながら神様のところに赴き、今回の事の顛末を僕の口から説明し、その後ステイタスの更新を行った。

そこでレベル5になり、その次の日である今日、こうして仲間内でお祝いをしているというわけだ。

お祝いはホームの食堂で行っているが、ヘスティアファミリアは料理をできる人間が致命的に少ないため、祝われる側の僕まで準備に駆り出されるという珍事があったが、概ね順調に執り行われている。

 

夜中に明かりをつけて馬鹿騒ぎしているヘスティアファミリアは、静寂な夜のオラリオに少しばかりの活気を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たかしらオッタル…

あの子(アイル)の輝きを」

 

「はい、しかとこの目で」

 

アイルは勇猛な冒険者だった。あの場で最も輝く英雄の原石だった。

オッタルの予想を上回り、単体で『漆黒のゴライアス』を少しばかり強化したもの(・・・・・・・・・・・・)を討伐してしまった。自らの主神の慧眼に今一度平伏するばかりである。

 

「どう、オッタル?貴方から見て、あの子(アイル)は英雄になれそう?」

 

「…はい、

父に勝るとも劣らない輝き、まさに英雄の気配だったかと」

 

アイルの才能と努力には敬意を評するが、やはりオッタルの中で最も重要なのは主神(フレイヤ)だ。正直に答えざるを得なかった。

 

 

 

それがアイルに苦行難行をもたらすと分かっていても。

 

 

 

 

 




アイル・クラネル Lv,5
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0
魔力:I0
幸運:G 対異常:H 逃走:H 治力:I

《魔法》
【ケラヴィス】
速攻魔法

《スキル》
英雄ノ子(クラネルブラッド)
・格上と戦う際、ステイタス中上昇
・『守る』ために戦う際、ステイタス超上昇
・早熟する
不撓不屈(アイアンスピリット)
・戦闘開始後、決着か逃走が成立するまで意識を失わない
損傷(ダメージ)を受ける度、全アビリティ高補正
万事幻視(ファントムアイ)
・透視と遠視が可能
神速兎(スピードスター)
・戦闘時、敏捷のアビリティ高補正

神雷の英突(アルゴ・ケラウノス)
アイルが咄嗟に思い付いた、所謂必殺技。
魔法をナイフに無理矢理蓄積(チャージ)して突進する。
全体的に火力の低いアイルの中ではダントツ一位の火力を誇り、単純破壊力ならレベル6の大魔法に匹敵する。

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