蓮子と◯◯◯   作:北楽

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7日目 蓮子とヒロシゲ(裏)

 バスからひび割れたコンクリートの上へと、軽い足取りで降りる。時計を見ると時刻は午後四時半、そろそろ夕刻に差し掛かろうとするこの時間帯に、東京ー京都間を繋ぐヒロシゲの出発駅へと私達は到着した。

 昨日と同じ京都と比べて歴史を感じさせる建物に挟まれた駅の方へ、私達は体を向け歩き出す。

 半年ぶりの帰郷だったが来ようと思えばいつでも来ることができる我が故郷を名残惜しい、と思う気持ちはあまり無い。むしろ僅か一日離れていただけなのに、京都を恋しく思う気持ちの方が強いようにも感じる。

 隣で歩く風に混じった排気ガスの匂いに顔を顰めているメリーを見て苦笑いをする。

 

「頭ガンガンする…もう来ない…」

「ん、どっちかというとメリーの思い込みが激しすぎるだけだと思うんだけど」

 

 頭を押さえながらふらふらと歩くメリーに肩を貸しながら 卯東京駅地下のホームへと足を進めて無人の構内を歩く。

 この時間帯、人は少なくなる時間ではある。あるが一っ子一人いないのは珍しいなと思いながら、私達以外誰もいないホームを眺めながらヒロシゲが到着するのを待つ。

 昨夜の少女から逃げる際、帽子を落としてしまったため少し寂しくなった頭に手をやりながら私は夜の事を思い返す。

 あの夜、何とか逃げ切り帰宅して幸い私の親が起きる前に部屋へと帰還したため私達の活動ばれることが無かった。

 夜中の冒険で寝不足だった私達を見て不審そうだった家族の眼を誤魔化し、朝ごはんを食べ部屋に戻った。

 そして仮眠をとる前に記憶の中に残っている間にあの施設で起きたことを文字で記録していたのだ。

 何で私は最初あの少女に気付けなかったのか、少女の正体、明らかに殺意を持っていたのに最後消えてしまった理由など、様々なことを話し合っていたらいつの間にか京都に帰る時間となってしまった。そんなこともあり眠ること叶わず、今こうして眠気に抗いながらヒロシゲを待っていると私の耳に電子音声からの知らせが聞こえてくる。

 

「あっ、そろそろ来るみたいね」

「ふぁ……んー、本当? この分だとヒロシゲの中で寝ちゃいそうね」

「そうね、53分だとあっちについてもまだ眠気が残っちゃうだろうしもう少し長く運航してくれないかしら……ああ疲れた」

 

 目の前に到着したヒロシゲのドアが開き、降りる人の居ないその列車に私達はのそのそと乗り込んだ。

 ずらりと並ぶ席の間を抜け一部に備え付けらえている個室に入る。

 座席に座り扉を閉じると周囲のカレイドスクリーンに光が灯り、内装が古い時代の列車のようになって窓の外が田園を映し出す。

 京都近辺では見ることのできなくなったその光景にいつもなら多少なりとも哀愁を覚えるものなのだが、眠気に囚われた私達は残念ながらそれを気にすることなく手荷物を下ろして席に倒れ込む。

 同じ様に倒れ込んだメリーと支え合うように席にもたれ掛かり、目蓋を閉じようとした所でメリーが不安そうに声を上げる。

 

「ねえ蓮子、今寝たらあっちに着いても寝過ごしちゃわないかしら?」

「……あー。まあ着く前にアナウンスが鳴るしどっちかが起きていれば多分大丈夫でしょ、うん。おやすみメリー」

「そうね……おやすみ蓮子」

 

 そう返し返されて再度目蓋を閉じる。

 疲れているとは思ったがその疲労は予想以上に大きかったのだろう。 

 眼を閉じた瞬間眠気が一瞬にして私達を包み込む。ガタンゴトンという電車のスピーカーから流れる音、そして隣で同じく眠るメリーの存在を意識の片隅で感じながら私達は深い眠りに落ちるのであった。

 

 

 

 

 メリーは夢の中で色々な場所へ行くらしい。

 別にそれ自体はそう珍しいモノでは無い。寝る前に読んだ本とかいつも夢想している世界とか、そういった印象に残っていることをあたかも現実のように感じる体験。それが夢であるからだ。

 もちろんそれは只の幻覚だ。現実ではありえない事を体験して。起きた時にはぼんやりと怖かったなぁとか何かいい夢をみたなとか。そんな事を考えて私達はたいていの夢を忘却して現実へと戻っていく。

