高所のビルを陣取ったフラウロス。
然し、彼女の主武装は取り回しの悪いレールガン。
しかも、装填には時間がかかる。連射ができないという弱点は知っている。
ド派手に見えやすいビルの屋上。尾っぽを中心に全方位をカバーできる。
例え側面に迂回するとしても高低差は覆せない。
(接近する前に叩き潰す)
そう、活路は一つ。
一撃で死ぬなら、一撃で殺す。
まだ、弾数には余裕だってある。
油断せずに行こうと、アリアは注意深く探しながら身を退いて装填する。
一方、ジュアッグは忙しなく移動しながら接近を試みる。
足元にさえ突っ込めば、自慢のレールガンも使えまい。
正面からビルを壊すには火力が足りない。射程も足りない。
背面のミサイルは使いきった。そもそも、あれは長距離を支援する武器。
メインには想定しない。ならば、どうする?
如何にして、あの高所に反撃する。動くまで待つか?
持久戦、彼女も当然予想はしているだろうが、焦れて動くか分からない。
様子見のガチムチ、装填して再び顔を出すアリア。
初手からぶっぱなす彼女にガレムソンとミュウは、感想を言う。
「こりゃ、持久戦だと思うぜ? お前は?」
「弾数が尽きるまで待つのが妥当じゃない? けど、追い出すことも出来ないこともない」
「……あ?」
ミュウは笑って言った。あのビル、無理矢理上れないのは分かる。
ジュアッグにはスラスターの類いはほとんどついていないと言っていた。
地上や局地戦闘において、スラスターに万が一雪、泥、砂などが入ると不調で動けなくなる。
故に、ジュアッグは純粋にローラーのみで稼働しているらしい。結構大胆な加工をしたと思う。
要するにそれも一種の特化。地上の上なら機動性も運動性能も高い柔軟な動きができる。
全方位の補助輪のおかげで、急にサイドに避けることも可能だ。
逆に言えば、転倒すると終わる。自力で起き上がるスラスターしかないので。
倒れた瞬間、攻撃されてお陀仏だ。
かなりピーキーな仕上がりになっているが、この場合は果たして。
立地をよく見ろとミュウは言った。高いビルの足元には、小さい建物が並ぶ。
徐々にビルに向かって高くなっているが、然し天辺には程遠い。
「どういうことだよ?」
「見てれば分かるよ。多分、ガチムチも気付いている」
と、朗らかに笑っていた。
見れば、ガチムチはすっ飛ばして転がっていた瓦礫を足場に大きく加速して飛翔。
狙っていたアリアがダインスレイヴをぶちこむが、移動してしまった後には空振りで外れた。
爆風だけが、ジュアッグの背中に当たって、舞い上がる。
逆に利用され建物の屋根に着地。壊しながら強引に足元に迫るため突っ込む。
危険と思ったアリアは直ぐ様装填しているが、間に合わない。
結果、ジュアッグは両手の五連装の320mmのキャノンを放つ。
ビルの外壁に穴を開けて、勢いをそのままに一気に破壊しつつ駆け抜ける。
「あ、嫌な予感」
ガレムソンも分かった。あいつ、そう言うことか。
因みに、ジュアッグには腹の前面に、レーザーを放つ口がいくつかある。
前後左右、かなりカバーできるそれは、フラウロスには効かないが建造物の破壊には持ってこい。
慌てて顔を見せたフラウロスが見たのは。
「どりゃー」
棒読みで滑走をして、ビルの内部に飛び込もうとするジュアッグ。
ビルの中腹に大穴を開けて内部に侵入。そんでもって。
「そこから降りろー」
腹のレーザーを上に向けて、建物を融解させ始めた。
柱を片っ端から溶かして、なんと足元を崩そうと言う方法だった。
真下に行くと、ハシュマルの尾っぽを命綱に、ぶら下がったフラウロスに諸とも自爆されかねない。
アリアの怖いところは、追い込まれると何するか分からないところ。
