TS魔王が死にたくないのでヒロイン目指す話   作:まーぶる*

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魔王、生きます!!

 前世は特筆するべきことがない人生だった。のでここでは省略させていただく。

 しかしその取るに足らない短い生涯の記憶が残ったまま、“別の生”が始まったというのはどういうことなのだろうか。

 しかもそれが前世では一世を風靡した大作RPGの世界だった、ということはどういうことなのだろうか。

 

 ……いや。世にはシミュレーション仮説だのがあるわけだ、こういったことも珍しくないのかもしれない。

 たとい夢であったのだとしても、それはそれで説明はつくし納得もいく。というか、この場合、どちらかというと()()()()()()()()状況なのであるが――

 

「――おはようございます、ウィリアムズ様。今日も人間(うじむし)共が地上をのさばっております良いお日柄でございますよ。どうぞ、お召し物です」

「それをいいお日柄とは言わないと思う。うん、井戸端会議に勤しむ主婦あたりは、特に」

 

 そんな淑女の挨拶があってたまるか。そう吐き捨てながらも、徐々に慣れつつある光景に眩暈を覚えた。

 傍らに立つのは褐色銀髪のメイド長。確か前世では主従で関係を持たせないため露出を控えていたというメイド服も、スカートは短いし豊満な胸は横から露出しているしなんなら今すぐ襲ってくださいウェルカム! と言わんばかりの服装に変貌していた。

 

 襲わない理由?

 まあ、いくつかある。

 だが朝からそんなことに脳の労働力を割きたくない。

 

 ある種逃避するように、メイド長――『アイビス』の持っていた服を受け取った。

 

「……なにか」

 

 物珍しそうにこちらを見つめるアイビスに、俺は首を傾げた。

 

「ああ、いえ。先日まではそのお召し物を大変拒絶なされていたものですから……今日は大人しく受け取っていただいて嬉しく思います」

「う」

 

 ……ああ。

 くそったれ。

 考えないようにしてたのに。

 なんならいっそ忘却の彼方に捨て置こうとさえ思っていたのに――!!

 

「だって――やっぱりウィリアムズ様にはその()()()()()()が良くお似合いなのですから!」

 

 ……不肖、ウィリアムズ。通称ウィル。

 俺は。

 

 俺はどうやら、TS転移してしまったようだ。

 

 TS。

 

 ちんこもげた。

 

 透き通るルビーのような髪に、夜に見ると不気味な金色の瞳。

 背の低い姿で、自分で見ても美少女としか思えなかった。着替え、入浴、数々の羞恥ハプニングも――まあ、まだいい。それも新しい生だと、なんとか納得す(あきらめ)ることもできた!

 

 

 ああ。ついでに思い出されてしまった。

 

 TS転移だけならまだしも、俺は、俺は――

 

 

「さあ、()()()――本日はどのように過ごされますか?」

 

 

 RPGのラスボスとして憑依してしまったのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当面の目標は、この世界にやってきて落ち着きを取り戻してからすぐに固まった。

 むろん、生きること。ラスボスは死んでなんぼみたいなところがあるがクソくらえに決まってるだろバカ野郎。

 

 幸いなことに、今の時系列としては主人公が勇者として覚醒する以前のこと。

 村を魔王軍に焼かれ、大切な家族を喪った勇者が、伝承に残されていた森の奥深くに眠る台座に刺さった聖剣を抜き、勇者としての旅を始める――といった、ありきたりな物語の序章だ。

 俺はしめたと思った。なぜなら主人公が勇者に覚醒すらしないで済むよう出来るからだ。

 

「あの村ですか? さあ、我々の管轄ではないので……確かあの領土の軍は四天王の火を担当していた者が指揮していたはずですが……」

 

 は?

 

「あ、昨日燃やしたらしいですよ?」

 

 はーーーーーーーーーーーーー????????