 ──―でもメリーは違う。彼女の夢には現実との差異が殆どないのである。

 例えば紅い館、どこかの竹林、羽の生えた人が飛び交う山々他にも様々な所へと、果たして眼の力なのだろうか? 彼女は夢で訪れ、そしてその証を持ち帰る。

 普通に考えればおかしな話だ、自分の頭の中にしか存在しない夢の中から物品を持ち帰るとは。私もメリーが普通ではないことは理解していたが、実際その証を見せられた時は物理学に反しすぎたその出来事に頭を抱えた。

 

 それ自体も不思議ではあるが、それよりも気になっているのはその頻度である。メリーとは半年以上前に出会い彼女の見た夢の話をしてきた。そんな事を幻想の桜を見る前はひと月に一度あるかないかのペースで行っていたのだ。

 そしてあの桜を見た後、そのペースは一、二週間に一回と今までの倍以上に増えている。

 それが嬉しくないとは言わない。現実にはありえない物を確認できるのは秘封倶楽部の活動として喜ばしいことではある。しかし、だからといってメリーへの心配は別だ。何が起こるかわからない常識外れな世界、そんな所へと訪れる彼女への心配と羨望そしてほんの少しの嫉妬。

 そんな複雑な感情を抱えながら私は今も秘封倶楽部によってメリーと結界暴きを続けている。

 

 

 

 

 ガタンという音と共に列車が揺れる。

 

「……駅へと間もなく到着いたします。お降りの方はどうかご準備を──」

 

 大人びて澄んだ女性の声による音声が聞こえて、私の意識が現実へと引き戻される。

 何かの夢でも見ていたのだろうか、頭につっかえて残っている原因不明のもやもやを振り払って気分転換に深呼吸をする。

 窓の外を見ると映し出されていると田園から少々古めの一軒家や小さめのビルが立ち並ぶ、小都市のような場所へと映し出される風景が変化している。こんな景色設定はあっただろうか?と首を捻りつつも私の肩に首を預けて寝ているメリーを、目を擦りながらも起こす。

 

「ほらメリー、もう京都に着いたわよ」

「ん……もう? 寝足りないし後二時間、あと一往復くらいヒロシゲに乗っていかない?」

「バカこと言ってないで、早く降りる準備をしないと」

 

 荷物を持ち右手にあるドアを開ける。

 メリーを引っ張りながら駅のホームへと続く電車内の廊下を歩く。

 そうして眠りに落ちそうなメリーを支えながらなんとか外へと出てホームを見渡すと──────この科学世紀の京都ではありえない、先ほどのスクリーンに映し出されていた小都市の中へと私達は降り立っていた。

 

「──────へ?」

「んん、どうしたの? 蓮子──────」

 

 眼を見開く。私も隣に立つメリーも、眠気など一瞬で吹き飛んだかのようにして辺りを見渡す。 

 後ろを振り向くとヒロシゲは確かに存在しているが、ヒロシゲは地下を走る列車であり地上に出てくるなどありえない。

 もう一度周囲を見渡す、古めかしい無人駅の周辺にはおそらく明治時代あたりだろうか? 私達の時代からすれば数百年近く前の家屋が立ち並んでおり、その所々にその雰囲気にはミスマッチであるビルが生えている。

 道路にはコンクリートが敷かれており、そのくせ車は牛車や人力車しか走っておらず普通のいわゆる四輪の車というのは殆ど見当たらない。

 見覚えの無い店名だが幾つもの店が展開されている中型のビルの隣で、本来それに駆逐されるはずの八百屋や魚屋が店を開いている。

 そんなおかしな場所から目を離しさらに遠くを見ると山々がこの都市を囲んでいるように広がっており、そして私の眼が空を視て──宙を舞う人々の姿を目に捉える。

 

「──────」

 

「お客様にお知らせします。この列車はおよそ一時間後に酉京都へと出発します……」

 

 後ろから聞こえるアナウンスも気にせず耳を澄ますと祭囃子の音。見ると人々が舞うそこには神輿が存在しており、お祭りでもしているのだろうか? この都市の規模からすれば十分沢山の仮装をした人々がそこに集って、その喧騒が響いている。

 唾を飲み、沸き上がる興奮を抑えようとする。

 茜色の日を背に受け、眼前に広がる昨夜の体験にも匹敵するほどの不思議な光景を見て確信する。

 昨夜の廃施設に引き続く不思議な体験。理由はまだ分からないが私はメリーと共に、この夢のような世界へと迷い込んだのだと。

 


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