故に、自爆だと面白くないのでしっかりと対応。
なので内部に入ってそのものをめちゃくちゃに破壊して、逃走。
「ちょぉ!? 何してくれんのあいつ!?」
慌てるアリア。足元がぐらぐら揺れ出した。
ジュアッグ、レーザーで周囲を誘拐させて止めに数回ぶちこみ撤退。
ちゃんと降りられる高さに飛び込んだ。なのでふらつくが着地成功。
ビルは地響きを立てて崩壊していく。熱線を浴びてドロドロに溶けた箇所から折れるように倒れる。
尻尾を巻き付けたせいで対応が遅れるが、何とか回収、直ぐに飛び出す。
……が。
「うわあああああーーーー!?」
アリア絶叫。視界が引っくり返っていた。
それはそうで、フラウロスはレールガンを下に向けて落っこちていた。
飛び出すときに足場が崩れて失速、方向転換をしてしまったせいだ。
慌てて、空中でダインスレイヴを放った。
「機転が効くな……」
「みたいだね」
反動で無理矢理身体を起こして、スラスターを吹かして速度を殺す。
だが、その空中の対応は隙しかない。
遠慮なく、射程に入ったジュアッグが主砲を放つ。
攻撃できない下方、右舷から。
ここが弱点。ミュウはガレムソンに言う。
「フラウロスの弱点。多分、レールガンの攻撃範囲は上下の角度だけ。後ろもそう。だから、尻尾が届かない状況と距離、正確に言うと真正面、高度の高い直上、あと空中は無防備になる。陸上でも、真正面と高度の高い直上は、弱点だと思うよ」
成る程、と撃たれて硝煙で見えなくなるフラウロスを見てガレムソンも観客も頷く。
フラウロスは基本的には遠距離の武器しかない。
それを、ハシュマルの尾っぽでカバーしても、範囲は広いがあくまで至近距離。
その近距離も真正面はレールガンの死角で、尻尾も届かない。
真上もレールガンやショートキャノンの角度が死角なので反撃できない。
更には、空中では言うまでもなく無防備。もっと言えば、真横も届かないなら一方的に攻撃できる。
なので、ビルを破壊して空中に誘き出すのは持久戦よりもリスクは高いが、面白い。
試合じゃないのだ。どっちを選ぼうが、通用するなら関係ない。
「うわぁ、フラウロス墜ちたみたいだな」
砲撃を受けすぎて、レールガンが爆発。破壊された。
結局堅牢なのは本体だけで、武器にはビームも通じるし物理も効果はある。
オルフェンズのガンプラも無敵じゃない。公式に弱点も設定されている。
誘爆すれば、この通り。
「レールガンが死んだか……。やってくれんじゃん?」
墜落して執拗に砲弾を受けていたアリアは、何故だか嬉しそうに……同時に、また苛ついたように舌打ちしながら立ち上がる。
煙を切り払う尾っぽ。姿が見えたが、砲身がへし折れて見事に壊れていた。
然し案の定、本体はあまり効いていない。武器は死んだだけ。
「意外と上手くいくもんだ。自分でもビックリ。机上の空論だと思ってたけど」
「えげつないねえ……だからこそ、腹が立つってもんだよ!!」
ジュアッグと真正面から、向き合う。
互いにイーブンとなった。即死の主武装の破壊のフラウロス。
そもそも本体にはあまり意味のないジュアッグ。
瓦礫の街の大通りで対峙する。
「こうでなくっちゃね、戦いは。絶対ジュアッグぶっ壊して、如雨露にしてやる」
「おっかないな。そう言うの言ったらダメだよ」
忌々しいのか、アリアは口がかなり悪くなってきた。
だが、闘志は十分あった。降参など無粋。死ぬまで殴りあうと。
「そんじゃ、いっちょスナイパーの戦いを見せてあげるよ!!」
狂暴な顔で叫び、アリアは驚愕の行動に出た。
何と、不機嫌そうに振り回していた尻尾で、壊れたレールガンを後ろから切り飛ばす。
それを切り捨てて、駆け出した。
瓦礫を飛び越え、跳躍。街中に消えた。