 

「ウィリアムズ様?」

「端的に言ってキレそう」

 

 どうやら俺がTSラスボス憑依してやきもきしているうちに物語はフェーズを進めてしまったらしい。

 昨日、と言った。

 

 夜、一人生き残った主人公が月光の差し込む森の奥で聖剣を抜き、復讐を誓う前、これで最後だからと涙して故郷と決別するシーンは有名だ。

 それが過去のモノ。やべーよやべーよ魔王軍絶対殺すマン誕生しちゃったよ。

 いつも思うけどこういうので復讐誓わせた奴って普通に戦犯だよね?

 

「その四天王最弱の家から財産没収しといて」

「は……?」

 

 アイビスにそう告げ、俺は考え込んだ。

 四天王。そう、主人公は村を襲撃した魔王軍の兵士が漏らした言葉から、主導者が四天王の火担当であることを知った。まずはそいつを討伐しに行くはずだ。

 そこに活路があるはず。主人公は仲間を集めるはずだ。まずは――村があった領土を収める王の鎮座する都、『グランベルム』の酒場で戦士の『カータス』に出会う。

 

 酒場。酒場か。それにグランベルムなら、主人公よりは遅れるかもしれないが、彼らが出立するより前に着くだろう。

 

「……よし」

 

 王道RPGならではの超安全策。俺は知っていた。

 ――主人公のメインヒロインは大抵死なない……!!

 

 そう。俺はグランベルムに行き、主人公たちと合流する。そしていうのだ。『魔王軍とかの悪事も全部四天王の火担当のあいつのせいだってよ。あいつ殺せば大団円だから殺そうぜ!!』、と。どうせなら、少しでも世話になったアイビスたちは死なないでほしいし、戦犯だけ殺してすっきりしたい。

 今からこのRPGのラスボスは、四天王最弱になるのだ。

 

「アイビス、俺は少し出かける。かなりの期間王座を開けることになると思うが、その間、ここを頼めるか?」

「どちらに向かわれるので?」

「ちょっと、人間界にな」

「兵もつけずにですか? せめて近衛の者だけでも……」

「あー、なに、戦に行くわけじゃねぇ。心配も無用だし、兵も要らん。アイビスには、ここの軍に勝手な行動を取らせないよう監視していてくれたらいい。絶対に人間界にちょっかいは出させるなよ?」

 

 アイビスは何か言いたげだったが、すぐに一礼して諒解の意を表した。

 その瞬間、たわわに実った胸が揺れ、俺はこれと離れないといけないのかと決意を揺らぎそうになったが。

 

「……行ってくる」

「行ってらっしゃいませ、ウィリアムズ様。私はいつまでもお待ちしております」

 

 無理やり踵を返し、魔王城を経ったのだった。

 

 ――俺がヒロインになるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都『グランベルム』。

 魔王城下町と比べても遜色ない――文化の発展という点においてなら、グランベルムに軍配が上がる――ほど栄えていた。

 石畳に道は舗装され、家屋は軒並み赤レンガ製。王城に続く大通りは人の雪崩と形容するに相応しく、小柄なナリでもなければ歩けもしなかっただろうと思う。

 

 流石にドレスを着てくることはなかったが、それでも俺の今の格好はどっかのボンボンに見られてもおかしくない。

 頭に生えている()()()()()()()()()も相まって変に注目を浴びはしないか、と思っていたが、そこは都会。杞憂だったようで、誰も見向きもしない。

 

「いらっしゃーい!! おいしい料理、かわいいウェイター、揃えてるよー!!」

「我こそが最高の冒険者だと思う者! このアガルタ印の装備買っていかないかー!?」

 

 魔王が街を闊歩しているというのに暢気な奴らだ。

 ……まあ、今のところ魔王の悪名は世に広まっていない。というか事の発端は部下の不手際だし。

 ここに来るまでの道筋が順調すぎたことからもそれは分かる。こんな少女が幾百万の軍勢のトップだとは思えないってだけかもしれんが。

 

「……うーん、やっぱり人間界の食い物は舌に合うなー」

 

 …………。

 …………いやな?

 

 決して、ここへやってきた目的を忘れたわけではないぞ?

