RAS会議風景   作:本醸醤油味の黒豆

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会議は踊る、されど進まず

 RAISE A SUILEN──それは現在RoseliaやAfterglowといったバンドが台頭し覇を競い合うガールズバンド時代に終止符を、そして新たなジェネシスとなるべきガールズバンドグループ。

 新たな時代を生み出す異端児五人組は、普段から使用しているスタジオで顔を突き合わせていた。

 個性豊かで演奏の経験や個々の技術力が突出しているメンバー五人、当然、打ち合わせの衝突は避けられるわけもなく。

 

「⋯⋯チュチュは、間違ってるよ」

「What's? 一体何が間違ってるのよ」

「そうですよ! チュチュ様が間違ってるわけありません」

「パレオは黙ってて」

 

 ベース&ボーカル、和奏レイ(レイヤ)。RASの顔とも言うべき彼女の鋭い眼光と口を挟ませないとする凄みに、キーボード担当の鳰原れおな(パレオ)は恩人でありご主人様でもある彼女のために立ち上がった姿のまま気まずそうに口を閉じた。

 

「RASは、レイヤの歌は今の時代を変えられる! ワタシのプロデュースがあれば! 間違いなく!」

「だとしても、だよチュチュ」

「こ⋯⋯のっ!」

「やめなよ」

 

 ヒートアップしていくプロデューサーでありまたRASのDJでもある玉出ちゆ(チュチュ)と静かな炎を燃え上がらせるレイヤに冷水のような冷たい声で口を挟んだのは、ドラマーの佐藤ますき(マスキング)だった。吊り目がちで、ともすれば不良のようなアウトローな雰囲気を纏わせる彼女に対し、チュチュは不本意ながらも黙らざるを得なかった。

 

「喧嘩するなら今日の打ち合わせは解散だな」

「え、えぇー⋯⋯ま、ますきさぁん」

 

 ため息混じりにナイフのような言葉でバッサリと二人の喧嘩を勢いを削ぎ落としていくマスキングに、隣に座っていたギタリストの朝日六花(ロック)があわあわと四人を見渡していた。

 だがロックの心配は杞憂であったように、立ち上がっていたチュチュが着席し、ようやく話を訊く姿勢を作った。

 

「⋯⋯どうして? 何が不満なの?」

 

 ──重い沈黙と共に、レイヤに四人の視線が集まった。不安、怪訝、そんな感情の波を受け取ったレイヤは息を少しだけ吸い込み、私はと切り出す。チュチュならば受け止めてくれると信じて。

 

「チュチュが思うキャラと違うよね」

「え?」

「あ?」

「ふぇ?」

「⋯⋯はぁ?」

 

 どんな想いがあるのかと身構えた四人は肩透かしを食らったようにその表情を歪めた。しかし当のレイヤは先程のシリアスな雰囲気を何処に忘れていったのかと思うような表情で、だって、と言葉を続けていく。

 

「え、私ってチュチュから見てこんな感じなの?」

「⋯⋯あの、ロルプすればいいのでは? チュチュ様だってそういうつもりだったのではないでしょうか」

 

 先程黙っていてと言われた手前であるため申し訳なさそうに手を挙げ発言していくパレオ。今度は突っぱねるのではなく、パレオの発言を噛み砕き、そして首を傾げた。

 

「⋯⋯ロルプ?」

RP(ロールプレイ)、つまりはキャラを作ればいいのよ!」

「難しいなぁ」

 

 呑気な反論にチュチュが唖然と口を開けた。レイヤのクールな声に最適な、それでいて他の主要なガールズバンドに負けない個性を、と編み出したプロデュースを本人がまるで理解していないという、ベクトルは違うものの仮歌の収録現場で見つけた衝撃に近いものをチュチュは感じていた。

 

「ロックを見習いなさい!」

「わ、わたし⋯⋯?」

「普段はこーんなに大人しいロックが、ライブでどんなCRAZYなことをするか、知ってるでしょ!?」

 

 急にやり玉にあげられたロックは再びあわあわとし出してしまう。レイヤが顎に手を当て確かにと呟き、チュチュがでしょう? と誇らしげな顔をする。パレオは当然、いつもと同じようにチュチュの言葉に全力で頷いていた。

 

「ま、ますきさぁん⋯⋯」

「⋯⋯! ま、まぁ、コイツの場合は役を作ってるわけじゃないだろ」

「マスキング⋯⋯」

「ますきさん⋯⋯」

「なんだよ」

 

 見た目に反して趣味はケーキ作りでかわいいものが好き。愛用の赤いスカジャンにも耳の長いうさぎが描かれている。そんなマスキングは実のところかわいらしい見た目のロックがお気に入りだった。

 首を傾げたレイヤは無視し、特にパレオに向かってマスキングは人差し指を向けた。

 

「だいたいお前に言われたくないんだけど?」

「ぱ、パレオは純粋にチュチュ様を敬愛しているだけですっ」

「⋯⋯この間ロックに氷川日菜とコンタクトが取れないか交渉していたって聞いてるけど?」

推し(パスパレ)への愛とチュチュ様への愛は別です!」

 

 ツートンに染めたツインテールを振り乱しながらパレオはマスキングに反論する。だが全く堪えていない様子のマスキングは、パレオの語るオタクとしての矜恃を鼻で笑った。

 

「個人で推しとお近づきになりたいって⋯⋯オタクとしてどうなんだろうな?」

「うぐっ」

「そういえば、花園たえ(はなちゃん)が白鷺千聖さんと仲良しだって話に羨ましがってたような」

「レイさんは黙っててください」

 

 痛いところをつついてしまったことで意趣返しをされたレイヤがその圧力の前に屈し、若干いじけたように椅子の上で膝を抱えてフェードアウトしていくのを見たチュチュがややクールで上から煽っていくようなキャラ性はミステイクだったのではと思い直した。

 

「⋯⋯ああ、結局なんもきまらん⋯⋯ま、ますきさん」

「そうだな」

 

 収拾がつかなくなってきた上にそろそろタイムリミット、ということもあり、ロックの助けを求める声にマスキングが立ち上がった。

 膝を抱えていたレイヤも含め全員の視線がマスキングに集まる。個性豊かで、ともすれば音楽以外が壊滅しているような問題児の中で恐らく最もマトモな感性を持つマスキングは、満を持して一言を放った。

 

「解散!」

 

 RAISE A SUILEN──それは現在RoseliaやAfterglowといったバンドが台頭し覇を競い合うガールズバンド時代に終止符を、そして新たなジェネシスとなる()()()ガールズバンドグループ。

 新たな時代を生み出すことを目標に革命の旗を掲げる彼女たちの打ち合わせは⋯⋯こうしてまた、なんの収穫もなく時間を浪費していくのだった。

 

 

 




解散! って言わせたかっただけ


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