「重くなる部分を捨てる。いい判断」
「何だよ、あいつ基礎的な知識はあるじゃねえか」
邪魔な部分を廃棄して軽量化を狙ったのだ。
ミュウは上出来と褒めて、改めて楽しみとガレムソンは呟く。
追いかけるジュアッグに、先に逃げたフラウロスは大きく逸れて、奇襲をかける。
レーダーで見えているが、振り向前に。
「!?」
フラウロスの尾っぽが、建物を粉砕して散弾にして、ジュアッグに喰らわせる。
目潰しと足止めか。止まらず怯まない。だが、フラウロスもバカ正直に突っ込んできていた。
大きく体躯をあげて、鋭い前足をジュアッグの分厚い装甲目掛けて、上半身から突っ込む。
砲撃をさせる間もなく、前足の爪が深々と突き刺さった。
負けじとジュアッグもレーザーで前足の付け根、所謂関節を狙うも保護されていて通じない。
十の爪が食い込み、後ろ足で立ち上がったフラウロスは、両脇から挟み込む五連装の主砲を迎撃。
右からすっ飛ばし、然し左で直撃、削っていた身体が少し揺れた。
(その至近距離なら効いたでしょ!!」
レーザーで保護している装甲を高熱で無理矢理焼いている。
まだ、時間が足りない。保険でやっていることなので、これで壊れれば。
と、思うが……。
「効いてないよそんな攻撃ィ!!」
半分後ろ足が焦げて半壊しているくせに、強気のアリアは強引に爪を押し込んでいく。
で、尾っぽが残った腕も切り払う。主武装、喪失。ジュアッグがピンチに……。
「それはどうかな、アリア!」
ガチムチも笑った。その頃、アラートが鳴った。
何かと思えば……。
(ナノラミネートが、レーザーで溶けてる!?)
自慢の装甲が、ゲームの仕様で熱に弱いと知らないアリアは過信して放置したせいで、此方も融解寸前。
前足が、そのまま腹部のレーザーで焼き切れて、食い込んだまま解離。
足を失い、崩れるフラウロス。相手もスパークして漏電していた。
「まだまだ、私には尻尾がある!!」
だが、アリアが言う通り尻尾で続行できるフラウロスに対して、
「その前に!!」
何とジュアッグ、追加の頭部バルカンとレーザーを溶けているフラウロスの頭に照射。
ここは、作り込みが甘かったのか顔だからか知らないが、呆気なく溶けて銃弾が撃ち込まれた。
同時に、最後の力で振るった尻尾でジュアッグの脳天を叩き割った。
頭から倒れた内部にレーザーの高熱と銃弾が入り引火。
重なるように、ジュアッグが豪快に真っ二つに上から切断されて、爆発。
……試合終了。この勝負は、ドロー……相討ちだった。
「おぉ、すげえ!! ガチムチ相討ちだぜ!?」
「……凄かったね」
不利かと思ったガチムチの奮闘あって、ガレムソンが驚く通り引き分け。
ミュウは、フラウロスの補強を教えようと、今回の互いの健闘を称賛していた。
見物客も面白かったと告げて帰っていった。
少しして、戻ってきた地団駄のアリアは悔しそうにガチムチに突っかかる。
「次は勝つよ、絶対。相討ちとか、悔しいじゃん!!」
「そうだね、次も頑張るよ」
なんだかんだ、楽しそうな空気で帰ってきた。
その日は満足して、皆で戻って眠った。
百合の次の戦いは、特訓相手の親友になるのだった。
ガンプラバトル、どうたった百合?
……相討ち? なら、次は頑張りましょ。
それは、良いのだけど……面倒なことになったわね。
なに、この柄の悪い高校生……チンピラ?
私たちに、因縁つけてきた。どうしよう。
ガンプラに負けた腹いせ? いや、私達今来たところなのに!?
ちょっと、何なのよもう!? 止めなさい、止めて……!!
……って、あれ? 何この男の人達は?
次回、ガンダムビルドオーバーワールド。
『女学生に手を出すな』
あっ、えっ、リアルファイト!?
皆さん落ち着いて、ちょっと!!