 ただその、屋台からいい匂いがしてきて……一丁前に香辛料とか使ってるものだから……。

 

 食べ物には勝てなかったよ……。

 

「というかだな、こんな人混みから勇者一人を見つけろってのが無理難題なんだよ……そうするって決めたのは俺だけどさぁ……」

 

 勇み足が過ぎた。そういえばRPGではこの辺の表現は全部ドットで為されていたから。

 しかもそれでもグランベルムは控えめに表現されていたらしい。建物の数も、都の広さも、人の多さも段違いだ。

 

 誤算だった。

 お腹も減ったので、牛串らしきものを頬張っていたというわけだ。

 

 うん。正当正当。がはは。

 

「……うーん、さすがに非効率的かな……。主人公のいそうな……酒場とか武器屋とかギルドとかを探してみるか」

 

 そうと決め、人の波から外れて横の路地裏に抜ける。

 こちらから大通りの様子を見ると、人がそびえたつ壁のように思えた。

 

「誰もおりゃん」

 

 反面、こちらは誰も歩いていない。

 これはただ利用されていないだけか、治安が悪いのか……。

 

 魔王らしからぬ恐怖を抱きながらも、奥へと進んでいこうとすると――

 

 

「――君」

「いひゃぁなんだぁ俺は男だぞーっ!?」

 

 

 ぽん、と肩に手を置かれ、進もうとしていた身体を引き戻された。

 

「あ、ああっと、悪い! そっちは君みたいな子が一人で歩くような場所じゃないからさ……」

「え、あ、う、うん? そうだね?」

 

 振り向けば、黒髪の巨漢が困ったように頭を掻いていた。

 

 ……やっぱり、危ない場所だったのか、ここ。

 

「……いや、しかし…………」

「?」

「…………これで、男の子なのか…………」

「あの、なにか?」

「あ、ああ! 何でもない何でもない! とにかく、こういう道は通っちゃダメなんだからな?」

 

 こ、こんな年になっても説教されてしまうとは……。

 相手の言葉は尤もなことなので、肩を縮めて俯くほかなかったんだが。

 

「あ、あれ、怖がらせちまったかな……?」

 

「おーい! どこ行ったんだー!? 俺を置いてどっか行くなよなー!?」

 

「……って! そうだったそうだった、あいつを待たせてるんだった! じゃ、じゃあねお嬢ちゃ……君! 今度から気を付けるんだぞ!」

「あ……」

 

 黒髪の男は片手を上げて、大通りの方へ戻っていく。

 待ち人がいたらしい。姿が見えなくなると、人混みの間から路地裏に転がってくるものがあった。

 

「ん?」

 

 もしかして、彼の落とし物だろうか?

 宝石の埋め込まれたネックレスのように見えた。

 

「こ、これ落としたぞ! あ……えっと…………」

 

 名前を聞きそびれたせいで、彼にこのことを伝えられない。

 

「……これ、どっからどう見ても高そうだよなぁ」

 

 悪いことをしただろうか。

 彼の姿はもう見えなかった。忠告通り、俺は大通りを通って勇者を探していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。日は傾き、時間を告げる鐘は既に何回か鳴り響いていた。

 見つからない。勇者から目標を勇者が居そうな場所に変更したとはいえ、それすら見つけるのが難しかった。

 

「そりゃそうだ。ゲームじゃ店の名前までは描写していなかったから」

 

 しかもゲームの酒場に主人公が行った、とも限らない。

 不可能、という言葉が胸中を埋め尽くそうとしてくる。俺は途方に暮れていた。

 

 そうして考え事をしながら歩いているうちに、辺りから人の気が失せていることに気が付いた。

 路地裏に入ってしまったとかではない。そもそも家屋すら少なく、都会だというのに緑が豊かな場所だった。

 

 ちょっとした丘陵になっているらしく、登ったところからだと軽く街が見渡せそうだった。

 一縷の望みをかけて登ってみることにした。最初ある程度あった石の階段も見えなくなり、ただの坂道を踏みしめ数分。

 

「……あ」

 

 そこは確かに街を見渡せた。主人公が居そうな場所も見つかるかもしれなかったが……。

 俺はそれよりも、丘陵の下からは見えなかった、()()()()()()の方に目を奪われていた。

 

「そういえば、主人公はここにも来ていたっけ……」

 

 ここは教会も兼ねている、一人のシスターがやりくりしている孤児院。

 

 主人公は序盤、そこのシスターに色々世話になったりしてたんだっけ……。

 などと考えていると。

 

「――あの?」

 

 孤児院の脇から、洗濯物を抱えたシスターに声を掛けられた。

 

「何か、御用でしょうか?」

「あ、いや……街を歩いていたら、この丘を見つけて。グランベルムを一望できそうだからと、好奇心で登って来たら孤児院があったから……」

「ああ、そうなんですか。この国には来たばかりなんですね?」

 

 俺はその問いには答えず、陽が沈んでいき、翳って行くグランベルムを眺めていた。

 

「……綺麗ですねぇ」

 

 ここは涼しい風が吹く。

 さんざん歩いて火照った身体が冷やされていく。

 

 ゲームでは感じられない心地良さだった。

 

「旅人さん。今日はどこに泊まられる予定なんでしょうか?」

 

 …………。

 

「えっ」

「え?」

 

 …………泊まる?

 

「も、もしかして……宿、取ってないんですか?」

「…………」

 

 その言葉に、俺は風とは別に何かに急激に体を冷やされていく心地だった。

 

「い、今からでも……間に合う…………?」

「そうですねぇ……おそらくはー……」

 

 先を言いよどむシスターに、俺は色々と察した。

 最悪、野宿覚悟か……。主人公探しに熱中しすぎたようだ。

 

「…………ああ、それなら」

 

 シスターが言う。

 

「ウチ、泊っていきませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――かぽーん……。

 

「……た、確かに、泊めてもらえて嬉しくはあるんですが…………」

「なんですかー?」

 

「…………なぜに、一緒に風呂に入るんでしょうか」

 

 俺はシスターの御厚意にあやかり孤児院で一泊することになった。

 そこまでは良いのだが……いざ風呂に入ろうというときに、シスターもやってきたのだ。

 

 金色の髪、おっとりとした青い瞳。間違えようもなく美人だった。

 

「一応言っときますけど、俺は別に家出してきたわけではないですからね? 親の愛情に飢えてるとかそういうわけでもないですからね?」

「分かってますよ。ただこっちの方が効率がいいじゃないですか」

 

 こ、効率……。

 

「洗いっこすることが、ですか?」

「あんっ……もっと優しく洗ってね、旅人さん」

 

 …………。

 

 くそ。ちんこがないのが悔やまれるぜ!

 

「だけどシスター、本当に泊めてもらってよかったのか? 一人で切り盛りしてるのに、ご飯まで出してくれて」

「良いんですよ。誰かが困っていたら助けてあげる。小さな教会の、ちょっとした宗旨です。それに今は、泊ってた子が一人旅に出ているので……」

「旅? 冒険者ってやつ?」

「……どうでしょう。もっとすごいかもしれません」

「すごい……」

 

 シスターの肉付きの良い身体から泡を洗い流す。

 今度は俺が洗われる番だ。ファンタジーソープランドだった。

 

「彼は……彼は少し悲しい出来事があって。心に深い傷を負っているのです」

「…………」

「それでも根が素直なんでしょうね。涙をこらえて、まっすぐ進んでいこうとするんです。多分、そうすることによって多くの人が救われるし、多くの人が喜ぶんだと思います。ですが――こういうと、シスター失格かな、って思うんですが……私としては、もっと平穏に生きて良いんじゃないかって、考えたりしてて」

 

 少し間を開けて続ける。

 

「……彼の生きる道には苦難が満ちています。その道を突き進もうとするのを止めるのがシスターとして正しいのでしょうか。それとも……」

 

 俺の肌から泡が洗い流される。

 

「あんまり難しく考える必要はないんじゃないか」

「え……?」

「この世界、正しいと思ったものが案外正しいものさ。シスターが宗旨に囚われているのなら、そんなもの脱ぎ棄てて、一度裸で“本当の自分”がどうしてあげたいかを考えてみればいい。止めるべきなら止めて、応援するべきなら応援する。ほら、今は丁度裸なんだし。ゆっくり考えられるだろ?」

 

 説教できるほど人生長いわけじゃないので、少し恥ずかしく感じるが。

 シスターは主人公の良き理解者となる。だから彼女の判断は正しい。それは歴史(げんさく)が証明している。

 

「どちらがシスターか分からなくなってしまいますね」

「今この時だけはどちらでもないがな」

「答え自体は……ええ、そう。決まってるんです。――それで、良いのでしょうか?」

 

 俺は頷いておいた。

 シスターは俺を数秒見つめ、すぐにふっと微笑みを取り戻した。

 

「……上がりましょうか。旅人さんは替えの衣服はありますか?」

「あー……ないけど、そんな汚れてもないから。一応、下着類はあるけど……」

「……?」

 

 こ、こればかりは慣れないんだよなぁ……。

 どうしても女装してる感じが出てきてしまう。由々しき事態だまったく。

 

 身体を拭き、下着を慣れない手つきで付けていく。

 そしてフリルのたくさんついたアイビス一押しの服に袖を通す。

 

「!」

 

 そこで、シスターがあるものに目を付けた。

 

「た、旅人さん……これは?」

「え? ああ……今日会った人が落としていったものなんだけど、まだ返せてなくて……シスター?」

「……これ…………私が彼に渡したお守りです……」

 

 ……え?

 

「か、彼、今日は“火の洞窟”へと行くと聞いたものですから、このネックレス――“防火のお守り”を渡しておいたんです」

「……え゛っ――」

 

 ま――

 待て。火の洞窟だと?

 それは最初のボス、四天王がいるところではないか。

 

 それに防火のお守りだと?

 四天王に押されてピンチになった時に主人公を救ってくれる重要アイテムじゃないか。

 

「ま」

 

 ま、ま、まさか――

 

 

 まさかまさかまさか、あの時あった黒髪の男って――

 

 

 

「しゅ、主人公だったのかよぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

「た、旅人さん!? どうしたんですか!?」

 

 

 ってことはマズいぞ。もしかしたら主人公たちが死ぬ可能性だってある。

 それは――

 

 

 ――それは?

 

 

「…………」

 

 

 あれ? それでもいいのでは?

 俺が死ぬことはない。魔王軍も安泰だ。

 

 何を憂う必要があるのだろう?

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 

「た、旅人さん……?」

 

 シスターが背中をまげて俺の顔を覗き込んできた。

 ぎゅむ、っと胸が強調される。服の隙間からは谷間が見えていて――

 

「なるほど」

 

 これを無くすには惜しいではないか!

 四天王<おっぱいなのだ! 世の摂理なのだ!

 

 俺は覚悟を決めると、その場から駆け出していく。

 

「あ、あのっ、旅人さん!? どこへ!?」

「ちょっと出かけてくる! ごはんとお風呂ありがとうシスター!!」

 

 四天王の火担当が調子に乗ってこの土地を焦土に変える前に。

 この世からのクビを宣告して進ぜよう。

 

 俺は火の洞窟――主人公たちが向かったその場所へ、足早に向かった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――がはっ!?」

 

 男が一人、壁に叩きつけられ赤色の地面に倒れ込んだ。じりじりと頬を焼き付けるような痛みが走るも、その場から離れられないでいる。

 傍にはもう一人、斧を手に持った男が倒れていた。

 

 対するは炎に身を包んだトカゲ。サラマンダーであった。

 

「ケ、ケケケ! 聖剣だか何だか知らねぇがな、この炎渦の鎧を破れる者はねーよ! ――こちとら意味不明な財産没収の憂き目に遭ってるんだ、もっと楽しませてくれねぇと鬱憤を晴らせもしねぇだろうが、なァ!!」

「くっ――」

 

 乱暴に炎を吐き出すサラマンダーに、黒髪の男は何もできずにいた。

 攻撃が通用しない。向こうの攻撃は通用する。そもそもが無茶な話であった。

 目の前に家族の、友人の、村の仇がいるというのに、為す術もなくやられっぱなし。それは――あの日の無力さを彷彿とさせる。また、また何もできないのだろうか。喪うのだろうか。それは男の原動力ではあったが、確固たる力とするには足らなさすぎる。

 

「終わりか――終わりかよォ!! 燃え上がらねぇなァ!? 冷めてる冷めてる冷めきってんぜーッ!?!?」

「ああ、くそ――」

 

 サラマンダーが大きく息を吸い、

 

「なら――俺が温めてやるよなァ!!!!」

 

 炎が喉の奥でちらついた。

 

「これで――」

 

 ――これで、終わりだというのか。

 

 ――なにも成し遂げられずに、死ぬのか。

 

 ――彼らの死が、無駄なものになってしまう。それで、良いのか――?

 

「いいわけ、あるかよッ……お前は、お前だけは、殺さなきゃ、ならないんだ……ッ!!」

 

 しかし剣は握れず。折れた膝は地に着いたまま。

 

「死ねぇぇえええええええええええええええええええええええええええええァァァアアアアアア!!!!」

 

 サラマンダーの火が、命を刈り取ろうと迫り来る――

 

 ――ドゴォオオオオオオオオオン!!

 

「「――ッ!?」」

 

「――忘れ物だァアアア!! 受け取れぇええええええ!!」

 

 天井が粉砕され、一人の少女が降ってきた。

 彼女は何かを放り投げる。それはサラマンダーの火に呑み込まれ――

 

「――な、ァアアア!?」

 

 一瞬光り、サラマンダーを覆っていた炎渦の鎧ごと炎をかき消してしまった。

 男は、降り立った少女の――少年の姿を、ようやく認める。こちらを肩越しに見つめ、右手には彼の身長以上の刃渡りの長刀。

 

 背中越しに語っているように思えた。

 

『まだ立てるだろう――?』

 

「~~~~~ッ、ああ、まだ、まだやれるぜ、俺は……ッ!」

 

 聖剣を杖に。

 震える身体を無理矢理起こし。

 

 正中に、聖剣を構えた。

 

「こんなところでへばってくれるなよ勇者! お前の目の前にいる敵は――すべての元凶なのだからなぁ!!」

「えっ? あのっ? これどういうことですかまお――」

「やれぇぇえええええええええええええ勇者ああああああああああああああああああ!!!!」

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオ――ッ!!」

 

 聖剣に、正義の光が灯る。

 

「失せろよォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!!!!!」

 

 ――ドォオオオオオオオオン!!!

 

 光の柱が迸り、夜を照らす。

 サラマンダーは火の洞窟ごと両断され、粒子となって消えうせた。

 

「おー、決まったなー……」

 

 満足げに頷く少年に、勇者は。

 

「君は――っ!?」

「おっと」

 

 声を掛けようとして足をもつれさせた。転びそうなところをすんでのところで少年に支えられる。

 

「……あ――なまえ、だけでも…………」

「どこにも行きゃしねーよ。目が覚めたら、好きなだけ教えてやるさ」

 

 勇者は気を失った。

 満足げに微笑むその彼に、突き抜けた天井からは満月の光が差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロイン。

 それは物語の花。

 大抵は女である。女盗賊、僧侶、踊り子、町娘、エトセトラエトセトラ。

 

 メインヒロインの座はどうしても奪わなければいけなかった。

 生き残るため、絶対の安全が保障されなければならなかった。

 

 しかしどうだろう。

 ヒロインたちは主人公を旗本に集い、主人公に付き従い物語の花となる。

 

 では。

 彼女は。

 一人で考え、一人で為すことができる、彼女は。

 その主人公でさえも、彼女に付き従うようになってしまった場合。

 

 ヒロインと言えるだろうか。

 

 

 

 

 

 否である。

 

 

 それこそが。

 

 

 

 

 

 主人公である。

 

 

 

 

 

 

 ――これは、ヒロインを目指していたTS魔王と、勇者が、W主人公となってなんやかんやするお話。

 

 





 続かない?


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